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マーダーミステリーの作り方  作者: もくはずし
議論導線
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推理導線③ 議論の出発点と導線確認の意義

このページには『夜行列車に銃は踊る』のネタバレを含みます。


https://mokuhazushi.booth.pm/items/2819396

 前回は『夜行列車に銃は踊る』における議論導線の本筋を紹介した。

 議論は何で動くか、というところまで考えると、それは情報だ。PLは、ただのキャラクター設定だけ渡されても事件について議論することはできない。作者がきちんと事件に関する情報を、議論に出せる状態で提示してこそ、議論が成立するのだ。

 前回は死体周囲の状況、凶器の在処、アリバイの観点から議論が出発するように組んであった。


 殺人事件における推理の出発点は、凶器、アリバイ、動機の3つがあげられる。これ以外から議論がスタートすることはほぼないと言って差し障りない。つまり、作者はこれに関する情報を、ゲーム開始時には必ず見えるところに配置しなければならない。それが親切なゲーム設計というものだ。

 これらの出発点をどうゲームに組み込むかが、作家の腕の見せ所である。すべてを謎にする必要はなく、『夜行列車に銃は踊る』において、凶器は銃であることがシナリオ導入時には予想ができる。あとは、誰がそれを使ったかというのを詰めていくだけだ。

 逆にアリバイについてはスタート地点が果てしなく遠い。犯行時刻は銃声により予測できるが、部屋が密室のため、銃声のあった時間帯に現場不在証明ができたとて、密室の中でどう人を殺し、部屋から出たかが推理できなければ意味がない。

 このように、上記3つの出発点についての6W1Hを問いとして提示し、回答をどこに配置するか、または配置しないかが問題になる。一番重要なのは、それが正解かどうかを別として、「WHO(誰が犯人であるか)」を最終的に配置するか、しないかだ。


 凶器、動機という出発点は、『夜行列車に銃は踊る』において犯人候補を絞ることができる。つまり、最終的な回答が配置されている問いだ。

 配置しない、というのはその議論が袋小路であることを示す。『夜行列車に銃は踊る』においては、袋小路となる出発点は『アリバイ』だ。もちろん密室の謎を突き詰めなければ真相に近づくことはできないのだが、結局答えの候補が上がったとしても絶対にこの人は犯人ではない、と断定することができる人物は浮かび上がらない。アリバイという出発点からだけでは、「誰が犯人であるか」という答えに貢献することはできないのだ。


 ゲームを作る際に、PLは3つの出発点から何がわかり、何がわからないのか、を確認するべきだ。これは情報整理の最も基礎的なものであり、ここがぐらついていれば当然予想外の議論から犯人を特定されてしまったり、犯人でないものが確定的な犯人としてつるし上げられたりする。

 よくマーダーミステリーのシナリオを作る際に「時系列の作り方がわからない」などという人を見かけるが、時系列なんていうものはこの推理導線を扱う上での小道具の一つでしかない。そんなものに凝る前にやるべきことが山ほどある。


 出発点からどういう議論が湧出し、どこへ向かい、結果PCは何を手に入れるのか。当然これは、そこに何かしらの脱線や混線が発生しない限り――つまり犯人サイドが嘘をついたり、核心的な話を妨害したりしないかぎり――真犯人が何人かの犯人候補の中の一人として挙がってくる、そして跳躍的な推理に成功すれば真犯人を捉える可能性が高くなるようなものであるべきだと、誰もが思うだろう。

 見落としがちなのがそれよりも重要なことがほかにあることだ。あらゆる分岐を網羅して、作者の想定外の結論が確定的に明らかとして扱われないように監視する。これこそが、議論導線を自覚的に作る目的だ。

 作者の誰もが、すべての情報をうまくつかえば犯人をつるし上げられるようにゲームを作りたいと思っている。作者が最も恐れているのは、PLから「結局この議論に意味はなかった」と思われることであり、それはつまり、議論の中にゲームの回答が入っていないことだ。だからこそ、この点については皆血眼になって作りあげる。何を目的に議論導線を作り上げるかということにおいて、「想定外の結論が出ないようにつくる」というのは大目標にはならない。

 加えて、作者が設定する議論内容は予想しやすいが、設定していない議論内容は予想がつかない、という難易度の問題がある。頭の中ですべてを行うのは難しいので、なるべく図示できるツールに落とし込んで、視覚的に確認できるようにしたい。


 前回提示した図のように、議論の進み方を書いてみよう。出発点は3つ以上でも以下でもありうる。それぞれの出発点から、どの情報をもとに、どのような結論の謎が生まれ、そしてまたどの情報を参照して次の回答と謎を生み出すか……。そして、作者が設定した、誤った導線には青コメントのように、反論に用いるべき情報や推理を置く。

 前回ではすべての導線が分岐のない単線で描かれているが、きちんと書けば様々な分岐や、全然異なる出発点から発生する議論もある。本来はすべてを記載しなければならない。

 この樹形図は、ハンドアウト・情報カードをある程度作り終えた段階で作成するのがよい。あなたがたどり着かせたい議論・たどり着かせたくない議論には、どんな情報提供が抜けているのか、が一目瞭然だ。さらに、情報を後から追加・削除した場合にどこの導線に影響が出るのかがわかる。

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