3話 シャネ
ちと長めです。
もぅかなりの時刻になった。
「もぅそろそろ来られても良いんですけど・・・」
部屋には時計が見あたらない。自分の時計はもう19時を過ぎている。
「此処にくる途中で何かしらトラブルに遭遇する事ってあるんですか?」
そんなトラブルに遭うことになる道中は正直嫌だ。日本であれば夜中でも普通にコンビニに歩いて行ける。
「基本的にはモンスターの出やすい場所を避けて来るのでトラブルだとぉ・・・」
「・・・ん?」
なぜ話が詰まるのだ?領地内はモンスターが出ないって話じゃ無かったのか?
「伏せて!!」
「へっ??」
大きな叫び声と共にアルマが覆い被さるようにこちらに跳んできた。
同時に大きな爆発音がし、地震と爆発風で家が揺れ窓が割れた。
アルマの胸に締め付けられとても苦しいが、状況が状況なだけに全く嬉しくない。
地震が収まりアルマが立ち上がって外に出て行った。
家の中は風圧で割れたガラスが散らばっていて家具も残念な状態になっていた。
俺自身も立ち上がり外に走る。
「アルマさぁぁん!!」
取り残されたくない一心でアルマを追いかけるが、全然追いつかない。てかアルマは滅茶苦茶足が速い。直ぐに視界から居なくなってしまった。
全力で数分走り、やっと立ち止まっていたアルマを見つけた。
「やっと追いついたぁ。」
棒立ち状態で少し下の方を眺めているアルマ。
並んで下の方に視線を向けると、崖の下で荷馬車がボロボロになって倒れていた。結構暗いが人の姿は見当たらない。
「あの~この状況はいったい何なんですか?」
「・・・・・・」
完全にシカトされている。
「アルマさ」
「今すぐ引き返して!!」
なんか怒鳴られた。下で何か起こってるのか?トラブルなら今すぐ引き返したいが、月明かりだけなので怖くて一人ではちょっと無理だ。
引き返すフリをしながらちょっと歩き出すと崖下から爆音と共にすごい熱風が吹き荒れてきた。
そして俺は吹っ飛ばされた。
微動だにしないアルマ。
吹っ飛ばされて草と土にまみれた俺。
俺ダサくね?
むしろ今の爆風で微動だにしないアルマは何者?
そんなダサい俺を見ることもなくアルマは崖下にジャンプ。
「えっ、ちょっと待って!」
普通に着地し森に向かって走って行く。
20メートルはありそうな崖をジャンプは・・・・まぁ無理ですね。
周囲を見渡すと緩やかな階段状のような崖を見つけた。
何とか降りることは出来た。アルマが走った方に向かって走ってみた。
ーーードォォン!!
進行方向からなんか爆発音が聞こえる。
ヘイル王国はとても治安がな悪いのかな?ビビりながらも爆発音のした方向に向かう。
なんか焦げ臭い。火事?
「ヴゥォォォ!!」
雄叫び的な声なのかモンスターが吠えているのが聞こえる。
帰りたい・・・が、独りは怖くて帰れない。
音のする方へ行くとアルマと大きなローブを着てフードを深くかぶった小柄な人と二人でこっちに向かって走ってくる。
「おぉぉい!」
自分の存在を全力で伝えた。
「なんでこんな所にいるんですか!!」
すげー怒ってる。
「早く走って!こっちです!!」
訳も分からず一緒になって走り出す。すると、小柄な人が話しかけてきた。
「これじゃ逃げきれないから転移石を使うよ!もっと近寄って!」
腕を掴まれ引っ張られた。小さな手だが、凄い握力だった。
逆の手で水色の石を取り出した。
「転移・・・カルミス!!」
「うわっ!!」
水色の石が光り輝いた。あまりにも眩しく手で目を覆った。
一瞬でアルマの家の前に移動した。
「おおぉぉぉ!」
本当に一瞬だったので思わず驚きを声に出してしまった。瞬間移動とはなんて魔法らしい。感動していた俺を余所に、アルマが喋り出す。
「転移石使わせちゃってごめんね。もう少し上手く逃げれると思ったんどけど・・」
ん?俺が悪いのかな?少しため息をして小柄な人がフードを外しながら話し始めた。
「あれじゃ結局転移石を使ってたよ。それよりこの人誰?」
人間の女性だった。アルマの知り合いだからエルフだと思ったが普通に可愛い女性だ。
黄金色の瞳をしていて見た目は14歳か15歳位に見える。冒険者に年齢制限は無いのか?
