63話 傍観者
演習の準備が完了間近、これから実演開始で緊張している俺とは対照的にコナさんは何か気に入らないらしい。
終始不機嫌で苛立ちが顔に出ている。
原因は多分あの声の高いおっさんだ。コナさんと顔を見て、
「研究所に引きこもっているお前に軍を率いる意味はないのだぞ?上の連中は何を考えているんだろうなぁ?」
こんな嫌味を言ったからだろう。実際、コナさんは軍を率いたいのではなく研究費が欲しいだけなのだがな。
苛立つコナさんはおいといて試験?の支度が終わる。7、80メートル程離れた位置に10個の的を立てたのだがーーーかなり的のサイズが小さい。
多分A4程度しか無いだろう。
「さぁ始めてもらおうか?この位の距離ならあの程度の目標物でも問題ないだろ?」
「ふっ、ふざけるな!!なんだこのデタラメな試験は!?そもそも人を集めるだけだったろ!?
それにこの距離であのサイズの的を射抜くなんて優秀な王国騎士所属の狙撃兵でも不可能だ!!」
反論するコナさんを見下す様に笑いながらおっさんは
「弓矢なら無理だろうな。しかしヌシらは違うのだろう?魔法を飛ばしてこれまで不可能だった距離からの攻撃をするーー違うか!!?」
最後の怒鳴り声にコナさんは震えていた。声にならない程の怒りを必死に堪えている。
実際の容姿はまだ幼く泣きそうになりながら堪えているのが想像できる。誰にも頼らずひたすら研究をしていたから我慢強さは人一倍だろう。
いや、誰も手を差し伸べなかったんだ。頼りたくても皆が見下し嘲笑う。
それを想像しただけで俺自身も苦しく、そして怒りが込み上げてくる。
「やれ、クラス」
俺が小さく囁くと間髪入れずにクラスは引き金を引いた。
鳴り響く銃声と共に用意された全ての的は粉々に散っていったが、おっさんを筆頭に周りの連中は的を見ずに耳を塞いぐ。
初めて聞く爆発音に驚き反射的にそうなったのだろう。
コナさんも耳を塞いでいたが何故かザンとルイスは平然としている。俺はーーー心の準備はしていたが少しビクっとなった程度だ。
「よろしいでしょうか?」
「おっおぉ!!」
落ち着け俺!!俺はビビってない!!息を大きく吸い込み
「的は全て射抜きましたけどまだやりますかぁ!?」
俺は大きく声を張った。それに気付いたおっさんは的の方を見るがもう遅い。全ての的はクラスの早撃ちで砕ける瞬間を見る事もなく終わった。
実際に見ていた俺も驚いた。とてつもない速度の早撃ちで全てが同時に砕けた様に見えた。
「これなら納得してくれるな?」
急にドヤるコナさん。焦るおっさん。
「ま、まぁこれ位は当然だな。
しかぁぁし!!遠距離だけで軍隊が務まると思うなよ!!戦争とは無慈悲なものだ!近接戦闘を余儀無くされることもある!!
お前たち!!用意が出来た者から突撃だぁ!!」
「「オォォォォ!!!」」
迫り来る大量の鎧達。
「話が違うじゃないか!!」
泣きそうな声で叫ぶコナさん。
お構い無しにおっさんの掛け声と共に全員がコナさん目掛けて走り出す。
「私の軍隊から主人を守ってみせよ!!これが最終試験じゃぁぁ!!」
完全にイジメだ。元々金を渡す気も無いし、軍を編成させる気も一切無い感じだ。
それにしても多勢に無勢とはこの事だ。正面から100人規模の軍隊が迫って来ると地鳴りがして緊張感が半端ない。
「ハク様はコナ様を、ここは私とルイスが」
「頼む。あーーあとコレ着けてやってくれ。特急で作ったから粗悪品かもしれないが無いよりマシだろ」
元々あった手袋にエム達と同じ魔法陣を付与して渡した。
「ハク様・・・私はハク様の元で長年執事を務めて参りましたがこんな素晴らしい贈り物・・・私はーー」
感極まり泣きそうなザン。
「いやいや、それはいいから!もう目の前に来てるから!!」
流石に焦った。感動して兵隊に踏み潰されましたじゃギャグにしかならない。が、
ガン!!
