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第三十九話 カルバ砦攻略(後編)

 夜になりバッツに面会に行く。バッツは会ってくれた。

 バッツも怪我をしていたが、ガリュウが会いに行くと、明るく迎えてくれた。


 ガリュウはバッツの気遣い声を懸ける。

「大変な戦になったね」


 バッツは苦い顔で感想を口にする。

「ガリュウ閣下、こっちはトンネルに突入して多数の死者を出しました。大損害ですよ」


「何があったか、良かったら聞かせてくれませんか」

 バッツは苦し気に戦いを振り返る。


「簡単に言うと、油と待ち伏せでさあ。トンネルの出口で待ち伏せされ、油を撒かれました」

「トンネル内は空気が薄い。そんなところに火が付けられたのか。後ろから次々と味方が入って来るから後退もできないか」


 バッツは当然といった顔で同意する。

「そうでさあ。前に行った奴は待ち伏せに遭って死に、後方の奴は酸欠で死にました。人間の中には頭がよい奴がいます。こっちの動きを読んでやがる」


 ガリュウは正直に訊いた。

「バッツ隊長。この戦はこれからどうなると思う? 正直に教えて欲しい」


 バッツは真剣な顔で声を潜めて語る。

「おそらく、この戦は勝てません。それどころか、人間が門を開いて討って出てきて、負けるかもしれません」


「こちらにはまだ、三千三百の兵があるのに、砦から出てくるのか?」

「森に逃げ込んだダーク・エルフを倒すのは骨が折れます。だったら、平野にいるうちに叩いてしまおうとするでしょうね」


「こちらには、まだオークの傭兵が二千名に、人間の傭兵が七百名いる。僕のマンドラゴラ兵だって三百体いる。それでも、負けるか?」


 バッツは神妙な顔で持論を述べる。

「ガリュウ閣下。戦争には流れとか、空気ってものがあるんでさあ。流れが悪くなった時に、踏み(とど)まるには、士気が高くないといけねえ」


「傭兵の士気が低いのか」

 バッツは弱った顔で打ち明けた。


「高いとは強がれませんねえ。特に今回は雇用主との関係が悪い。これは、何かの切っ掛けがあれば、総崩れになります」


 負けると決まった戦はしたくなかった。

 何か対策があれば、嫌われても献策するつもりだった。


「なら、僕にとれる対応策はあるか? あるなら教えてくれ」

「ガリュウ閣下に兵があるなら。後方に待機して殿(しんがり)とするのがよいでしょう。本隊が退却する時間を稼ぐんです。ですが……」


 バッツの言葉はそこで切れる。バッツの言いたい言葉はわかった。

「殿を置くなんて作戦はダーク・エルフが認める訳がない。撤退が決まっていないのに陣中から兵を引き上げれば、ダーク・エルフは怒る、か?」


 バッツは真剣な顔をして相談した。

「まだ、負けは決まっていません。だが、負けが決まってから動いたのでは遅すぎます」


「わかった。僕は兵を引いたと見せかけて、殿に置く」

 翌朝早くに、エドガルドに面会する。


「申し訳ありません、エドガルド閣下。リザードマンに援軍に行った父より、戦況が好ましくないとの一報が入りました。我らはセイカの砦に援軍に行きたいのですが、よろしいですかな?」


 エドガルドの表情が怒りに歪む。他のダーク・エルフたちも嫌悪の表情を浮かべる。

(負けそうだから、まだ勝ちそうなほうに援軍を切り替えるようなもの。当然の反応だよね。困っている時にいなくなる奴なんて、僕でも信用できないよ)


