Day4
四日目です。
Day4
目が覚めたら、世界が変わっていた。こういうのは最近のぶっ飛んだ小説によくある始まり方だ。もちろん現実はそうはいかない。眠っている内に転生する事もなけりゃ、超常的な力を得ている事もない。せいぜい、二重人格ができる程度だ。
だが、物理的には変わらなくても、そんなショックを受ける事はある。それが今日だった。
詳しい事情は、朝、机の上に置かれていた長文の手紙と資料が教えてくれた。
朝、目を覚ますと8時になっていた。今日は土曜日で部活もないから、ぶっちゃけ何とかなる。なるけども、遅い。
どんな言い訳をしてくるのか気になりながら机を見る。なんか荒れている。
色々な紙、紙、紙。(色々とは言いながらモノクロ印刷だけど。)そして文量が多そうな手紙。これまでは手書きだったのに、文字をたくさん詰めるためか、これまた印刷されている。
『やあ、陽人君。気分はどうだい?』
「怒ってる。」
これを片付けるのは僕だぞ。
『安心したまえ。これらの書類は今日の夜、僕が片してやる。サービスだ。』
「昼間の勉強は?」
『資料1、[図書館までの道のり]だ。今日はそこで勉強してくれ。それが嫌なら自分で片したまえ。』
要するに片すつもりはないと。スゥー、ふっざけんな!
『さて、君は何故こんなにも机が荒れているのか気になっている所だろう。安心したまえ、それを今から君に嫌というほど教えてあげよう。』
「じらすな。」
早く話せ。いや、書け。
『とりあえず、今回の事件に出てきた人物を総復習だ。君が知っている限りで挙げて見たまえ。』
上から目線過ぎないか?まあ、考えはするけど。
「えっと、加害者の豊島海斗、被害者の誰か3人、第一発見者の有馬良仁、かな?…ああ、あとトラックの持ち主の福田起成もだ。」
『名前が分かっている範囲で3人、分かっていないのも含めれば6人、思い出したかな?』
「おう。」
このくらい余裕だ。
『被害者たちの名前は分からないので飛ばすとして、残りの3人だが、彼らにはどんな関係があるだろうか?』
「は?」
事件の関係者ってだけだろ。
『資料2、[豊島海斗の犠牲者とその家族一覧]で、マーカーが引かれている部分を見たまえ。』
どうやらさっき思った事には間違いがあったらしい。二枚目の紙は完全なモノクロではなかったらしく、所々に黄色が見える。
さてさて、なんとなく嫌な予感はしているが、果たして?
マーカーの引かれた一つ目の部分を見る。
有馬香苗 テレビの企画で、町中で倒れていたおばあさんを助けたことで少し有名になっていた所を、会社に隠れて風俗の仕事をしていた事を暴かれ、会社をクビに。その後、精神的ショックで現在療養中。両親と夫は既に他界しており、息子に第一発見者である有馬良仁がいる。
うん、一旦読むのをやめよう。
……いや、なんとなく分かっていたよ、うん。こんなあからさまな資料出されて、そういう事なんだろうなって。でも、キツイって。
……さて、クールダウンはした。続きを読もう。
『マーカーの引かれた所は、全部読むんだぞ。』
まだあった?いや、普通にあった。
福田美央 妊娠していた時、交通事故に遭う。幸い怪我がなかったが、相手が高齢者だったので、高齢者の運転問題として、その哀れな被害者の代表例として取り上げられる。すると、成人したての頃、交通事故を起こしかけた事を暴かれ、様々な方面からバッシングを受ける。事故に会いかけた事とバッシングによる精神的ショックで流産。それを追うかの様に自殺。夫にトラックの持ち主である福田起成がいる。
もう読みたくない。
『これで分かっただろうが、今回の事件の関係者、全員が豊島の記事を通して繋がっている。これを偶然と言うには、だいぶ無理があるだろう。』
そりゃそうだ。それに、そんな偶然のせいで、こんな事教えられたんだとしたら、僕が辛すぎる。
『この資料に載っている人たちの記事は一応印刷してある。後でより詳しく調べる際に使うので捨てないでほしい。捨てなければ、読んでもいい。』
「誰が読むか!」
絶対に読まない!絶対にだ!
