表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/39

第三十六話 どの砦を攻めるか

 村に帰ってきたのでガバスに報告に行く。

「父上、ただいま、マンドラゴラ兵の納入を終えて帰ってきました」


 ガバスは尊厳に満ちた表情で告げる。

「よくぞ戻った、(せがれ)よ。事態が大きく動き出した。人間が五万の兵力を持って、城塞都市マモンティの攻略に動き出した」


(ついに人間が大規模攻勢に出たか。ここも安全ではないかもしれない)

「それほどまでの大軍を繰り出すとなると、人間も本気ですね」


 ガバスが真剣な顔で教えてくれた。

「そこでだ、悪魔王陛下より、人間によるマモンティ攻略を妨害するよう、檄が飛んだ。デルニエ侯からの命令書も届いた」


「我が部族には何と命令が下りたのです」

「リザードマンと共にセイカの砦を攻める。ダーク・エルフと共にカルバの砦を攻める。ないしは、両方に肩入れをして、両方に力を貸せとの下知だ」


「砦攻めですか? して我らはどちらに加勢するつもりですか?」

 ガバスは真剣な顔のまま意見を問うた。


「逆に訊きたい。ガリュウは、どちらに味方したい?」

(リザードマンよりは、ダーク・エルフを助けたほうがいいかな)


「マンドラゴラ兵を多く買ってもらっているので、ダーク・エルフに味方してカルバの砦を攻めるのが、よいと思います」


 ガバスはガリュウの答えに鷹揚に頷く。

「そうか、ならば、お前に十名のマインド・コントローラーとマンドラゴラ兵三百を与える。これでカルバの砦攻略の援軍に行け」


 ガバスの決定は無謀に思えた。

「お待ちを。それでは少ないです。マンドラゴラ兵だけでも、もっと造らねば」


 ガバスは難しい顔をして、ガリュウの提案を拒否した。

「そうはいかぬ。(わし)はセイカの砦のリザードマンに加勢しに行く。そのうえで、ここに守備部隊を残さねばならぬ。だから、そう多くは兵を割けぬ」


 納得できない決定であり、ガバスらしからぬ決断だと思った。

「お待ちください。父上。部隊を二つにわける決断は反対です。我らは、ただでさえ少ない。一丸となって敵と戦うべきです」


 ガバスは頑とした態度で命じた。

「くどい。これは決定だ。リザードマンもダーク・エルフも、見捨ててはおけん」


(見捨ててはおけんなんて、嘘だな。でも、父は何を考えている? この戦は我らの完全勝利で終わるとでも思っているのだろうか? だとしたら、考えが甘過ぎる)


 されど、決定と明言されては、従うしかなかった。

 ガリュウ率いる三百十名の部隊は、ダーク・エルフに合流する。


 ダーク・エルフの司令官は壮年のダーク・エルフの男性で、エドガルドと名乗った。

 エドガルドはダーク・エルフにしては珍しく髭を生やしていた。


 幕舎に入った他のダーク・エルフたち部隊長の目は冷たい。

 理由はわかる。率いてきた兵があまりにも少ないからだ。


 ラウラがガリュウを険しい視線で見つめて意見する。

「随分と少ないのね。そんなに少ないなら、ここではなく、セイカの砦の援軍に行ったら?」


 エドガルドがむすっとした顔で窘める。

「よさないか、ラウラ。あのマンイド・コントローラーが腰を上げただけでもありがたいと思え」


 ラウラは嫌悪感も露わに言い捨てる。

「そうかしら? ただ単に勝利陣営に入りたいだけかと思ったわ」


 ラウラの言葉をエドガルドは怒らなかった。

(ラウラの言葉はダーク・エルフの正直な感想だな)

 ダーク・エルフの部隊長たちが揃ったところで、軍議が開始される。


 ダーク・エルフの兵力は金で雇ったオーク傭兵三千名。人間の傭兵が千名。それに、ダーク・エルフが五百名。あとはフェアリーたち魔の森の住人が百名だった。ここに、マンドラゴラ兵三百体が加わるので、兵力は四千九百名。


 ガリュウは少し疑問に思った。

(ダーク・エルフには、ちょくちょくマンドラゴラ兵を売っている。連れてきていないところを見ると、森の防備に置いてきたか?)


