Day3
三日目です。
Day3
朝、いきなり何があったのか。少なくとも耳元でアラームが鳴り、咄嗟に殴り飛ばす事を予想したピタゴラ装置が作動して、水入りのたらいが降ってきたのは確かだ。(状況が分からなかったらとりあえず惨状だと思って欲しい。)
「……あ?」
ベッドはぐしょぬれ、アラームは壊れる、たんこぶの出来た頭もぐしょぬれ、なんて素敵なプレゼントだ。
「スゥー」
ドガッ
この怒りを正拳突き一発で抑えた僕を褒めてほしい。
……ん?母さんが怒ってこない。
時刻を確認、母さんが起きる時間より早かった。
どうしようもない怒りが沸き上がってくるが、ぐっと堪える。この文の矛盾が気にならない程には怒っている。
机の上には置手紙。読む。
『昨日はありがとう。指示したことは出来ないし、謎の安請け合いはするし、で大量のミスがあった訳だが、まあ、君は頑張ったよ。』
全力で煽りに来てる?だから、こんなに機嫌が悪いのか。
『本題に入ろう。とりあえず、今日の部活は諦めてほしい。』
「え?」
あと少しで、試験の関係で部活をできなくなるのに?そんな殺生な。
『この事件は一筋縄では行かないタイプの、面倒くさい事件だ。だから申し訳ないが、今後しばらくの間は部活も試験勉強も諦めてほしい。』
「そんな殺生な!」
試験で爆死するぞ。
『今回の試験は僕も全面的にバックアップするつもりだし、夜更かしも控えよう。だから、この事件は全面的に協力してほしい。』
「……分かった。」
こうなれば、さっさと事件を解決するだけだ。
『とりあえず、この事件の容疑者についてだが、机の中の資料を見て欲しい。』
「了解。」
引き出しを開ける。中にはプリントが1枚。読む。
豊島海斗 43歳 雑誌記者 男性
特ダネ命の雑誌記者、特ダネになりそうなことならば普通の記事以外も、どんなものも記事にする。例えば
・人気俳優の恋愛現場
・強盗犯を虐待していた親
・事件の被害者の浮気現場
・殺人事件の遺族のいじめ現場
などを記事にしている。悪質なのは、これらが全て本当の事の為、否定できない部分にある。豊島に記事を書かれたことで職を失うだけならまだ良い方、それがきっかけで暴行を加えられることや、最悪の場合自殺に追い込まれることもある。そういった背景から蛇蝎のごとく嫌われている。
……朝っぱらから読む内容じゃないな。
『ちなみに、今年に入ってからあった、例のアルコール中毒による殺人事件、覚えているかい?』
「まあ、なんとなく。」
『あの事件も豊島が記事にしている。机の下の棚の中に印刷した状態で入れてあるから、試しに読め。』
手紙の所々に怒りを感じる。ミスした事、まだ引きずるのかよ。(まあ、書いた時間は一緒だからそんなに引きずっている訳じゃないのか?)
いや違うその前に記事だ。読んでみよう。
もう一回探す。雑誌の切り抜きらしきものを見つける。取り出す。読む。
蛙の子は蛙! 親子二代で紡ぐ犯罪の歴史!
なかなか衝撃的な、何なら侮辱罪になりそうな題名で始まる記事。内容としては、加害者の父親も若いころやんちゃしてたってだけの話だ。ただ、要約するとこんなに薄っぺらくなる内容をここまで引っ張ってこれる文章能力、この人小説家になった方がいいんじゃね?
