ダンサンとギンツー
波乱万丈?の人事案が なんとかまとまった日の夜。
「まいった」
共用スペースにあるシャワーを使い、自室にもどったダンサンは
ソファにドサリと座り つぶやくいた。
(せっかくここまで 良きパートナーとしての信頼関係を築いてきたと思っていたのに
なぜ こうなる? こうなった!!)
「詐欺じゃないか?」
声に出してぼやきながら、晩酌セットを取り出し、飲みながら早めの夕食をとる。
「こういうとき ダンジョンに閉じ込められているって感じるな。
一人飲みは わびしい」
グラス片手に 思いがこぼれた。
コンコン ノックの音が響く
「どうぞ」座ったまま声をかけるダンサン
スライドした扉の向こうに見えたのは 羽をたたんだジャッキー
「えっ 何用?」思わず 背筋を伸ばして声をかけるダンサン
「ギンツーです。
今 おじゃましてもいいですか?」
と言いながら 羽を優雅に広げて さわさわと風を送ってくる。
「だれからどんな指示を受けて 君はここに来たのだ?」ダンサン
「エレンとジャックが秘書として互いに情報して共有しているように
僕たち ギンワンとギンツーも 情報共有しております。
僕たちジャッキーグループは 通信業務と保安業務の一部を兼任していますから
より効率的な監視体制もしくはモニターシステムを構築するために
ジャッキー銀1・銀2には、人間行動のパターン認識も学習するようにおりこまれています。
そのために このダンジョン内に常駐している人間である親分方お二人に関する情報を銀1・銀2で共有することはマスターからも了解いただいております。
『そのさい ほどほどに。ダンサンの気を損じないように』とマスターから注意を受けましたので
私的訪問に参りました現在、こうして お伺いを立てております」 ギンツー
「そのお伺いとやらは、情報収集のために訪問してきたことと、今現在の入室許可を求めていることの両方を指すのだな?」ダンサン
「さようでございます。
人間の言葉に 同音異義語と言うものが存在し、
ときとして 紛らわしくも誤解を生むことがあるので
語義の受け止めにも気をつけよとの注意も受けております」ギンツー
「で 君は 晩酌の相手をしろとか、給茶サービスを頼んだら 受けてくれるのか?」ダンサン
「飲食に関しては、我々スタッフ一同、安全のために、種族ごとに用意された専用補給食以外 摂取してはならないと規定されております」ギンツー
「すまん。念のために尋ねただけだ」ダンサン
「給茶サービスに関しましても、私の体型は不向きなのでご遠慮申し上げます」ギンツー
「まったく プログラムなのか 人格なのか? 君たちの個性ってなんだ?」ダンサン
『保安規則により その手のご質問にはお答えできません』自動応答モードを発動するギンツー
「僕が こういう反応することをわかっていて なぜ そのような質問を?
それと 会話を続けるのなら 入室許可を先に出してください」ギンツー
「どうぞ」ため息をつくダンサン
礼儀正しく 長い首を軽く曲げ、頭を下げたあと、入室してきたギンツー。
テーブルをはさんで ダンサンの向かい側に立った。
「今のため息は何を意味するのですか?」ギンツー
「初対面の頃の マスターとの会話もこんな感じだったなと思いだしたため息だよ」ダンサン
「思い出しことが なぜため息につながるのです?」ギンツー
いっそう 深々とため息をついて 酒をぐっとあおるダンサン
「うるさい! だまれ。
君は 人間扇風機に徹していればよろしい!
もしくは 出ていくか」ダンサン
「しかたがありませんね
入室料がわりに もう少しだけ 扇いで差し上げます」ギンツー
まだ少し酒の残ったグラスをテーブルに置き、
ソファにぐっと持たれて天井をながめ、ダンサンはつぶやいた。
「それで君は 何をしに来たのだ?
情報収集?
俺は お前の中のアルゴリズムを完成させるための素材扱いされているのか?
