18.入ってんのかい!
誤字脱字があったら報告してもらえたらありがたいです…
「ん…」
身体が重い…それにまだ暗い…何時だ今?
左腕は今枕に使われているから右腕を使って頭の上に置いていたスマホを取って時間を確認する
「げっ…5時か…」
休みの日は最低でも8時ぐらいまでは寝ているのに今日は早く起きてしまったようだ。何かやることあったかな…宿題は夏休みの分も範囲を予想して先に授業中に終わらせているからな…やることが無い
「ん~…どうしよ…」
そう一人で小さく呟いていると横にいる司が俺の胸辺りに腕を回して抱き着いてくる
「ん~…聖ぃ…」
「おいこらてめぇ俺は聖じゃねぇし、抱き着いてくんな。暑い」
巻かれている腕を力ずくで外そうとするが外せない
「こいつ…!おいゴリラ!起きろ!」
顔をぺちぺちと叩いて司を起こす
「も~…なにぃ?」
「てめぇ寝相悪すぎだぞ。毎回ベッドから落ちてきては俺の腕を枕代わりにしやがって」
「あ~ごめんごめん…ってか今何時…?」
「5時」
「はぁ?何でこんな時間に起きてんのさ」
「知らん、身体が勝手に起きたんだよ」
それから司は俺の机の上に少しだけおいてある漫画を読み、俺はスマホでちょっとした暇つぶしゲームをしていた
「ねぇ、魔石ホントに食べないの?こんなにあるのに」
「食べたとしても俺が倒したスライムと狼一匹分だけだ」
「何で~?気軽に強くなれるのに」
「俺は他人に作られた強さじゃなくて自分だけで作り上げた強さが欲しいんだ」
「『他人に作られた強さ』ねぇ…」
司は漫画のページをめくりながら何か言いたそうだった
「なに、納得いかないんか?」
ピクリとページをめくる手を止めて司はこっちを見ながら
「納得いかないって言うか…私はずっと一人だからさ。なるだけ早く隣に来て欲しいなって。前とか後ろとかじゃなくて、横に来て欲しいの私は。もちろんそんなすぐじゃなくてもいいし、聖なんてまだダンジョンにも入れないでしょ?でもさ、10年前、美咲が死んでから女の子は私一人だったけど二人が変わりなく接してくれるから耐えられた、けど中学校からは二人とも別れちゃってさ、私はずっとRAINの中の人になっちゃったんだよ?少しは二人にわがまま通したいよ」
「…」
確かに司は6歳のころから色んな意味で一人だな…仲のいい女の子が突然居なくなって、残った男二人とも中学校でお別れする羽目になったんだからな、ある意味ずっと一人ぼっちな訳だ
「だからさ、私が4月生まれでまだ3か月しか経ってないのにもう世界樹ダンジョンに行こうと思えば行けるわけだよ?二人ならもっと早く行けるって信じてるし期待もしちゃうのさ」
「まぁ、司よりかは俺達のほうが飲み込みは早いって言われてきたしな」
「早く並べるぐらいの強さになってよ。死んじゃうぐらい急がなくていい。嫌になったら嫌って言ってくれれば諦める。私の我が儘、聞いてくれる?」
「ん~?やだね。俺はお前を追い抜かす…隣なんてすぐ居なくなると思え、聖はそうじゃなくても俺はお前らを置いていくぐらいまでは強くなってやる。それで葵も司も聖も全部俺が守ってヨシヨシやるよ」
「はっは~ん?言ったな~?」
何やら恥ずかしいなこんなことを言っていたら…ま、司の我が儘を言ってるところはバレないように録画したからな。個チャで聖に送ってやろう
………
「ん?」
時間的には日曜だがいつもの日課を欠かさないように朝から筋トレをしていたら柊から真っ暗な動画が送られてきた。あいつ今日は起きるの早いな…まだ5時だぞ
声だけか…?少し聞き取りづらいが奥の方で司の声がする
『納得いかないって言うか…』
司にしてはちょっと弱々しい言い方だな?我が儘…我が儘か
「あの無茶苦茶なことを命令して何ともない顔をしていた司がとうとう『我が儘』と言ったか…」
少し嬉しいのは多分気のせいだ。だが、あいつがそんな真面目に俺達のことを待っていたとは、可愛い奴め
「なんか気分が乗ったから、走りに行こっと」
………
「お、聖からだ」
机に突っ伏したまま寝てしまった司を見ながら聖からの電話を出ると
『司が我が儘って明言したのは初めてじゃないか?お嬢の期待を軽く超えてやろうぜ』
「ハッ、予想通りの答えだ。いいね」
『今から走りに行こうと思ったんだけど、どう?一緒に行く?』
「え~、少し待ってろ」
期待通りの返事をしてくれるからこいつの友達はやめられないってばよ…
そう思いながら急いで着替えて俺は聖の元に行く
「出迎えご苦労」
「まぁ、誘った側だしな。この前の所と一緒のルートでいい?」
「おうよ」
「ふぃ~、疲れた!」
「結局ルート外れて多めに走ったな」
「お前にとっては10kmが多めぐらいなんだな…バケモノめ…」
