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58話 残念

 襲撃を受けてから10日経つが特に何も起こらない。相手もクラスの実力を理解して攻め込まないのだろうか?

 常に警戒状態だった屋敷は俺も含めて皆少しづつ和んできた。戦闘特化のメイドと魔獣が常に散歩して周囲のパトロールをしているから外の奴らからしたらやりにくいのだろう。

 しかし暇だ。俺はザンに外出禁止を言い渡されたし、クラスも他の従者も特に何も無い。

 平和な日々を淡々と生きている。それが幸せだったりもするが暇だ。

 こんな時にルイスを構うのだがクラスに懐きすぎて全然相手にしてくれない。


「失礼します」

 

 じいさんが部屋に入ってきた。絶好のタイミングだ。


「ハク様に王国とレイドクロームエルの本家から手紙が届いています」


 暇だと思った瞬間から変なフラグでも立ったのか?


「内容は?」


「王国からはーー」


 言葉に詰まるじいさん。余程の事が書いてあるのだろうか?

 

「マルセス家からですね。内容は面会したいので段取りして欲しいとの事です」


「面倒だなぁ。父上はなんて?」


「こちらも面会ですね。クラスも一緒にとの指示が出てます」


 暗殺部隊を返り討ちにしたからなのか?どちらにしても両方と合わなきゃならん訳だ。


「はぁ。

 本家行ってからのマルセス家で段取してくれ」


 やる気なしの俺と違ってじいさんはすぐに動いた。仕事が早い男は違うなと感心した。


ーーーーー四日後ーーーーー


「準備が整いました。

 これから本家経由でマルセス家に向かって頂きますが、魔獣に襲われたりするリスクを回避する為に舗装された大通りで移動します。

 往復で15日から20程になりますので野営の準備は同行するメイド達にお任せください。

 あとハク様は馬車から降りることは禁止です。

 いいですね?なるべく目立たず隠密に行動してください。」


「ぉぅ」


「「よろしくお願いします」」


 どうやらケイとエムも同行するらしい。

 道中に道の駅的なモノがないこの世界は旅をする時は荷物が多い。

 今回は四人と1匹で馬車2台と豪華な旅だ。実際は俺単体だと無敵の車があるのだがーーーそれはそれだ。

 優雅な旅を楽しもうじゃないか。


「さぁ行こうか!!」


 なんだかんだでテンションが上がる。

 しかし、馬車に乗り込み屋敷を離れて数時間後に俺は腰を痛めた。馬車を2台にした事により俺が乗っている馬車は荷が乗っていない。

 まあ良く跳ねる。


「おおーい、少し休まないか?」

 

 俺の声に反応するのはルイスだった。


「遊ぶ!?」


 元気で何よりだ。遊びはクラスに任せるとして俺は横になって休憩する。

 この時代の舗装は大したことない。車で走るなら問題ないが、馬車はキツい。

 停止した馬車の中で横になっていると外からキャピキャピと楽しそうな声が聞こえる。ケイとエムも加わって三人と一匹で楽しんでいるらしい。


「キャーーー!!」


 悲鳴?まだ屋敷を出て数時間しか経っていないのに?

 恐る恐る窓を覗くと見事な程に山賊らしき輩どもに囲まれている。

 リスク回避は失敗に終わったらしい。


「上等な馬車じゃないか!この中の荷は全て我々が頂いていくぜ!!」


 雑魚キャラが言いそうな言葉だ。ヒャッハーとか言ってくれたら素晴らしいのだが、残念な事にお前たちが囲っているのは俺が乗っているだけで荷は無い。

 勘も鈍い奴らだからきっと雑魚なんだろう。そいつ等はクラスとルイスが蹴散らすから気にしない。

 

ーーードドドドドドォォォンーーー


 瞬殺だ。覗いていた限りほぼ虐殺に近い。

 どっちが悪か悩むほど圧倒的だった。また襲われると面倒なので俺達は本家に急いで向かった。

 

 それから5日後、本家に着くと


「「お待ちしておりました」」


 凄いお出迎えだ。30人以上が乱れる事なく列を作り俺を出迎えてくれた。


「中で主人がお待ちです」


「おっおぃす」


 案内された部屋に入るとそこには座っている男と立っている男が2人。

 多分父親と執事長か何かだろう。


「座りなさい」


 指示された通り座るが長いテーブルの端と端。少し声が遠い気がするが誰も気にしないのか?


