音田ゆりと顔面偏差値九十六の男
目が覚めたら。
目の前には顔面偏差値九十六の男がいました。
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特に特徴のない人生を送った。犯罪を犯すこともなく、英雄になるわけでもなく。何か特別にひどい境遇に置かれたわけでもない。少し夢みがちな、大人になれば普通の社会人になっただろうというような。
そう、大人になれば。
音田ゆり。享年十六。
それなりに友達もいて、家族もいて。
念願の高校入学の、一日前。交通事故でぽっくり逝ってしまった。
彼女の魂は天をさまよい、ある世界に受け入れられた。
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ぱちと目を開けると、とてつもないイケメンがこちらを覗きこんでいる。
「ぎゃああああああああ!!!!」
心臓がばっこばっこと鳴り、思わず後ろに後ずさる。
「目を、覚ましたか。」
男が涼やかな美声を発する。
声まで美しいなんて。
引き締まった体躯。三メートルあるんじゃなかろうかという長い足。何より顔面。素晴らしい。
だから、この行動はしょうがない。
「入籍してください!!!」
「・・・・・・は???」
男性は顔をひきつらせながら後退りすると、「混乱しているんだろう」と椅子に座った。
そんな顔もかっこいい。
こんなイケメン、初めて会った。
「お前、ここがどこだかわかるか?」
はーー。だめだめ。私の良くないくせだ。
突然求婚しちゃだめだった。
とりあえず配偶者の有無だよね!
「ご結婚は?」
男が顔を顰める。
そんな顔まで美しい•••。
「もう一度聞く。ここがどこだかわかるか?」
もー、人が告白まがいのことをしてるのに答えてくれないなんて。
失礼だなぁー。ちゃんと人の話聞いてほしい。
「・・・聞こえているからな」
「え?」
「さっきから!ひとりごとが!聞こえてる!そして返事をしろ!」
嘘〜!恥ずかしい//
「それも聞こえてる!
こちらの気遣いの言葉にちゃんと返せ!」
ええ?気遣いだったんすね。
あ、顔良くて忘れてたけどここどこだ?
「そういえばここどこですか?」
「くそこいつどこまでもマイペースだ」
男ははあ、と溜息をつき、だるそうに腕を組んでこちらをみた。
口が悪い。
「ここはエンゲル王国の外れの森小屋だ。
行き倒れてるお前がいたから助けた」
エンゲル王国、、、。どこ??
というかそもそも行き倒れって、私は何して、、、。
、、、そうだ。私は、死んだのだ。
交通事故で。あっけなく。
「ここって天国ですか?」
「は?」
「もしかして地獄?いや、そんな悪いことしました?
でもお兄さんみたいな顔面文化遺産がいるなんて天国ですよね?」
「、、、ここは天国でも地獄でもない。普通に人間と動物と魔物が生きてる世界だ」
え?
どういうことだ???
私が生きてて、それに魔物までいるらしい。
ん???
「え、どういうことですか??私、死んだんじゃないんですか?魔物って何??」
「・・・とりあえず話を聞かせろ。」
めんどくさそうなやつを拾っちまった、と顔面文化遺産がうめきながら話を促す。
死んだことなんて人に話したいもんじゃないが、どうにもしようがないし話してみた。
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「で、そのニホン?っていう異世界で死んでこの世界に転生してきた、と」
「そうですね」
「困った、ここらへんに病院はないんだけどな、、、」
「病院?もしかして怪我されました?」
その美しい顔面や体にもし怪我をしていたらと思うと、背筋が凍る。
「異世界から転生した、なんて病院案件だろう」
「嘘は吐いてませんよ」
「本当だとしても信じられない。きっと記憶が混濁してるんだろう。
一回休め」
よく分からないままはあ、と返事をし、私はベッドを貸してもらって一眠りついた。
ちゅんちゅん。
目をこすりながら起床した。
相変わらず見慣れない簡素な森小屋。
、、、やばい!!!!!
床を見ても顔面世界文化遺産はいない。
どこかにでかけたのだろう。
あの顔面世界文化(略)を床で寝させてしまったなんて、、、。世界の損失!!!