『この記事にも、嘘偽りが一切ない。全部本当の事だ。ちなみに、この内容で父親は職を失ったらしい。』
息子が犯罪者になったかと思えば、自分もくびにされる。泣きっ面に蜂どころか、泣きっ面に隕石だな。
『まあ、彼はこういった具合で人を不幸にしている。だから今回の事件で捕まったことを喜んでいる輩もいるらしい。』
それは、いいのか?この事件で3人死んでいるんだぞ。
『加害者についてはよく分かっただろうから次にいく。第一発見者の有馬良仁の証言だが、パソコンを立ち上げたら表示されているから、それを読め。』
チンして食べて、くらい投げやりな説明ありがとう。
とりあえず、パソコンを起動させる。ロック画面に文字列が表示されてビビる。普通そこに表示はさせんだろ。
とりあえず読む。
供述調書
住居 北区中十条▽丁目▼―▼
職業 警備員
氏名 有馬良仁
昭和58年9月27日(39歳)
上述の者は、~~~~~~……
言い訳をすると、一応は読んだ。読んだんだ。ただ、眠気とつまらなさによって、一行読む度に前の一行を忘れてしまっただけだ。言いたくはないが、豊島の記事の書き方を見習ってほしい。
『ほとんど内容が頭に入らなかったであろう陽人君に吉報だ。デスクトップに内容を要約したものが載っているぞ。』
素直に忠告に従うことにする。
『ちなみに、パスワードは[Haruto-is-fool.]になっているから、よろしく。』
直訳すると、[陽人-は-バカ。]……あぁ?
意味は無視してパスワードを入れる。開いたので読む。
・有馬良仁は第一発見者
・普段から小平霊園の警備をしている。
・その日は夕方の6時から警備をしていた。
・午後11時頃トラックが来たが、あらかじめ電話で、明日からの刈り入れの準備で夜のうちに来ると言われていたので、そのまま通した。
・運転手は見ていないが、男の声だった。
・11時30分ごろ墓地から音が聞こえ始めた。
・最初はさっきのトラックの運転手が間違えてクラクションを鳴らしていると思った。
・数分たってもなっているので確認しに行った。
・トラックは墓地の真ん中の辺りにあった。
・周りに誰も見当たらなかった。
・扉が開けっ放しだったから不審に思い、他の警備員を呼んだ。
・警備員が集まった後、確認のため車内に乗り込んだ。
・いつもの感覚でエンジンをかけたら音が止まり、車内の電気が付いた。
・車内に血が沢山付いていて、ビビった。
・不審車両として警察に電話を掛けながら、コンテナも確認した。
・中に人が倒れていた。電話中だったのでついでに付け足した。
『と、まあこんな具合だ。』
「……」
つまらない、非常につまらない。原本よりかはマシではあるけど、なぁ。
「お前、文才が皆無だな。」
『僕の文才を勝手に否定するだろうが、あんな味の抜けたガムみたいな文章をどうやって面白くするんだい?』
「うるせえ!」
一読者として批判してるだけだ!
『閑話休題、この二つが新たに来た情報だ。だが、君は勝手に口約束で、考えをまとめてメールで送ると言い切っていたね。』
……逆にあの状況でどう受け答えすれば良かったんだ?
『心の中で開き直っているだろうが、僕としては探偵らしく最後の最後に謎解きを披露したかった、とだけ記しておこう。』
何だ、ただの無駄な願望を砕いただけか。なら支障なさそうで良かった。
『メールならもう送ったが、一応君も受け答えできるように伝えておくよ。』
「よ、流石陰人さま!ナントカ菩薩よりも心が広いと自称することはありますね!」
『ちなみに、前に言っていたのは弥勒菩薩だ。』
ちっ、読まれたか。
『今回の事件で不思議に思うことは沢山ある。ただ、全部挙げていくのは面倒くさいので、メールで触れたのだけ書こう。』
「いや、出し惜しみするなよ。」
僕らが関わっているのはれっきとした殺人事件だぞ。
『本当は教えたいのだが、君だと割と簡単に口を滑らせる未来しか見えないので、悪しからず。』
「信用されていないな。」
まあ、僕が頭脳明晰なタイプでないのは確かだけど、僕とお前は同一人物だぞ。自分の事くらい信用しろよ。
……まあ、陰人の言う事を聞いて間違えた事はないし、大丈夫か。
『メールで触れたのは、凶器の問題だ。』
「凶器?」
あのナイフか?
『正確に言うならば、本来あるべきはずの凶器の問題だ。』
「はぁ?」
何言ってるんだ?
『順を追って説明しよう。まず、遺体の扱われ方だ。当日、遺体はどう扱われたと思う?』
「殺された後、すぐ冷凍トラックに入れられて、その後墓に埋められた。」
何、当たり前なことを聞いてくるんだ?