「残念だ」


「は?」


 久しぶりーとかじゃなく残念とは?

 

「今日からお前と私は他人になった。これからはレイドクロームエルを名乗る事は許されない。

 屋敷と従者はこちらで管理していたからお前は荷物をまとめて出るだけで問題ない。業務はすべて弟が引き継いでくれるから安心しなさい」


「えぇっと~なんだって?」


 聞き間違い?屋敷を出ていけって言ってるよな?


「屋敷の皆に迷惑をかけたくないだろ?そうだなーーー10日以内に出て行ってくれ」


 人の話を聞かず淡々とかなり残酷な事を言われている気がするが呆気にとられて反応する事が出来ない。

 そもそも中身の俺は他人だからショックはないが、色々と人として心配だ。


「えぇっと、これから王都のマルセス家に呼ばれてますので10日以内は少しキツイと思うんですけど•••

 そもそも何で急に私は屋敷を追い出されなきゃならないのですか?」


「発言を許可した覚えは無い!!」


 横のおっさんが急に叫ぶからビクッとなった。

 何があっても理由は話す気は無いらしい。


 数十秒か数分の沈黙の後、俺は無言で部屋を出る。

 さっきまで出迎えてくれていた従者は誰も俺の方を見ない。

 俺を見てクラスが屋敷に入るが30分程で帰ってきた。

 

「父上はなんて?」


「王国から私を専属で雇いたいと言われたそうです」


「すげぇー!!それって引き抜きだよな?」


「そうでしょうけどキッパリ断りました」


「そんな簡単に?結構大事な事だよな?それなりに待遇も良いんじゃないのか?」


「待遇ですか?

 私はハク様の従者でルイスちゃんの世話係です。他の屋敷に興味はありません。

 それよりこのままマルセス家に向かいますか?」


 クラスは俺の事を何も聞かされてないのか?それならそれで別に構わないーーいや、その方がいいんだろう。


「んん〜一旦屋敷に戻ろうか?」


「何故ですか?ここで引き返すと10日以上無駄になりますよ?」


 本当の事を言いたいがそれを口にすればコイツらにも相手にされない気がして言えなかった。

 ケイとエムも不思議そうな顔をしていたが屋敷に戻る事になった。


 それから5日後、俺達は屋敷に戻ってきた。

 じいさんすらも俺が屋敷を追い出される事を知らないらしい。

 部屋に戻り片付けをしようと思ったが特に必要な物は無かった。


ーーコンコンーー


「ハク様、お父上と何があったのですか?」


 じいさんは必要以上に心配してくれていた。優しさが逆に辛い。

 

「何って言われてもな〜

 •••本家に向かう途中で山賊に襲われたから俺一人でマルセス家に向かう事にしたんだよ。

 ケイとエムに怖い思いはさせたくないしな」


 ナイス山賊!こんな素敵な言い訳の為にアイツらは散ってくれたんだな。


「ーーそうですか。これ以上は聞きませんがあまり無理はしないで下さい」


「以後気をつけます」


「それはそうとハク様が留守の間にーーーーー」


 全然頭に入ってこない。

 この屋敷と俺に尽くしてくれた皆との別れが結構キツいな。

 それからじいさんの話は30分以上続いた。

 

「明日からまた少しだけ時間が空きますので旅の疲れを癒してください。

 準備が整い次第、マルセス家に出発して頂きます」


 じいさんは一礼して部屋から出て行った。


「心残りは結構あるけど皆に迷惑をかけるのは違うよな。

 ーーーーよし!行くか!!」


 俺は冒険者の格好に着替えて窓から飛び出し、屋敷の外に出る。


「ハク?」


 疑いたくなるタイミングでルイスが現れた。

 コイツは連れて行った方がいいのか正直悩む。

 そうだ!もし俺と一緒が良いと言うなら連れて行こう!


「お前はこの屋敷好きか?」


「うん!!クラスが一番好き!!」


 オワターー。誰とか聞いてないのに名指しで好きと言われるとは・・連れて行くのはやめよう。

 コイツもクラスと一緒にがいいだろうし、俺についてくると養えるか怪しいもんだ。


 俺はひとりで夜の森に向かって走り出した。

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