『考えられる事例は一つ、例の共犯者が豊島と何らかの形で繋がっていて、それを誤魔化すためにさらに数人巻き込まれた、と言う事例だ。』
なるほど、いや、でも、それって、
『当然、この中に共犯者もいる。』
「……いや、案外豊島の自作自演だったりして。」
震える声ではないものの、少し引き気味に言う。
『分かっているだろうが、豊島にはそれをやるメリットがない。本来逃げて証拠なんて残さないつもりだったから、わざわざ自分の関係者を集める必要がない。下手にやると、自分に疑いがかかるかもしれないからな。』
ですよねー。
という事は、二分の一の確率であの優しそうな福田さんが犯人になりうるわけか。
あんまり考えたくない。
『共犯者が誰なのかは特定出来ない。まだここに挙がっていない可能性もあるからだ。』
一旦安心。確率は二分の一より低いんだからありがたい。
『ただ、それに繋がりうる人物はいる。資料2の裏面で、マーカーが引かれている部分を見てほしい。』
「裏面もあんのかよ!」
もう読みたくないんだが。
一応ひっくり返す。さっきとは違う色のマーカーが引かれている。それも4本。嘘だろ。
読まんぞ、絶対。
『どうせ「もう読みたくない」とか言って読まないだろう。だからここに書く。』
ふざけるなー!
『上から2行目、被害者の名前は中尾林太郎、既に自殺している。』
あれ?気を遣ってくれたのか?だいぶ省略されていて読みやすい。
『娘に中尾鮎子がいる。』
「は?」
は?はぁ?はぁぁぁぁ?
「僕の知ってる中尾さん?」
『君の知っている、中尾さんだ。』
「1カ月、行方不明になってた中尾さん?」
『1か月、行方不明になっていた、中尾さんだ。』
「嘘だろ?」
『本当だ。』
勘弁してくれ。
『詳しく書こう。資料3、[豊島海斗の関係者の行方不明期間]を見てくれ。』
行方不明とか出ている時点で明らかにヤバイのがなー。
資料を見る。年表があった。去年からの分が載っている。直線の上には人の名前。なるほど、察せた。
『君の想像通り、豊島海斗の関係者の中で、これまでに失踪している人を年表でまとめたものだ。右端辺りで横軸に対して垂直に引かれている赤い直線が、例の事件があった日を表している。』
「こんな沢山か?」
最初から引かれている線が軽く20本以上ありそうなんだが。
『一応、行方不明になっている人は全員分書いたが、大体は国外逃亡やら人知れず自殺やらだろう。だから本数に気を引かれるな。』
じゃあ書くな。
『で、赤い直線付近を見て欲しい。その辺りで変化があった人物が4人いるだろう。彼らが事件に関係してくると踏んでいる。』
えっと、なになに。中尾鮎子、椎橋純一郎、瀬戸義孝、二口小夜、か。確かに、中尾さんは事件の直前に帰って来ているし、他の3人は事件のすぐ直後にいなくなっている。それはそれとして、
「なんて読むの?」
『一応書いておくが、読み方は、しいばしじゅんいちろう、せとよしたか、ふたくちさよ、だ。読めてるよな?流石に。』
読めてなくて悪かったな!