帰ってきたら平謝りするしかない。
今できることをしてしまおうと、とりあえずベッドを整え、衣服の乱れを直してベッドに腰掛ける。
「、、、それにしてもここ、どこなんだろうなあ、、」
そう。
今、顔面世界(略)を床で寝させてしまったことと、顔面(略)とどうやって結婚するかの次に大切なこと。
天国ならまだ分かるが、異世界とは。
急に心細さが増してくるような、、、
「起きたのか」
キャーーー!!!顔(略)!!!
スタイル優勝!!入籍してほしい。
この顔を見たら急に元気になってきた。
とりあえず床に頭を擦りつけるか。
「ごめんなさい!!!!!!
顔(略)を床で寝させるなんて!!!
切腹とかそれ以外の大体の方法で謝罪の意を示します!!!!」
スライディング土下座を決め、とにかく謝る。
「いい。気にするな。まあ床が硬くて、スヤスヤ寝てる隣のやつには思わず手が出そうになったが、、」
「出してないんですね!!!そのお顔なら殴られても本望ではありますがそっちの趣味は持ち合わせていませんのでありがとうございます!!そしてごめんなさい!!!」
「、、、頭は治ったか?」
「なぜここでその質問を?」
何か誤解を受けている気がしてならない。
まあいい。
「いやー、相変わらずですね。
やっぱり私は死んでて、生きてます。」
「そうか、、、。」
が(略)が何かを少し考えたかと思うと、
「まあ、ゆっくりしてみろ。
ここらは田舎だし、この世界に馴染みやすいんじゃないか?」
彼は私のこの話を受け入れてくれたということだろうか。
諦めたんだろうか。
、、、いや、考えても仕方がない。
「ありがとうございます!」
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私はそれから、この世界と彼のことを知っていった。
エンゲル王国は1000年続く王国で、それは世界最長であること。
この世界には魔法が存在すること。
エトセトラエトセトラ、、、
一緒に暮らし始めて二週間後。
「そういえばお前の名前ってなんだ?」
名前を聞かれた。そういえば初手求婚でなんも話してないなと思いつつ答える。
「ゆりです、ゆり。
呼び捨てか、夫婦っぽいのでお前呼びのままでもいいですよ???」
「今後一切はお前呼びを封印してやろう」
「そんな!まあいつか呼びたい日が来ますよ!
顔(略)のお名前は?」
こちらもあっちの名前を聞いていなかった。
なんという失態。
「今更だな、そしてなんだそれは」
「聞いてないなぁと思いまして」
「無視するななんだ顔(略)って」
「お名前は?」
「、、、ハスネ」
「へー、似合ってますね」
彼の涼やかな美貌には、水に咲くハスがとても似合う。
やばい、凝視したら目が、、、
顔のよさエネルギーで水分が蒸発する、、、
「顔(略)ってなんなんだ?」
「はい?」
「顔(略)ってなんだ??」
「顔面世界文化遺産の略称ですね」
「なんなんだそれは、、、」
まあそんな会話もありつつ。
ちなみにこの会話の後、ゆりと呼ばれるようになった。
初回私は発狂したね。
森小屋と言っていたのは実質彼の家で、村の役割で森の管理人をしているのだそう。
しかし、「別に行動の制限はないけどな」と言っていた。別に森小屋に住まなくてもいいそうだが、本人の希望だそうだ。
村では他所者の私を受け入れられないと思っていたが、移住者が多いこの村ではすぐに受け入れられた。
また、村役場でも就職が決まった。
ハスネさんの推しというかコネな気がする、、、
まあ村だしそんなもんよね!!!
村役場でやるのは経理。
計算ができると分かると、みんな経理を任せてき、、くれた。
職場環境はいいので別に文句は言いませんが。
家も、いろいろとあったが彼の住む森小屋の二号館的なのを借りることになった。
ほぼ同居!!たぶん。
ハスネさんには感謝してもしきれない。
顔がいい人って性格もいいって本当だったんですね、、、
そして衣食住が整い、
「結婚してください!!!」
「断る」
毎日、一日十五回ぐらい告白している。なんかもう日課。
そのせいで村中に認知されてしまった。ぜんぜんいいけどね!!!
ああ、今日も顔がいい。そして中身までイケメン。
「けっこう良く働きますよ!どうです??どうですか私???」
「足りてる」
さすがにずっと粘着するつもりはないので、一年半ぐらいでプロポーズをやめようとは思っている。
それまで私の告白に付き合ってくださいね!
ハスネさん!!!