68話 アルマ
ハーディの家を飛び出し、コナさんの屋敷に着いたのは次の日の朝だった。
宝石は手に入らなかったが何とかしてみんなのレベルを上げるには宝石を買い込むしか方法は無い。
しかしそんな時間はあるのか?この国の最東端ってどの位距離があるのか俺は知らない。
ザンに聞くと
「最東端ですか?ここからだと私なら歩いて3日程で着くとは思いますがこの人数だと5日は必要かと」
いきなりピンチです。俺は普通に1日で着く予定でいたのに既に2日足りない。
「安心せい!
最東端には色々と実験する為に移動用の魔法陣を設置してあるのじゃ!一瞬で着けるからギリギリまで特訓しても問題無い!」
「納得です!それなら今すぐ宝石の買い出しに行ってーーー」
「ならん!!!」
「何故に!?」
「我々にはそんな贅沢をする余裕は無い!!」
要するに金が底を尽きたのだ。無理も無い。1人から20人以上ではどれだけ節約しても限界はある。頼みの綱であった軍費関連は未だに無い。
手持ちの宝石で何とか凌ぐか、それ以外の方法で活路をーーーそもそも前回と同じく戦闘になるのか?
内容は確か
『20日以内に軍隊として15名以上の構成員の増員要求。
そして構成員全てに特級魔法使い並の実力を付ける』
特級がどの程度か分からないが、あと2日じゃこれ以上は無駄に体力を消耗するだけだ。
ならやる事は一つ。
特訓は無しにして最後の最後に調整する以外は身体を休める事。俺の提案にコナさんはしぶしぶ納得してくれた。
その間に俺は手持ちの材料で全員分の専用武器を拵える。大剣に杖、盾に暗器。色々用意しておけば問題無いだろう。指導していたシルバに個々の能力、特徴を聞き部屋に戻り丸一日掛けてそれらを作り上げる。
翌日に武器を渡す前に皆の実力を確認。思った以上に成長していた事に驚いた。
全員が中距離以上の放出魔法を会得している。シルバを指導員にしたのは正解だった。
俺からから各個人に専用の武器を贈ると喜んでくれたがーーー
「これはこれはなんとまぁ•••」
コナさんも少し驚いた表情で言葉を詰まらせる。
武装したメイド達の姿は異様だ。軍服を用意していなかっただけにその光景は何とも言えない違和感を感じる。
「コナ様、ハク様、準備が整いました」
全員がコナさんの研究部屋に集まる。やれるだけの事はやった。これならどんな困難にも立ち向かえるだろう。
「行くぞ?転送魔法陣を発動!!カルミス!!」
「カルミス!?」
俺の動揺はさて置き、光り輝くタイルの床の魔法陣。カモフラージュしていたらしく全く気付かなかった。
それより行き先だ。カルミスって俺が最初に訪れた土地の名前と全く同じだ。
光に包み込まれ一瞬にして辺り一面が草原。
「着いたが他の連中はっと•••まだみたいだな。それならもう少し先に小屋があるからそこに向かうか。
ハク達もそこで少しお茶でもして待とうじゃないか」
見たことある景色だがやはり俺の知っているカルミスなのか?それとも草原なんて何処も同じ景色なのか?
歩き続けること数分で小さな小屋に辿り着く。
「あの小屋がこの国の最東端の証だ。他国からの侵入を塞いだり魔獣の侵攻を防ぐ優秀な門番が常駐している大事な場所だ」
コナさんの説明を聞いてもそこまで重要な建物に見えない程ボロい。
そのまま家に帰る様に普通にドアを開け中に入るコナさん。
「コナ様じゃないですかぁ」
「久しいの。元気にしておったか?」
コナさんと話す目の前にエルフ。
「アルマさん!?」
転生前の世界で会ったアルマと全く同じで驚きの余り名前を言ってしまった。
「何だ?知り合いじゃったか?」
「いや、知り合いって訳じゃ無いんですけど」
何故アルマが居るのか理解できない。
俺の知る限り300年前に世界は滅んで俺の知り合いなんて居るはずがない。
逆に滅んでいなかったとしてそれだけの年月を生きている事はあり得ない。
俺は過去から未来に来たのでは無く違う時間軸に飛ばされた?
ありえない。ジェイドの話もあるし何より神獣として崇められていたレイが俺の刀やポーチ類を届けてくれた。
「外の空気を吸ってきます」
居た堪れなくなり思わず席を立ち外に逃げてしまった。前の世界を滅ぼしたのは俺だ。知り合いに似てるだけでも辛い。
「ハク様」
名前を呼ばれて振り返るとザンが深刻な顔で迫ってくる。
「失礼なのは承知の上だ。ただ考え事がーー」
「隣国のアドレード王国が攻めて来ました。
敵の兵力は約3万。アルマ様の話ですと既に領土内に入られたとのことです」
完全に騙された。戦闘は想定内だったが、隣国との揉め事に巻き込まれるのは想定外だ。
コナさんと合流して話し合ったが俺達はコナさんを含めても20人程度。この状況で開戦するなんて気が狂ってるとしか言いようがない。
「逃げるか」
最善の策だ。その場にいたメイド達も全員がその案に賛成した。しかしアルマだけは違った。
「私は誓約と契約がありますからこの場を離れる事は出来ません。コナ様達は直ぐにお屋敷にお戻り下さい」
言ってある意味が理解出来なかった。流石に1人を見殺しには出来ないし、何より前の世界で顔見知り程度でも死なれたく無い。
「誓約と契約が何かは知らないがこの人数相手に立ち向かうって事か?無謀過ぎだろ?
命は大事にしなきゃダメだよ」
「貴方は優しい方なんですね。
それでも残ります。それが私の使命ですから」
説得は無理そうだ。アルマの目には何か硬い決意を感じる。
「無理じゃよ。そもそもアルマには侵入者の排除と入国管理がある。だからこんな所に1人で生活している」
なんて理不尽。国の端っこで1人寂しく生活なんて•••俺に向いてる?いや、侵入者の排除は無理か。
「なら全員で立ち向かおう!!こんな所で死ぬ程俺達は弱く無い!!」
コナさんの目は呆れた感じをしていたが他の皆んなは俺に賛同してくれた。
申し訳なさそうにしているアルマだが俺達は軍人になる為に今日まで頑張って訓練してきたんだ。今こそ自分達の力を試す良い機会と思って戦場に向かう。
「これはっ•••やばいか?」
草原から見下ろすと大地にカーペットが敷いてある様に見える。
密集した三万の兵隊が隊列を組みこちらにズンズンと地を鳴らしながら向かって来ている。
「もう少しで射程圏内に入ります。私が先に撃って様子を伺いますか?」
「え!?」
クラスの発言に驚いた。話し合いもせず弾丸を撃ち込む度胸は素晴らしい。しかし
「全員の魔法が届くギリギリまで引きつける。そして一斉に撃ち込めば相手も焦って一時撤退するかもしれない。その隙に王都に戻って状況をーーー」
「魔撃弾来ます!!」
話している最中にコナさんに向かって火の玉が飛んで来た。幸い一瞬でクラスが撃ち落としたが今の一瞬で理解した。
俺達の雇い主であるコナさんを狙った、しかもまだまともに目視出来ない状況で正確に位置を知られている。
「王都に向かうのは無しじゃな。今の感じだと相手が我々の位置を把握している。裏切り者が情報を流しているだろう」
コナさんは冷静に分析しているが事態は最悪。帰りたい。
「全員攻撃準備!!今からアドレード王国と戦争じゃ!!」
「••••戦闘準備入りまーす」