『当然だが、ただ殺されてコンテナに入れられた訳ではない。そこに広がっている血がそれを物語っている。』
ファ?
『ただ刺されただけだと明らかに致命傷と分かるような血は流れ出ない。おそらく、遺体は解体されている。』
解体、解体ねぇ。……マジ?
『あの短時間で墓の中に遺体を埋めて戻って凍傷になるためには、埋める穴をだいぶ小さくしないといけない。その為には、埋めるものをコンパクトにしないといけない。きっとその為に遺体を解体したのだろう。』
「……だいぶグロテスクな話だな。」
『一応書くと、吐くなよ。』
……いや、確かに気持ち悪いけど、こんな文章だけで吐くんなら、血塗れコンテナ見た時にすでに吐いてるから。
『ただ、それにしてもあんなに沢山の血を出すには、遺体が凍り付く前にスピーディーに解体しないといけない。』
「う…ん、そうだな。理解した。」
嘘だ、一切理解していない。
『君は遺体を刃渡り20㎝のナイフだけで三回も解体する自信はあるかい?』
「無理だね。」
スコップを使ってぐしゃぐしゃにするのなら、僕の腕力をもってすればもしかしたらできるかもしれないけど。ナイフを使うのは多分無理だ。マグロの解体業者でもない限り。
『もちろん後で運びやすくなるように、スコップなんかでぐしゃぐしゃに叩き潰すのはだめだろう。そうなると、豊島が解体業者でもない限り、切る道具が足りないとは思わないか?』
「確かに!」
今度は多分100%理解した。
「これが、本来あるべきはずの凶器の問題か。」
『凶器がなくなる理由としては、まず思いつくのが遺体と一緒に埋めた可能性。ただ、凶器の分穴が広くなってしまうし、物によっては金属探知で発見されかねない。ただ、倒れている状況から、自分で持ち帰った訳ではないだろう。となると、誰かが持ち去った可能性。』
「……ひょっとして、お前、」
『僕は共犯者が持ち去った説を推す。』
………すっきりしたと思ったらすぐにこれだよ。しかも、これまでの警察の考えを粉々にする説も付けてきやがって。
『これが昨日送ったメールの内容だ。山口巡査部長に聞かれても答えられるくらいには覚えておけ。』
「了解。」
……ちょっと待て、僕は一応こいつの捜査に協力しているんだよな。なんで命令されているんだ?
『それと、報酬だ。パソコンの右上に表示されているファイルの中に答えが入っている。』
「答え!」
そうだよ!この為にわざわざ捜査協力してるんだよ!
すぐさまファイルをクリックする。画像が入っていた。
「よっしゃ!」
画像を開く。ガン見する。ん?
「これ、家庭科の答えじゃね?トートバッグの作り方とか記載されてるし。」
まごう事なき、家庭科の答えだった。副教科の点数なんてどうでもいいのに。
『すまない、まだ家庭科しか答案が出来てなかったらしい。』
「おい。」
なんでそうなるんだよ。先生方が盛大にサボっていらっしゃるのか?
『君の働きに応じて随時加えていくからよろしく頼む。』
……結局のところ、僕はまだまだ働かなきゃいけないのか?嫌だな、課題まだ全然終わってないぞ。
『で、今日やってほしいことだが、これを書いている時点ではない。今できた。』
個人的にはできてほしくなかった。
『トラックの所有者が分かった。福田起成、福田運輸の社長だがそこの冷凍トラックが盗まれたらしい。特徴も一致しているから、同一のトラックと見ていいだろう。』
「おぉー、」
一歩前進したな。進まなくてよかったけど。
『放課後、二重作警部補が勤めている警察署で彼の話を聞いてほしい。』
「ラジャー。」
全ては全ての試験の答えのためだ。
『それと、メールでも書いた念押しだが、早まって墓を掘り返したりしないように言っといてくれ。』
「ラジャー。」
全ては全ての試(以下省略)
『あと、夜食としてヨーグルトを買ってきてほしい。』
「ラジャー……じゃない!」
しれっとパシリにしようとするな!
『それはそうと、今日提出の英語の課題ができていないようだが大丈夫かい?』
「大丈夫じゃない!」
今から急いでやんないと!
