Day1
というわけで続きです。まとめてデータを上げられなかっただけなので、そのままどんどん行きます。
本章
Day1
3時間目のHRの授業で、先生が生徒に話しかけている。
「あー、今日で中尾が行方不明になって1カ月になる。」
中尾さんは確かクラスメイトだ。下の名前は、鮎子、だっけ。確か、というのはそもそも僕が覚えていないだけだ。そのくらい陰の薄い人なんだろう。多分。(まあ、僕が覚えている人自体ほとんどいないけど。)
大真面目な顔して聞いている人と眠たそうな顔して聞いている人、その割合はフィフティフィフティといったところだ。僕?もちろん眠たそうな顔をしている。あんまり知らないやつだから問題はないだろう。
「もちろん、警察や先生たちも一生懸命探しているが、みんなも見かけたりしたら先生たちに伝えてほしい。」
正直どうでもいい。外で鳴いているセミの声を聴く方がよっぽど楽しい。
「じゃあ、よろしく頼……」
ガラッ
「遅れてすみません。」
「おう、遅かったな中尾、ってええ!?」
この瞬間のことは(多分)一生忘れないだろう。なんてったって行方不明者がそれを話されているタイミングで帰ってきたのだから。
中尾さんは、長袖にスカートといった格好で教室に入ってきた。もちろん荷物を持って。
「え、え、あ、え、は?」
先生はもはや完全なパニック状態だ。(スマホを取り出してこっそりその様子を撮る。)
1分間先生があたふたして、ようやく落ち着いたころ、先生が中尾さんに質問をする。
「えっと、帰ってきたのは親に言ってあるのか?」
「はい、ついさっき家で親に言いました。で、学校にも行った方がいいかな、って思って来ました。」
「そうか。……いったん職員室に来てくれないか?」
「分かりました。」
2人が出ていくと、5秒もたたないうちに教室の狂騒具合はピークに達した。
「ねえ」「おい」「これって」「えぇー!」「はっはっは」「こりゃあ」「今の」「笑っちまうな」「草」「なにが」「戻ってきた?」「すげぇ」
この状態はしばらくの間、隣のクラスの先生が文句を言いに来るまで続いた。ちなみにHRの授業はこれでつぶれた。
休み時間、中尾さんはようやく解放された。僕は野次馬Fとして話を聞きに行く。
「ねえ、結局なんで1カ月も行方不明だったの?」
群がっているうちの一人が質問する。
「いや、いろいろあってね。」
中尾さんはいろいろぼかして答えようとしない。
「ほら、授業はじまるよ。」
「あ、ほんとだ。」
それでみんな離れる。授業が終わるとまた群がる。また離れる。それを繰り返すうちに、群がる人はぽつりぽつりと減っていく。結局、中尾さんは何も漏らさずにその場を切り抜けた。(どうでもいいけど、僕は授業中にスマホを取り出したことがばれて、職員室に呼び出された。)
何だったのかは分からないが、そのうち分かるだろう。そう思って僕は帰路に着いた。
その見込みは、当たった。最悪な方向性で。
家に帰ると、玄関にはすでに2組の靴があった。珍しい。父さんが帰ってきているらしい。
「陽人、おかえり。」
「ただいま、父さん。」
リビングに入ると、すぐ声をかけられた。
「早速で悪いんだが、事件を聞いてくれないか?」
「解かなくてもいいの?」
いつもは解いてほしいと言ってくるのに、思っていた反応と違うので少し戸惑う。
「いや、この事件はそんなにまずい状況じゃないから、最悪解けなくても問題ない。」
珍しい。明日はちょっとしたゲリラ豪雨が来るかもしれない。
「それで、どんな事件なの?」
「2人とも、唐揚げ冷めるわよー。」
「「はーい。」」
我が家は全員唐揚げが好きだ。
「いただきまーす。」
「陽人、一人だけでしゃばるのはよくないぞ。」
「さっき父さんつまみ食いしてたでしょ。人のこと言えないなー。」
「2人ともうるさいと唐揚げ全部もらっちゃうわよ。」
「ごめんごめん。」
カチャカチャ パクパク
(珍しく)和気あいあいとした食事を終えると、僕は父さんを連れて部屋に入った。
「じゃあその事件を詳しく教えてよ。」
早速要件を聞く。
「一言で言うと、遺体のない殺人事件だ。その遺体を見つけてほしい。」
「…ごめん一言じゃなくて詳しく説明してほしい。」
「お、すまん。」
なんで一言でまとめたんだろ。分かりやすいけど。
「事件が発覚したのは小平霊園だ。」
「小平霊園ってどこだっけ?」
いきなり知らない地名を出されても困る。
「どこ、と言われてもだな。まあ、東京都小平市にある墓地だ。」
「説明になっていない。」
「ググってくれ。」
説明放棄しやがった。
「……で、そこの墓地がどうしたの?」
「夜、そこに1台の冷凍トラックが止まっていた。それで、いきなりクラクションを鳴らしだした。」
「ほう、」
「それに気づいた警備員がトラックを確認しに行った。けれども持ち主が見当たらず、クラクションが鳴りやまない。そこで警備員は仲間を連れてきて、トラックに入ったらしい。」
勇気あるなその警備員。
「運転席には誰もいなかった。試しにエンジンをかけてみたらクラクションは止まったらしいが、一応、不審車両としてコンテナも確認したらしい。すると中で人が倒れていた。」
「遺体あるじゃん。」
さっきの触れ込みはどうした?
