第12話 再就職
アーナを対面のソファーに座らせた時、もう一度応接間の扉が開いた。
「久しぶりだね。ラウスくん」
「国王陛下、ご無沙汰しております」
クラウスはたち上がると、姿勢を正した。
今、目の前にいるのはこのメイルス王国の国王である、べノン・メイルスである。
「いや、そんなにかしこまることは無い。正式な場所では無いのだからな。それに君はアーナの恩人だ。座りなさい」
「失礼します」
べノン陛下が対面のソファーに座ると、ラウスも腰を下ろした。
陛下はアーナと同じ銀髪を短く切り揃えている。
国王としては比較的若い、50代だったと記憶している。
「それで、何かあったのか? ラウスくんがうちの国に来るとはな。まあ、私としては大歓迎だがな」
べノン陛下は微笑みを浮かべながら言った。
「少し、長くなるかもですが……」
ラウスはそう前置きをすると、ラール王国でのことを話した。
ブラックな職場環境、冷遇され続けた魔術師、挙げ句の果てには宮廷魔術師の職から追放されたことを、陛下たちに話した。
ラウスの話を、陛下とアーナはゆっくりと聞いてくれた。
「ひどいです……」
「それは、災難だったな」
二人はラウスに同情してくれた。
「お父様、まだ宮廷魔術講師のポストは空いてましたよね?」
アーナがべノン陛下に尋ねた。
宮廷魔術講師とは聞きなれない言葉である。
ラール王国にはそんな制度は存在しなかった。
「ああ、確かにまだ人員の補充がされていなかったな」
「でしたら、ラウスさんにはそこで働いてもらうのはいかがでしょうか?」
アーナが陛下にそう提案した。
「そうだな。ラウスくんの実力を考えたら何の問題もないな。うちの学校で教鞭をとる気はないか?」
べノン陛下がラウスに言った。
「あの、宮廷魔術講師というのは?」
「ああ、ラール王国には無かったか。うちの国には国営の魔術学校があるのだよ。そこで教える講師のことを宮廷魔術講師というのだ」
この国は魔術にも理解が深い国だ。
だからこそ、ラウスはここを新天地に選んだ。
「なるほど。学校まであるんですね」
「ああ、そこを冒険者や学者として魔術師を教育して送り出すことが主な目的だ」
この世界には冒険者という制度がある。
各国には冒険者ギルドというものが存在する。
そこに所属し、魔獣の討伐や採集クエストなどこなして生計を立てる人たちのことを冒険者と呼ぶ。
危険な仕事であるが、その分報酬も高い。
冒険者として一攫千金を狙う者も少なくない。
その冒険者を目指す魔術師に魔術を教えることが、宮廷魔術講師の仕事らしい。
「願っても無いお話です。ぜひ、お願いしたいです」
ラウスは即決した。
魔術師を育成する教育機関の先生なんて面白そうじゃないか。
宮廷魔術師として実戦の経験は積んできた。
今度はその技術と知識を活かして駆け出しの魔術師を育てるのも悪くはない。
「決まりですね!」
「ラウスくんを講師として迎え入れることができたのは心強いな」
ラウスは国王陛下の推薦によって、メイルス王国魔術学院で教鞭を取ることになった。
「早速、話を通しておく。明日から出勤できるか?」
「もちろんです。早いに越したことはありません」
授業は明日から始まるらしい。
タイミングとしてはちょうどよかったのでは無いだろうか。
「陛下、私から一つお願いがあるのですが」
「なんだ? 言ってみなさい」
「これの所属をメイルス王国にしてはいただけませんか?」
ラウスは懐から魔術師協会の会員証を取り出した。
そこの所属国家はまだラール王国となっている。
「なんだ、そんなことか。お安い御用だ。すぐに用意させる」
「ありがとうございます」
「では、私はこれで失礼するよ。まだ仕事が残っていてね。今日は泊まって行きなさい」
べノン陛下はそう言い残すと、応接間を後にした。
応接間には、ラウスとアーナだけが残される形となった。
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