朝の通話
翌朝 身支度を済ませたダンサンは、重役用のどしりとした椅子に座って
早速ミーちゃんを専用回線で呼び出した。
「おはようございます。
そちらはいかがお過ごしですか?」ダンサン
「すべての回線の切り替え完了をしました」
画面はオフのまま涼やかな声がかえってきた。
「だれだ?君は」ダンサン
「ギンワンです」ぱっとクジャク顔のアイコンが画面の隅に出た。
「なぜ 君が?」
「通信担当ですので」ギンワン
絶句するダンサン
「マスターと個人的にお話になりますか?」ギンワン
「いや、いい
だが お手すきならマスターに出てもらえるとありがたい」
「了解しました。
マスターにおつなぎします」
2・3回呼び出し音なったあと、かちゃりと音がして ミーちゃんの声が聞こえてきた。
「おはよう。
緊急連絡?」みーちゃん
「なぜ 画像がでない?」ダンサン
「それは今 私が取り込んでいるから
ところで これって プライベートなお電話? それとも業務連絡?」みーちゃん
「毎朝のミーティングのつもりだが?」ダンサン
「あー そこから 話し合わなくちゃいけなかったんだ・・
平常の事務連絡なら ギンワン・ギンツーを通してくれたら。
ちなみにギンツーは代替わりしましたのでご安心を。
ようは ダン菅との通信・連絡係の呼び名が銀1・銀2です。
あと 返事のいる内容は期限を明確にね。
急ぎの判断が必要なものは私を呼び出すか、私がすぐに対応できないときは、ジャックかエレンに言ってください。
その時 私から折り返し連絡を入れる先も言ってね。
以前と同じオフィスナンバーで呼び出させばいいのかしら?」みーちゃん
「つまり 君は 毎朝のミーティングをやめると?」ダンサン
「というか 毎朝 顔を合わせていても わからなかったこと・見落としていたことがあるなぁって、あなたの出張中にいろいろ気付かされたし
その一方で 冷静にふりかえってみると、顔をあわせなくても 事務連絡で済ませられたことも多かったんじゃないかって思うことも多くって。
だから とりあえずは 同僚としての個人的な会話と、事務連絡だけでも 明確に切り分けませんか?
というわけで 毎朝のミーティングも見直し対象になるかな?と思ったんですけど」みーちゃん
「ショックだ。
私は そこまで嫌われてしまったのか?」思わずつぶやくダンサン
「ごめん そういう互いの心情に触れる話は 勤務中はやりたくない。
それに 勤務時間外のプライベートタイムを使うにしても 毎日毎日そればっかりはきつい。
私が そういうのに すごく消耗してるってことは もう 繰り返し繰り返し言ったよね。 だから 初期の頃のように ダン菅担当とマスターとの打ち合わせは節度をもって付き合いたい。
で、私も マスターとして経営者として 仕事が多岐にわたっているので、
秘書や部下を活用して切り回す体制をとることに決めたの。
だから そちらも、マスター直に話すこと・確認すること、秘書を通しても大丈夫な連絡事項、個人的な話を全部切り分けてください。
で うまくいかないことは その都度修正していけばと思うのですけど。
あーそれと 念のために言いますけど 私は別にあなたを嫌ってませんよ。」
「では あなたが 私に助言を求めたいといったことはどうなるんです」ダンサン
「それに応じるか否かについてのご回答は まだ頂いてません。
それに、私は、あれが 業務連絡に収まるような軽い話だとは思ってませんが
あなたにとっては その程度のものだったのですか?
だとしたら そのほうが 私にとってはショックですよ。
なので あの件についてのご回答をいただく時には あらかじめアポイトメントをとってからの会談ということでお願いします。」みーちゃん
思わず 机に肘をつき指先を額に当てたダンサン
その様子は画面に映し出されていたので、みーちゃんはモニター越しにしっかりと見ていた。
その時のミーちゃんは、背中とベットのヘッドボードの間に クッションよろしく枕をはさんでもたれかかり、ベットテーブルにのせたモニター画面を見ながら通信していた。
というのも 銀1から電話をとりつがれたとき、まだ みーちゃんは寝ていたからであった。なので とてもではないが、画像付き通信をおこなうわけにはいかなかったのである。
プププ 通話に割り込み音が入った。
「申し訳ありません。マスターに 急用が入りました」エレンの声
(割り込み音もエレンの声も ミーちゃんのベット脇にいたニャーゴが操作して入れた音である)
「わかった。もろもろ 改めて連絡する」ダンサン
「ありがとう。ごめん」みーちゃん
プツンとダンサンは 回線を切った。
みーちゃんはベットテーブルをそっと足元に押しやり
ベッドから降り、トイレに向かった。
文字通り 呼び出し音で起こされ、そのまま通話に出た状態だったから。
「ニャーゴありがと」
ニャーゴが座っている横を通りながら その頭を軽くなでた。
用を済ませたミーちゃんが ギンワンを呼び出して、電話の取次ぎ方法について注意したことは言うまでもない。
みーちゃんにしても まさか ダンサンからの電話で起こされることがあるとは思ってもみなかったので。
「それにしても 今日は土曜日で 勤務表では 二人とも公休日のはずだぞ。
そのことに ダンサンは 気づいてなかったのか?」
カレンダーを見て みーちゃんは 改めて思った。
(ダンジョン内で一緒に暮らしていたら、勤務日も公休日も関係なく、共有スペースで毎朝 顔を合わせてあいさつしていたけどさ。
だから 朝一の電話で 緊急連絡かって尋ねたんだけど、正しく意味が伝わっていたのだろうか??)
「気づいてなかったと思うよ?」ニャーゴが、朝食セットをテーブルに置きながら言った。
「あったま痛~。どうやって フォローしよ・・ 疲れた」
「秘書室からのお知らせとして、『公休日には ダン菅担当とマスターとの朝のミーティングは無し、緊急連絡以外の業務連絡は秘書室へ』ってお願いを送っておこうか?」ニャーゴ
「そうね そのへんジャックとエレンで調整して 文書で連絡してもらおうかしら。
ところで秘書室のメンバーってだれ?」みーちゃん
「そこも 煮詰めていかないといけませんね。その旨ジャックに伝えましょうか?
だけど 朝食もどうぞ」
「頼んだわ」
そう言って みーちゃんは朝食の席についた。
(うーん 私も公休日の過ごし方をちょっと考えたほうがいいかもしれない、改めて)と思いながら。
◇
一方ダンサンは、不機嫌な顔で デスクに向かっていたのだが、
おくられてきたメールを見て驚いた。
「なに 公休日?」
あらためて カレンダーを見て 今日が休日であることに気付いた。
(しかし 俺たち 私的な通信番号の交換はまだしてなかったのではないか?
そのことに 彼女は気づいてないのでは?)
思わず脱力した。
そして
(確かに公私の切り分けをしたほうが良いかもしれない、
見直し提案にも一理あるからも。
それにしても ダンジョンマスターに 私的通信回路は認められてなかったはずだが・・
それも含めての 交流の見直しねぇ・・・・) あらためて溜息がでた。