「そんなこと言う柊だって結構ペース早めに走ってたじゃん」
「うるさいやい」
ペース管理は俺、ルート選びは聖という風に今日は走ったがなかなかきつかった、これでまだ朝だというのがびっくりだ
「おはよ~二人とも」
「お、司起きたか」
「おはよう、もうダンジョンに行くの?」
「うん、浅めのフロアボスをボコしに行こうと思って、いつものダンジョンより難易度高いならどんなもんかなって」
「フロアボスって?」
「そういや、お前が言ってるいつものダンジョンってどんなところなの?」
「有名な野良ダンジョンだよ?ほら、清水寺のところの…」
「ねぇねぇ、フロアボスって?」
テレビでも度々映るダンジョンだな。テレビに出てる探索者の殆どがそこで修練したとまで言われる高難易度ダンジョン
「あ、それはダンジョンについて何も知らない俺でも知ってる。日本最高難易度のダンジョンでしょ」
「そうそう!階層数は25!フロアボスは2体。あそこだとまだギリギリ戦えるまではあるから…例のダンジョンでも2体まではたぶん行けると思うの」
「だからフロアボスって?」
「フロアボスか…その層だけで考えると雑魚敵の何倍ぐらい強い?」
「え~、振れ幅大きいけど…5~100倍の間だね確か」
「大きいな~…ってか100倍とか勝てんのか?」
「まぁ、その場合は雑魚敵自体が弱すぎたりするのさ」
ふむ、雑魚敵が弱ければ弱いほど倍率も高くなるとかそういうことか…?
「あれだよ…ボス部屋と同じ感じの水晶があってね?触ると赤黒くダンジョンが点滅しだして~、フロアボスが出てくるの」
「ん?多分それと同じ感じのやつ一層にもあったぞ?」
「え?10層ごとにあるはずなのに?」
「おん、スライム87体分ぐらいの強さの奴が出てきてな?結局蹴りまくって倒したから問題はなかったんだが」
「報酬は?」
「あ、受け取ってないや」
「えぇ…もったいない」
細い目をして小言を言いながら司はダンジョンに向かって行ってしまった
「柊は行かなくていいのか?」
「ん~、少し休んだら行ってこようかな」
「なら休んでる間でさ、ダンジョンについて教えてよ」
「えぇ…自分で調べろよ」
「いいじゃん、先生とか辞書に教えてもらうより友達に教えてもらった方が記憶効率良いって言うだろ?」
「はぁ…ホワイトボード使ってみたいから聖の家でな」
「は~い」
聖の部屋に移動し、ホワイトボードに書く準備を万端にする
「はい、何を聞きたいんだ?」
「そうだな~、フロアボスってなんなの?」
「フロアボスは、十層以上の層数があるダンジョンに十層毎にボス部屋じゃなくフロアに現れるボスのことらしい。その強さは5~100倍、挑戦難易度は高いが報酬はその分おいしいらしい」
「へぇ~、なら柊が倒したスライムの報酬は結構おいしかったんじゃないの?」
「グッ…やめてくれ」
傷口をナチュラルに抉ってくる聖がまだまだ質問をしてくる
「そういや四天王みたいな人達っているの?」
「どういう…?」
「この世界の最強格何人みたいな」
「あ~、確かあったような…でもあれすぐ入れ替わるから人の名前覚えても無駄なんだよな…」
「そんなに入れ替わるの早いの?」
「世界樹ダンジョンに行って帰ってこなくなるからどんどん変わるんだよ」
「じゃあ柊が知ってる人だとどんな人が居たの?」
確か結構前に調べた人の名前だと…
「京極…一郎だったかな?」
「あ、聞いた事ある。どんな人?」
「呼び名は確か…『地球の最高傑作』。歴代で唯一の日本人にして歴代最強の人類、もちろん一番位の高い第一席。そんな人でも世界樹ダンジョンからは帰ってきてない」
「へぇ…その人達はなんて言われてるの?」
「探索に命を賭け、力を得る代わりに人間をやめた愚か者。愚者の円卓」
「フールズ、いいね。厨二病みたいだ」
聖が目をキラキラさせながら興奮気味に口に出す
「なら、俺達三人でフールズを目指そう。それも同率一席」
「それは無理だろ~」
「出来る出来る」
聖は冗談のような言い方をしたが目だけは真面目だ。これじゃあ真面目なのか冗談なのかわかんねぇな
「ま、考えとくわ。あまり目立つところには立ちたくないんだがな~」
「大丈夫、俺達なら」
「ほ、他に聞きたいことは?」
「ん~…ギルド設立の方法とか?」
ギルド、探索者にとって命を預ける仲間でありもう一つの家族のようなもの。ギルドでもらえる恩恵もあるが国からの依頼もこなす必要が出てくる。もし依頼をこなせなかったらギルド長に厳罰が下る。そのため、ギルドを設立する人はあまりいない。大体の探索者はすでにあるギルドのいずれかに入るのがほとんどであり、ギルド同士の争い、合併などが行われることもある
