異世界で魔王を倒した主人公〜幼馴染に異世界での生活全部見られてました〜
「やっと倒した……俺は……やっと…!」
学年転移してこっちの世界に来た俺は呼び出された元凶である魔王を倒した。
学年で200人は優に超えていたはずが今では俺一人だけだった。
ずっと……ずっとこの日をまちわびていたんだ……
これでやっと……帰れる。
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魔王を倒して国に帰った俺はすぐに国王の元へと行った。
「討伐ご苦労であった。なにかして欲しいことはあるか。勇者よ」
そんなものは決まっている。
「元の世界へともどしてくれ。もちろんこっちで死んだものを復活させてな。じゃなきゃ、殺す」
国王のそばで守るボディガードのようなものが一斉に警戒状態へとはいる。それを国王は手で制止する。
「わかった。そういう約束であったからな。言ったことは守る。だがそれで良いのじゃな?その気になればここにずっと居て女と一生戯れることも出来るのじゃぞ?」
「そんなものはいらない。早く元の世界へと返せ。こんなクソみたいな世界……さっさと俺はおさらばしたいんだ」
「そうか、、、では達者でな」
これ以上は引き止めても無駄だと察したのだろう。
国王が兵士に命令すると俺の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がった。
そして周りが光に包まれ、俺はそこで意識を失った。
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俺は誰かに抱きしめられているような心地がして目を覚ました。
目を開けると見覚えのある天井があった。そこはいつも俺が寝ていた場所ではなかった。が、俺の部屋であった。
そっか……帰ってきたんだな。
俺はしっかりと現実世界に戻ってきたことを確認した。
そしてずっと泣きながら抱きしめている幼馴染の顔を見た。
「朝姫、重いし痛い」
俺の幼馴染の花咲 朝姫。
そのクリクリとした愛嬌のある目には涙を浮かべていた。いつも綺麗に整えられていた髪の毛には整えられている痕跡もなく、寝癖がピョコンピョコンと跳ねまくっていた。しかもあろうことに何故かパジャマ。
一体何があってこうなってるんだろう。
「起きたあぁあ!よかっだよおぉお!」
今度は思いが重いよ、なんてくだらないことを思いついたが、その言葉を飲み込みなぜパジャマなのかを聞いてみた。
「ふぇ?」
朝姫は自分の服装を見る。
そして自分の服装がとんでもない事に気づいた彼女はみるみるうちに顔を赤くした。
「あわ、あわわわわ!だ、だって!しょ、しょうがないじゃん!いきなり現実世界に戻ってきてそれで会いたくなっちゃったんだもん……」
……なんだよそれ。
そんなこと言われたらさすがに40年生きてる俺でも動揺しちゃうよ……。
「お前頭がパニックになって変な事口走ってるからやめろ」
俺は赤くなりそうな顔を隠すように言った。
「ふぇ?な、なんか言ったっけ……?」
「言ったわ。何が『会いたくなっちゃったんだもん……(上目遣い)』だ。俺以外の他の男子に言ってたら即落ち間違いなしだわ」
そこで彼女は気づいたように、うわぁぁ……と恥ずかしくなって顔を隠した。
「そういう意味じゃないもん……多分……」
「癖かなんか知らんがその語尾が近づくにつれて声が小さくなるライトノベルヒロイン化現象やめろ」
「違うもん!そもそも聞き取れないりゅうくんが悪いんだ!こっちがライトノベルヒロイン化現象って言うならりゅうくんは難聴系主人公化現象だもん!」
「それは違うな!お前が人間に聞き取れるラウドネスの大きさを越えていればいいんだよ」
こうやって幼馴染と言い争っていて、些細なことかもしれないけれども、こうやってやっているのが本当に幸せだ。
異世界に一緒に飛ばされて、でもこいつがあっちの世界ではすぐに死んじゃって、長年こんなこともやれてなかった。
だから恥ずかしい話、たったこれだけで幸せが溢れてきて──泣きそうだ。
「ていうか、こんなことやってる場合じゃないよっ!ご飯食べよ!ご飯!作ったから!」
そう言ってパジャマ姿のまま部屋を出ていく。
俺もあとに続いて部屋を出た。
カレンダーを見ると、今日は土曜日だった。
確か、転移した時は学校にいたはずだ。
その時間に戻ったのではないのか。
となると1日進んだのか。
そんなふうに思考に耽っていると首をちょこんと傾げて、カレンダーを見ている俺に朝姫は
「カレンダーとにらめっこしてどうしたの?」
と、尋ねてきた。
「ん?ああ、今日土曜なんだなって。確か俺たちが異世界に転移した時金曜だったよね?」
思っていた疑問を聞いてみる。
「んー忘れたけど。確かそうだったような気がする!」
わかんないけどねと、てへってしながら言う朝姫。
「まぁ、そんなことよりもテーブルに座って。もう用意してあるから。一緒に食べよ!」
さすがは自慢の幼なじみである。
準備が早い。
さて。ここで親はどうした?と思うかもしれないが、両親共々朝早くから出勤です。ご苦労様です。
なので、朝が弱い俺にいつも家族ぐるみの朝姫が未だに助けに来てくれるのだ。
もうほんとに朝姫様々である。
一緒に対面でテーブルに座り、一緒に手を合わせる。
「「いただきます!」」
出された料理をパクッと一口ほおばる。
っ!?