結局、朝だけじゃ終わらず、昼休みも使って何とか終わらせた。(比較級だとか最上級だとか、もうちょっと簡略化できるだろ!英語の文法考えた奴出て来い!)
「ふぅー。」
思わず息が出る。数人しかいない、ガランとした教室に、僕の声が響く。数人の中の一部が白い目で見てくるが、この解放感には敵わない。英語の提出が放課後で良かった。
「ふぅー。」
なんか後ろでも声が出ている。こんなに天気のいい日にどうしたんだ?(まあ、天気は関係ないだろうけど。)
振り返る。中尾さんが後ろの席で伸びをしている。隣の机に座っている人に話しかけている。(椅子じゃないよ、机だよ。)友達かな?
「宿題、ギリギリセーフだね。」
「いや、放課後まではまあまあ時間あるし、ギリギリって程じゃないでしょ、鮎子。」
「えー、そうかなー?」
他愛の無い話だ。それはそれとして、同類がいてよかった。
「にしても、今日は暑いね。」
やることが無いので、とりあえず耳を傾けてみる。なんだかんだで、なんで1カ月もいなくなっていたのか分からず仕舞いだったし、そのヒントが出ることも期待する。
「ほんと、クーラー強くしてほしい。」
「いや、それなら鮎子はとりあえず長袖やめたら?」
「でも、これ日焼け対策だし。」
「日焼け対策で熱中症になっても知らないよー。」
「うっ、」
一瞬で論破(?)されてる。まあ、日焼け止めなんて面倒くさいだけだし、わざわざ暑さを我慢してやる程の事じゃないとは思うけど。
「ほらほら、腕まくりしなよ。」
「……いや、我慢する。」
「無駄に根性あるねぇ。でも、今室内だし、いいんじゃない?」
「悪魔の囁きみたいに言わないでよ。やると決めたらやるの。」
決意と根性がすごい。(今日は真夏日だぞ。)
「あ、やばい!次教室移動あるじゃん!」
「ヤバ!」
え?
「急げー!」
言われるまでもなく、教室に残っていた数人が走り出す。でも、
「次って物理でしょ?教室でやるんじゃないの?」
「先週ロケット飛ばすから校庭集合って言ってた!」
「マジ⁉」
僕も走り出す。
「これスカートじゃなくてズボンで集合とかないよね?」
「それだったら私も怒られるから安心して!」
「どう安心しろと⁉」
「死なば諸共!」
傍から聞いていても分かるくらいには会話が成立してない。
キーンコーンカーンコーン
……!
……いや、まあでも、こうやって無事遅刻したけど、先生も遅刻したのでセーフ!
その後先生から呼び出されることもなく、無事課題を出して放課後。警察署に向かう。
電車に乗っていると、急に欠伸が出る。眠気か?おかしいな、陰人もいつもよりかは机荒らしていなかったから、昨日はなんだかんだでだいぶ寝れてるはずなのに。帰ったら昼寝しよ。
眠気をセルフビンタしてとばしながら警察署に向かう。
「あの、すみません。」
「どうされましたか?」
「今日、二重作警部補に」
「おお、いたいた。ちょうど良かった。」
受付の人に話す間でもなく、すぐに来た。というか、いた。
「今から取り調べをするところだ。取調室の隣の部屋から聞けるが、聞くだろ?」
「うん。」
「あの…一体どういった事情で?」
受付の人がだいぶ困惑している。まあ、警部補が学生と受付前で話していたら、大体の場合困惑するだろうけど。
「まあ、いろいろあるんだ。気にせず業務を続けてくれ。」
「分かりました。」
おおー、これが警部補の貫禄か。
「じゃあ、行くぞ。」
「ほーい。」
父さんが歩き出す。ついていく。
廊下を曲がって直進して曲がって上って曲がって直進したころ、父さんが止まった。どうやらここが取調室とその隣の部屋らしい。
急に父さんが振り返る。
「とりあえず、いくつか注意点を。」
「小声でどうしたの?」
とりあえず小声で返す。
「この部屋はドラマとかでよくあるマジックミラーが使われている。」
「へぇー。」
よく隣の部屋から刑事たちが見ているやつね。向こうから見るとただの鏡にしか見えないって言う、あれ。
