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第三十一話 ラウラからの相談

 小麦の収穫が終わる頃の話だった。

 ガリュウにお客があった。ダーク・エルフのラウラだった。


 ラウラは会うとじっとガリュウを見る。

「少し見ないうちに、腕を上げたようね」


(賢者の力を手に入れた情報が、すでにダーク・エルフに流れているのかな?)

 情報が流れるとあまりよろしくない。なので、適当にはぐらかしておく。


「日々、修行はしているからね。でも、そんなに目覚ましく強くなってはいないよ」

 ラウラはつんとした顔で言ってのける。


「そういう話にしておきましょう。貴方も私には、手の内を曝したくないでしょうからね」

(相変わらず嫌われているな。好かれる展開なんてないんだろうけど)


「それで、今日は何の用で来たたの?」

「ガバス族長を頼ったら、ガリュウに相談するように勧められたわ」


(父上の紹介か。これは、断れないな)

 ラウラは険しい顔で訊く。


「魔の森の惨状は知っている?」

 噂には聞いていた。人間たちが執拗に魔の森にやって来て木を伐っている。


 伐採はもう執念ともいえるものだった。

 ダーク・エルフがいくら(きこり)を殺そうとも、製材所を焼こうとも諦めない。


 人間は樵を雇い、製材所を直して、木を伐りに来る。

 おかげで魔の森の地形が後退していた。


「聞いているよ。人間が木材を欲しさに執拗に木を伐りに来るんだって?」

 ラウラは忌々しいとばかりに愚痴る。


「そうよ。人間は虫や(かび)以上に(たち)が悪いわ。戦いは常にこちらが勝っている。それでも、森の木は少しずつなくなっていっているのよ」


「村を作るにしても、砦を作るにしても、木材は要るからねえ」

「でも、問題は木材だけに留まらなくなったわ。人間たちが森の木を乱伐したせいで、森に掛かっていた魔法の一部が解けたのよ」


 魔の森は全体が強固な魔法で守られている。だが、魔力の源は森の木々だ。乱伐が進めば守りに綻びが生じる。


「それはますます人間が森に進出して来るようになるね」

 ラウラの表情は険しい。


「もう、なっているのよ。冒険者がやって来て墓地の一つを荒らしているわ。副葬品が持っていかれているのよ」


「それは(ひど)いな。警備を強める必要があるね」

「魔の森は広いのよ。今でも警備と戦争で手一杯。とてもじゃないけど、森の外縁にある墓地の警備まで、手を回せないわ」


 段々と事情がわかってきた。

(森の中心に近いほど重要人物の墓地がある。森の外縁なら身分の高いダーク・エルフが安置されている場所じゃない。だから、警備人員を割く対応策もできないのか)


「それだったら、罠を設置する対策はどうだろう?」

 ラウラはガリュウの提案に怒った。


「馬鹿でも思いつくような対策なら採っているわよ。人間は動物と違うのよ。罠を設置しても、解除したり回避したりするわ。それに、一度でも見破られた罠には二度と掛からない」


「となると、人手でが必要か……」

 墓地を守るのなら、墓地に安置されているダーク・エルフを使うのがよい。簡単にいえば、ダーク・エルフの死体のアンデッド化だ。


 だが、これはダーク・エルフの生死観が許しそうになかった。

(うちにアイデアを求めてきた理由も、お隣さんだから、の理由だけではないな。死の王に頼めば死者をアンデッド化する。リザードマンは水辺を離れたがらないから、だな)


「オーク傭兵や人間の奴隷の使用はどうかな?」

 ラウラが蔑む顔で案を否定する。


「話にならないわ。奴らは冒険者の代わりに副葬品をくすねる可能性があるわ」

 理解できる話だった。


「だよねえ。となると、魔法によって生み出した生物による防衛か」

 ラウラは懐疑的な視線を向ける。


「魔法によって生物を生み出す技は、ベルモット侯の秘蔵の技術だと聞いているわ。マインド・コントローラーの、しかもガリュウに何かできるの?」


 普通はできない。だが、思いつきを適当に話しているのではなかった。

 理由はわかる。賢者サラマンドラの知識が言わせた言葉だ。


「今の僕にならできる。ただし、お金が掛かる。ご予算って、おいくら?」

 ラウラがちょっとばかし考える仕草をしてから回答する。


「金貨千枚なら、どう?」

「それなら、作れても、二種類だな。また、高度な設備はないから、それほど強い者ができないな」


「ガリュウが仄めかす、それほど、が気になるわね。強さはどの程度? 猟犬くらい、人間奴隷くらい、それともオーク新兵くらい」


 正直に申告する。

「初めて作るから、作ってみないと、わからないや」


 ラウラの表情は渋い。

「何か博打みたいで嫌だわ。大して強くもないやつらを造るのに金貨千枚も出したら、私の立場がない」


(依頼主としての立場はわかる。でも、安請け合いはできない)

「でも、このままだとオークの傭兵を雇うしか手はなくなるよ」


 ラウラは難しい顔をして、投げ槍に発言する。

「オークの傭兵は、当たりを引けばいいわ。だけど、外れを引いた時が(ひど)いわ。オークを雇うのも博打(ばくち)ね。いいわ。金貨千枚を払うから魔法生物を造ってよ」


「わかった。できるだけの仕事はする」

 ガリュウは話が決まると、ガバスに相談しに行く。


「父上、ラウラ殿との話が纏まりました。魔法生物を造りダーク・エルフの墓所を守ります」

 ガバスの感触は悪くなかった。


「そうか、魔法生物を造るか。それなら、儂の工房にある設備を貸してやろう。して、どんな魔法生物を造る?」


「本当は人造巨人か魔犬を作りたいのですが、予算がありません。マンドレイクを元に、マンドレイク兵を作りたいと思います」


 マンドレイク兵なら安くできる。ただ、マンドレイク兵はオーク新兵にすら、勝つのは難しい。

 ガバスはちょいとばかし表情を曇らせて欠点を指摘する。


「マンドレイク兵なら安くできる。だが、大して強くないぞ」

「ですが、種さえ作ればあとは植えるだけ。なので、育成も簡単です」


 ガバスは納得した。

「わかった。欠点と利点を承知しているのならよい。ただし、マンドレイク兵の製法と種は渡すな。また、マンドレイク兵は自然では増えないように工夫しろ」


 ガリュウはガバスの真意を尋ねる。

「マンドレイク兵の種を握ってビジネスにするためですか?」


 ガバスは澄ました顔で教える。

「商売にするためだけではない。人間に渡って利用されるのを防ぐためだ」

「わかりました。しかと心得ます」

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