落としどころ・落ち着く先は
とりあえずダンサンは 勉強時間を増やした。
ダンマスであるミーちゃんを叱咤激励する代わりに。
一方 みーちゃんも ニャ~ゴとケサランパサランに癒され支えられながら、ダンジョンマスターとして、ダンジョン経営者としての アレコレ・ノウハウを実践しつつ力を養った。
そのためのブレーンが 教授であり、
大将を支える武将たちが Aチームの面々であり、脇を固めるシンクタンクであった。
一方 第一チームの面々は、ダンジョン生物スタッフと一緒に、ミーちゃんの手足となって ダンジョンの維持・管理に努めた。
◇
ダンサンは、これまでのようにダンジョン経営に口を出すのではなく
みーちゃんが出した企画書をもって、ダン菅との間を行ったり来たりする「担当者」に徹することに決めた。
これまでのように テーマパークとしての新展開について 企画書以前の段階のディスカッションに加われなくなったことを残念に思ったが、
そこに参加してしまうと、ダン菅職員とダンマスとの境界線を越えてしまうことになると 反省したのだ。
かつての 「ワンオペ=猫の手でも借りたい」ダンジョンマスターみーちゃんではなく、
社長として経営陣を従えるダンマスに成長したミーちゃんの立場を尊重し、
ダンジョン担当者としてのけじめを徹底する道を選んだ。
たとえて言うならば、育成団体(ダン菅)所属の育成者としてのダンジョン担当者の立場から、
ダン菅とダンジョンマスターとの対等な関係における「ダン菅側窓口担当者」に ジョブチェンジしたダンサンであった。
何をいまさら? と 思う方もいるかもしれない。
しかしながら 子供が自立して成人として独立するときとの「親」と同じで、
育成者・育成団体もまた いずれかの時点で、育成対象者との関係を改めねばならないのだ。
競技団体と競技者との関係
研究生を募集して 劇団員として育て上げる劇団側の指導者・劇団経営者vs劇団員との関係と同じく。
ここを 明確にしないと、劇団における独裁やらいじめやらの病根がはびこってしまうのである。時には それが 性加害にもつながる
かつての映画監督・プロデューサーと女優との関係のように
あるいは 某タレント養成・派遣団体のように
とまあ ダンサンは 各種の本を読みまくり レポートを出して
ダン菅の取締役の面々を説得したのであった。
◇
「しかし、ダンジョン経営というのは、国家的プロジェクトであり、個人の自由にさせるわけにはいかんのだ」社長
「しかし これまで 規制と管理を重視してきた結果として、ダンジョンが衰退の一途ではありませんか。」ダンサン
「ミーちゃんダンジョンがこの5年間に挙げた成果は 過去50年のほかのダンジョンから得た知見・産物のすべてを合わせた分を上回っているのは 数字が示しています。
さらに 発展中のダンジョンが衰退に向かうターニングポイントが、何であるかも明確に 過去のダンマス達の資料分析から出ています」ダンサン
「ゆえに マスターの精神的自由を維持するためには、ダンジョンマスターに経営者としての独立性を認めることしかないのは明白。
あとは 組織と組織としての契約で、我々が懸念する問題をつぶしていくよりしょうがないのではありませんか?
そのための法務部なのでは?」ダンサン
「ところで あのマスターが 我々の法務部と対等に渡り合えるほどの人材を集めたのは 君の差し金かね?」某取締役
「とんでもない。
私は 報告した以上のことは知りませんでしたよ。
そもそも 彼女の人脈について 何ら調査報告は上がってませんでしたが?」ダンサン
「彼女の学生時代の活動報告の類をシツジーが握りつぶしていたのだ。
当時の人事部長も 曝書に同意していた。取るに足りない情報だとみなして」現人事部長
「彼女を人間関係に疎い存在に見せかけ、シツジーが彼女を支配下に置くことを正当化することへの疑念を封じるためにな」苦々し気につぶやく社長
「その結果、我々は 君の存在が 彼女の潜在能力を引き出したのだと判断していたのだが・・」現人事部長
「潜在能力どころか、ただ 使いどころがなく内部留保していた才能を彼女が発揮しただけだったんだな」社長
「失礼な。
むしろ 彼女を抑圧的環境から救い出した救世主と言ってほしいですね」ダンサン
「その点は 君が自慢せずとも 監査部からそのいう評価が上がっているから心配しなくてよろしい。」監査役
「君に対する査問の結果からも、君が潔白であり、
彼女の隠し玉について 気づいていなかった点については、現経営陣全員と同じく無罪であると証明されている」査察部長
「というわけで、ダンジョン誕生10周年における契約条項に関しては、今後
経理部と法務部で検討することにしよう。
問題は ダンジョンマスターが いつからその協議に加わるか?なのだが。」社長
「その点に関しては、試験的に まず経営面での独立採算とダン菅との金銭問題から始めてはどうでしょう?