『彼らの分も資料2に書かれているから、読みたければ読みたまえ。』
「だ、れ、が、よ、む、か!」
そんな苦行はしたくない。
『そうそう、資料4、[関係者の顔写真]に彼らの写真が載っている。見ておいてくれ。』
そんな資料もあるのかよ。
でも、そういえば僕は福田さんと中尾さん以外の顔を知らないんだった。一応見ておくか。
有馬良仁は、この人か。典型的なチャラチャラした奴みたいなファッションをしているな。ゾンビ映画なら真っ先にやられる感じの顔だ。
椎橋純一郎は、この人ね。なんか、全体的にカクカクしている。仕事がバリバリ出来そう。
瀬戸義孝は、この人。フリーターみたいな恰好をしている。顔もなんか丸っこいし、椎橋さんと対になっているっぽい。
二口小夜は、えっと、どこだ?あ、いた。平凡なOLだな。特徴があんまり無い。
『話を戻そう。彼らはあくまで、これまでの豊島による犠牲者の立場だ。豊島が改めて殺したりする必要はないはずの人物だ。だから警察も彼らには特に注意はしていないだろう。だが、こうなってくると、そうやって無視している場合じゃなくなってくる。だから、この4人、プラス有馬と福田を今後よく見ていく必要がある。』
「い、いや、中尾さんは省いてもいいんじゃない?どうせ、僕とかに向けたブラフだよ。」
クラスメイトが犯罪に関係しているのは、ちょっとキツイ。
『君がクラスメイトじゃなければ、僕みたいに調べる奴がいなければ、彼女は全く気付かれない存在だ。わざわざブラフなんて貼る必要性はない。だから、現実逃避はやめることだ。』
現実逃避、続けたいなぁ。
『話を戻そう。』
……読みたくない。
『本来なら、この6人について、より詳しく調べる必要が出てくる。だが、そのうちの1名は、今すぐに調べるわけにはいかない。』
「1名?」
全員の方が嬉しいんだけど。
『中尾さんだ。中尾さんはあくまで、少しの間いなくなっていただけだ。調べるには難しい。』
その言葉にホッとする。クラスメイトを事件関係者として扱うのは、なるべく、やりたくない。
『有馬や福田は、事件関係者ではある。この資料を見せれば再調査に至るだろう。だが、時間がかかる。すぐに調べられるのは、現在進行形でいなくなっている椎橋純一郎、瀬戸義孝、二口小夜の三人だろう。』
「ほう、」
なるほど、じゃあ後は警察に丸投げして
『という訳で明日、3人の家宅捜査に付いて行って欲しい。』
まあ、そうなるよね。でも、
「試験の数日前だよ?」
『試験の9日前なのは知っているが、答えを見られる君が言っても何にも説得力がないな。』
理不尽!
『詳しい内容は明日知らせる。では、課題の消化に励んでくれたまえ。』
手紙はここで終わっていた。
「いつまで寝てるのー?ご飯冷めるわよー!」
ちょうどご飯に呼ばれた。衝撃は残ってるけど、まあ、とりあえず食べよう。
今日のご飯は、あまり味がしなかった。
机の上に散らかった書類を片す。どうせこの時間から行ったところで、図書館は満席だろうし、暑い外に出たくない。
何とか机の上をきれいにする。課題を広げる。鉛筆を持つ。だが、書きだす前に手は止まった。
どうも違和感がある。
荒れている机は整理した。別に今日はいたずらを仕掛けられた訳でもない。変わったことは何もない。普段の部屋だ。理論上は普段の部屋であるはずなんだ。
でも、何か違う。いつもとは何かが確実に違う、気がする。
あちこちを見渡す。1分くらいキョロキョロして、原因をようやく見つけた。
ゴミ箱だ。それも、大量の紙玉が押し込まれた、今にもこぼれそうになっている状態の。
陰人が鼻をかみまくったのか?いや、でも僕そんな感じのアレルギーないし。紙質を見るに、これは、手紙の紙か?
試しに1枚読んでみる。
出だしの内容は、ほとんど変わらない。中盤、
『共犯者が誰なのかは特定出来ない。まだここに挙がっていない可能性もあるからだ。ただ、それに繋がりうる人物はいる。』
ここで線がぐしゃぐしゃに引かれている。読めないが、この部分を書き損じたらしい。
確か、この部分は、……中尾さんの事に触れた辺りだ。
他の手紙も見てみる。
……全部同じところで止まっている。これは、つまり、陰人が伝えるのを苦労した、って事か。いや、それとも、陰人も陰人も伝えたくない、認めたくない何かがあったのか。
まさか、共犯者って……
いや、流石にないか。
しかし、あの陰人もやりたくない事が、避けたい事が、存在するのか。あの陰人に。
そう考えると、少し変な気分になった。陰人にも人間らしいところがあるのを知って安心したのか、陰人さえも嫌がる事がある事を知ってゾクッとしたのか。
とりあえず確かな事は、今日はまともに勉強できなさそうな事くらいだ。他の確かな事は陰人に丸投げ、て、いいのか?
衝撃展開、で、あってますか?




