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15

 翌日。この日は昼間に呼び出されることなく、ようやくいつもの勤務ができたといった具合の1日だった。

 ただし、ここからいつも通りじゃない行動をしなければならない。


「アリシアに会いに行かないとな」


 それにはまず、アリシアの部屋まで行く許可を貰わないと。

 ・・・なんだけど、誰にどうやって許可してもらおうか。1番手っ取り早いのは、本人に会って部屋まで一緒に行くことなんだが。


「ユーゼン、上がっていいぞ」


「王子」


「アリシアから話は聞いてる」


「ありがとうございます」


 ついて来るかと思ったら、そういうわけでも無く許可だけ出して去っていった。

 珍しいな。王子が一緒に来ないなんて。

 それにしても、あの顔はヤバいかもしれないな。上役に物申しに行きそうな顔してた。

 まあ、なんとでもなるか。アリシアのとこ行こう。

 アリシアの部屋をノックすると、すぐさまどうぞと言われたので入る。

 そして俺を見た途端、アリシア肩から力が抜けたのが分かった。


「なに、今日そんなに気張ってたの?」


「あの人が護衛の時はいつもだよ〜。リラックス出来るのなんて、ユーゼンが護衛の時だけだもん」


「そいつはどうも。さて・・・ん、おいで」


 念のため、魔力を使って周りに誰もいないか確認して、椅子に座ってるアリシアの2メートルくらい前まで移動して、両手を広げて待機。

 素直に立ち上がって目の前まで来たところで、優しく、軽く抱きしめてすぐ離す。

 離した後は頭を撫でて、話し出すのをゆっくり待つ。


「あのね、」


 愚痴や文句そして弱音を聞きながら、昨日のメイドにお茶の用意を頼み、アリシアを再び椅子に座らせる。

 今日は座った後も近くに居ないといけない日だったらしく、離れようとした途端手を握って離そうとしない。

 今日は、随分と頑張ったらしい。それもそうか。昨日の様子を見るに、副団長は相当キテる。そんな副団長が一日近くにいるだけで精神的に来るものがあるだろう。

 というか普段通りの副団長でも精神的に来るものがあるんだけど。

 アリシアの口から出た愚痴や文句は、概ね昨日聞いたものと同じ内容で、これといって大きく変わったところはなかった。

 ただ弱音を吐いたのは意外だった。もうあと2日は弱音を吐かずに頑張ると思っていただけに、かなり辛いことがわかる。

 それにしても、なにが副団長をあんな風にさせるのか。公爵家の長男だからというだけでは説明がつかないほどの行動ばかりだ。いっそ暴走してると言っても過言ではないだろう。

 考えたところで、わかるわけないんだけどな。


「なあ、あと2日今日みたいな日が続くと思うけど、本当に大丈夫か?」


「・・・正直、耐えられる自信ないや」


「だよな。どうする?俺から団長に言っとこうか?」


「ううん、それはいいや。グレンさんにこれ以上負担掛けたくないから」


「そっか」


「ね、明日は訓練がある日なんでしょ?」


「そうだけど、なんで?」


「見に行こうと思って」


「構わないけど・・・ああ、なるほど。そういうことか」


 訓練を見てる間は護衛が要らないからな。少なくともその時間だけは副団長という護衛から解放されるわけだ。

 それに、訓練の場に行けば団長が副団長にも訓練に参加させるだろうしな。

 ・・・こういう時改めて思うよな。なんで王宮騎士団副団長が護衛やってんだ?普通は王宮騎士の中でも役職なんて抱えてない俺みたいな奴が選ばれるんじゃね?

 ちょっと団長に聞いてみるか。


「ね、私が訓練見に行ってる間は一緒に居てくれない?」


「ダメ。てか無理だろ。漏れなく俺も訓練中で、サボるわけにもいかないからな」


「だよね〜。分かってた」


「サラさん引っ張って来たら、訓練が止まるかもな」


「それはそれで、ね」


「団長とサラさんは喜ぶと思うぞ?まあ後が大変だけど」


「むぅ、あの2人いい加減進展しないかな?」


「ん〜俺が見てる感じ、もう一押しって感じはするけどなぁ」


 その一押しがなかなか重労働になりそうなのだ。

 何かの拍子に団長かサラさんが死にかけでもしないと一押しにならない気がする。


「団長って立場が邪魔してるなら、気にしなくていいのにね」


「2人とも公私混同するような人じゃないから、そこは気にしてないだろ」


「そだね。なんだかんだ器用だもんね」


「だからこそ尚更とっととくっついて欲しいんだよな。ヤキモキしてしょうがない」


「ふふ、グレンさんがいつ自覚するか次第じゃないかな」


「それじゃ最後の一押しとして弱くないか?」


「そんな事ないよ。グレンさんが自覚してたら大人しくしてられる訳ないもん」


 遠回しに獣みたいだと言ってる気がするのは、きっと俺の心が汚れてるからだろう。うん、そういうことにしておこう。

 上手く話題は逸らせたけど、明日からどうしようか。

 アリシアの意志は尊重したいけど、やっぱり団長に話してみるか?・・・いや、やめよう。後2日なんだから。


「アリシア様、夕食の準備が整いました」


「・・・すぐ行くわ」


「かしこまりました」


「また明日だな」


「明日も来てくれるの?」


「アリシアが望むなら」


「じゃあ会いに来て。明日も、明後日も」


「分かった。約束な」


「うん、約束」


 昨日と同じ約束をして、この日は帰った。

 そして翌日も、そのまた翌日も同じように王宮騎士の仕事が終わったらアリシアの部屋で王族の夕食ができるまで話をした。


「さて、今日からはしばらく俺が護衛だから、よろしくな」


「はぁ、やっとだ〜。たった数日がすごく長かったよ」


「とはいえ俺が護衛の間は隣国の王子が居るだろうから、あまりゆっくりしてられないと思うけどな」


「うわ、そうだった。護衛の事しか頭になかった」


「まあ隣国の王子は知り合いだから、アリシアはリラックスして良いと思うよ」


「いやいや、さすがに王女らしく振る舞うよ?」


「無理だけはしないようにな」


「うん」


 そんなこんなやってるうちに、隣国の王子、ユリシス一行が城下町に入った知らせがあった。

 一応城のエントランスで迎える決まりがあるので、アリシアを連れて一階まで降りる。

 俺たちがエントランスに着いた頃には、国王と王妃、それと王子はすでにその場で待っていた。

 アリシアが王子の隣に並んだことを確認して、俺は王子の護衛を務めている同僚の隣に立つ。

 この同僚、王子の護衛なだけあって中々の苦労人なのだが、最近は悟りを開いたようで、王子に振り回されることなく副団長よりよほど立派に護衛をやっている。

 王族を挟んだ俺たちの反対側には、各団の団長が並んでいる。

 そしてエントランスを囲むように、俺たち側に王宮騎士、団長側に魔導師たちが並んでいる。

 いささか人員を割きすぎな気がしないでも無いが、世の中分からないものでこういう機会に王族を暗殺しようとする不届き者がいるらしい。

 城の門が開き始めた。到着したみたいだな。

 隣の同僚とアイコンタクトを取り、いつでも動けるよう準備しておく。

 門の奥から歩いて来たのは12人。ユリシスとその護衛に、近衛騎士10名って所か。

 さあ、緊張の一瞬の始まりだ。

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