第21話 舞い込む危機
初日の授業は無事に終了した。
ラウスは生徒たちの戦闘の特徴をまとめていた。
「さて、今日は帰るか」
時間を確認すると、もう退勤の時間になっていた。
「ラウス先生、ちょといいだろうか?」
怖い顔をしたへレーネ学院長がラウスの前に現れた。
いつもと雰囲気が違う。
その表情に緊張が走るのを感じる。
「何でしょう?」
「ここではちょっと。私の部屋にきてくれないか?」
「わかりました」
ラウスは人には聞かれたくない、内密な話なのだろうと察した。
「まあ、とりあえず座ってくれ」
「失礼します」
学院長の対面にラウスは腰を下ろした。
「落ち着いて聞いてくれよ」
「どうされたんですか?」
「君のクラスの女子生徒2人が下校中に誘拐された」
「え!?」
ラウスは驚きに声を上げる。
まさか、赴任してすぐにトラブルが舞い込んでくるとは思わなかった。
「誘拐された生徒の名前は?」
「フレイヤさんとエレノアさんです」
「それはまずいですね」
その2人は地方貴族の令嬢である。
いくら地方の出身とはいえ、貴族は貴族だ。
もし、誘拐されたことが公になれば大騒ぎになるだろう。
「このことを知っているのは?」
「私と君と教授の数名、そしてご両親だ」
「なるほど。犯人側からのコンタクトは?」
「これを見よ」
学院長は一枚の紙を机の上に置いた。
そこには身代金の要求が書かれている。
その額、王金貨で50枚という大金だ。
「身代金を払うつもりですか?」
「一応、金は用意してある。しかし、金を払ったからといって生徒たちが無事に帰ってくるという保証もないだろう」
「その通りですね」
お金だけ奪われて、人質は殺されたり奴隷として売り飛ばされる事案は過去に何件も存在する。
「この件、僕が預かっても構いませんか?」
「解決できるのか?」
「はい、必ず」
「では、お手並拝見だな。ラウス先生に任せる。ただ、危険だと判断したら無理はしないように」
「分かりました」
♢
「おい、本当にこんなことして大丈夫なんだろうな! 貴族を敵に回してんだぞ!」
「うるさい! お前も散々貴族に苦しい思いさせられて来たんだろ!」
「まあ、貴族令嬢を誘拐したら、学院側も黙っていられないでしょうから、金は払うんじゃないか?」
誘拐犯の男たち三人がそんな会話をしている。
「でも、衛兵とか自警団に見つかりでもしたら……」
「大丈夫さ。ここがバレることなんてまずないさ。最高の隠れ家なんだから」
誘拐犯たちはどうやら、この計画に自信があるようである。
「ふっ、あなたたちが警戒するのは衛兵でも自警団でもないわ!」
フレイヤが声を上げる。
「チッ、起きたのか。黙ってればいいものを。で、じゃあ、俺たちは何を警戒すべきなんだ?」
ニヤリとした気色の悪い笑みを浮かべながら男が尋ねる。
「ラウス先生よ! 先生なら必ずここを探し当ててくれるわ」
「笑わせるな。たかが、センコウに何ができるだっての」
「先生はね、世界でもトップクラスの魔術師なんだから!」
「そうかよ。まあ、せいぜいその先生ってやつを信じるんだな」
誘拐犯はこのフレイヤの言葉を真に受けなかった。
その選択が後に後悔を生むことになるとは知らずに。
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