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46話 ワンチャン

 面会と商談の席について約一ヶ月が過ぎた。

 俺は相変わらず何も出来ずにいる。

 今のところ生活は至って快適で何不自由なく暮らしているが、基本引きこもりで外出は許可制だ。

 趣味のキャンプは出来ず、人の目を気にしながら生きている。


 今日もいつものように面会と商談をしているが商談係のおっさんは初日以降全く俺の方を見ない。

 入ってくる時はドアを開けてすぐに頭を下げ、

 

「失礼します」


 出ていく時は立ち上がってすぐ


「失礼します」


 目が合うことすらない。

 50後半のいい歳したおっさんが子供みたいな態度を取っている。


 嫌われてるのは気にしないが態度が気に食わない。

 

「ハク様、本日の業務は終わりました。

 お部屋に戻りましょう」


 じいさんも初日以降は感情が安定している。

 俺はこの一ヶ月の間歴史をの本を読み漁った。


 驚愕したのはここはヘイル王国の領地内である事。

 独立戦争の有無は歴史の中に一切無い。


 無かったことになっているのか、そもそも違う世界なのか、そこまではわからない。

 ハクレイが英雄になっている事から違う世界では無いと思うが。

 更に言えば俺が住んでいる場所は旧レックロームである。

 独立戦争が無かったことになっているが他の領地も統合されてヘイル王国となっている。


 んん〜面倒だ。

 多分県境が無くなった感じだろう。

 

 だからこの世界の地形は転生前とほぼ同じで大丈夫な筈だ。

 多分•••


 一ヶ月程大人しくしていて分かった事はまだある。

 俺にはこの家の主としての権力が幾分ま無い。

 メイド達は仕事として仕えているし、執事も何処か距離感がある。


 父親の命令で仕えているから仕方ないっちゃ仕方ない。

 それが余計に孤独にさせてくる。

 部屋から話し声が聞こえても覗くとピタッと話しが止まってしまうほどだ。

 俺は嫌われてるの可能性もある。

 

 かと言って今更どうこう出来ないのが少し寂しい。

 いつか和気藹々と話せる時が来ることを祈るとして、俺の立ち位置をしっかり確立しなければいかん。


 家なのに部屋以外窮屈はキツい。

 何か策は無いか考える今日この頃です。

 ドアをノックする音が鳴り扉が開く。

 

 そこに立っていたのはじいさんでは無くメイドだった。


「ハク様、夕食の準備が整いました」


 初めてじいさん以外が呼びに来た事に驚いた。


「あれ?ザンはいないの?」


「10日程家を空けるそうです」


 聞いてないがまぁいいか。

 一ヶ月経つけどトラブルは起きそうに無いし、じいさんは基本俺を呼びに来るだけだしな。


 それから6日経った。

 相変わらずの面会と商談。

 商談は仕事みたいなものだから分かるが、面会は一体何人の顔を見れば終わるのだろうか?

 今のところ誰人として一度も被らない。

 この世界のは美人が多いな。


 俺は両方を済ませ夕食までベッドでゴロゴロ。

 すると中庭の方で声が聞こえる。


 今までには無いパターンだ。

 窓から目を凝らしてよく見ると•••犬?

 

 ペットなんて飼ってたのか、

 それにしてもデカい犬だ。

 牛を遥かに凌ぐそのサイズは世話をしているメイド達を丸呑みしそうな勢いだ。


「誰かぁ!!」


 •••襲われてね?

 慌てて中庭に走った。

 が、家がデカ過ぎて中庭にたどり着かない。

 必死に走った。


 この屋敷の主人として従者を守るのは当たり前だ。

 これと言って思い入れは無いがこの体が無意識にそうしろと命令している様だった。


 中庭に着くとメイドは地面に座り込み涙を流しながら空を見つめていた。

 まだ襲われてない。

 その確認が出来たと同時に彼女の前に走った。


 犬と彼女の間に立ち俺は犬と対峙する。


「•••ハク様?」


「大丈夫だ。

 俺がこの屋敷のみんなを守るから」


 カッコいい事を言ったが全くの無策だ。

 どうする?