 エドガルドが睨みつけて吐き捨てる。

「勝手にするがよい」


「わかりました。それでは、軍を引かせてもらいます」

 エドガルドとの短い会談を終えて、陣中で引き払いの準備をする。


 引き払いの準備をしていると、怖い顔をしたラウラがやってくる。

「ガリュウ、軍を引いて逃げ帰るんですってね」


「そうだよ。ここにいても、勝ち目はなくなったからね」

 ラウラは怒っていた。


「まだ、勝負は着いていないわ」

「そうだろうか? もう、砦を落とせるとは思えない。ラウラも、いざという時のために逃げる準備だけはしておいたほうがいいよ」


「逃げるですって? 馬鹿にしないで」

「森を捨てて逃げる決断は恥でも、砦を落とせず森に帰る判断は恥ではないと思うよ。僕にできるのは、森まで無事に帰れるように祈ることだけ」


 ラウラは怒って帰っていった。

 夕方にはダーク・エルフの陣から引き払った。そのまま、森側に三㎞ほど進む。


 かつては森だった場所だが、今は切り株だらけの場所に変わっていた。

 ガリュウはそこで殿とするマンドラゴラ兵に、地中に半分まで姿を隠しての潜伏を命じる。


 切り株だらけの場所にマンドラゴラ兵は(うずくま)る。一見すると、マンドラゴラ兵と切り株は、見分けが付かなかった。


 ガリュウはマンドラゴラ兵を隠すと、帰路に就いた。

 コースト村には十人で出て、無事に十人で帰ってこられた。


 喜ぶべきところだ。だが、援軍に行って勝手に陣中を抜けた行為をガバスがどう思うか、不安だった。


 村に着いてから四日後、二百名からなるオークの一団がやって来た。

 ガバスがいないのでガリュウが応対に出る。集団の先頭にバッツがいた。


「ガリュウ閣下、いきなり押し掛けてきて、すいません。少し休ませてください」

 見れば負傷者もいるので、食料を分け与えて傷の手当てもする。


 わずかだが酒を振舞ったら、喜ばれた。

 ガリュウはバッツを家に呼んで話を訊く。


「僕が陣を離れてから、何がありました?」

 バッツが厳しい顔で振り返って話す。


「ガリュウ閣下が陣を離れて二日後のことでさあ。人間が門を開いて討って出てきやした」

「人間には上空からの目があるからなあ。ダーク・エルフ側の数が減った現実を、つぶさに理解していたんだな」


 バッツが厳しい顔のまま語る。

「ダーク・エルフたちはこれ幸いと戦いに臨みました」


(やはり、バッツ隊長の読み通りに、平野での戦闘になったか)

「して、結果は? どんな状況になりました」


 バッツが厳しい顔で話を続ける。

「戦いは激しいものでした。数で勝る人間が始終ずっと優勢でした。その日は何とか持ち堪えられました。ですが、疲れが抜けない俺たちは踏ん張りが利かず、次の日には崩れました」


(治癒魔法が使えるダーク・エルフの手が、オーク傭兵まで回らなかったか)

「主力のオーク傭兵団が崩れたのなら、ダーク・エルフは敗走ですか?」


 バッツが改まった顔で礼を述べる。

「仰る通りです。敗走する我々は全滅の危機に瀕しました。ですが、ここでガリュウ閣下が隠しておいてくださったマンドラゴラ兵が、壁になってくれました」


(見事にマンドラゴラ兵が殿(しんがり)の役目を果たしたか)

「マンドラゴラ兵が戦っている間に、退却ができたのですね」


「はい、おかげで勇猛団も助かりました」

 バッツたちは長居すると迷惑を懸けると思ったらしかった。バッツは負傷者の治療が終わった二日後には、コースト村を後にする。


 ガリュウが気を利かせて水と食料の提供を申し出ると、バッツは恐縮しながらも受け取った。こうして、カルバ砦攻略は失敗に終わった。


 家でガバスの帰りを待った。バッツが村を去ってから二日後、ガバスと爺が帰ってきた。

 ガバスが一息ついたところを見て家に行く。


「お帰りなさいませ、父上。報告したい儀がございます。ダーク・エルフによるカルバの砦攻めの件です。失敗が確実に思えたので、マンドラゴラ兵を殿に置いて逃げ帰ってきました」


