第9話 これは貸しという事で
少女は目を覚ました。
顔色も良くなっているし、呼吸も安定しているのでもう大丈夫だろう。
「大丈夫か? 痛いところとかはないか?」
体を起こそうとする少女に手を貸して、上半身を起こす。
見惚れるほどに美しい金髪を胸の位置まで伸ばし、後ろで一つにまとめている。
透き通るように白い肌に瑠璃色の瞳がとても美しい。
「は、はい。どこも痛くありません……」
少女は自分の体を確認しながら、驚いた様子であった。
「怪我をしていたようだったので、勝手に治癒魔法をかけさせて貰った。勝手に体を観察するような真似をして申し訳ない」
女性なら、あまり体をジロジロ見られたくはないであろう。
「そんな、謝らないでください。本当に助かりました。ありがとうございまます」
「これ、飲めるなら飲んでくれ」
ラウスは小瓶に入った金色のポーションを渡した。
「体力回復用のポーションだ。毒などは入っていないから安心してほしい」
「でも、これって、貴重なものなんじゃ……」
ポーションは色によってランク分けされている。
一番下が青、その次に緑、その次に赤、そして最高ランクの金。
「気にするな。今は君が回復することの方が優先だ。それにそのくらいのポーションならいくらでも作れる」
ラウスが調合したポーションは何故か金色になってしまう。
元々、持っている魔力が大きいことが原因じゃないかと思うが、専門の薬師にも良くわからない現象だと言われた。
なので、そのポーションは一般的に見たら高級なのかもしれないが、ラウスにとってはたくさんあるうちの一つに過ぎない。
「あ、ありがとうございます」
「一体、何があったか聞いても? その格好からして冒険者だよな?」
ここは冒険者が1人で来るような場所ではない。
魔獣よりも盗賊の方が多いような場所だ。
「私は、確かに冒険者です。この先にある森で狩りをしていたのですが、その帰り道にさっきの奴らに襲われてここに引っ張り込まれました」
「それは、災難だったな。安全なところまでは送って行こう」
「流石に、そこまでしてもらうわけには……」
「このまま放っても置けない。それに、送りますよ。乗ってください」
ラウスはボスウルフに跨った。
「では、お言葉に甘えて」
少女もボスウルフに乗ったことを確認すると、スピードを上げてきた道を戻った。
そして、ちゃんと舗装された道に到着する。
「ここまで来れば大丈夫でしょう。道は分かりますか?」
「はい、それは分かります」
「では、私は先を急ぎますので、こちらで失礼」
そう言って、ラウスは出発しようとした。
「あの、せめて、何かお礼を……」
その少女は何もしないのが申し訳ないという表情を浮かべていた。
「では、こうしましょう。私はラウスと申します。メイルス王国の王女様に仕える予定です。もし、この私の身に何か危機が迫った時にはあなたのお力をお借りしたい。女性ながら、かなりの鍛錬をしているようだ。これは貸しということで」
これは、あくまでも冗談半分といった感じだ。
「分かりました。その借りはきっと返しに行きます。私の名前はユリアーネです」
「では、これで失礼します」
そう言ってラウスはボスウルフと共に出発した。
残されたユリアーネは思う。
彼は、一体何者なのだろうか。
ボスウルフという神獣レベルの魔獣を使役し、高度な魔法技術。
しかも、メイルス王国の王女に会うと言っていた。
一介の魔術師にできる芸当じゃないことはユリアーネの目から見ても一目瞭然だ。
「私は、とんでもない方に借りを作ってしまったんですね」
ユリアーネは空になったポーションの瓶を眺めて言った。
「そんな方の陥る危機とは一体どんなものなのでしょう」
それが、今から楽しみになったのである。
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