「お隣の大陸」について
この世界には 大陸と呼ばれるものが二つある。
一つは、私が住んでいる大陸、ここは大陸全体が一つの国である。
都市も町も村も自然も牧場や農場もあって、第一次産業(農林水産業)・第二次産業(工業など)・第三次産業(サービス業)・第4次産業(ネット関連業)が営まれている。
ネット産業というのは電線や電波や各種ケーブルを使った通信系の産業のことである。
つまり TV・ラジオ・無線・拡声器系・インターネットなどなどの通信システムのハード部分と それらを使った各種サービスの両方を指す。
ハードは第2次産業に含まれ、ハードを使った商売は第3次産業に含まれるが
その核となるのは「通信」であるとして、この世界では新たに第4次産業と名付けたのである。
ちなみに、新聞・雑誌・書籍などは、紙媒体に印刷して輸送して販売するので第3次産業、同じくレコードやCDなども第3次産業である。
情報産業ちゃうんかい!なんでやねん! と突っ込まれても困る。
ただ 経済学の偉い先生方によると、印刷物や録音物はモノとして残るし 改竄すれば痕跡が残るから、保存可能な記録・証明書として価値がある。
それに比べて、電気を使って拡散されるものは、何かの物に保存しなくては消えてなくなる一過性のモノであり、一時的に拡散しやすいが、そこに含まれる情報は変質しやすく改竄容易であるから物としての価値はない、言ってみれば電子が見せる夢のようなもの、人間が頭の中で夢想するモノと同じ扱いで良いでよい。
すなわち自由に人の情緒や思考を刺激しても、経済的価値・モノとしての価値を与えないことにより、自然物から食料を得て生きる人間の営み(第一次産業)の発展形として、モノを加工して販売して生活を豊かにする第二次産業、さらに人間社会で労働を金銭に換算したり、労働の成果を売買することをより便利にする情報を得たり、情報を共有するときに必要な、信用・信頼を形成することを保障する「記録・保存」に資する産業(売買及び売買に必要なコンセス形成に不可欠な情報産業)を第3次産業とするのだそうだ。
この第1次~第3次産業がバランスよく安定して存在することにより、社会が安定し持続的に発展するというのが先生方の考えだ。
それに比べ第4次産業というのは、即時的な刺激を人々に与える麻薬のようなものであって
社会全体のバランスを崩したり、悪意の横行・詐欺や権力の偏りを助長することはあっても、人と人との信頼性を担保することのない儚い存在だから、本来は存在する必要がないが、情報の即時伝達という利便性はあるから、その使用に制限をかけつつ 上手に使いましょう、といった感じらしい。
普通、「大陸」と言えば私たちが住んでいる大陸のことを指す。
ここは 立錐の余地なく開発しつくされた土地である。
一方「お隣の大陸」は まだまだ未開の土地である。
海岸沿いにはパラパラと開発された町がある。
いわゆる港町だ。
内陸部には ところどころエアポートの成れの果てがある。
つまり エアポートを作って開拓しようとしたものの開拓地が存続できなくて放置された場所がいくつもあるのだ。
かつては天然のダンジョンがいくつもこの大陸にあった。
というか世界中に ダンジョンがたくさんあった。
ダンジョンコアを壊せばダンジョンは崩壊し、荒れ地が残る。
しかしダンジョンコアをうまく地上に持ち出せば、それは「ダンジョンの種」となって保存ができる。
おかげで 私たちが住んでいる大陸に昔あったダンジョンは全て、種になるか崩壊してしまい、今では一つも残っていない。
というわけで 人間にとって扱いにくいどっちかと言えば厄介者だったダンジョンを ダンジョンの種に替えて、それを再生して人間にとって都合の良いダンジョンを作ろうという試みが この「おとなりの大陸」でいろいろおこなわれた。
が、失敗も多かった。
そして ダンジョン経営が成功したところも、ダンジョンマスターが亡くなるとダンジョンも管理者不在で衰えてしまい、強制的に種にもどさなければならなくなった。
それゆえ今では、マスターは元気なうちに マスター権限を譲渡または売却することが推奨されている。