ダンサンからの叱責
客の流れについての整理は なんとかできた。
細部の詰めと仕上げはは、ミーちゃんの部下であるAチームと第1チームに任せた。
社長であるミーちゃんの仕事は、新体制に合わせた人員の配置の見直しと確保である。
「わーい 再び人事だ。人事その2だ」みーちゃんは 半ばやけになってつぶやいた。
◇ ◇
「一つお伺いいたしますが」
改まって口調でダンサンが切り出した。
「ミーちゃんの第一案では、第1階層にあるお客様広場とダン菅とを結ぶ転移陣の操作担当に人間を配置することになっていましたよね」ダンサン
「ええ」
「それがなぜ、第2案になると 転移陣の操作スタッフはすべてダンジョン生物になっているのですか?
私的には、ダンジョンの内部機密を守るという観点から、これらの操作も ダンジョン生物に任せた方が良いと考えていたので、なぜ 第一案では わざわざ人間をオペレーターに指定していのかが疑問なのです」ダンサン
「変更の第一理由は、ダンジョン生物のほうがシフトを組みやすいから、の一言に尽きます。
人間労働省の労働環境という点を考えると、膨大な交代要員がいる。
コストがかかる。
しかも 職員が交代制になるということは、休暇中の職員がダンジョン外に出ていくことが増え、退職して元の大陸に戻る人間も増え、それだけ機密が外部に漏れやすくなる等々を考えると やはり 人間を転移陣オペレーターにするのは無理がありすぎると判断しました。」みーちゃん
「全く同感です。
人間は 金と脅迫に弱いですから、機密保持契約で縛ることのできる大会倫理性と責任感と契約に関する深い理解を持った人間を見つけることは至難の業です。
だからこそ、なぜ 第一案に 人間の雇用が入っていたのだかが知りたいのです。」ダンサン
「一つには、ダンジョン生物だけに頼っていたから、
ダンジョンが変調をきたしたときに お客様の避難誘導がうまくいかなくなる可能性を考えたということもあります」みーちゃん
「しかし なにも わざわざ 非常時の誘導スタッフを兼任させるために
転移陣操作者を人間にする必要はないでしょう」ダンサン
「確かに。
むしろ 今は 第一チームとAチームに属する人間たちで
非常時対応ができるようにすることを課題として考えています。
そのために 異常事態が発生した時に、転移陣に頼ることなく
地上に設置した太陽発電機を電力源とした 緊急脱出エレベーターの設置を検討しています」
「その技術開発計画に関しては、私もすでに目を通しています。
だからこそ、なぜ、転移陣オペレーターに人間をという第一案が出てきたかを知りたいのです」ダンサン
「なぜなら、ダンジョンの不調よりも、人間による機密漏洩リスクの方がはるかに高いと私は思うからです。。
そもそも これまでも綿密にダンジョンの管理をしていたではありませんか。
これまでも、ダンジョン不調の傾向だけで、客の受け入れをやめ、
ダンジョン内の人間を速やかに退避させることを織り込んだ営業をしてきたではありませんか。
その為の避難訓練も、通常で毎月1回、改変後や新規エリアでは 担当が習熟するまで そこれそ 毎日→毎週→隔週と 段階的に間隔を開けながら避難訓練をしているんですから、
緊急時にうろたえる人間達よりも ダンジョン生物の方が よっぽど信頼性の高い仕事ぶりを見せてくれると思います。
なにしろ ここのダンジョンスタッフ達は ダンジョン利用客の安全確保についての使命感が徹底的にプログラムされた状態で生み出されているのですから。」ダンサン
「それって ダン菅幹部としての見解?評価?」みーちゃん
「ダン菅担当職員としての 評価です」ダンサン
「評価していただきありがとうございます」
「どういたしまして。
そもそも 各階層の転移陣を操作するのが、ダンジョン生物なのに、第一階層からの送り出しだけ 人間にさせるっていうのが矛盾してましたよ」ダンサン
「あー それは 悪意ある大衆からの非難を避けるために
それにいざと言う時には、ダンジョン外への出口だけは死守したいから」
もごもごと口ごもるみーちゃん。
「過去に崩壊したダンジョンでは、ダンジョン内部の異生物つまり人間は、
すべて 生きている状態で崩壊したダンジョンの外にほうりだされています。
そしてダンジョン生成物だけが崩壊するので、
ダン菅本部から速やかに救助隊がくれば 問題なしです。
しかも 外部から持ち込んだ物品も積み重なるようにして残りますので
第一階層のお客様広場にあるダン管と直結した転移装置&転移ルームは、ダンジョンが崩壊しても、その跡地の地表もしくは地表近くにそのまま残ると思われます。
というか そのように設計・設置してきましたよね、ダンジョンの種をまいた直後から現在に至るまで。
だから なぜ わざわざ 人間を新たに雇って 転移陣を操作させようとしたのか、疑問です。」
きっぱりと言い放つダンサン
「あっ」声もなく固まるみーちゃん
「ダンジョンの種をまくときに 口頭でもマニュアルでも説明があったはずです。
ダン菅製転移陣は、ダンジョン崩壊にも耐えます、って。」ダンサン
「いいえ、ありませんでした。」
「くそシツジーのやつ」小声で悪態をつくダンサン
「しかし、あなたは ダンジョンマスターとなった直後の待機期間中に、
過去に崩壊したダンジョンの記録をすべてよんでいたましたよね」ダンサン
「たしかに。でもなぜ、そのことを知ってるの?
