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結局この日は、あれから特に何が起こるわけでもなく平和に終わった。
護衛が終わった後、例の髪を整えたメイドにお礼と手間の謝罪を兼ねてチップを握らせておいた。
慌てて返されそうになったが、王子の名前を出したら引き下がってくれた。
「という訳であのメイドには俺がお礼しといたんで、王子は何もしないでくださいね?」
「お礼くらいはいいだろう?」
「一言で済ますならどうぞ」
分かると思うが、王子に今日のその後を報告しに来てるわけだ。
団長と王様に何も言ってないかの確認も含めて、だが。
「善処しよう。で、どうだった?」
「まあ、今日はとりあえず落ち着いたと思います。あーでも、一応夕食の時にでも一声かけてあげて下さい」
「分かった。すまないね、迷惑をかけてしまった」
「迷惑なんてとんでもない。むしろこんな下っ端の王宮騎士がアリシア護衛なんて、身に余る栄誉ですよ」
「ユーゼン、自分を下に見るのはやめなよ。実力は王宮騎士でもトップクラスじゃないか」
「それは王宮剣術じゃなければの話です」
「僕は王宮剣術での話をしているんだ」
「・・・なんで知って、いや、いつからですか?」
「初めて手合わせした時だね。反応速度と実際の動きに差異があるのに気付いたんだ」
これで3人目か。手合わせでバレたのは。
元団長のユースハイト様、グレンさん、そして王子。
いずれも手練れとしても、曲者としても有名な人たちだ。この人達を騙しきるには俺の経験が足りて無かった。
それに、言い訳にはなるが
「あの頃はまだ、この身体に慣れてませんでしたからね」
「そうだね。今は違和感を全く感じない。でも、反応速度と動きに無駄が無いのは相変わらずだ」
「過大評価ですよ。俺はそこまで言って貰えるほど強くないです」
「元Sランク冒険者が何を言ってるんだ」
「SじゃなくてAですよ」
「あれ、そうだったかな?僕の調査ではSランク級の強さだったと、誰もが口を揃えてそう言ってたよ」
「それこそ過大評価です。本当のSランクは、文字通り次元が違いますから」
そう、俺が手も足も出なかったアレを単独で討伐できるほど。
「なるほど、やはり君の自分を下に見すぎる原因は、君の身体をそんな風にしたアレのせいか」
「そこまで調べたんですね」
「おいおい、瀕死の君を助けたのはアリシアだよ?そして当時アリシアに同行していたのはグレンだ。君を発見した場所の状況は、嫌でも耳に入ってくるさ」
あぁ、そういえばそうだったな。それに、そうだな。アレが俺に攻撃してきたという事は、俺以外にも被害が及んでいたという事だ。
つまり、俺が居た場所はアレの痕跡だらけだったという訳だ。
「さぞかし焦ったでしょうね」
「大パニックだったそうだよ。そんな状況なのに、アリシアときたら君の事ばかりで、そっちのほうが大変だったってさ」
「今日は、珍しく俺相手に含みのある言い方しますね。俺そういうのには鈍感なんで、察しろとか言わないでくださいね?」
「悪かった、悪かったよ。ストレートに言うよ」
それはそれでやめて欲しいんだが。なんか嫌な予感するし。なんなら嫌な予感しかしないし。
いや、まあさっきはああ言ったが、何となく予想はついてる。
「ユーゼンにこの先ずっと、アリシアの護衛に就いて欲しい」
やっぱりそうか。だがそれは
「もちろん、ユーゼンが決められない事は分かってる。あくまでも僕個人の意見、願望であって強制力は欠片もない。だから、聞き流すでも聞かなかった事にするでも、好きにしてくれ」
本気でそうしようと思えば出来るくせに。とは言えなかった。
いつもの冗談ならそれで良かったけど、今回のはガチなやつだ。
聞き流す事はまあ、出来る。でも聞かなかった事にするのは無理だ。
「今は、聞き流す事にします」
「その答えで十分だ。さて、やっとスッキリした。雑談に付き合ってくれてありがとう。ご苦労様」
「いえ、失礼します」
・・・切り替えよう。次は団長だ。
執務室に行くと、やはりと言うべきか、まだ団長はそこに居た。
「団長、お疲れ様です。ちょっと良いですか?」
「おー、お疲れ。どうした?」
副団長に関する事だと言うと、それでだけで察したらしく、軽く説明するだけで済んだ。
最も、話が進むにつれて険しい表情になっていったので、想像より酷かったらしいが。
「通りで王子が動くわけだ」
「俺が動かなきゃ、その王子が動くつもりだったみたいですよ」
「・・・悪い、助かった。何とかする」
「何とかって、どうするつもりですか?」
「とりあえず嬢ちゃんには悪いが、隣国の王子来訪まで耐えて貰うしかないな。その間にどうにか考える」
「分かりました。国王には俺が話しておくので、団長はとっとと仕事切り上げて、サラさん迎えに行ってください」
「ほんと、悪いな」
「気にしないでください。それじゃ、お疲れ様でした」
「お疲れさん」
最後は国王だな。ここ数日、毎日国王室に行ってるな。
なんかよく分からないちょっと複雑な感情になりながら国王室に入ると、上役は誰も居なかった。
代わりにと言うべきか、側近のヴァル爺に加え、ユースハイト様が側に仕えている。
「今日は呼び出しては居ないはずだが、何かあったのか?」
「少しお話しがありまして。お時間頂けないでしょうか」
「構わんよ」
ユースハイト様の手前、いつもの砕けた話し方をしろと言われないのは助かる。
と、それはさておき、副団長の件について全て話し終えたところで、国王が頭を抱えてしまった。
「ええい全く。次から次へと・・・」
なんか、すみません。
「グレン団長が何とか考えるとおっしゃっていたので、国王様は王女を支える。というのはどうでしょう?」
「・・・うむ、そうだな。そうしよう。ご苦労であった。下がって良いぞ」
「は。失礼しました」
何とかなった、かな?うん、そう信じよう。
今日やらないとダメだったのは、これで終わりだよな?
・・・終わりだな。よし、帰ろう。
「ユーゼン、少し話がある」
「ユースハイト様・・・?どうされましたか?」
ユースハイト様が引退してから初めて俺に声を掛けてきた。
用件は何となく分かる。この人が俺に話となると、あの事くらいしかないからな。
「お前の身体のことだ。2年前のようにアレの居場所が分からないでは済まさんぞ。いや、周りくどいのはよそう。アレの居場所も、治療法も、もう分かっているのだろう?」
「・・・はい」
「では何故?治そうとは思わんのか?」
「思います。でも、今はその余裕がありません。それに、場所が遠いので」
「国外か?」
「国内です。ですが、日帰りで行ける距離ではありませんので」
「数日間仕事を休めばいいではないか」
そうだ。そうすればいい。そんな事は分かってる。でも出来ない。いや、したくない。
これは俺のわがままだ。治した方がいいのは百も承知。それでも、今はまだなんだ。
「お気遣い、感謝いたします。今は、ここを離れたく無いのです」
「昨日のことか」
「そういう事にしといてください。ユースハイトさん、俺は大丈夫ですから」
「・・・そうか。引き止めてしまってすまなかったな。ご苦労だった」
「は。失礼します」
ああは言ったけど、そろそろ治しに行かないとな。色んな人に心配かけすぎてる。
でも、今はダメだ。少なくともユリシスが来国して帰るまでは行けない。
狙うならその後だ。恐らく北の国から王子のお見合い相手が来るだろうからそれまでに治しに行こう。