 ガバスは、ガリュウの決断を怒らなかった。ガバスが飄々(ひょうひょう)とした態度で尋ねる。

「そうか。して、ダーク・エルフの敗北の一報は入ったか?」


「同じくダーク・エルフ陣営に参加していたオーク傭兵の勇猛団が、村に寄りました。勇猛団から、敗戦の知らせを受けております」


 ガバスは澄ました顔でガリュウを評価する。

「読みが当たったわけか。ならば、責任は問うまい。負け戦にずるずると付き合って損害を増やす展開ほど馬鹿らしい結果もあるまい」


 ガリュウはガバスの言葉にほっとした。

(お咎めはなしか。マンドラゴラ兵はまた増やせばいい。何とか、難局を乗り切ったと見ていいのか?)


「して、父上が援軍に行ったセイカの砦はどうなりました?」

 ガバスがしれっとした態度で告げる。


「こちらも砦を落とせずだ。マンドラゴラ兵をそっくり失った」

 ガバスの敗北にガリュウは驚いた。


「何と、父上の智謀を持ってしても、落とせなかったのですか?」

 ガバスは気にした様子もなく語った。


「別に私が司令官だったわけではない。あれこれと献策したが、(わし)の策が採用される流れにはならなかった。お前も同じような状況だったろう。あれが普通だ」


「何という事態でしょう。これで、カノンの砦を攻めるのが失敗すれば、悪魔王陛下の軍勢はどの砦も落とせず終わります」


 ガバスにはまるで危機感がなかった。

「であろうな。あとは死の王のルドベルクの麾下に砦攻めが得意な家臣がいればいいが。心許ないな」


 ガリュウは人間の脅威に怯えていた。

「父上、何を悠長な、これで人間の支配領域は広がり、支配力も増します」


 ガバスがどんと構えた態度で語る。

(せがれ)や。物事には何ごとも流れがある。無理に流れに逆らってはならぬ。時世の流れに逆らえば、いかなる英傑、知恵者といえど、押し流されて消えてゆく」


 なぜ、ガバスにこれほどまでの危機感がないのか、ガリュウは不思議だった。

「現状はまずいです。次に狙われるのは我が村かもしれません。我が村なぞ五千も兵が集まれば、滅ぼされます」


 ガバスが真面目な顔をして、やんわりと意見する。

「攻められれば必ず負ける。だから、攻めさせはしない。そのために、色々と動いておるのだ。現に攻められてはおらぬであろうが」


 ガリュウはガバスの言葉を聞いても安心できなかった。

 ガバスが帰ってきてから三日後、死の王の軍勢が砦を落とせなかった、との一報が入ってくる。


(三戦して三敗か。これで、城塞都市マモンティ攻めは確実に行われる。いかに堅固な城塞を持つマモンティといえど、五万の兵に攻められれば持ち堪えられるかどうか)


 ガリュウの心配は当たった。マモンティが包囲された。だが、砦攻めで敗戦を(きた)した種族はマモンティへの援軍には行けなかった。


 死の王にはまだ余力があった。だが、居城のデス・タウンの防衛を優先して、救援に行かなかった。


 季節が春に変わる頃、マモンティ陥落の知らせが悪魔王の領内に流れた。

 マモンティ攻略までの一連の戦いは人間の勝利で終わった。


 ここに第一次人魔大戦が終結した。

【完】


©2019 Gin Kanekure


 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。話はここからガリュウが成長して、闇の賢者と呼ばれるまでに成長する物語を書く予定でした。

 ですが、いかんせんポイントが入らずPVも伸び悩みました。なので、区切りがいいのでここで完結とさせてください。

 第一部完として完結にしないことも考えました。でも、いつ再開するかわからないまま、このまま連載中としておいておくのも悪いと思い決断しました。なにとぞ、ご理解をお願いします。

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