議論導線④ 優れた小道具 ~時系列・アイテム・目撃者~
推理導線は何で駆動するのか。それは、あなたがシナリオ上に配置した情報だ。出発点がどのような情報か、というのは前回紹介したので、今回は議論途中で用いる情報を作り出す小道具について紹介する。
まずは時系列だ。
前回は不届き作家を貶す為に例示したのだが、マーダーミステリーというゲームにおいて時系列というのはいの一番に議題になる情報源である。メジャーなギミックであり、膨大な情報を組み込むことができるのだが、それ故に取り扱いには細心の注意が必要である。
マーダーミステリーの議論はかくあるべき、という意見の中には、正しい推理をすれば真犯人が必ず見つからなければならない、という宗派が存在する。そういった連中にとって、時系列は頼みの綱である。彼らに物的証拠による推理を必要とするゲームを作る能は無いので、犯人以外のアリバイが存在するシナリオしか書けない。
さすがにこれは過言なのだが、時系列という小道具には他の情報源には生み出せない情報の力があると言っていい。2人以上の時系列が確からしいと見なされればその情報は真実となり、動かしがたい前提として位置されてしまう。ゆえに、大前提とする情報を提供したい場合は、この小道具に頼らない理由はない。
なぜ過言なのかというと、この情報強度は偽りのものだからだ。全体公開された情報と自分のハンドアウト以外、信頼できる情報なんてものはないはずなのだが、こと時系列に関しては整合性がとれていたり、証言する人数が多かったりすると確定情報として扱われがちだ。
もっとも効果を発揮するのは議論の的を絞らせたい時だ。前回、議論の出発点について話した。事件に関わる最初の情報から想定される可能性について様々な内容を語りあうわけである。通常の情報は「この情報により、○○の可能性がある」ということを提示しやすい一方、時系列というのは「この時間、Aさんは○○にいない」という情報が簡単に提示できる。
ということは、裏を返せば時系列は情報を確定させすぎてしまうことが問題だ。あなたが自身のシナリオ難易度を探偵側に優しくしようとするなら、時系列を詳しく書いてもよい。これはクリティカルな情報に限らない。たとえなんとなしに出した時系列情報、例えば暇なキャラクターに自室で寝てもらっていたり、ロビーでくつろいでもらおうという安易なものだとしても、一つ情報を書くたびに犯人にとって難しくなっていく、ということは意識しよう。
作者の想定解を探る探偵側とは逆で、犯人側のプレイヤーの最適解は存在しない。ゲームの性質上、自分が犯人出ない、という確定情報が出てくるわけがない以上は、その卓の他プレイヤー、議論内容、雰囲気にあわせた、アドリブの最適解がそれぞれ存在する。
そんな中でどのような嘘を犯人が選択するのか、というのは作者にはコントロールできない。できる人はできるだろうが、あなたにはできない。つまり、時系列情報は最も作者が統制しなければならない情報である。時系列情報の濃度が薄いからと言って意味のない、もしくは意味深な情報をつけ足したりしてはならない。
その時間の過ごし方がわからなかったら、前の行動を延長させるくらいがちょうどよい。犯人側からすると、嘘をつくのに管理すべき情報がすくなくなるので、「誰が何をした」は極力少ないほうがよいのである。
次にアイテムだ。
「○○というアイテムを所持することが目的のプレイヤーキャラクターで、その○○は事件に関わってはこない」
こんなキャラクターやアイテムを作っていたら、すぐに削除しましょう。
アイテムというのは面白い性能を持つ反面、カードの扱いが複雑になる。
実物がそこにある、という情報の出方になれば、その存在を疑う余地はない。全体公開できる情報の中でもトップクラスの情報確度が保証され、所持やアクションなどの様々な要素に加担できるのがアイテムの強みだ。
難点はその、「様々な要素に加担できる」ところで、つまり譲渡やこっそり見せる、などの、アイテム特有のルール整備が必要になるからだ。これは、実際に存在するもの、を情報源にすることで発生する問題点だ。つまり、なければないほうが、ゲームとしては善い。
たいした信念もなく、事件推理に必要でもないアイテムを存在させていないだろうか? そのアイテム、削れませんか? アイテムを目的として動くキャラクターがいる? そんなキャラクター消してしまえ!
アイテムが登場してよいのは、そのアイテムが存在する、利用できるといったことが、事件やその後の問題解決に意味を為す場合だけだ。それ以外の場合許されるわけがない。一度しか遊ぶことができないゲームのルールを複雑にする意味が、そのアイテムにあるか自問自答せよ。
ただでさえ、マーダーミステリーはあいまいなルールが多く、他のシナリオとごっちゃになったりで管理が大変だ。これはゲームマスターがルールを把握、管理するのが大変というのものあるが、一番はプレイヤーのためである。ゲームマスターをやっていればわかるが、ルール説明を1回行って、そのゲームのルールを完璧に理解できる人間なんてプレイヤーの半分もいない。
それはプレイヤーが悪いのではなく、ゲームが悪いのだ。本来なら ”マーダーミステリー” という枠組みで統一されるべきルールが、シナリオの都合によっててんでバラバラなルールになってしまっているのが現状である。全然違うゲームならともかく、似たり寄ったりなゲーム内容で、そのゲームのルールだけを完全にインプットして、他のゲームのルールを一切忘れてプレイなんてできるわけがない。
つまり、我々作者は、ただでさえプレイヤーの認知リソースに負担をかけて、その分自由にゲームを作っているのだから、無駄なルールを省くことは義務であり、プレイヤーへの敬意だ。プレイヤー人数をかさ増ししたい、目標が足らない、時系列でやらせることがない、などの理由でアイテムを登場させるのは、プレイヤーへの思いやりが足らない行為だと知ろう。
最後に目撃証言だ。
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