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後日談の2

後日談の2です。ちょっと長いです。

           後日談2 ケルベロスの自害

 謎解きが終わってから、いや井上さんの話を聞いてから、僕はずっとある事を考えていた。豊島と僕らの違いだ。

 どっちも真実を追い求めるのは変わらない。じゃあ、何が違うんだ?


僕が謎解きを聞いてから数日後、学校は僕の疑問なんて無視して(悲しい事に、本当に悲しい事に)期末試験の真っ只中だった。唯一の救いは最終日である事のみ。科目は熾烈で猛烈で鬼畜。先生方には悪意があるとしか思えない。昨日余裕をぶっこきすぎたせいで、答えを見られる僕ですらどうなるか分からない。(暗記科目を詰め合わせてくるなんて、外道の一言に尽きる。)

そんなこんなで朝早くから学校に行って勉強するために今日は早起きをした。そして机を見る。雑誌があった。……雑誌?

父さんは宣言した通り、豊島を捕まえようとブラック企業も真っ青な労働を繰り広げているし、母さんは僕の部屋に関して不可侵条約を結んであるから、僕の部屋に入ってこないはずだ。だから雑誌を机に置いたのはきっと陰人だろう。そこまでは分かる。ただ、何故あるのかは全然分からない。

とりあえずペラペラと雑誌をめくる。序盤の方に手紙が挟まっていた。なんでだ?とりあえず手紙を読む。

『おはよう陽人君。』

「おはよう。」

『もちろん手紙が挟んであったページを読んであるだろう?』

「まだに決まってるだろ!」

 慌てて読む。

  哀れな被害者か、悪辣な加害者か?記者、豊島海斗に迫る!

「ブフォ!」

 思わず吹きだす。これは、豊島の記事だ。

 状況は分かる。要するに豊島がこれまでやって来たこと、有名になったタイミングでスキャンダルをばらすっていう十八番をやられたんだろう。これが因果応報ってやつ……

『なお、この記事の筆者は豊島海人だ。』

「ブフォ!」

 なんで⁉

『彼は別に被害者を叩くような記事ばかり書いていたわけではない。悪徳弁護士、汚職政治家、特定暴力団なんかでも記事を書いている。要するに、本当に特ダネを書くことだけに集中しているんだ。』

「だからって、」

 普通書くか?自分のスキャンダル記事なんて。

『理解できないとは思う。僕も正直理解しかねる。ここまで特ダネにのめり込むなんて。でも、ある意味殺人鬼よりも殺人鬼な人物の気持ちなんて、理解したくもないから問題ない。』

「まあ、そうだな。」

 実際、記事で人を殺したからこの事件が起きた訳だし。

『そういえば、彼の異名もケルベロスだったな。』

「そうだな。」

『ケルベロスなら自分で自分をかみ殺すことだってできるのかもしれないな。』

「……かもな。」

 脳内で想像する。ケルベロスが互いの首で首をかみ殺す様を。ぐろい。

『とりあえず、中尾さんにでもこの雑誌を渡すといいだろう。』

「え?今捕まってるんじゃ」

『ちなみに既に釈放されているぞ。』

「は?」

 知らないんだけど。

『まあ、かく言う僕もそれくらいしか聞いてないから、他の人の状態も聞き出して欲しい。』

「了解。」

『雑誌は数冊買ってある。これをだしにして井上らの現状を聞き出して欲しい。何だかんだで気になるからな。よろしく頼む。』

 手紙はこれで終わっていた。

 あんまり悩んでいる時間もない、というか悩んだらテストが死ぬので雑誌も勉強道具もリュックに突っ込み着替えてご飯を食べに行く。

 ご飯を食べてリュックを背負って家を出る。電車に駆け込む。そして気づく。

 筆記用具忘れた。


 テストは(数少ない友達に結構大きな借りを作ったが)乗り越えた。テストのチャイムが鳴って、テストが回収される。それを見てから気づく。

 今朝、手紙で読んだ事すっかり忘れていた。

 慌てて周りを見渡す。そして見つける。確かに中尾さんがいる。

「そこ!まだテストの回収中だからあんまりキョロキョロしない!」

「え?あ、はい。」

 無駄に厳しい先生に無駄に怒られた。

「……よし、じゃあテスト終わり。号令。」

「起立」

  ガタッ

「気をつけ、礼」

「「ありがとうございました。」」

 先生が教室を出る。

「テスト詰んだー」「終わったー!」「テストの点数比べようぜ。」「宿題写さないと。」「楽しい楽しい写経タイムだ。」「この後どっか行く?」「部活―。」「おなか減ったぁ。」

 教室がそこそこの喧騒に包まれる。

「3年生はまだやっているから静かに!」

 戻ってきた先生に怒られる。ここまでがワンセット。(先生の方がうるさい癖によく言うよ。)まあ、それはさておき。

「中尾さん。」

「どうしたの?」

「後で少し話いい?豊島関係で少しね。」

「いいよ。」

 あれ?意外。思ったより冷たくない。何なら無視されかねないと思っていたのに。

「ほら、ホームルームやるよー!」

 今度はホームルームの先生がやってきて騒ぎ出したから一旦中断。

 さて、とりあえずは宿題出さなきゃいけないな。

  ガサゴソ

 あれ?

