64話 ドンマイ
試験が終わり10日が経った。軍費関連は未だに音沙汰が無いが街では大変な事になっているらしい。
買い出しに行ったザンとクラスの話では王国騎士団より精鋭の揃ったグレール•マルセスの私兵団がたった数名の魔法使いに壊滅させられたと皆が話していたと言う。
その話は瞬く間に広がり王国内全土、近隣の国にまで広がっているらしい。
今のところ内容は間違ってないが噂話は話が膨らんだら思わぬ方向に進んだりするから好きじゃない。
そもそもグレール•マルセスからしたら面白くない話だ。秘密にしたくても逃げ出した兵隊がそんな話をばら撒いたのだろう。
情報規制をする事も出来ず苦労している筈だ。
そんな事より俺はコナさんの研究所兼屋敷を大改装していた。あと5日で元々俺の屋敷に仕えていたメイド達をコナさんの屋敷で再雇用する事になっている。
ザンがコナさんと話して俺の父親と合意の上でそうなったらしいのだが、
「雇う金は無い!!」
堂々としているがコナさんの切実な悩みだった。マジで金が無いらしく改築は全て俺に丸投げになった。
しかも色々と条件付きだ。全てをやり直すつもりで
作業を始めたが次から次へとアイデアが思い浮かぶらしく完成まで辿り着けない。
しかし俺には物質変形錬金術と鉄生成、そして最強の万物操作がある。
万物操作で地面を掘り、鉄生成で骨組みを作る。
あとは掘った土を物質変形錬金術でレンガ風に固めて重ねて行く。
無理難題から3日掛けてようやくそれっぽくなってきた。地下を研究所にしたいらしいのでコンクリートで固め、メイドや執事の事も考えて3階建てのレンガハウスを2棟建てた。
敷地だけは広くて助かったが予想より遥かにデカい建物になってしまった。
そして受け入れ当日。
エムやケイなどの顔を久しく見ると少し痩せて見える。
それでも元気いっぱいに手を振ってくる姿はホッコリする。
「ハク様、皆揃いましたので一言頂けますか?」
ザンのその言葉に疑問を感じた。
「それは俺じゃなくてコナさんに言うべきでは無いか?」
「コナ様がハク様に任せると言っていましたよ?話し合いでそう決まったとも仰っていました」
あの小娘は面倒事は全て俺に丸投げする気らしい。少し考えたが何も話す事はない。それでも何か一言を待っている感じだ。
「ええっと•••無断で家を出て申し訳ない」
俺は深々と頭を下げた。
「そんな事言わないでください!!」
「私達に黙って出て行った理由は何となくですが理解しているつもりです!」
「そうです!理由があって出て行ったのは皆知っています!」
「極悪非道な人なら誰も従いません!!また私達を受け入れてくれる心優しいハク様だからこそ私達は慕って集まるのです!!」
一斉に話されても俺は全てを聞き取れる能力はないが、とてつもなく優しい奴らだ。自分勝手な行動をした俺を許そうとしてくれている。
謝罪と感謝。最初は嫌われていたと思っていたが、こんなにも俺を慕ってくれていた事も知らなかった。
そしてまた助けてくれるその気持ちが嬉しかった。
俺の行動は当たり前のことだが、皆にとっては動揺する程のことだったらしい。
「それと俺はもう貴族じゃないし、更に言えば大富豪の息子でもない。だから様付けはいらないよ。
雇い主もコナさんになるから上下関係はコナさんだけで良いからもっと気軽に話しかけてくれるとありがたいかな?」
恥ずかしいが勇気を出して言った俺の発言に更に困った顔をする。今更そんな事言われても確かに困るだろう。しかし
「それはいいですね」
クラスだけは違った。家事は三流ーーいや、五流だが狙撃とメンタルは超一流だ。むしろ心は冷めている。
「皆さんも今聞いた通りです。これからは一切の遠慮は無用、掃除に洗濯とその他諸々の雑務はハク様も一緒にやるそうですからそのつもりで」
これも一種の優しさなのだろうと思った。軽く笑っている感じがするがクラスの一言で少し場が和んだ気がした。
「ありがとな。これから頑張るからクラスもよろしく頼む」
「頑張るのは当たり前です。ハク様は私達の後輩になるのでビシビシ鍛えていきますから」
俺に対しての風当たり強すぎないか?人権を無視した感じになってきたが、そもそも恨まれる様な事はしていないのに何故?
•••考えても仕方ないので気にしない事にした。
「ハク様、コナ様がお呼びです」
ザンが普段より険しい顔をしている。コナさんのワガママが暴走したのだろう。
俺はザンと共に急いでコナさんの元に向かった。
「どした?」
「どした?じゃ無いわい!!今王都から直接手紙が届いたのだが、余りにも酷い内容に怒っているんだぞ!?」
怒りか。ザンも運が無い。
「内容は?」
「20日以内に軍隊として15名以上の構成員の増員要求。
そして構成員全てに特級魔法使い並の実力を付けろだってよ!!
