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祝!この世からの脱却☆

あの時、腕じゃなくて頭を前に出していれば――――――――




まあ、0歳児の私に言っても無理だろうけど。


高校帰り。電車を待つ間。駅のホームの屋根の間からオレンジ色の雲を眺めながら、赤肉臓美(あかにくぞうみ)はそう呟いた。




 私の左腕には白く浮き出た線状の傷跡のようなものがある。4歳の頃、母にいつからあるのか尋ねたがその時はなんだかんだ言って、はぐらかされた気がする。


 ここ最近、毎日毎日母親に踏みつけられて起こされる。踏まれているのが丁度、子宮のあたりだったので「将来産めない体になるかも~」的なことを冗談で言ったら次の日は「産めない体になってしまええええええええ!!!!!キィィィィィェェエェエェェェェエェェエェェッェ!!!!」と言いながら高速で踏みつけてきた。なぜこんなことになってしまったのだろう。親友がいじめられるようになって、親友は他の人からは避けられ始めていたが、友達が他にいない私はその親友に対して今まで通り友達として接していたらいつの間にかセットでいじめられるようになってしまっていた。そのせいで学校に行きたくなくて布団から出られない状態でいたら、母親がこの(ざま)である。更年期?


 「学校にも家にも居場所がない」だなんてとんでもない。そんな月並みでありがちな言葉は使わない。私の居場所は小さい頃から空想の中にある。居場所なら、あ、る。あるんだ。居場所なら。ないわけがないだろう。幼稚園でも小学校でも中学でもいじめっぽいことならあった。家での母親はいつも不安定でよく物が飛んできた。それらを空想上の居場所で乗り越えて来たんだ。いままでも。これからも。きっと何も変わらない。




 昨日、空想ついでに、左腕にある傷はもしや切り傷ではないか、と思い立った。そこで思い切って「リストカット 傷跡」と検索してみると・・・やっぱりだ。私の左腕にある傷とそっくりな傷跡の画像が並んでいたのだった。そうか、この傷は切り傷だったのか。そう思いながら自分の左腕に浮かぶ白い線の出っ張りを右手の指や爪でガリガリしていると、何やら不穏な映像が脳裏を駆け巡った。ベビーチェアに腰掛ける自分。果物ナイフを片手に発狂する母親。ナイフの先が自分の顔を目掛(めが)けて()を描いてすっ飛んでくる。危ないと思ったのも束の間、私は無意識に左腕で目を(かば)った。そしてあろうことかその瞬間、私の左腕はナイフの先を(くわ)え込んだ。赤い血とピンク色の肉を覗かせながら。


 あの時、腕じゃなくて頭を前に出していれば――――――――


スマホを眺めながらニヤニヤする。 


私もこんな美しい赤色とピンク色の頭になれたのかしら。


 スマホは「死体 グロ」と検索して出て来た画像、その銃か何かで頭の一部が破裂した死体の画像を赤々と映し出していた。




・・・じゃなくて、


あの時、腕じゃなくて頭を前に出していれば、赤い血とピンク色の肉を見るのが大好きになってしまったこんなグロ大好き人間を0歳児のうちから死なせることができたのに、と思っている。この世の為にもそれが良かった。




この世の為にも――――――――




 スマホの画像からいったん目を離して空を見上げる。夕焼けのオレンジ色よりもやっぱり、血の赤色や肉のピンク色の方が美しいと思う。こんな異常者はやっぱり早く死んだ方がこの世の為にも良いだろう。




そう思っていると、急にスマホが鳴った。父親からだった。


「はい。何?」


「・・・臓美。落ち着いて聞いてくれ」


「・・・何」


「・・・母さんが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「早く言えよ。もう電車来るから。」


「窓から落ちて・・・・・・もう助からないかもしれない・・・」


「は?まじで?」


え、やったぁ、と素直に思っている自分と、


いつか母親を自分の手でバラバラにして肉と血の色を眺めたかったのにと残念に思う自分と、


真っ当な娘として死にそうな母親を心配する自分と、


他にもいろいろな自分がいっぺんに精神世界を駆け巡った。




すると耳元で声が聞こえた。


「あんたもしぬの」


女性の声、だった。母親に似ているような・・・。そう思って振り返ってみると・・・




そこには母が立っていた。


「え、なんで?」


ここにいるはずがない。


「どうした?」とスマホから父の声。


「お母さんがここにいるんだけ・・・」


ど、と言い終わらないうちに母は私をホームから突き落とした。




死霊(しりょう)って、生きてる人間、触れたりする?


想いが強ければ可能?




そんなこと思いながら電車に撥ねられた。


出来ればこんな打撃系の(あざ)みたいな状態じゃなくて、


斬撃(ざんげき)系で血や肉塊(にくかい)になりながら色彩鮮(しきさいあざ)やかに死にたかったなぁー


とか思いつつ、体が飛んでいって高架下へ落ちていく中、意識が途絶えた。

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