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マーダーミステリーの作り方  作者: もくはずし
ルール
10/16

ルール④ 点数制と目標の重みづけ

このページには『We Are TroubleShooters!』『終点。』『エル・パティブロ』のネタバレを含みます。

https://mokuhazushi.booth.pm/items/3305769

https://mokuhazushi.booth.pm/items/3572184

https://mokuhazushi.booth.pm/items/6075283

あなたの目標

点数はあくまで目標です。なるべく高い点数を取得しましょう。

A 被害者Aを殺した犯人に投票する 8点

B 形見のブレスレットを手に入れる 4点

C 浮気をしていた事実をキャラクターBにバレない 3点



 上記のようなハンドアウトをよく見る。

 マーダーミステリーを5つ遊べばその中の一つはこんな感じの目標設定の仕方だ。以下、キャラクターの目標に点数がついているシナリオを、点数制のシナリオと呼称する。

 

 上記目標の書き方には問題点がいくつかある。Bの目標がゲームのどの時点を指しているかわからないことや、Cの判定をどのようにするかといった問題は些事だ。一番は、目標に付与された点数が何の意味もないばかりか、誤解を生みかねないものになっていることだ。


 点数制のシナリオでの点数の意義は、以下のようなものが考えられる。


① ゲーム終了時におけるキャラクターの勝者や順位を決めるもの。


② ボーダーの点数が設定されており、その点数以上・以下の場合エンディングが分岐することが明記されているもの。


③ プレイヤーが目標の重みづけを数値的に把握するもの。


 上記の〈あなたの目標〉は③にあたる。

 ③の特徴は、ゲーム中・ゲーム後に点数を参照する処理がないことである。プレイヤーはあくまでこの点数がなるべく大きくなるように振る舞うことだけを推奨されている。

 点数制を③で運用することは、シナリオ作成における大悪手である。それは、③がルールとして機能しないからである。


 ここまで聞けば聡明な読者はおわかりだろうが、この不適切さは、本章【嘘の可否】で悪法とされた〈嘘をついてもよい。しかしシナリオの整合性に関わるような大きな嘘は避けるべきである。〉で述べた通りである。プレイヤーによって捉え方が変わってしまうような文面は、ルールとして不適切であり、誤解をまねく粗悪な文章だ。


 ③が問題となる点は二つ。一つは点数による重みづけは、見る人によって重さが変わってくること。もう一つは、そもそも目標の重みづけを計量的にするべきではないということだ。

 上記の〈あなたの目標〉の点数は、そもそも点数が重みづけになっていない。なぜなら、点数の基準がないからである。合計点数が満点と考えるのか、合計点数の6割を合格ラインと考えるのか。Aは8点でBは4点だが、つまりAはBの2倍の価値がある目標なのか。

 マーダーミステリーにおいて全ての目標を達成するのは実際難しい。AとBの目標が達成すれば満足と考えてよいのか。Cの目標にはほとんど価値が無いと言っていいのか。であれば、Aを達成するためにCは早々に諦めて、自白すべきではないのか。

 もしくは、どれだけ困難に見える道でも、全ての目標を達成すべきなのだろうか。Cの目標を諦めれば、真犯人がキャラクターBであることを説明できそうな場面でも、隠し通すべきだ。なぜなら、「出来る限り高い点数」を狙わなければならないのだから。

 そもそも自キャラクターの合計点数と他キャラクターの合計点数は同じなのだろうか。だとすれば、このキャラクターの目標達成は比較的容易そうだから、点数を7掛けくらいで考えていたほうがよいのではないだろうか。であれば、何が何でも目標はすべて達成すべきか……。


 このような様々な思考が出てきてしまう以上、点数による重みづけは意味をなしていない。なるべくというのはどの程度の強度なのか、高くというのは何店くらいを指すのか。これが人によって受け取り方が変わってくるのだ。

 マーダーミステリーにおける目標を最初からあきらめるべきではないだとか、文章を読めばその目標の重みがわかるように書いてあるだとか、そんな言い訳は通らない。目標に点数をつけた時点でどちらを信用するもプレイヤー次第だ。文章のほうを信じるべき、という”常識”があれば、そもそも目標にゲーム上意味のない点数をつけるなどという非常識なことをすべきではない。


 あなたの設定した目標は、点数という二次元的な指標で示せるような、無機的なものなのだろうか。もっと有機的な、多面的性質をもっているのではないか?