「あれはだいぶ音が漏れて伝わりやすい物なんだ。」
「え?刑事ドラマで隣でがっつり話してなかった?」
「あれはあくまでフィクションだからな。警察としてもそんなマジックミラーがあったら欲しいのだが、如何せん無いものはない。」
世知辛いねぇ。
「というわけで話を戻して、できる限り静かにふるまってくれ。」
「了解。」
まあ、学校にいる時から静かな方だ(と思う)し、大丈夫でしょ。
父さんから順に中に入る。でっかいマジックミラーがあるだけの、殺風景な部屋だ。中にはあの人がいた。
「また会いましたね。」
「こんにちは、山口J…巡査部長。」
危ない、JBって言ってしまうところだった。
「早速ですが、もうすぐ始まるので静かにしてください。」
「はい。」
相変わらず冷たい。(一日で態度が激変していたらそれはそれで怖いけど。)
待つこと多分1分くらい、警官一人と作業服を着たおじさん一人がやって来た。
「警官の方が同僚の野田、もう片方が今回話を聞く福田起成です。」
山口JBの(小声の)補足説明。
なるほど、この地味なおじさんが福田さんか。ざっくり言って、冴えない40代のおじさんだ。
「もうすぐ話始めるぞ。」
言わなくても分かる事を言っているのは父さん。間違えないように。
「本日はわざわざお越しいただきありがとうございます。」
「いえいえ、この度はうちのトラックがお世話になりました。」
なんだかトラックを動物みたいに表現している。いや、他の表現もあるだろ。
「早速、事情聴取と行きたいのですが、その前に少しよろしいですか?」
「はい。どうぞ。」
穏やかに話している。優しそうだ。
「いやまあ、簡単な本人確認ですね。お名前からお聞きしてもいいですか?」
「福田起成、47歳です。」
「家族構成はどうなっていますか?」
「妻が、いました。」
「……立ち入った事を聞いてしまい、申し訳ございません。」
なんだか暗い雰囲気になる。それはそうと、
「なんで家族構成なんて聞いてるんですか?」
「本人確認ですよ。」
「じゃあ、あの人の奥さんが今はなんかいないのも知っていて聞いてるんですか?」
「そうですよ。」
「えー、」
少し日本警察の闇を感じていると、いつの間にか本題に入っていた。
「今回盗まれたトラックですが、いつ盗まれたのか分かりますか?」
「はい。おそらく私が荷物を届けていた時ですね。」
「荷物を届けているときに盗まれるなんて事起きるんですか?」
どんな状況だったんだ?
「はい。というのも、最後の届け先がマンションで、5軒くらい回らなくちゃいけなかったんです。でも、車の中に貴重品もないし、大丈夫だろうと鍵をかけずに行っちゃったんですね。新人研修でしっかり鍵を閉めるように言った後だったので、恥ずかしいです。」
「そんな事あるんだな。」
小声で父さんが話しかけてくる。真剣に聞いているのに邪魔しないでほしい。
「ちなみに、何時ごろの話ですか?」
「大体、午後5時くらいですかね。」
時間的にはだいぶ余裕があるな。用心深かったのか?
「その後、警察に盗難届を出した訳ですね。」
「はい。交番に行ったらとんでもない顔でガン見されましたね。そんな事あるんですか?って。」
「後でその交番の職員は謝罪文を書かせましょう。」
理不尽。そりゃ配達の最中にトラック盗まれましたなんて言われたら、びっくりするでしょ。
「それで、こうやって連絡を受けて来たわけですが、今トラックはどんな状況なんですか?」
知らないの⁉
「今知らせるんですか?」
思わず小声で山口JBに聞く。
「はい。事件の事を知らない冷静な状態の意見を聞きたいので。」
「その後トラックの身元確認をしてもらって終わりだ。」
「父さんうるさい。」
小声の音量じゃないぞ。
「ん?今、隣から物音が聞こえませんでしたか?」
「さあ?隣も取り調べをしているし、そっちが盛り上がっているんじゃないですかね?」
ありがとう野田、野々村?…野ナントカ巡査、あれ、巡査部長だっけ?……ありがとう!