それに そんなきっぱりすっぱり確定的パターンがあるとは聞いてない」みーちゃん
「たしかに 厳密に言えば帰納法的推論ではあって、確定事項ではありませんが、
例外事例がない以上、こういう想定でいいんじゃないですか?
ダンジョン経営の観点から言えば、予兆を察知して対策することが 一番の安全対策だと 最初に路線を決めたのは貴方でしょう。
私は ダン菅管理職として、新規マスターの行動記録と新規マスターに関する報告書はすべてリアルタイムで精査していましたから、初期のあなたの行動を見て あなたを高く評価したというのに、」ダンサン
恥ずかしそうにうつむくみーちゃん。
「ダンジョンの安定維持のためには、深部にダンジョン外製品を持ち込む量を最小限に抑えたほうがいいからと言って、わざわざ、備品・建設資材だけでなく、ダンジョン内転移システムまで、ダンジョン内で生産しているのもあなたでしたよね」ダンサン
「はい そうです」
「だからこそ、ダン菅としても ダンジョン内に多数の客を安心して送り込んでいるわけですし、
ここの運営に最大限の援助をしているわけです。
なのに あの第一案はなんですか?
不可解です」
厳しい態度で追及を続けるダンサン
「あれはですね、悪意ある大衆からの非難を避けるためには
人間職員をダンジョンの玄関口に配置したほうが、お客様の安心感の維持につながるかなぁと思ったからです」
大きくため息をついたダンサン
「だからって なにも 転移陣操作者にする必要ないでしょうに。」
「だから すぐに第2案では 人間スタッフによる非常時対応する案の検討と、
転移陣操作者の配置問題を切り離して考えることに方針転換したでしょうが」みーちゃん
「たしかに。
でも 第一案が軽率であったことは確かです。
いいですか、あなたは賢いのですから
変なとこで気弱になって、中途半端な妥協をしないください。
そんなのは 百害あって一利なし、
変な気遣いは 身を滅ぼす源です。
しっかりしてください!」ダンサン
「すみません」
「あなたね、準備段階は 強気一辺倒なのに
軌道に乗り出すと 周囲の目を気にして 中途半端な妥協や施策を打ち出すなんて、
ニクソン大統領と同じ末路をたどりますよ」ダンサン
「ウォーターゲート事件みたいに?」
「そうそう 弱気を出して余計な事をしたところを 見事に突っ込まれて陥されたでしょ、あの人」ダンサン
「はぁ そういう歴史は 学校で習いました」
「あなたも 彼の二の舞になりますよ。
今の調子だと。
ちょっと しっかりと 強気を貫いてください」ダンサン
「でもぉ 出る杭は打たれるって言うしぃ」
「金字塔を打ち立てた以上は ご自分が創り出したものをしっかりと守ってください。
今更 引っ込みがつかないのですから。
そんな 乗っ取り犯に付け込まれるバックドア、
あなたを蹴落としたい組織内の誰かに漬け込まれるようなすきを
自分で作るような真似をしてはいけません!」ダンサン
しょぼんとした顔をするみーちゃん。
「あーもう しょうがないなぁ
仕事中は 気を強くもって 戦い抜くのが経営者ってもんです。
部下として たまにはオフタイムにお付き合いしますから
仕事中は 毅然として強気で働いてください」
ピシりと指を突き付けるダンサン。
「ごめん。
仕事中に 甘えを醸し出してしまいました。
いったん休憩で、その間に 気を入れ替えてきます」みーちゃん。
「あーその前に、念押しの一言を言わせてください」
ダンサンが ふと気が付いたように、背中を向けたミーちゃんに声をかけた。
「えっ なに?」
振り返り ダンサンを見つめるみーちゃん。
