あらすじとキャラクター② 局所的な舞台設定と事件の見た目
このページはマーダーミステリーシナリオ『夜行列車に銃は踊る』のネタバレを含みます。
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世界観、局所的な舞台設定、事件の見た目を決めると、シナリオの導入トレーラーが作れる。
私が思うに、マーダーミステリーを作りたいと思いながらも手につかないという人間がつまずいている部分なのではないか。なぜなら、事件を設定するには事件を解決するためのトリックへの解決の糸口なども考えなければならないと思いがちだからである。
この段階ではそんなことを考える必要はない。
あなたは、自分のシナリオの導入トレーラーが人を惹きつけられるようなものにできるよう、派手で意味深で感傷的な状況をつくることに専念してよいのだ。
なぜそうなのかは【議論させるべきことを考える】の章で述べるとして、簡単にいうとマーダーミステリーにおいては推理小説のような事件トリックを考える必要がないからだ。
ゆえに、あなたが書き起こすあらすじに事件の詳細な内容は必要ない。ここで必要なのは導入トレーラーにも書けるような、あくまで”表面的”な事件の見た目だけだ。
局所的な舞台設定から自作を例に、導入トレーラーとあらすじ、ゲーム内容の要約の3点を比較し、どんなことを考えるべきかを示していく。
以下は拙作の『夜行列車に銃は踊る』である。
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〇 シナリオトレーラー(Booth概要欄に記載)
1995年7月6日の夜。あなた達はそれぞれの目的の為、東京ー札幌をつなぐ夜行列車に揺られている。「寝台急行アルコル」は、ホテルのように大きな個室が特徴の、高級志向な列車である。
走行音だけが響く24時。暗闇の中を滔々と走る列車内に、突如銃声が鳴り響く。車掌が出所と思わしき102号室を開けると、そこには胸を撃ち抜かれた少女の死体が横たわっていた・・・。
そして車掌は事情を訊きたい乗客4名を食堂に呼び出した。容疑者を見つけ出し、これ以上車内で罪を重ねないように拘束するとのこと。犯人を捜すべく、彼らは話し合いを始めたのだった。
〇 あらすじ(作製初期に考えていたあらすじ。シナリオ内容には記載されてません)
・世界設定:現実世界(シナリオを作っていくうちに現代から過去世界となった)
・局所的な舞台設定:夜の夜行列車内。探偵と怪盗がいる。列車内に銃は1丁以上あり、ゲーム内で所持者が移動していく。
・事件の見た目:密室で少女が撃たれている。
〇 シナリオ内容要約(完成形のシナリオの概要)
オウムテロの直後、手荷物検査が実施されたはずの寝台列車で密室の銃殺事件がおきる。被害者は容疑者5名となんらかかわりのない少女で、容疑者たちは被害者への感情抜きに犯人を探す、というのがゲームの大枠。
犯人を捜すことは多くのキャラクターの共有目的となるが、その中で何丁もある銃を巡って密談がおこったり、事件について興味のない探偵と怪盗の対決がある。
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事前に考えていたのはこのような内容だ。
ゲームに必要な情報は一切必要ない。逆に言えば、この段階でそこまで作りこまないほうがいいかもしれない。
まさに、自分がシナリオのなかでやりたいことをとりあえず書き出す、そのうえで「世界設定」「局所的な舞台設定」「事件の見た目」は最低限決めておく、というくらいの心構えでいいのである。
『夜行列車に銃は踊る』においては列車内の銃殺、というドラマチックな事件の見た目まで決まればいいのだ。その他の要素はおまけに過ぎない。
例えば内容要約の中にある「密室」というワードは、この時点でトリックのトの時も考えついていない。どのように殺したから密室になったのか、その密室を解くための手がかりをどこに用意するかなどは何も考えず、ただただ「密室事件のほうがおもしろいな~」という安直な思考によって決められた要素だ。
残念ながらこれはゲームの設計として、議論開始時には密室であることを少人数しか知り得ない、ということになってしまったので泣く泣く導入トレーラーから外したのだが、他のあらゆることを決める前段階で密室殺人であるということは決まっていた。
また、「探偵と怪盗」という要素についても同様である。まだキャラクターについて何も決めようとしていないが、舞台設定としての「探偵」「怪盗」が欲しい、ということでここに記載している。
殺人事件についての立ち位置や他ゲーム内での目標、事件の内容にどう絡んでいるのか、どのような人物像なのかは一切ここで決める必要もない。
このくらいの気楽さで、あらすじは作っていく。
風呂敷を広げすぎると後が大変だと思うかもしれないが、そんなことはない。構想の風呂敷はたたむのは簡単で、広げるほうが難しい。なんの制約もない中で、自由にワクワクできるような事件について考えてみよう。
ひとつだけ注意してほしいのは、風呂敷を広げる作業は、それ自体がとても楽しい、楽しすぎるということだ。
あらすじを簡単に書いてみたら、1日~3日程度寝かせることをお勧めする。なぜなら、あらすじを書く作業それ自体が楽しくなってしまっていて、あなたの脳はその時正常な判断能力を欠いている可能性があるからだ。
あとから見返してみればなんてことない内容だったり、おもしろくないかもしれない。よくよく考えてみれば、既存の何かの真似事で、面白い独自性がなかったりするかもしれない。
あらすじ作りにはこのような罠がある。作ってるときは熱く、見直すときは冷静にを心がけよう。