 ゲーム上不必要な点数を記載するというのは、そもそも文章に自信がないからだ。文章による目標設定の説得力に不安を感じるから目標を箇条書きで本文から抜き出す。そしてその重みづけが文章を読んで理解されない可能性が高いと感じるから、点数をつけてしまう。


 特に物語性を重視するのであれば、なおさらゲーム性を高める点数制を採用すべきではない。それは、キャラクターへの没入を阻害し、よりメタ的にシナリオをゲームとして見てしまう動機をプレイヤーに与えてしまう。

 このような場合は、点数ではなく優先順位や、メインミッション・サブミッションのような記載で目標を羅列するとよい。文章によって描かれた目標の重みづけと矛盾せず、ゲーム的な意味合いを持たないで済む。


 点数制というのは、①や②のような、ゲームのルールとして機能する時にのみ輝くものだ。だからこそこの【ルール】の章で取り上げている。マーダーミステリーによりゲーム性を高めることができるのが、この点数制というルールである。

 ①や②は、その点数そのもの数値に意味を持たせている。だからこそ、目標について戦略的に考えることができるし、それが許されたシナリオであると割り切ることができる。プレイヤーは「なるべく高い点数を目指しましょう」などという曖昧な指令に悩むことなく、如何に自分の点数を高め、他キャラクターを出し抜くかに専念することができるだろう。

 

 ①を採用するか②を採用するかの基準は二つ。他キャラクターの目標達成が他キャラクターを害することになるかどうかと、目標の点数が何かしらの要因で一意に決まるかどうかだ。

 ①の場合、自分のキャラクターを勝たせるための戦略は大きく二つ。自分の目標を達成して高得点を取る場合と、他キャラクターに点数を取らせないで、低い点数でも勝利できるよう立ち回る場合だ。

 後者の戦略は点数制に付きまとってしまう。他キャラクターと点数の競合があると明記されている場合はとくにそうだ。つまり、作者はこの特性に見合うシナリオ内容にしなければならない。キャラクターAの目標が達成されると、物語上他のキャラクターは損害を被る、といったように。これであれば、ゲーム中プレイヤーがどちらの戦略をとっても、物語上の不整合は起こらない。

 また、①で目標の点数が一要因で一意に定まらない場合、シナリオ上の勝者とゲーム上の勝者が乖離してしまう原因となる。メインミッションの投票内容でキャラクターAの一番都合の良い結果となったのに、サブミッションのアイテム取得で点数上追い越されてしまった、という事になりかねない。

 故意にこのような状況を作り出す場合は問題ないが、投票内容とアイテム取得のような、複数の要因で点数が上下してしまうと意図しない勝者が現れてしまう。これを管理するのは困難で骨が折れる作業だ。ゲームの勝者が決まる要因は、例えば投票内容で一意に点数が決まる、といった具合にするほうが望ましい。


 ②の場合は、上記二つの問題は解消される。自分の点数と提示された点数との比較なので、他キャラクターの点数は関係ないので、他キャラクターを蹴落とす必要もなければ点数順が物語上成功した順に並んでいなくても問題はない。

 ただし、ボーダーを設定してしまうと目標すべてをクリアする意欲が失われるというデメリットが、新たに発生する。

 〈あなたの目標〉でボーダーを10点に設定してしまうと、BかCの目標を達成する必要が無い為、プレイヤーはCの目標を捨てて、議論開始早々に自白してしまうかもしれない。


 このように、点数制というのはメリット・デメリットがはっきり存在するルールだ。どんなゲームにも思考停止で取り入れてよいものではない。はっきり言って、ほとんどのシナリオでは前述した目標の順位付けや、メイン目標・サブ目標といった記述方法のほうがより良い記述方法となる。

 マーダーミステリーをゲームとして強化したかったり、点数をつけることによる特性を生かしたシナリオにしたいという強い意図がなければ、こんなものはつけないほうがいいだろう。




 点数制をボロクソに叩いている作者だが、点数制のシナリオは3つある。これらのシナリオを点数制にした理由と期待される効果を挙げていこう。


『We Are TroubleShooters!』

 パラノイアTRPGのZAPスタイルをもとに作成したシナリオである故、よりゲーム性を高めるために導入した。

 このシナリオでは他キャラクターの妨害は公言されずとも、推奨されるものだ。よって、①の点数制の「他キャラクターを蹴落とす戦略が生まれる」というデメリットが、より世界観を強める要因となる。


『終点。』

 特殊な点数の使い方をしている。

 ルール上は、各パートで提示される目標は加算式で絶対値2以下を取る、という回りくどい言い方をしている。

 きちんと読めば、この点数にどんな意味があるのか明示されていないことがわかる。さらに、どこかで提示される目標は0かマイナスの値を取るということで、達成してはいけない目標があるという意味になる。

 しかしマーダーミステリーに慣れているプレイヤーは、このルールを読んでいても、ゲーム中にはすっかりそのことを忘れてしまう。目標として提示されたものは達成しなければならないと意気込んでしまう。そして、本来冷静に俯瞰できれば、最も守らなくてもよいと思える目標が書いてある、追加ハンドアウトの2枚目の目標を守ってしまう。

 それこそが、冷静さを失い、シナリオにのめりこんでしまえば真相が見えなくなるというこのゲームの内容そのものを表すのにちょうどよい。


『エル・パティブロ』

 『We Are TroubleShooters!』同様、デスゲームの様相を呈するため、点数制を導入している。各キャラクターの利益は相反し、また全ての目標は投票によって決定される。だからこそ目標に点数が設定されることが輝き、意味が出てくるのだ。

 また、ルール上明確に点数が高い人間が勝利と記載されているが故、プレイヤーは安心して他キャラクターを陥れる準備をすることができるだろう。ルールを読んだ段階で他者は敵であると認識できる文面を必要としたため、点数制をかなり強調して記載している。

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