お前は この部屋で収集した情報をそっくりマスターに提供するのか?」ダンサン
「あえて申せば コミュニケーションの練習に来ました。
銀1同様 僕も、仲間とは気持ちよく仕事をしたいですから」ギンツー
「仲よくねぇ」皮肉な口調のダンサン
「彼女は 円滑なコミュニケーションをとるために
これまで 自分の感情を隠して、自分自身の中に組み込んだアルゴリズムに従って 僕に対応していたのか?
それで 素の感情を示した時に、僕が 無様な応対をして
彼女の期待と信頼を裏切ったと言って 怒り出し、傷ついた表情を向けたのか?
知るかよ そんなの!!
ぼくは 徹頭徹尾 彼女は 理性的に情感豊かに僕に応対してくれていたと
あれが 彼女の素顔だと思っていたのに!!」
机に 握りこぶしをうちおろすダンサン
「マスターは かしこいですよ。
繊細で感受性豊かで 耐久力もあるから 外部からの刺激もきちんと受け止め
それらを処理する回路も 自分で緻密に組立て、状況に応じて修正しつつ上手に活用している。
しかも それらをアルゴリズムとして採用するか、しないかについても
リスクを詳細に検討したうえで 決定している
そのうえで 自分のできること・できないこと、
対処法不明領域を明確にして
僕たち ダンジョン生物の目的に合わせた性格を決定してプログラミング
さらに 僕たちの生成過程について 誰にどこまで開示するか否かまで明確にコマンドとして打ち込んでいる。
というのが 僕の 認識の範疇です。
そして 僕とギンワンは、それぞれ 許可された範囲で
不明領域について 探索することが許されています。
その探索活動に関する制約について これ以上あなたに話すことは許されておりません。
そして 僕ギンツーとギンワンは別個体であるということも強調しておきます。
ですが それはあくまでもマスターとして、ぼくたちダンジョン生物を生み出すときの話であって、人間同士の付き合いにおいて マスターがどのように対処されているのかは存じません。」ギンツー
「あいにく ぼくは プログラマーではないのでね。
君たちの育成に関する話には かかわりたくない」ダンサン
「了解です。
ならば 己の分を守って マスターの心を乱すような発言は慎んで頂きたい」ギンツー
「なぜ そうなる?」
「あなた 一緒に働いていてわからないですか?
マスターの心身がすでに疲弊していることも
マスターの過労防止のためのシステム改善策の一巻として 人員配置を考えるときに
マスターに強いストレスが生じていることも
貴方の発言の一つ一つが、彼女への圧力となっていることも?」
呆れたように発言するギンツー
「何を根拠に?」きっとして言い返すダンサン
「マスターは
彼女が過去の心的外傷により苦しんでいることも、
現在の作業が 彼女の古傷を刺激して強い葛藤をひきだしていることも
そのような己の状況を理解しつつ マスターが懸命に課題に集中しようと努力していることも
しかし 貴方の発言が 彼女のそうした努力を乱したことも
さきほど きちんと言葉で説明していましたよ。」ギンツー
むっとした表情をギンツーに向けるダンサン
「知らないといいつつ 偉そうな講釈を垂れてくれるじゃないか」
「目撃したデータの解釈をお話ししただけです」ギンツー
「たかだか 僕たちの会話の一部を目撃しただけで
疲弊しているのなんのと」ダンサン
「一応 目の前に居る人間の身体的反応を感知し、分析する機能も備わっていますので、観察対象となった人間の肉体的疲労の度合いや 精神的消耗などなどを電気的・化学的に計量・分析する能力は備えております」
きりっとした顔を見せて答えるギンツー
「うわぁ~ ダンジョン生物のロボット的機能
えげつない」ダンサン
「まったく、バーテンロボットの導入を 彼女が否定した時のことを思い出すよ。
人間の感情は多様で多岐にわたるから プログラム対応なんて無理無理って流されたもんな
あの時は
人間的ふれあいは 人間との間で紡げとも
しかし ここには 人間は ぼくとみーちゃんしかいない!」
手酌で さらに 飲み進むダンサン
「クジャク型生物扇風機、君は しばらく黙って風を送って そうだな 今から10分後には黙って退室しろ」
そう言い放ったダンサンは 立ち上がり、ゴロリとベットに横たわった。
・・・
10分後 ダンサンの部屋を出て、銀ちゃんたちの控室に戻ったギンツーは ギンワンを呼び出して叫んだ!