「それは、簡単だぞ。メンバーを一人以上集めて市役所に届けを出すだけだ」
「なら、俺の誕生日に作ろうか。俺達のギルド」
「はぁ?俺達だけで行けるかよ。世の中のギルド舐めんな」
「出来るさきっと、俺達なら。それに俺達には司もいる」
「司、ギルド入ってないんか?」
「さぁ?柊聞いてきて。ギルド長命令」
「あ?やるなら司にやらせとけ」
スマホを取り出して司に電話をかける
『もしも~し?今フロアボスやっつけてるから後にしてほしいんだけど?』
「司、今ギルド入ってる?」
『え?うん入ってるけど』
「「入ってんのかい!」」
『まぁ、学校から私の特例を認める条件としてギルドに入って安全な環境で探索することって言われたから。とりあえず日本最強って言われてる「探索者連盟」に入ったってだけだけど?』
「とりあえずで日本最強に入れるお前が凄いわ…」
『で?用件は?!片手だけじゃ戦いにくいんだけど?』
「あ、聖の誕生日に俺達のギルド作るって言ったからな、司がギルドに入ってるかな~と思って」
『え?なら抜ける。ギルド長、ギルド名、ギルドメンバーの決定権は私に貰うから!じゃあね!』
「あ?!ちょっ、ま…切れた」
あいつ日本最強ギルドから抜けること即決してたけど良いのだろうか、退団するペナルティとか無いのかな
「案外即決だったがどうする?ギルド長、ギルド名、ギルメン決定権持ってかれたが」
「ま、司ならうまくやるでしょ」
「聖がギルド長したかったんじゃないのかよ」
「実はやりたかったけどまぁ司がやりたいならいいんじゃない?『日本初の最強ギルドの女性ギルド長!』とか」
「そんな肩書の奴が他に『おっさん』と『絶望』って言われてるの笑うしかないが?」
聖が拳を俺のほうにゆっくりと向けてきたので俺はグータッチで要望に応えた
「俺の誕生日も近いからな、楽しみで仕方がない」
「今の内からワクワクしてると身が持たないぞ?天才が」
………
「あ~疲れた…」
「疲れた疲れたって言うから疲れたように感じるんじゃない!?きっとそうだよ!」
「二人ともうるさい、任務に集中しろ」
「だってさ~、なんで僕たちフールズがわざわざ日本なんて弱小国に行かなきゃいけないのさ」
「それが決まりだからだ、まさか同じ国から三人も新しいフールズが任命されるとは…」
「めんどくさいな~…アドルフ、一席なんだから行ってきてよ」
「一席命令だ。クリス、ナスリ。任務に集中しろ。そして俺の前に新しい三人を連れて来い」
「え~!アドルフも一緒に行こうよ!きっと楽しいよ?」
それぞれ仮面をつけたフールズと名乗る三人組は旅客機の中で話していた
脚を組んで肘を立てて頭を抱えている…所謂王様座りをしている男は第一席アドルフ、現世界最強の座に座っており、他のフールズ達が不真面目なせいで自分に責任が課せられるせいか、目の下に隈が出てきている。面倒見がいいせいでより周りの人間が不真面目になっていくという悪循環の中にいる悲しきモンスター
その隣に座っている、まだ成長期と思わせる身長が小さいめんどくさがり屋な男は第二席クリス、ダンジョン以外の場所ではめんどくさがりで有名。まだまだ子どものような振る舞いに一部ファンができたことがあるが、そのほとんどが厄介なガチ恋勢だったため、クリス本人がファンの集まりを解体した
そしてクリスの隣に座っている大人びた雰囲気の女性が第三席ナスリ。雰囲気とは裏腹にクリスと同等の子供染みた性格。ただ、彼女の戦闘を見た者は口を揃えて「神でも仏でもない、魔王だ」と彼女の姿を現したらしい。アドルフからは「知らない人の前では極力会話を避けろ」と言われるほど見た目とのギャップが凄い
「ほら、行くぞ」
「は~い…」
「うん!」
三人はそれぞれ違う色のローブを着てジェットから飛び降りる
「ハハハハハハ!これは楽しい…!」
「ふざけて死ぬなよ、いらん心配かもしれないが」
「キャー!こわーい!!」
設定ポロリ
愚者の円卓の皆様が仮面にローブなのは「その方がかっこいいから」という割とどうでもいい発言をした初代第一席が放った言葉からです。第一席から第五席までしかない愚者の円卓は良くも悪くもユニークな人たちしかいないため、愚者の円卓自体の評価も賛否両論ですが何かと頼られることは多い
・突然透明人間になったら何をする?
柊:全身着こんで自分がちゃんといることをアピールする
司:いろんな人にいたずらを仕掛ける
聖:病院に行く
美咲:柊の部屋に忍び込んで物の整理をする
葵:普段は入れないところに入る
美晴:誰も認識してくれないことに対して静かに泣いて周りに幽霊扱いされる
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