  ガッサゴッソ

 宿題も忘れた。


「で?」

「ああ、実はね、豊島関係で」

「そうじゃなくて。」

「へ?」

「なんで屋上なの?」

 ホームルームが終わった後、僕は中尾さんを屋上に連れてきた。

「ああ、いや、内容的に他の人に聞かれたらまずいと思って。」

「……まあ、そうだけど。いやでも、なんで屋上には入れてるの?確か原則立ち入り禁止じゃなかったっけ?」

「そう。だから誰も聞きに来ないでしょ。」

 気遣いすごいでしょ。

「いや、そうなんだけど。鍵でもあるの?」

「1年生のころに壊した。」

「あー、うん。了解。で、」

 中尾さんが指を突き付けてきた。

「豊島関係の情報って?」

「この雑誌読んでみて。」

 とりあえず雑誌を押し付ける。

「え?どこを?全部?」

「いや、最初の方に豊島の記事がでかでかと見開きであるから。」

「え?」

 物凄く嫌そうな顔に、というか殺意の籠った顔になる。

「いいから。とりあえず、ね。」

「まあ、分かった。」

 中尾さんがすぐに読み始める。

 しかし、なんだか結構印象が違うな。やっぱり、魔が差していたのがなくなって、少し気が抜けたのかな?


「終わった?」

 いい感じのタイミングで声をかける。

「ええ。読み終わった。」

「まあ、そういう事があるから伝えようと思って。」

「なるほどね、はー。」

 中尾さんが溜息をついてへたり込む。

「まさかこんな事になるなんて。いや、何もないよりかはよっぽどいいけど。」

「雑誌ならあと何冊かあるから、今捕まっている人にも渡してあげてよ。」

雑誌を取り出す。

「本当に?ありがとう。」

 渡すより先に奪い取られる。言行不一致ってこういう事か。

「そういえば中尾さん、今捕まっている人たちってどうなってるの?」

「まあ、色々よ。もしかして知りたい?」

「知りたい。」

 陰人じゃなくとも知りたい。

「……まあ、教えてあげる。」

「ありがとう。」

 お辞儀をする。事件を暴いた張本人なのに応じてくれるのは、本当にありがたい。

「井上さんは素直に供述しているわ。あの、二重作、警部補?だっけ。あの人を信頼しているみたい。」

 中尾さんがこっちを見る。目がチベットスナギツネみたいになってる。

「ちなみに、もしかしてあなたのお父さん?」

「あー、うん。クラスにはあんまり話さないでね。」

「ふーん。」

 僕の要望をしれっと無視して中尾さんは続ける。

「福田さんはもはや自暴自棄になってるわ。あなたと豊島を殺すってずっとブツブツ言ってる。」

「えー、嫌なんだけど。」

「まあ、釈放までもう少し時間がかかるでしょ。」

「だとしても。」

 素人だからどうせ防げるにしたって、豊島と同じ扱いっていうのが嫌だな。

「あと、あの3人は大変だったわ。」

「あの3人?」

「椎橋さんと二口さんと瀬戸さん。いや、あの3人は本当に覚悟ガンギマリだったからね。」

「え?なんで?」

 実は印象が超薄いんだけど。

「あのやり方だと豊島が死ぬまで戸籍なしで生きていく必要があるから、本当にあとの人生の大半をそれに費やそうとしてたわけ。」

「まあ、そうだね。」

「それなのに10日足らずで事件が解決しちゃうから、それはもう酷いくらい落ち込んでたのよ。」

「あー、」

 そう考えると確かに酷いな。というか、本当にどうしてそこまで恨みを買いまくってるんだ?