「あのですね、あなた 自分の業績がどれだけ画期的なものであったか 気が付いています?」ダンサン
「というと?」
「ダンジョン内転移システムのことです。
あれ、みーちゃんが わざとダンジョン内生成物のように見せかけているけれど
実際には ダンジョンの構造に組み込まれた このダンジョンオリジナルのものですよね」ダンサン
「そんな解釈、どこで聞いたの?」みーちゃん
「一応 あなたが提出した書類を 私はすべて読んでますから。
あなたの、「嘘をつくことなく、保安上の機密を守るために、無知な者に錯誤を与えるような巧みな報告書の作成術」は、ダンカン本部の機密対策室でも高く評価されています。
「未だかつて あなたのようなダンジョンマスターはいませんでした。
現在 ダン菅本部の技術者達は必死になって、あなたが示したダンジョン構造理論の解析をやってますが、だれも理解も再現もできてません。
だからこそ ダン菅技術部は ミーちゃんダンジョンにダン菅の技術者を送りこもうと躍起になったのです。
幸いにも あなたは、ダンジョン内で働く人間は ご自分で直接雇用した者に限り
その活動範囲も極小に抑えることを 最初から念頭に置いてらっしゃったから
私も あなたが そのあたりのことを承知で対策しているのかと思ったのだけど、
実際には 単に あなたの対人不安を反映しただけの措置だったのですね?」ダンサン
「うん」
「それではダメです。
ちゃんと ご自分の業績の偉大さを理解して 保安措置を徹底してください。
おためごかしのアドバイス『世俗の評価も気にしようねぇ』なんて言葉に載せられてはダメです!」ダンサン
「あまりにも 意外な言葉に 茫然としてます」みーちゃん
「あなたにとって 当たり前のことが 周囲にとっては当たり前ではない。
それは 貴方が悪いのではなくて、
あなたの頭脳の働きが 余人がおよばぬほど優れているからだと認識して、
正しい意味でご自分を守って下さい。
貴方の業績をかすめ取るためにアレコレ言辞を弄する者に気を遣うことほど、危険なことはありません!。気の使い方がまちがっています!」ダンサン
「わかった わかった。
でもねぇ 周囲と同じでないというだけで 常にはじかれそしられる中で生きて来た人間にとっては、己の才能なんて呪いでしかないし
そういう弱音を吐けば吐いたで ねたまれそしられるだけだから
時々 疲れて気弱になるのは どうしようもないのよ。
判断の誤りを指摘してくれるのはありがたいけど
私の弱さまで責めないで。
なんで 私の周りにいる人は、弱音を吐けば慰めてもらえてチヤホヤまでしてもらえるのに、
私は弱音を吐けば「お前が言うな」「できるやつがそういうことを言うと嫌味にしか聞こえん」と殴られ、
弱さゆえの失策を見せれば「しっかりしろ」と叱ってくれる人がいたらまだまし、
たいていは付け込まれ、蹴落とされ嘲笑われるだけの人生なのよ!
私だって 励ましてくれる人に出会いたいわ!!
慰めを期待することはもうあきらめたけど
記憶にある限り 私の過去に いたわりの言葉をかけられたことなんて全くないけど
不安に耐えて耐えて耐えながら頑張って頑ばって 力が弱った時の失策を非難されるだけの人生にはうんざりよ。
悪意なき忠告であっても、疲れているときには、
過去に受け いまだ血を流し続けている傷口、いつも目立たないように隠している傷口に指を突っ込まれてかき回される痛みとしか感じられないわ。
ご指摘には感謝します。
それを冷静に受け止めるための力を回復するために
ちょっと気分転換してきます」
「すみません」ダンサン