「あぁ、えぇっと、ハクレイさんこの子はシャネ。冒険者をやっていて時々遊びに来てくれる友達です。」
「ハクレイです。よろしく。」
「名前は今聞いたよ。なんで人間の男がアルマの知り合いなの?」
駄目なのか?別に親しい知り合いでも無いのだが、少し気が強いな。
「ハクレイさんは王都に行きたいんだけど、私はカルミスから出れないからシャネに道案内を頼みたくて・・・迷惑かな?」
「王都?なんでまたあんな所に用事があるのさ?」
少し不機嫌になっているように見える。この子は王都が嫌いなのかな?取り敢えず下手に嘘を言って機嫌を損ねて連れて行ってもらえないのは困る。
異世界から来て帰ることが出来るか調べたいと伝えた。
「無理だよ。」
間髪入れずに一蹴された。
シャネは続ける。
「異世界から転移ってのは神話でもあったし、実際モンスターは異世界から来たって話しだ。
逆に冒険者や神官が異世界に転移しようとしてその場で死んでいくのはその辺の街でもよくある話さ。」
まさかの帰れない宣言。何となく無理だろうと思っていたが、ここまでスパッと言われると落ち込む。
「それにしても異世界人は初めて見たけど何だか普通だなぁ。
ハクレイって言ったっけ?
なんか魔法は使えるの?」
落ち込んでいる俺にシャネは普通に話しかけてくる。
同情されるよりマシか?
「魔法は使えないけど【魔法創世】ってスキルがあるんだが、イマイチわかってないんだ。」
「おぉ!スキル持ちか?聞いたことないスキルだけど実在するんだな!!」
「冒険者にもスキル持ちは居るんじゃないのか?」
「アルマに聞いたんだろ?少なくともアタシの知ってる冒険者でスキル持ちは居ないし、もし仮にスキルを持ってても誰にも言わないね。」
「なんでだ?」
「嫉妬が凄いからだよ。
冒険者にはランクがあるし、組合には順位もある。
ランクや順位を気にしないやつはそんなに居ないんだよ。
それに討伐に行っても強い奴は素材を独占するからな。」
目立つと嫌われるのはどこの世界でも同じってことか。
でもそれだけ優秀ってことはスキル持ちは有利ってことだ。
「スキルを有意義に使うにはどうすればいいんだ?」
「取り敢えずスキルの種類が解らなきゃ何ともなぁ。
此処から一番近くだとメザリナって街の教祖なら鑑定出来るんだけど・・・」
「・・・だけど?」
「その方向はさっき逃げてきた方向だ。
しかもモンスターも多分メザリックに向かっている。」
「それは無理だ。俺戦えないし。
てかさっきは何から逃げていたんだ?」
「ドラゴンの群れだな。
アルマが来なかったらヤバかったよ。
そう言えばお礼をいってなかったな。」
振り向くとアルマは体育座りをして寝ていた。とても疲れたのだろう。
家の中はガラスや家具が散っているから今日は車で寝かせてあげよう。
「シャネさん、アルマさんを寝床まで運びたいんで手伝ってもらっていいですか?」
「シャネでいいよ。それに敬語はいらないよ。」
おぉふ。なんか照れるな。
「じゃあシャネ、アルマさんをよろしく。俺は寝床を今用意するから。」
「あいよぉ。」
俺は直ぐに車を用意した。シャネが車を見て固まっている。その反応は経験済みだ。
アルマ同様発明家としてゴリ押し。
アルマをベッドに運び、中の席でシャネど少し話した。
終始キャンピングカーの装備と居住性に興奮気味のシャネ。
備蓄の食料とお菓子はたんまり買い込んである。試しにチョコとクッキーを出したら食い付きが半端ない。
「お茶か紅茶でも飲むか?」
「おぉ!頂きたい!!」
備え付けのIHでお湯を沸かしていると不思議そうに見ている。
お湯が沸騰し、やかんピィピィ鳴くと小太刀を取り出し構える。
「おぉぉい!!凄い音が!!」
「落ち着けぇぇ!!てかアブねぇ!!」
ちとやり過ぎたか?反応がアルマより面白いので少し遊んでみたが、結構危ないのでこのぐらいにしておこう。
「さっきの話だがドラゴンに襲われていたのか?」
「ドラゴンと言っても下級の奴な。
数が多かったし、あいつら空飛ぶから面倒なのだよ。」
「アルマさんは領地内でモンスターは出ないって言ってたぞ。」
「アイツは世間知らずだしなぁ。
そもそもカルミスから余り出たことないし・・・
それに・・・領地でもモンスターは出るぞ。」
それは最悪だ。ぶっちゃけ安心できるところないじゃん。
シャネは続ける。
「領地の結界も色々あるけど大型種とか上位種が入れないようにすると、中型から下は普通に入れちゃうさ。
それに山賊みたいな奴らが結界の内側で召喚したらそもそも結界が意味ないし。
上位種は知恵が凄いから普通に喋れるし、下の奴らに命令して内側から結界ハズすやつも要るぐらいだ。」
なんと恐ろしい。結界って結構仕事しないなぁ。
「さっき襲ってきた奴らももたぶん・・・・」
「・・・・・・はい?」
ーーーZzzzーZzzーー
「っておおぉい!」
シャネは力尽きたようにそのまま眠ってしまった。かなり気になる発言だったが、
まぁこのまま眠らせてやろう。
時計は23時48分。
俺も寝ることにしよう。領地内でモンスターとか勘弁してくれ。
明日も普通に朝を迎えられるといいな。