「……今日は倍の仕事量やってもらいますからね。」
「すまん、マジですまない。だから許して。」
隣でやってるコントは無視。静かにやっている限り放っておく。
「この5枚の写真の内のどれかであっていますか?」
おー、たまに見る奴だ。あれって人だけじゃなくて物に対してでもやるんだ。
「……はい。そうですね。このトラックです。」
無事に真ん中の写真を指さす福田さん。確かに例のトラックだ。そういえば、逆にこれだけ質問して違う人だったらどうしたんだろう?
「で、あなたのトラックですが、只今いろいろと大変な事件に巻き込まれていて返せそうにないです。」
「え、仕事に必要なんですが。」
「申し訳ございませんがあと数日待ってください。」
「え、えーー。」
めっちゃ困惑してる。
「保険に必要な書類なら必要であれば後日送りますので、本日はこのままお帰りください。何か質問はありますか?」
「いや、えー。とりあえず、なんかトラックの貸し出しとかしてないんですか?」
「残念ながら、そういうのはやっていないんです。」
「えーー?」
明らかに不満そう。どうしようもないのかもしれないけど(平仮名ばっかで読みにくい)一回の不注意がこんな事に繋がるのはかわいそう。
「あのトラック、最近改造してもらった奴なんですよ。これまでは凍った物しか運べなかったのを、同時に常温と冷凍を出来るようにした優れものなんですよ。勘弁して下さいよ。」
「規則なので、」
本当に可哀そう。
「……分かりましたよ。でも、出来る限り最速で返してください。」
「はい。迅速にお返しさせていただきます。」
何とか面会が終わった。
「さて、これくらいでいいですか?」
「はい。」
これでやる事は終わり、じゃない!墓を掘り返さないように言わないと!
「じゃあ、今日はこの辺で。」
「あ、あの、」
「はい?」
山口JBが振り返る。
「ちなみに、まだ墓を掘り返さないでくださいね。」
「……はい?」
ヤバイ、何か言い方ミスったっぽい。
「えっと、その」
「これは遊びじゃないんですよ。あなたのお陰で解決できた事件があるのかもしれませんが、だからと言って上から目線で捜査に口を突っ込まないで下さい。」
物凄い目で見られた。空手の決勝戦で当たった相手と同じくらい迫力のある目だ。
違うんだよ、突っ込んでるのは陰人で、僕はあくまで巻き込まれている一般市民Aなんだよ。(B,C,D辺りかもしれないけど。)
「第一、」
「あ、そういえば言うの忘れてたな、すまん。」
マジでナイス父さん!初めて父さんの空気の読めなさに感謝した。
「じゃ、じゃあさようなら。」
君子危うきに近寄らず、よって僕は家に逃げ帰る。(つまり僕が君子で陰人が愚者。)
家に着いた。だいぶ肉体的にも精神的にも疲れたけど、夜はまだこれからだ。さっさと課題にとどめを刺していこう。
机に正対して座る。問題集とノートを広げる。消しゴムを出す。鉛筆を持つ。
……ここまでは記憶がある。そこから時間と記憶がだいぶ飛んで、夕食に呼ばれている。問題集には涎の跡。ノートには走り書き。
『寝不足は脳と肌と成長の敵だよ。よく寝なさい。』
絶対に陰人のせいだ。
とりあえず夕食に向かう。腹が減っているのはこの上なく確かだ。その次に確かな陰人のいたずらは後でとっちめよう。
豚肉のトマト煮を食べて自室に戻る。(うまかった。)
「さて、陰人君?今日、一体何をした?」
頑張ってすごみを利かした声を出す。
「なんだか、とんでもなく眠かったり、理不尽にキレられたりしたんだが。」
後半は僕の責任?そんな事はどうでもいい。僕は怒っているんだ。
「明日、論理的に説明してもらおうか。」
……まだ言い足りないことは?ない。じゃあ課題やるか。
コツコツコツコツ課題をやった結果、無事に数学の課題は半分片付いた。後は三角形の合同を何も考えずに解いていくだけだが、ちょっと、いやだいぶ、眠い。眠い!
寝よう!
最初の部分が分かりづらいのは頑張って目をつぶっておいてください。(多分こういう部分で落とされるんだよなぁ。)