 犬を睨みながら考える。


 なんだコイツ?みたいに首を傾げて近づいてくる犬。


 近い近い!!

 迫力があり過ぎて腰が引ける。

 多分足はガッタガタだと思う。


 犬は舌を出して息を荒くしてコッチに近づいてきた。

 子犬の遊びたくて近寄ってくる感じに似ている。


「なんだ、案外人懐っこい奴だったんだな」


 その言葉を発した瞬間、犬は前足で俺を払いにかかった。

 

 あっ終わった。

 戯れるにしてはサイズがデカ過ぎた。


 急に時間の流れが遅くなった。


 その瞬間これが走馬灯ってヤツなんだと実感した。




ーーー能力全解放ーーー


【思考加速開始】


【胴体視力向上】


【胴体視力超向上】


【筋力向上】


【反射速度向上】


 払ってきた手を難なく受け止め


「伏せ」


 その一言に犬は尻尾を不利ながら伏せた。

 

「「おおぉぉぉお!!」」

 

 助かったぁ!!内心で叫ぶと同時に、

 屋敷の方から沢山の驚きの声が聞こえる。

 

 後ろを振り返るとさっきまで絶望で表情が死んでいたメイドは神を崇めるような顔で見てくる。


「ハク様・・・」


「もう大丈夫だから屋敷に戻っていいよ。

 コイツの事は俺に任せていいから」


 メイドは俺に一礼し、屋敷に戻っていった。


 流れ的には悪くない。が、正直死ぬかと思った。

 何でいきなり能力全解放?

 死にそうな状態になったから?

 ま、助かったから別にいいけど。


 それよりこのわんちゃんはどうすればいいんだ?

 ペットとして買うには少しデカいし、野放しにしてもこのサイズがじゃれると主要都市系は無残な事になりそうだ。


「おまえはどうしたい?」


 何となく話しかけてみた。


「ここに住んでもいい?」


 ・・・普通に返事が返ってきた。


「なんだ喋れたのか。

 別に俺は構わないけど、みんなと仲良く出来るか?」


「僕の言葉が伝わってるの!?」


 逆に驚かれた。

 多分念話の一種なんだろう。

 こいつを従えれば底辺まで落ちた俺の評価もワンチャン上がるかも。


「よろしいでしょうか?」


 屋敷から1人のメイドが俺の元に歩み寄ってきた。

 さっき犬を伏せさせたから安心しきっているのだろう。


「どしたの?」


「この魔獣に怯えて屋敷の者達が困惑しています」


 逆効果だったことに俺は肩を落とす。


「そうなのか。

 君は怖く無いの?」


「先程のハク様の行動を見て安心しております。

 それによく見るとこの魔獣•••カワイイ」


 ん?カワイイ?いやいや、それは無いだろう。

 牙剥き出しでこのサイズだ。


「襲う事は無いと思うけど気を付けてね」


「襲われる事なんてないですよ。

 こんなカワイイのに」


 カワイイ?無い無い。

 こんな厳つい顔つきは人間だったらほぼ輩だ。


「飼うにしても小屋をつくらなきゃなぁ」


「小屋なんて可哀想じゃないですか。

 こんなカワイイのに」


「いやいやいやいや!さっきから何なの?

 どう見てもカワイイの真逆に位置する存在だろ!?」


「私は命あるもの全てに対して博愛主義なので」


 おぉ。肝が据わってるな。

 カワイイの使い方間違ってるし、博愛を超越している気がするが。

 

「それじゃ飼う方向で皆には話を進めておきます。

 ザン様が帰ってきたら屋敷の改築を提案しておきますね」


 勝手に決めちゃったよ!?

 屈託のない笑顔で言われたが・・・いいか。

 魔獣好きとは変わった趣味の奴もいたもんだ。

 じいさん帰ってきたらビックリするだろうな。

 だが、俺はそんな事よりメイドの笑顔を初めて見た事に喜びを感じている。

 少しは打ち解けたような気がした。


 勿論帰宅したじいさんは予想通り腰を抜かしたのは言うまでもない。

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