「遺体じゃない、容疑者が倒れていたんだ。彼は雑誌記者なんだが、返り血をたっぷり浴びた服がそばにあり、血塗れのナイフをポケットに入れ、自身は重度の凍傷になっていた。」
「え?」
「そこで警察に連絡がきたわけだ。」
とりあえず、父さんは話を終えた。
…………奇妙な話だ。少なくとも、何から質問すればいいのか分からないくらいには。
「えっと、とりあえず気になったことを質問していくよ。」
「どうぞ。」
「まず、容疑者はなんで冷凍庫の中でいたのか分かってる?」
「本人に聞いたわけじゃないから何とも言えないが、おそらくコンテナの中の血を掃除していたのだろう。」
凍った血って簡単に落ちるのか?
「ちなみに全くと言ってもいいほど落ちていなかったらしい。」
だろうな。
「じゃあ、なぜ重度の凍傷になるまで容疑者は中にいたのか、は?」
「一回閉まると自動でロックされてしまう仕組みだったらしいから、だそうだ。機械にはあまり詳しくないのだが、最近の車は進歩しているな。」
「つまり、掃除中にうっかり閉めちゃった、てこと?」
「そうだぞ。」
その犯人ついてなかったんだな。
「自分のトラックなのにそんなことをやっちゃうなんて馬鹿だね。」
「いや、他人のトラックだったらしい。だからそんなこと知らなかったのだろう。」
「…ちなみに所有主は分かってる?」
「いや。」
早く言え。
「それで、肝心の遺体はどこにあるのか見当もつかないの?」
「とりあえず墓に埋められたのではないか、という説が有力だ。だが、墓場を1個1個掘って確認していくわけにもいかない。国には許可を求めているが、遺体に関しては少し手詰まり状態だ。」
「それで、死体がありそうな場所を探ってほしいと。」
「おう。お前のことだ、どうせすぐ見つけられるだろ。」
「ははは。」
陰人次第だけどな。今の笑い声が棒読みになっていなかった事を祈る。
「他には、何か情報ある?」
「遺体に関してだが、血から3種類のDNAが発見されたから、遺体は三つあると考えていい。ちなみに全員致死量以上の血が出ているらしい。」
「とても大事な情報じゃん!」
早く言え!
「すまんすまん。」
「ちなみに被害者の名前とか犯行現場は?」
「不明だ。」
だろうな。
「あとさ、なんで夜中にトラックが墓地に入れたの?」
「植木屋さんのトラックに成りすましていたらしい。」
警備ダメダメじゃん。
「まあ、分からなくても問題はない。見つかれば確実に犯人逮捕できるだけだから、解けなくてもいいぞ。」
「オッケー。」
でも、こんな情報で答えが出るのかね?
僕が考え込むのを見た父さんは、音をたてないようにそっと部屋を出て行った。気持ちはありがたいけど、そもそも解くのは陰人だからあまり意味がない。
「さてと、事件は聞いただろ?だからあとはよろしく頼むな。」
少し考えて付け足す。
「明日は多分大雨で学校は休みになるから、天気を確認しながらなら遅くまで活動してもいいぞ。」
さっき見た天気予報ではそう言ってたから、大丈夫だろう。
今度は慌てて付け足す。
「でも2時以降は流石にやるなよ。」
前にこれを言うのを忘れたせいで朝5時まで活動されたことがある。その時は、12時くらいまで爆睡して母さんには直接、父さんには電話越しに怒られた。
……はたから見たらとんでもなくイタイやつなんだろうな。ふと、そういう自覚を持ちながら僕は風呂に入る準備をする。風呂に入り、歯を磨いたら、あとは陰人の時間だ。