な、なんだこれぇ!!
超うめぇええー!
どんどん箸が進む。
こんな上手いの異世界で食べたことが無い!
確か、魔王を倒す遠征の前の日に異世界で1番料理が美味しいと言われている人のを食べたが、それすらも霞むほどである。
これはなんだ?!味噌汁か?!いや、違う!これは味噌汁じゃあない!味噌汁の姿をした何か別の汁!
うますぎる!
パクパクと食べてるのを前で一緒に食べてる朝姫が微笑みながら見ている。
「いやぁ、そんないい食べっぷりしてくれると作ったこっちも嬉しいよ」
そりゃそうだろう。
異世界行く前はこんなのをずっと食べていたのか。
なんて幸せものだったのだろう。
すぐに完食して、手を合わせる。
「ご馳走様でした」
いやほんとに美味かった。
数分遅れて食べ終わった朝姫も手を合わせて、そして、
「それでさー、なんか、りゅうくん私に言うことないの?」
なんてことを幸せそうな表情で朝姫が言い出した。
言うこと?
「なんかあったっけ?」
本当に思い浮かばない。
「んー?えへへー?ほんとーにわかんない?」
ずっとなんかにこにこしてる。
もう少し考えてみる。
「ごめん。本当にわかんない」
ぜんっぜん思い浮かばなかった。
「そっかー。じゃー言っちゃおっかなー。んーとね、私ねあっちで死んじゃったあとね、なんか部屋みたいなところに送られたんだ」
「そうなのか?」
それは初耳だった。
「そだよー。そこには死んじゃった学年の人達がいっぱいいてね。みんなで最後まで生き残ってるりゅうくんをずーっと見てたんだー」
「マジで?」
みんなにめっちゃ見られてたとか恥ずすぎる!
「うんうん。でね、うふふ」
「な、なんだよ。もったいぶらずに早く言ってくれよ」
もしかして俺みんなの前で1人だからって超恥ずかしいことしてたのか?
そしたら俺かなり死ねる。
「わかったよぉ。そんなに焦らないでってば。後、これ私の口から言うのもかなり恥ずかしいんだからねっ」
「そ、そうなのか?」
ずっと何やら幸せそうな声で喋ってる朝姫も言うのが恥ずかしいこと?なんだ?それ。
「そうだよー。スーハースーハー。よしっ」
呼吸を整えてどうやら言う準備が出来たようだ。
どんなに恥ずかしいことでも受け入れられる準備をする。
さあ、何でもかかってこい!
「りゅうくん色んな女の子から誘われてたよね?」
「え?」
そんなことあったか?
「本格的に勇者としてりゅうくんがみんなから崇められたときに色々なかった?」
俺はちょっと考えてみる。
あーそういえば。
「なんかいたかもな」
過激なことしようとしてくるビッチな方たちが。
「それで結構綺麗な人からも誘われてたじゃん」
「いや!でも俺あれ断ったぞ!」
そんな!俺は冤罪だ!
「知ってる。見てたもん。で、その断る時にりゅうくんが言ってたの覚えてる?」
俺が断る時に言ってたの……?
俺は考えてすぐに思い出した。
っていや、それおい!ちょい待て待て!