「警察に出頭してきた後は3人とも茫然自失。生きる気力がなくなってそうなくらいになっちゃっているわけ。」

「え、そんなレベル?」

 なんか酷いことをした気分になる。

「それで、私は少年法とかなんとかで一足先に釈放されてるわけ。まあ、裁判とかも受けなきゃいけないんだろうけど。」

「なるほど。」

 道理でもう出てるわけだ。

「さてと、」

「ん?」

「あなたにも聞きたいことがあるのよ。」

「ふぁ?」

「あなたは、この事件を解いたことを後悔してる?してない?」

 僕は解いてない。解いたのは陰人だ。だから陰人に聞いてほしい。

……でも、やっぱり同じ人物として、逃げずに答えないとだな。

「……僕は、後悔はしてない。」

「そう。」

「……意外とあっさりしてるね。罵倒されるかと思ってたのに。」

「した方が良かった?」

「全然。」

 ここで少し沈黙がやって来た。これはこっちが理由とか話せ、って事なのか?

「僕は」「私は」

 ……気まずい。

「先どうぞ。」

「いや、そっちから。」

 壮絶な押し付け合いの5秒間の後、負けた僕が話し始める。

「最初に言うと、僕は豊島を許すつもりは一切ない。あいつがやった事でたくさんの人が悲しんで、苦しんで、死んでるから。」

「……そうね。私もそう思う。でもじゃあ」

「だからって、あいつを殺していい訳じゃないとも思う。」

「……」

「あいつに罪があるのは本当だとしても、それは法によって裁かれるべき類のもので、勝手に裁くのは違う。そう思う。」

「……でも、法じゃ裁けないじゃん。」

「それは、勝手に裁く理由にはならない。そんなのをやるのは、豊島だけで十分だ。」

 しばらくの間、沈黙が訪れる。

「……私たちは豊島じゃない。」

 中尾さんがそれを破る。

「豊島みたいに、沢山の人を傷つけたりなんかしない。」

「人を間接的に殺すのは、それだけで豊島と同義だよ。」

「違う!」

 怒声が飛ぶ。それを受け止めて、口を開く。

「……殺させられる人の事を考えた?」

「え?」

「結局、あの事件が成功したら、裁判官が死刑判決を下して、死刑執行人がそれを実行してたんだ。その人たちの事をしっかり考えた?」

「それは……」

「その人たちが、最終的に豊島を殺していたんだ。その人たちの気持ちを、考えた?」

「……いいえ。」

「じゃあ、豊島と何が違うの?」

「それは、」

「罪のない人を巻き込んで、間接的に人を殺して、その後の事は何も考えないで、何が違うの?」

 中尾さんが黙る。そして、一言。

「違わないかもね。」


「中尾さん、大丈夫?」

「……何が。」

「いや、泣いてたじゃん。」

「うるさい。」

 中学校の屋上で、異性同士の中学生が二人、片方が目を泣き腫らしているなんて、完全に事案じゃない?

「ごめん、なんか酷い事言っちゃって。」

「いや、いいよ。」

 空を見上げながら言う。中尾さん。まだ泣いてる?

 今度の沈黙は少し心地よかった。

「私、」

 中尾さんがまた口を開く。

「豊島を殺すのは諦めないよ。」

「……そう。」

「……止めないんだね。」

「……いや、その時が来たらきっと止めるよ。」

 陰人が、いや、僕が。

「今度は直接、ナイフでも刺してさ。」

「探偵目の前にしてよく言うね。」

 僕が、というか陰人が聞いてるぞ。

「いいよ、きっと殺れるし。」

「殺らせはしないよ。」

「いいや、絶対に殺る。」

 晴れやかな顔で話す僕ら。

「こう、心臓を一突きで、」

「心臓を刺しても、即死しないらしいよ。漫画で読んだ。」

「え。あ、でもそれはそれでありかも。」

「え、怖。」

「やっぱり苦しめないと。」

「それなら、なんか、殺す前に拷問器具でも使ったら?」

「いいね、それ。」

 物騒な話題で談笑する僕ら。でも、それを止めるみたいにチャイムが鳴る。

「あ、そろそろ帰らないとまずいかも。」

「お、了解。」

「じゃあね。」

 中尾さんは屋上を出て、階段を下りて行った。

 それを見送って、僕は屋上に寝っ転がる。

「これでよかったのかな?」

 陰人に言う。返事は当然ない。気にせず続ける。

「僕、ずっと悩んでたんだ。豊島と僕らの違いって何なんだろう、って。」

 一人、声が響く。陰人に届いているかな?

「分かったよ。今の話で。」

 正しいかは分からないけど。

「豊島は真実を通じて人を不幸にするけど、僕らは真実を通じて、人を幸せにするんだ。」

 真実を暴いて、間違った方向に進む事件を止めるんだ。

「多分きっと、そういう事なんだ。」

 自分の陰が揺れた気がした。

ご清聴ならぬご清読、ありがとうございました。

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