55話 イケてる
クラスのプレゼントから10日を過ぎ、キャンプを終えて俺たちは屋敷に戻る。
「「お帰りなさいませ」」
「おっおぉ」
初めてのお出迎えに少し戸惑いながらも
「留守中に何かあったか?」
一応主人ですから。威厳あるよ的な?
「ハク様のお姉様が面会に参られました」
「姉さんが?何しに?」
メイドが細長い箱と手紙を持って来た。
「これを渡すようにと」
箱は年季の入った桐箱でワインにしては長すぎる。
部屋に戻りじいさんと箱を開けたみた。
「棒•••ですね。少し曲がっていて見たこともない形に加工されていますが」
じいさんは知らない様子だが日本人なら誰でも分かる。そこに入っていたのは白鞘だった。
任侠映画で見た事はあるがなんで姉さんは日本刀なんて持っていたんだ?
箱から取り出すと刀にしては随分と軽い。
長さも俺の持っている迷刀十黒と全く同じだ。
「なんと美しい曲線。
コレは何に使うものなんでしょうか?」
曲線美ハンパない。そのまま飾って置くのも良いがこの部屋に白鞘は少し無理がある。
持ち上げて少しすると違和感を感じた。
鞘と柄の境が見当たらない。刀じゃないのか?
「そうだ。手紙読んでくれて」
「わかりました。
ゔゔん、ゔん、あーあー。読ませていただきます」
咳払いに気合いを感じる。まさか!?じいさんが20代であろう姉さんの声真似するのか!?
「愛しの弟ハクへ」
期待を裏切り普通に真顔で話し出した。
そしてじいさんから聞く「愛しの弟ハクへ」はなかなか辛いものがあるな。
「私はあなたを自慢の弟だと思っています。
素敵な横顔は我が家でもトップクラスです」
「ストップ!ストップ!なんかコレと関係ない手紙に思えるけど」
「それ程長くないので読み切ります」
「うぃ」
「ハクを喜ばそうと思って唐突に押し掛けたらまさかの留守で姉さんはとても悲しいよ。
いつも姉さんはハクの事を思って胸が張り裂けそうです。
キャッ!!こんな恥ずかしい事書くなんて私ってホントに大胆になったものだわ。
病気とかしてない?何かあったら姉さんに報告するのよ?
たまにおっちょこちょいの私だけどハクは姉さんの事好きですか?
以上です」
「なんの手紙!?手紙でキャッ!!って初めてだよ!」
「追伸がありますが読みますか?」
「読む読む!なんだよそっちか」
「ではゔゔん、追伸ーまた来ます。
以上です」
もう突っ込まないぞー。
姉さんは痛々しい人間だったんだな。ご愁傷様です。
「私は戻ります。
何かあったらまたお呼び下さい」
そう言ってじいさんは部屋を出て行った。
俺は一人で白鞘もどきを眺めていたが使い方がわからない。
「箱に戻しとくか」
箱を開けた瞬間、気無しに蓋の裏が気になった。
「姉さんの性格も大概だな」
蓋の裏にはもう一枚の手紙が貼ってあった。
手紙を剥がすと一瞬で粉になった。完全に自分のスキルを忘れてた。
頭の中で文書が再生される。
『この手紙を見つける事が出来た選ばれし者よ。
これは天界に住む我らの手によって創り出された神工物である。
名は白刀。
物質を切る事が出来ぬこの刀を扱える者が邪の道に進まん事を願う』
今度は桃か!?
十黒に白刀ってなぜ俺に与えられるモノは名前がダサいんだ?
それに物質を切れないってなんだ?
手紙を受け取った?瞬間から鞘と柄の境界線が見える。
白鞘を手に取り抜刀してみた。
迷刀十黒と真逆の真っ白い刀身。
両方を腰の後ろにクロスするように差して鏡の前に立つ。
なかなかイケてる•••いや、かなりカッコいいな。
気分を良くした俺は鏡の前に立ってひたすら格好付ける。
「ねぇ何してるの?」
「•••ルイスか。いつからそこにいた?」
「ハクが鏡の前に立ったくらいかな?
ずっと鏡みてなにしてたの?」
「戦闘時に刀を二本帯びた状態で邪魔にならないか確認してたんだよ。
それ以上でもそれ以下でも無いぞ?」
こんな小動物に言い訳してる俺はダサいですか?