編成次第この国の最東端にある草原で演習を開始するんだとさ!!」
完全に詰んだな。今から才能ある人間を探すだけでも2ヶ月は必要だ。
「脳筋馬鹿はただ嫌がらせしたいだけじゃないか!!
こんな時こそ長男が何とかしなきゃならんのにアイツは何をやっているんだ!!」
「文句言っても始まらないので取り敢えず有能な人材を探してみます。ザン、行こう」
怒り続けるコナさんを放置し、俺はザンと部屋を出た。
「ハク様、今の話ですが」
「言われなくてもわかってるよ。無謀でも探すしか無いだろ?」
「いえ、こんな事言う必要無いと思いますが優秀な人材ならもう既に揃っています」
言ってる意味が理解出来なかった。は?って顔をした俺に真顔で向き合うザン。
「何処に?」
「この屋敷にです。よろしければ案内します」
嫌な予感がする。それでも人材が居れば人員に格上げ出来る。ザンを信じて後に着いて行くと、
「ハク様!!!」
メイドの皆さんがお揃いで。
「マジ?」
「マジです。私やハク様には劣りますがここに居る者は全てにおいて優秀です。
ここは魔法研究施設ですし一度調べてみては如何ですか?」
言われるままに地下にいるコナさんの元に向かう。
ザンがコナさんに話を付け魔力測定を行った。
「先ずはエムからだな」
緊張しているらしく不安そうな顔をしている。
「この宝石を握って体から力が宝石に流れるイメージをすれば良い基本はーーー」
淡々と説明するコナさん。
知らなかったのだが、魔力測定をするには特殊な無色の宝石を握るだけ。光の度合いで魔力の有無が確認出来るらしい。
その人の特性は光の色で判断するとも言っていた。
赤=火
黄=雷、土
緑=風、木
青=水
白=光
黒=闇
虹=肉体強化、保護、武器強化
付与魔法と全く同じだから単純で分かりやすい。
「いきます!!」
エムが目を閉じ、深呼吸をして祈りのポーズを始めた。手の中から光が溢れ出し周囲を照らす。
「えぇっとエムだっけ?虹は肉体強化だから失格!!用無し!帰ってよし!!」
「「えぇぇぇ!?」」
そこまで言うか?コナさんの言葉に俺とエムは驚いた。失格って何だ?カードゲームとかのレアリティからすると最高クラスな気がするがこの世界だと結構どうでもいいポジションらしい。
「まっ、まぁ気にするな。肉体強化は戦闘だけじゃ無く荷物運んだりとか用途はあるからさ。次はケイだな」
「はっ、はい!!」
エムと同じく祈りのポーズからの
「虹!!帰ってよし!!」
それから一時間程で全員の特性がわかった。
虹はエムとケイだけだった。他に赤と青、黄と緑は確認出来たが白と黒は確認出来なかった。
「ハク様、私たちもやってみてよろしいですか?」
ザンとクラスもしっかり列に並んでいた。
言わずもがなザンは虹だったがクラスは真っ黒。腹黒さと冷酷さを見事に宝石で表現してくれた。
「ふむ•••黒とは珍しい•••ヌシは魔女の末裔じゃな?それもかなり強力な魔女の直系じゃ」
「そうなんですか?」
「今時魔女なんてモンは居ないが、魔女本来の特性と言うか特徴があってな、魔獣と意思疎通が出来るんじゃ」
確かにルイスが屋敷に入り込んだ時に、クラスだけはビビらず立ちはだかっていた。納得納得。
「ついでじゃ、ハクもやってみよ」
コナさんの指示を受けてやってみた。
目を閉じ、体から宝石に力が流れるイメージ••••
「こっ、これは!!」
驚くコナさんの声が地下室に響き渡った。
「何アレ!?」
「幻想的〜」
ギャラリーもざわついている。
俺は恐る恐る目を開けた。俺の握った宝石は金と銀が混ざり合う奇妙な輝きしていた。
「なにこれ?」
「知らん!!こんなんは初めてじゃ!!」
雑だな。訳もわからず変な輝きをする宝石。
「もっとよく見せろ!貸せ!!」
興奮するコナさんは俺から宝石を取り上げた。すると
ーーーパン!!ーーー
宝石はポップコーンみたく弾けた。
「あぁぁぁ!!貴重なサンプルがぁぁ!!」
ドンマイ!!結局俺の系統は分からないまま魔力測定は終わった。




