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第五話 父の言葉

 七日を掛けてコースト村に帰る。

 ガバスと爺にダーク・エルフとの決闘に勝利して、賠償金を得たと報告する。


 ガバスは渋い顔をして一通り報告を聞いた。賠償金の金貨を確認すると、重い口を開いた。

「余計な真似をしてくれたな」


 ガバスは怒っていた。ダーク・エルフを怒らせる結果になったのはわかっている。

 だが、ガリュウは父に一言でいいから、勝利した息子を褒めて欲しかった。


 ガリュウはいささか腹が立ったので、言い返した。

「何が余計な真似でしょうか? これ以上の成果がありましょうか」


 爺が心配した顔で、すかさず間に入る。

「ガバス様。坊は充分にお役目を果たしました。我が部族の面目は保たれました。ダーク・エルフも我々を、今後は見縊らないでしょう。それに、金貨百枚は立派な成果です」


 ガバスは爺に掌を向けて発言を止める。

 ガバスは爺を見ないでガリュウをしっかりと見据えて話す。


「お前の勝利で我が種族の株は上がった。悪魔貴族が立ち合いの決闘なら、禍根もあまり残すまい。金貨も手に入った」


 ガリュウは父が何で気に入らないのかわからずに、苛々した。

「これ以上、何を求めるのですか。父上は何が不満なのですか。はっきり仰ってください」


 ガバスは真剣な眼差しで問うた。

「ガリュウよ、戦場で最も死亡する可能性が高い奴は、どんな奴かわかるか」


 ガバスの質問の意図がわからない。だが、正直に答える。

「一番槍、ですか」


 ガバスは眉間に皺を寄せて叱る。

「違う。便利に使える小さき才を持つものよ。お前は今回の決闘でマインド・コントローラーがそういう種族だと示した。これは後々、種族に災いをもたらす」


「マインド・コントローラーが戦場で道具にされ、使い捨てにされる、と?」

 再びガバスが真剣な顔で問うた。


(せがれ)よ。マインド・コントローラーの種族としての弱点はわかるか」

 わかりきった情報を聞くと思った。


「力が弱く、生命力に劣る点です。また、俊敏さに優れず、手先も器用とは評価できない」

 ガバスはむすっとした顔で再び叱る。


「違う。我らの弱点は繁殖能力の低さだ。我らは死んでも、簡単には同胞を増やせぬ。仲間の死は、種族の滅亡へと繋がる」


「父上はマインド・コントローラーが悪魔貴族や他の種族にいいように利用されるのを恐れているのですか?」


「そうだ。我々は生きてゆかねばならぬ。安易に死んではならぬのだ。なのに、お前は簡単に決闘に赴き、命を危険に曝した。これは、マインド・コントローラーらしからぬ行動だ」


 ガバスの怒りの原因はわかった。

 だが、ガリュウにしてみれば、これ以上、どう行動しろと命じるのだと抗議したい。


 ガリュウはいささか感情的になった。

「では、父上ならどうしたのです。這い(つくば)って頭を下げて逃げ帰ったのですか」


 爺がおろおろしていた。だが、言わねばと強く感じたのでむきになって声に出した。

 ガバスは冷静な顔でさらりと告げる。


「私か? 私ならダーク・エルフから人間たちを貰い受けてきたぞ」

 適当な戯言をほざくと怒りが湧いた。


「どんな策を講じれば可能だったのですか。是非とも、お教え願いたい」

 ガバスは渋い顔をして残念がった。


「我が倅がここまで愚かだとは思わなんだ。なぜ、我らがマインド・コントローラーと呼ばれるのか、まるでわかっておらぬ」


「ダーク・エルフたちの精神を支配して人間たちを差し出させた、とでも主張するのですか、そんなの無理です」


 ガバスはきっとガリュウを見て告げる。

「精神支配に頼るなら、無理であろうな。精神支配は単なる道具の一つよ。だが、私ならできた。それは断言できる」


 ガバスはできもしない業績を、さもできると強弁しているようにしか思えなかった

「なら、どうやったのですか。いや、僕に、他にどんな道があったのですか」


 ガバスは不機嫌な顔で突き放した。

「倅といえど、手の内は見せぬよ。どうしても知りたければお前で考えろ」


 ガリュウは機嫌の悪いガバスが息子に強がっているようにしか見えなかった。

 だが、村長であるガバスに逆らえるわけなかった。


 ガバスの家から出るようとすると、ガバスが声を掛ける。

「ただ、唯一、褒める点があるとすれば、決闘で精神支配を使わなかった決断よ。我らが独自の能力は、あまり見せるものではない。特にダーク・エルフの前では、な」


 褒められても嬉しくなかった。

 家の外のベンチでごろりとなっていると、奇妙な五人の人間が目に入った。


 人間たちはロープで手を縛られ、数珠繋ぎになっている。

(おかしい。この村の人間は、僕たちの精神支配を受けるか、魔道具によって心を支配されている。心を支配された人間を紐で縛るとは、何でだ?)


 非常に気になった。

 先頭でロープを引くマインド・コントローラーの元に駆けてゆき、尋ねる。


「この人間たちは、なぜロープで繋がれているんですか」

 マインド・コントローラーの男は平然と告げる。


「彼らはガバス様が魔の森から連れてきたダーク・エルフの奴隷だよ。身代金を貰ったから、返しに行くんだ」


 何かの間違いだと思った。または、ガバスが息子に説教した手前、格好を付けるための芝居では、と疑った。


 ガリュウは先頭にいた男の奴隷に訊く。

「お前たちは、いったい何をしたんだ」


 男は怯えた顔で白状した。

「マインド・コントローラー様の支配領域にある畑から、野菜を盗みました」


「盗んだ野菜の種類と量を言ってみろ」

「キュウリが二百本、トマトが二百個、茄子が百本です。あと、南瓜を数個」


 ガリュウと盗んだ本人しか知らない野菜の種類と数を、奴隷は言い当てた。

(馬鹿な。こいつらは本当に、ダーク・エルフの奴隷で、僕の畑から野菜を盗んだ犯人なのか?)


 信じられなかった。秘密の畑はマインド・コントローラー側の村からは見つかりづらい場所にある。


 もちろん、人手を掛けて捜索すれば発見もできる。荒らされた畑を調べれば、盗まれた野菜の種類もわかる。


 だが、実り具合がわかっていないと、盗まれた量は当てられない。

「連れて行っていいですか、坊?」


 マンイド・コントローラーの男が聞いたので「ああ」とだけ答えるのが、やっとだった。

(父は、強がってなどいなかった)


 ガバスはガリュウが逃げるようにデルニエ侯を頼っていっている間に動いていた。

 ガバスは言葉通りに、ダーク・エルフたちから犯人の奴隷たちを貰い受けていた。


「恐ろしい」

 ガリュウはガバスを凄いとは賞賛できなかった。敬意もわかなかった。

 ただ、恐ろしく思った。

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