i 〜アイ〜
評価していただけると幸いです。
僕は生まれつき左目が悪かった。右目も元から悪かったけど、右目を閉じると世界が分からなくなるくらいに左目は悪かった。そのせいなのか僕がまだ10歳の秋の時に左目が完全に見えなくなってしまった。僕はそのままでよかったのだけど大人達は病気だからといい、目の一部を変える手術を僕に施した。
また左目をあけられたのは寒い冬空の下だった。
空はところどころに雲があり、芸銃的に感じた。身に染みるこの寒さもまた左目で見られる喜びで何ら嫌に感じることがなかった。でもまだぼやけてしか見えなかった。
そんな僕の前には一人の男の子が立っていた。
身長は僕と同じくらいかな。さっぱりとした髪でこの寒空の下では少し寒そうな頭だった。
「こんにちは」
「こんにちは」
「名前は何て言うの?」
「君の名前は?」
「僕はかずだよ」
「そうか、僕はゆう。」
――ゆうっていうのか。
「よろしく」
「よろしく」
しばらくしてから僕達は遊ぶようになった。とは言ってもまだ外で遊ぶことは許されてないからずっとお互いの話をしたりした。どこで生まれたのか、そこではどんなことをしたのか、最近の流行は何なのか、本当にくだらないことまで話した。
でも、いつも気になることがあった。
ゆうを帰るところを僕は見たことがなかった。気がつけばゆうはもういなくなっていて、そして明日になればまたいつものように会いに来る。
――ゆうはどこに入院しているの?
ゆうを驚かせに行こうと看護婦さんに聞いてみた。
「すいません、ゆうはどこにいますか?」
「ゆう?」
「いつも僕と遊んでいる子」
「何言っているの?君はいつも一人で遊んでいるじゃない」
……どういうことなのか。
僕は確かに今までずっとゆうと遊んできたし、それは他の人も見ているはず。なのにどういうこと……?
聞いてみると僕はいつも一人で誰かに話しかけて遊んでいたらしい。看護婦さんもそれには気づいていたがきっと新しい遊びなのだと思って何も言わなかったらしい。
――そんな……!
僕はしばらく考え、そして部屋に戻った。ゆうを待つために。
「やあ、何してるの?」
いつもと変わらないようにゆうは部屋にと入ってきた。
「ねえ、どうしたの?何か怖いよ?」
まだ気づいてないゆうは相変わらずいつもどおりだった。
「もう、本当のこといいなよ」
「……本当のこと?」
「ゆう、君は本当は存在しない存在なんだろ?」
ゆうも僕が真剣なのに気づいたのか、真面目な顔になっていた。
「どうしてそう思うの?」
「看護婦さんにゆうのことを聞いた」
「そう、か……」
ゆうも諦めたのか、トスッと僕の前の椅子に腰を下ろした。
「ごめん、騙す気はなかったんだよ」
「ならどうして最初から言わなかったんだよ……!」
「言ったら普通に君は接してくれたかい?」
「それは……」
僕は答えられなかった。もしかしたらゆうの言うとおり、僕は今のゆうとは違う形で接していたかもしれない。
「そうだろ」
ゆうは僕の心を読むように答えた。
「だから今まで黙っていた。ごめん」
その声はどこか切なく、そして消えてゆくそうだった。
「じゃあ、ゆう。君は一体何者なんだよ」
僕は部屋で待っている間に聞こうと思っていたことを聞いた。
「僕は、かず。君さ」
「僕?」
ゆうの意味が分からなかった。
「そう、僕はかずさ」
「でも君はゆうだって……」
「確かに僕の名前はゆうさ。でも何者かと聞かれればかず、君さ」
「意味がわかんないよ。ちゃんと答えろよ」
「もう、時間がないんだよ。かず」
「時間?時間って何?」
「さようなら、かず。楽しかったよ」
「おい、待てよ!ゆう!」
次に僕が起きたときにはもうゆうはいなかった。ゆうがいない時の静かな病室、それだけが何も変わらなかった。
退院の日、僕の目はちゃんと見えるようになっていた。まるで手術したのが嘘のように。
「ありがとうございました」
僕は見送りに来てくれた担当医さんに感謝を述べた。
「いやいや、感謝ならその目の子に言うべきさ」
「目の子?」
「そう、その目をドナーとして提供してくれた子がいたから君はこうやって今も見えている。その子は交通事故で亡くなったんだけどね」
このときになって僕はようやく全てのピースをつなぎ合わせることができた。
「そうか、だから君は僕だと……」
「どうしたんだい?」
何か目に不具合があるのかと担当医だった医者は尋ねる。
「いや、なんでもないです」
そのあと、僕は親の車に乗って家に帰った。
ありがとう、ゆう。
君の目を通して、これからも色々なものを見ていくよ。