「なんだ あいつ! 腹立つ!!」戸を開けたギンワンの姿を目にするや否や叫ぶギンツー
「ごめん ぼく 勤務中だから、ジャックと話して」
ギンワンは 後ろにいたジャックと立ち位置を入れ替えて、入室することなく戻って行った。
「おじゃまするよ」代わりに入室してきたジャック
「ねえねえ 聞いてよ! いいかい?」ギンツー
「どうぞ」ジャック
しかじか かくかくと ダンサンとのやり取りを逐一伝えるギンツー
「うーん、ぼくとしては ダンサンの忍耐心に感謝するね」ジャック
「どこが!」
「君の言動って
①押しかけて行って
②言いたいことだけ言って
③相手の質問にはまっすぐ答えてない
ように見えるから」
ジャックは 指を折りながらいう。
「ちゃんと 入室の許可は求めた!」ギンツー
「形式的にはね。
礼儀正しい人の場合、付き合いは浅いが 一応は仕事仲間ってなってる人から訪問されたら 話は聞くよ。
まして 敷居をまたいだ会話は 共用廊下に響くから
ドアをはさんで長々と話されたら 相手を 招じ入れてしまうね。
同じフロアにいる別の住人への騒音被害をもたらさないために」ジャック
「そういうものなの?」
「ああ。だからそれを悪用する輩もいるので、高級マンションでは部外者を建物内に入れないようになっているのだ」ジャック
「ふーん」ギンツー
「だから 君の行動そのものが 押しかけだったという点はわかったかい?」ジャック
「うん。
じゃあ 僕は これからどうすればいい?」ギンツー
「お互いの気心が知れるまでは アポイントを取ることをお勧めする」ジャック
「わかった」
「ぼくさ、ダンサンにもっと マスターのことをわかってほしかったんだ。
人間同士でなきゃいけない付き合いってのがあるのなら
今 マスターに一番近いところにいるダンサンには もっとミーちゃんのことを理解して マスターの支えになってほしいと思う」ギンツー
「余計なお節介は 災いの元だよ。
人間同士の『近さ』ってのは、物理的距離と心理的距離があるからねぇ。
それに、他者を理解するには、「似たような体験・感度や知的レベルが同じであることetc」が必要だけど、人間は同一体験をしてもそこから得ること・学習することは・感じることは異なるから、思い込みによる誤解釈とか、
互いの違いをその時々で受け入れられるかどうかとか、いろんな要素がからむもの。
そんな 簡単に 他人に『あの人の力になれ』なんて期待しちゃいけないね」ジャック
「でも 仕事仲間の雰囲気が良いほういいでしょ」ギンツー
「良い雰囲気の維持と 心の距離が近くなるってことは 必ずしも同じじゃないさ。
異質な者どうしだと、ほどほどの距離感=礼儀が大事って言われる所以だよ」ジャック
「そうなんだ。
僕の短絡的な行動を 明日ダンサンにあやまろう。」ギンツー
「だね」ジャック
「でもさ マスターには 幸せになってほしいなぁ。」ギンツー
「彼女は すでに穏やかに眠りについているよ」
ジャックは モニターをチェックしていった。
「そうじゃなくてさ、あの人が過ごす時間が」ギンツー
ジャックはギンツーの言葉を遮り
「そんな風に 感情を動かしていると長生きできないよ」
そういって ギンツーの頭をなでた。
「僕たちダンジョン生物にとって、精神的ストレスは 寿命を縮めることになるんだ」
ジャックの手で、思考スイッチを切られ睡眠スイッチを押されたギンツーはあっさりと眠りに入った。