実際 すでに 現時点において、エネルギー収支においても 金銭収支においても、ミーちゃんダンジョンは独立採算がとれているどころか、これまでダン菅が出資した分も すでにこちらで回収済みであるわけですから」ダンサン
「そこを突かれると痛いな。
もはや 国家安全規約しか あのダンジョンを我々に縛り付けるネタがないではないか」社長。
「その現実を認めるより仕方ありませんな」法務部長
◇ ◇
というわけで、ミーちゃんダンジョンは 誕生後10周年を待たずして、
ダン菅から独立することになった。
ただ 形式上 満10年になるまでは、ダンサンがダン菅側窓口として、ミーちゃんダンジョンの担当を続けることになった。
◇ ◇
取締役会の内容を知らされたミーちゃんは、
ダンサンが これまで通り ダン菅側のダンジョン担当者として残ってくれると知って、ほっとした。
その一方で、完全独立組織として 今後ダンジョン展開をしていかねばならないことが、法的にも経済的にも明白になり、かなりブルってしまったミーちゃん。
「うわ~ 組織のてっぺんに立つの怖い
私 高所恐怖症なのに~~」みーちゃん
「しっかりしてください、マスター」エレンは溜息をついた。
「だって 怖いものは怖いもん」みーちゃん
「今までだって TOPとして役割を果たしてきたではありませんか。
ダンサンがここを出て行ってから すでに2年が過ぎたんですよ。」ジャック
「そうそう その間 ずっと社長業をこなしていたじゃないか」にゃ~ご
「そうはいっても ダンサンが毎月 会いに来てくれていたその存在感は大きかったんだよ~」みーちゃん
子猫になったケサランパサランがにゃ~と鳴いた。
「結局 ダンサンとは友達になれなかったんですね。」さみしそうにつぶやいたニャ~ゴ
「ついつい 心の中の『お父さん欲しい』願望をかぶせちゃったよ。
形式的には ちゃんと距離をとっていたから、別れの時が来ても大丈夫だと思うけど。
やっぱりね 心の奥底でこっそり頼れる存在だった人が、もはや そういう幻想すら投げかけられないほど離れちゃうってのは きついな」みーちゃん
「実質的に 社会人1年目ってことですね。
誰もが くぐる門だと思って しっかりと自力で乗り切ってください」ジャック&エレン
「う~わ~ この歳になって やっと 社会人1年目に入門かぁ
頑張ります!」みーちゃん
「今まで積んできた修行の成果が、ご自分の中に蓄積されていると自信をもって
乗り切ってください」ジャック。
「そうだ。そうだ」という雰囲気で 上下に浮遊する毛玉
「新米社長ですが、改めて よろしくお願いします。
今後とも」
みーちゃんは 自分の個人スタッフである4人(エレン・ジャック・ニャ~ゴ・ケサランパサラン)に頭を下げた。
そのあと、契約面における法的留意事項の確認のために教授のもとに向かった。
先々、不利が生じることの無いように 細心の注意を払って契約するために。
経営者としては、利益面での損失だけでなく、権限や権利面での制約・逸失の危険性にも注意を払わねばならないのだ。
◇
会社形態の独立組織として 今後ミーちゃんダンジョンを考えるなら
経営陣容も整えていかなければいけないなぁ・・
頭 痛
どっから 手を付ければいいんだろう
誰に 相談しようっかなぁ・・・
その晩 ベッドに入って みーちゃんの頭の中に浮かんだのはこの課題であった。