刀の名前もダサいから丁度いいです。
次の日の朝、俺は一人で森にやってきた。
白刀の物質を切る事が出来ないという意味を確認するためだ。
刀を抜き目の前の大木から出ている枝に斬り付けたが、
ーーシュッーー
刀が枝をすり抜けた。
何度も試すが枝は揺れさえしない。
刀身はーーー触れる。
使い道が分からず悩んでいるとザンが迎えにきた。
「朝食の支度が整いました」
「あーぃ」
「ところでハク様、その枯れた木はなんですか?」
「枯れた木?」
振り向くとさっきまで堂々と立っていた大木は枯れ果て残念な姿になったいた。
少し押しただけで
ーーーギィィーーバキバキーーボフッーーー
「あ」
完全に生命力を失った木は地面に倒れた瞬間、小麦粉のような細かさで砕け散る。
そして風に乗ってどこかに消えていった。
生命力を奪う的なアレが白刀の力なのか?なんか違う気がするが今は無闇に使わない方が良いって事だな。
結局答えは出ないまま俺はじいさんと一緒に屋敷に帰った。
ーーーー次の日ーーーー
今日は早朝から買い出しだ。
俺は3人のメイドと中心地に来ている。
1人はクラス、そして屋敷の買い出しを担当している双子姉妹のケイとエム。
俺の屋敷は買い出しは極力最小限で済ませる方針を取ってたらしい。
全員が住み込みで働いているこの屋敷では生活必需品の消費は一般家庭の20倍以上。
特に主人である俺が冤罪で捕まって以降は一度も買い出しに行っていない。
節約していてもコレばっかりはしょうがない。
買い出し用の馬車で片道半日かけて街に着き、半日かけて必要なモノを全て買い揃えるらしい。
検問所を過ぎて街に入る。
「最初はーー調味料からですね!」
今喋ったのはケイ?エム?
顔が同じで見分けがつかない。
「ハク様は何か買う予定あるんですか?」
「いやっ、ただ街並みを見てみたかっただけだ。
俺の事は気にせず買い出しを優先してくれ」
俺は馬車から出てはならないとザンに念を押されている。
それもそうだ。中心地は王家の管理下に置かれており、鎧を纏った憲兵みたいな奴らがそこら中に配置されている。
王派閥の奴に後ろ指を指される程度であれば問題ないがそれ以上の事が起こらないとも限らない。
双子姉妹は流れるように買い物を済ませる。
向かって左側に店があるときは左に乗っている者が店に向かい、残った方が手綱を握る。逆もまた然り。
双子だから息ぴったりなのか効率よく買い物を済ませる。が、
「今回から多く買って来るよう言われてたんですけど馬車に全然入らないですね」
途中から俺も感じていた事だが必要最低限と言っていた割に量が多い。座るスペースを残して俺とクラスの前は荷物でいっぱいだ。
「まだ半分も回ってないのにどうしよう」
コレだけ回ってまだ半分も終えていないのか。
コンビニやドラッグストアを屋敷の近くに設置してやりたいと思うほど大変だ。
「荷物は俺とクラスで整理して入るようにしておくから2人は買い物を続けてくれ」
「整理って言っても物量的に無理ですよね?」
「任せろ」
俺にはお手製のマジックポーチがある。
容量なんて関係ない無敵の収納能力だ。
2人が買ったモノを片っ端からマジックポーチに入れて行く。
「すっすごい!凄すぎます!!なんですかそれ!?」
「これはハク様の発明です。
あなた達も欲しいモノがあるなら言ってみなさい。
なるべく具体的に言ってくれればすぐにでも取り掛かります。ですよね?」
「え?あぁ。今すぐは無理だけどな。
それとこれは俺の趣味でやってるようなもんだからそんなに完成度は高くない。
俺が作ったってみんなに知られたくないからここにいる四人の秘密だ」
「「はい!!」」
「それでは約束を破らないために指切りをしましょう」
最近指切りなんて聞かないな。
そしてなぜかクラスが最後に締めた。
屋敷内のメイド達にはいつも感謝している。
雑務も大変だろうし出来る限りは叶えてやりたいが、この能力をあまり公にしたくない。
屋敷内に広がれば少なからず外に情報が漏れる可能性がある。
それだけは何が何でも阻止したいがこの2人なら大丈夫だろう。
それから日が暮れるまで買い物は続いた。
「こんなに長々と買い物したの初めてだよ。
ね?」
「うん!ハク様に一緒に来ていただけなかったたら三回は屋敷を往復する事になってただろうね」
俺はこれから帰って馬車三台分の荷物をポーチから取り出すのか。
俺が作った道具の事は秘密だから最大戦力は四人だが、専用の道具だから取り出しは俺一人しかできない。
大変な作業になりそうだ。
「今日は帰るのが大変なので宿で一泊になります。
明日の早朝に出発するのは大変だと思ったので門の近くに宿を取ってあります」
「それは有り難いが俺は森で一晩過ごすから3人で泊まってくれ。
早朝になったら近くの街道で待ってる。
それじゃまた明日!!」
「え!?」
驚くケイとエム。
俺は町を囲む塀を飛び越えて近くの森を目指す。宿に泊まれば襲撃にあったとき2人を巻き込みかねない。
それなら誰もいない森で襲撃に備えて車で過ごした方が楽だ。
森に入り走り続けること一時間。
大きめの川沿いに到着した。
ここなら戦闘になっても誰にも迷惑はにならない。
地面は小石だらけで襲撃されるときは足音がするから気付きやすい。
ーージャリッーー
「誰だ?」
尾行されていたのか?結構な速度で走ってきたのに追い付かれるなんて相手も相当な体力の持ち主だな。
「護衛の私まで置いて行くなんてヒドいです」
クラスだった。
「ケイとエムの護衛は?」
「あの二人は大丈夫です。
それよりも主であるハク様の安全が第一ですから」
やっと一人になれたと思ったのに残念だ。
車をポーチから取り出し俺とクラスは車内に入る。
そしてその後すぐに襲われる事となる。




