第2話 無職になったラウス
「さて、これからどうしたものかな……」
勢いで王宮を出てきてしまった所もある。
まだ、行き先などは決めて居なかった。
しかし、このまま無職という訳にもいくまい。
再就職先を探さなければならない。
「この国は、もう無理かな……」
王都の街を歩きながら呟いた。
魔術の腕には自信がある。
しかし、それはこのラール王国に居る限りは無意味に等しい。
そんな状況の国で、魔術を活かした再就職は望みが薄いだろう。
「いっそ、この国を出るか」
別にこの国にずっと居なければいけないなどという義理は無いのだ。
むしろ、知らない地で一からスタートさせるのも悪くはない。
「今日は宿にでも泊まるか」
ラウスはずっと王宮内に住んでいた。
宮廷魔術師になると、研究室が王宮の敷地内にもらえるのである。
「明日の朝、出発でいいか」
今日はすでに日が落ちてきている。
王都を出るなら、明日の朝にした方が賢明だろう。
王都の大通りから一本外れた通りに、馴染みの店主が経営する宿屋がある。
今日はそこに泊まることにした。
「こんにちは」
「いらっしゃい!!」
中に入るとすぐに気前のいい声が飛んでくる。
「おお、ラウスじゃないか! 久しぶりだな! 宮廷魔術師の仕事はいいのか?」
「久しぶりです。ちょっと色々あって辞めて来た。とりあえず一泊させてくれ」
「あいよ」
ラウスはカウンター越しに軽く事情を話した。
「まあ、お前さんも訳ありなんだろうから深く詮索したりはしないさ」
店主は少々というか、かなり強面だが割といい人だ。
人は見た目によらないという言葉がぴったりと当てはまる。
接客に向くかどうかは分からないが、顔だけで強盗くらいなら撃退できそうなもんである。
「一泊だけでいいのか?」
「ああ、それでいい」
「分かった」
ラウスは店主にチェックインの手続きをしてもらう。
「ほらよ。2階の突き当たりの部屋な」
そう言って、店主は部屋の鍵を手渡してくれる。
「料金は?」
「そんなもん、お前さんから取れる訳ないだろう。お前さんには返しきれねぇほどの恩があんだ」
店主は俺の肩に手を置きながら言った。
ラウスは昔、店主の娘さんが賊に絡まれている所を助けたことがあった。
怪我もしているようだったので、その治療も魔法で行なったのだ。
店主はその時のことを言っているのだろうが、随分と昔の話だ。
「あれ、もう5年も前の話だぞ。金は払わせてくれ」
「受け取らないね。何年経っても恩人は恩人だ」
多分、この親父は絶対に譲らない。
ここで押し問答をしていたら、それこそ朝になってしまうだろう。
ここは俺が折れることにする。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ラウスは鍵を受け取ると階段を登る。
部屋に入ると、コートを脱いでベッドに横になる。
「さて、と」
全く当てが無いと言ったら嘘になる。
しかし、そう簡単に頼っていい相手かと聞かれたら、それもなんとも答えづらい。
「まあ、聞くだけ聞いてみるか」
ラウスは、通信用の魔法石を鞄の中から取り出したのであった。