「おまっ!え、、、聞いてたのか?」
すると顔を赤らめながら朝姫は
「……うん」
と、頷いた。
「いや、待ってくれよ……それはほんとだめだって。まじかよぉ……」
もう俺この先こいつの顔を見れないかもしれない。
真相はこうだ。
俺が誘われた時に言った言葉。
それは。
「勇者様ァ♡私と楽しいことしませんか?」
甘えた声を出して俺を誘う美女。
「いや、別にいいです」
出るところは出ていて、いかにも触ったらやわらかそうな肌。
ただ俺は興味がなかった。
もちろん、美女も黙っちゃいない。
「えぇ〜?どうしてよぉ〜?私こう見えても、初めてなんだよ?」
耳元で囁く美女。
「いや、俺好きな人がいるんでその人としたいので」
ただ、そんな美女も眼中に無いほど俺は好きな人がいる。
「えぇ〜?それ知りたいなぁ〜。私に教えてよぉ」
ここで濁したら逆効果だと思い俺ははっきりこう伝えた。
「ずっと一緒にいる幼馴染ですよ。その人しか興味が無いので」
これを死者の世界から見られていたわけだ。
つまり。
「えへへー。幼馴染ねぇ、幼馴染は私しかいないもんねー」
つまりこういうことなのだ。
もう完全にバレてる。
いやさ、見られてるなんて思わないやん普通。
もう俺の顔は真っ赤っか。見なくても分かる。身体中全部、恥ずかしさで熱を帯びている。
だが、それはどうやらあっちも同じなようだ。
「で、りゅうくん?」
顔を赤くしながら俺を見る朝姫。
「それで、私になにか言うことは無いの?」
あっちは完全にわかってるんだ。
ずっと秘めていたこの想いをもうぶちまけてしまおう。やけくそだ!くそ!
「あー!もう!聞かれてるなんて予想だにしなかったわ!あーそうだそうだ!俺は花咲 朝姫のことが大好きだ!いっつも、こうやって朝起こしに来てくれて料理作ってくれて!好きにならないわけがない!」
もう止まらない。
思っていたことを全部言う。
「異世界に飛ばされて!それで!目の前にいた朝姫のことを守れなかった俺はずーっと悔やんでた!」
あの時ほんとに苦しかった。
目の前で朝姫が殺された時。
俺は何も出来なかった。
そんな俺が魔王を倒すほど強くなれたのは誰でもない朝姫を助けるためだった。
「それでずっと会えないまま異世界で40年すぎて!その分どんどん気持ちが募っていって!今日会えた時本当に俺から抱きしめちゃうところだったわ!まぁ、長々と言ったけど要するに!」
俺の目は朝姫を捉えていた。
「朝姫のことが大好きだ!」
くどいなんて自分でも思う。
でも長年面と向かって言えない鬱憤もあった。
ずっと聞いていた朝姫の顔はもう茹でダコのように赤くなっており、そして小さく呟いた。
「私も……」
「へ?」
「私も好き!」
「!!!」
精神干渉の魔法は効かない俺であったがどうやら朝姫のは効いてしまうらしい。
もうクリティカルである。
我慢ならず俺は朝姫を抱きしめた。
ぎゅーーーっ!
「ちょ、ちょっと!んもぉ!えへへっ、苦しいってば!」
「ご、ごめんっ」
力が強くなりすぎてしまった。
「もぉ……。じゃあ、チューしてくれたら許してあげる!」
そして目を瞑る朝姫。
それは俺にとってはご褒美だ。
しない理由がない。
目を瞑っている朝姫に優しく近づき倒れないように肩を支える。
そして
──チュッ
「!!!」
その瞬間ビクンと身体が跳ねる朝姫。
そして俺が離れると、とろんとした目で
「それだけ?」
と、呟いた。
これは……もう、止まらない。
食べ終わった食器をそのままにして俺は朝姫をお姫様抱っこして、自分の部屋へと戻る。
今日俺は童貞を捨てるだろう。
そう理解した。
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ベッドで何ひとつ服を着ていない朝姫が俺に呟く。
「私もね。辛かったんだよ?」
「なにが?」
「ずーっとりゅうくんのことを見ててね、私のこと言ってるんだろうなぁって思いながらキュンキュンしながら聞いててね。でもね、そのね。見てるだけだったから。だからね、生で言われた時ね。もうほんとやばかった」
幸せそうに言う朝姫。
そして、一瞬の間を置いて
「私のことずっと幸せにしてね?」
そうやって少し心配そうに見つめる朝姫。
「当たり前だろ」
そう言って俺は朝姫のことを抱きしめてキスをした。