幸せ
俺は産まれた。
産声を上げる事なく、鼻から酸素を取り込む。
「大変!この子息出来てないわ!」
「な、なにぃ!ど、ど、どうすれば・・・」
その後逆さまにされたり、背中を叩かれたのでとりあえず、泣いておいた。
まさか、自我がある状態で赤ちゃんスタートだとは・・頭脳は大人!身体は子供!その名も・・・まだ名前はないか。
しばらくの間赤ちゃん生活に勤しんだ。
「はぁい!ジーちゃんおっぱいの時間ですよー。」
これが母。ブランドヘアーで、恐らく二十代前半であろう。綺麗な髪とパッチリ二重、そして美乳であった。
「・・・」
俺のハッスルタイムを陰から見ているのは父だ。
三十代前半で、渋めのグレーな髪、引き締まった筋肉、そしてキリッとした目で、仲間になりたそうにこちらを見ている。
仲間にしますか?イエス オア ノー
アイム セイ ノォー!!
父は悲しそうな目をして去っていった。
俺はジーク・ブルースと名付けられた。
母よ…ジーちゃんはやめてくれ。いろいろと複雑な気分になる。上手く喋れないから伝えれないのが残念だ。
それから5年が過ぎた。
この世界の事も少し分かってきた。
文明は恐らく中世、電化製品は一つもなかった。
代わりに、魔法があった。薪に火を着ける、洗濯物を洗う時の水、それらは当たり前のように魔法で行っていた。
俺も身体の中に流れる魔力?なるものを感じ取れるようになってきた。
「リトルファイア」
今日も食事の準備に母が魔法を使っていた。
魔法は恐らく魔法名を詠唱し、その分の魔力を注げば発動するらしい。
今日は魔法使ってみようと思う。
火は危ないから、風属性のウインドをやってみよう。
「ウ、ウインド」
手を前にかざして唱えてみた。
身体の中心から手の先に向かって魔力が流れていく。
ブワッ!
家の中で突風が吹き荒れた。
「きゃっ!え、ジ、ジーちゃん??」
「あ、あのごめんなさい…」
まさか一回で成功するとは…
「今のはなんだ!」
「あなた…ジーちゃんが…ま、魔法を…」
「ジークが?」
「父さん、母さんごめんなさい。」
「五歳で魔法なんて…きっとこの子は天才よ!」
「ああ!魔法学院に行く前から使えるなんて貴族くらいのもんだ!だが、ジークいいか。魔法の練習は外でしなさい。」
「は、はい!これからはお外でするよ。」
「簡単な魔法ならお母さんが教えてあげるからね!」
よ、よし!成功でもあり、失敗でもあったが初めての魔法は出来た!これからの許可も得た事だし、万事うまくいった。明日から毎日練習してチートでも目指すか…
この時は、自分の力に自惚れていた。
人は失う事で幸せを知り、失う事で後悔をする生き物なのだ。