 人間側の兵力は報告では五千人。だが、人間たちは高さ十五m、厚さ三十㎝の木の塀に囲われた砦を持っていた


(数は互角だ。だが、向こうには急ごしらえとはいえ、砦がある。塀の中がよく見えないが、防衛施設もきっとあるぞ)


 エドガルドが真剣な顔で説明する。

「我々の作戦はこうだ。まず、人間の傭兵とオーク傭兵団を盾にして、魔法が届く五十mまで近づく。あとは我らダーク・エルフ部隊が魔法で門を破壊する。魔術部隊はレオナルドが指揮しろ」


 レオナルドと呼ばれたダーク・エルフは、暗そうな感じの青年だった。

 レオナルドが頷くと、エドガルドの説明が続く。


「門が開いたら、人間の傭兵とオーク傭兵団を突撃させろ」

 ダーク・エルフの部隊長六人が頷く。


 エドガルドが険しい顔で話を進める。

「乱戦になったら、オスワルドの暗殺部隊が潜入。敵の指揮官を殺して、敵の指揮系統を破壊する。指揮系統を乱れた敵を、あとは各個撃破だ」


 オスワルドは中年でダーク・エルフにしては少しふっくらしていた。

 ダーク・エルフたちは、すでに作戦を熟知しているのか、質問は出なかった。


(不確実な計画なのに、誰も指摘しないのか。これは、マインド・コントローラーだから計画の全容を隠されているのかな? それとも、暗殺部隊に絶対の自信があるのか?)


 気になったので、ガリュウは訊く。

「暗殺は成功するでしょうか?」


 エドガルドが軽い調子で肯定した。

「する。それで、他に質問は?」


(何だろう? この自信は、どこから来るんだ? でも、ここまで信用しているのなら、外部の僕が何を進言しても駄目だろう)


 ガリュウの隊に何も役割がないので尋ねる。

「我々は何をすれば?」


「ガリュウ殿には後詰めを頼む。本陣で控えていてくれ」

 ダーク・エルフの部隊長たちは、(さげす)んだ微笑みを向けてくる。


(また、後詰めか。最前線に出されるより、いいか)

 会議は解散となる。時間があるので陣中を見て歩く。


 勇猛団のガッツ隊長と遭った。

「ガッツ隊長。勇猛団もこの戦に参加していたんですか?」


 ガッツは軽く驚いた。

「おお、ガリュウ閣下が援軍として入られたのですか?」


「マンドラゴラ兵が三百と十名の援軍ですがね」

 ガッツ隊長は兵の少なさを馬鹿にしなかった。


「ないよりは、いいでしょう」

 ガリュウは声を潜めて訊いた。


「して、ガッツ隊長に正直に訊きたい。この戦、どうですかな?」

 ガッツは渋い顔で打ち明けた。


「今回の戦にも攻城兵器がない。魔法で門を壊すそうですが。どうも俺は魔法による門の破壊は気に入らない」


「攻城兵器を造るように進言しますか?」

 ガッツは苦い顔で首を横に振った。


「もう、時間がない。それに、攻城兵器が必要な状況だと説明は既にしました。ですが、却下されました」


「どうしてです? カタパルトがあれば、あんな塀は簡単に破れるでしょう」

 ガッツは困った顔で教えてくれた。


「カタパルトを作るにも、破城槌を造るにも、木が必要でしょう」

「まさか、木を伐るのが嫌で、攻城兵器を造らなかったんですか?」


「ダーク・エルフにとって魔の森の木は神聖なんです。神聖な木を攻城兵器なんぞ作るのに伐れるか、って話です」


 ありそうな話ではある。だが、マインド・コントローラーのガリュウには信じがたい発想だった。

「戦争中ですよ。そんな信条だなんて、言っていられないでしょう」

 ガッツがほとほと弱った顔で心情を語る。


「俺もガリュウ閣下と、同じ意見です。でも、雇い主が駄目だというなら、駄目なんですよ。雇われの辛い立場です」

(大丈夫かな、明日の戦い?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