「ゔうぅぇぇ!!」
1番先頭を走っていた兵隊は鈍い音と共に数メートル先まで飛んでいった。
よく見ると鎧に拳が食い込んだ跡が見える。
「人が感謝感激している時に襲って来るなんてしつれな方達だ」
「かっ、構うな!進めぇぇ!!」
そりゃビビるよな。
見てなかったけどほんの一瞬、瞬きさえ許されない程の瞬間にザンの放った裏拳で飛んでいったっぽいーーーしかも素手で。
それでも相手の勢いは止まらない。
「ルイス!ハク様を守りますよ!」
「あーい」
俺じゃなくてコナさんな。軽く心でツッコミをいるたが涼しい顔をしてスッと手袋を変え振り向くザンとやる気があるのか無いのかわからないルイスのコンビ。不安だが俺はコナさんの前に立ち構える。
「ヴゥゥゥヴゥゥ」
ルイス唸りだしたと思ったらなんかサイズがデカくなってきた気がする。
多分本来ののサイズに戻る為に魔力を集めてるか自分の中で高めてるんだろう。
ある程度デカくなったと思ったら
「ヴヴワァァァァァァァ!!!!」
雄叫びがデカいぃぃ!!!ルイスを中心に爆発したような風圧。
雄叫びで先頭の約3割が失神して相手の特攻の勢いが止まる。
そしてザンはいつの間にか軍の中心でアクロバットな体術を繰り出しすでに半壊状態。
握る拳は熱を帯びているのか分からんが蜃気楼を思わせるほど歪んで見える。
「ハクよ、強すぎないかコレ?」
ボソッと呟くコナさんはその光景に喜ぶ事はなく、呆然と立ち尽くしていた。
雄叫びが終わると相手に飛び掛かるルイス。
ひたすらワンパンで鎧ごと吹き飛ばすザン。
「ゆっ、弓を放て!何をしている!?モタモタするな!!早く!!」
落ち着けおっさん。
「放てぇ!!!」
軍の後方から大量の矢が飛んで来たが、クラスが全て打ち落としているから問題ない。放ってから数秒で撃ち抜くから全然届く気がしない。
数分でほぼ壊滅した相手からは
「バケモノだぁぁ!」
「これじゃただの虐殺じゃないか!!」
見事にザコいセリフは吐き捨てて走って逃げて行った。
「おっお前達何をしている!!進め進め!!おぉい!!」
おっさんは暴れる馬の上で叫ぶが
「ヒィィィン!!」
「ぐわぁ!!」
馬は叫ぶおっさんを振り落とし去っていった。地面に叩き付けられ見ると無惨な状態。
「悲惨だ・・ありえない・・・私の軍隊はこの国で最強の筈なのに・・・」
地面に倒れ込み泣きそうな声で独り言を言っているおっさんを、ルイスとザン、そしてクラスが囲む。
「待て待て!!ストップストッーープ!!」
今にも殺しそうな雰囲気だったので俺とコナさんは急いで駆け寄った。
クラスに至っては銃口を頭に付け引き金に指をかけた状態でいる。
「はぁはぁっ、まっ、まだやりますか?」
息を切らしながら質問するコナさんに対しておっさんは
「・・・もう十分だ。私は屋敷に帰る」
立ち上がりトボトボと歩き出す。
その後ろ姿を見てやり過ぎた感があるがーーーまぁいいか。
おっさんの姿か見えなくなると
「んんっーーーやったーー!!研究費研究費〜♪」
はしゃぎ出すコナさん。ルイスも可愛いサイズに戻り皆一安心。
案外長かった様で短かったがこうして予定外の演習は幕を閉じた。
自称最強の軍をたった3人(2人+1匹)が数分で壊滅状態にまで追い込んでしまった。
ここから更に面倒な事になりそうだがそれはそれ。
今は純粋に試験を乗り越えた事を喜ぶ事にした。




