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第二十六話 アランの頼みとガバスの回答

 夜、そろそろ寝ようかと思うと、奴隷のリージャがやってくる。

 リージャの身長は百五十㎝。リージャは短い赤い髪をして、鼻が少し低く、小顔の女性だった。

「お坊ちゃま、ガバス様がお呼びです」


(こんな夜更けに何の用だろう? 何か急用かな?)

「わかった。すぐに行く」


 ガバスの家に行くと、明かりが煌々と点いていた。

 家にはガバスの他に爺とアランがいた。


(アランが来ているから、夜に呼ばれたのか。アランは何をしに来たのかが、気になるところではある。だが、あまり良い話ではない気がする)


 ガリュウは空いている場所に座った。

 ガバスが真面目な顔をしてアランに促す。


「それでは、人が揃い申した。アラン殿から正式に用件を聞こう」

 アランは穏やかな顔で切り出した。


「今日、伺ったのは他でもありません。我が軍によるホウロン村の攻略の件です」

 ガバスは真面目な顔のまま尋ねる。


「村の攻略ですか。して、どんな村なのですか?」

「ホウロン村は人口三百人程度の村ですが、ここに兵隊が集まりつつあります」


 爺が真剣な顔で意見する。

「時間が経てば、村が砦になりますな」


「そうです。村の防備が堅固になる前に、どうにか村を焼き払いたい」

 ホウロン村は人間の村で、湿原から四㎞のところにある。


(ホウロン村か。ここからは少し距離があるな。距離的な関係でいえば、死の王はリザードマンと一緒に攻めたほうがいい。だけど、うちにまで来たって状況から察するに、断られたな)


 死の王とリザードマンは支配領域が隣同士だが、仲が良くない。理由は思想の違い。

 リザードマンの信奉する宗教と、死の王が信奉する宗教は違った。


 ガリュウには違いがよくわからない。だが、両者の間で、はっきりと違うらしかった。

 アランが畏まって頭を下げる。


「我らに加勢していただきたく、正式にお願いにあがりました。もちろん、ホウロン村の焼き討ちに成功しましたら、それなりのお礼を用意します」


(加勢の要請ねえ。前回、断ったのに、また来たのか。懲りないな。どうせ、父上は何度、来ても断るだろう。死の王には恨みはない。だが、あまりにもメリットがなさすぎる)


 ガバスの考えは、わかっているつもりだった。

 だが、父の言葉は違った。


「よろしい。加勢の話は引き受けましょう。我らマインド・コントローラーは(わし)(せがれ)のガリュウが軍を率いて参陣します」


 ガバスの顔を窺うが、ガバスの顔は本気だった。

(なぜに、利益の薄い戦争をここでするんだ。しかも、指揮官が僕だって?)


 アランは喜んで尋ねる。

「ご加勢ありがとうございます。それで、どれほど、兵を出していただけるのですか?」


「ガリュウだけです」

 この言葉にはさすがに微笑みを絶やさないアランも面食らった。


 ガリュウもびっくりした。

(加勢をするけど、僕一人って、ケルト村の攻略以上に無茶振りだぞ)


 ガバスは自信もたっぷりに告げる。

「我が倅はスケルトン千体に匹敵します。アラン殿は千人力の味方を得た気でいてください」


 アランが疑う視線をガリュウに向ける。だが、ガバスの発言を嘘だとは拒絶できない。

(何で、こんな無理な戦いばかりさせるかな)


 自棄(やけ)だとばかりに、どっしりと構えて発言する。

「わかりました。父の命令とあらば、このガリュウ、存分に戦わせてもらいます」


 ガバスは満足げに頷く。

「さすが、我が倅よ。充分に武功を立てよ」

 アランは非常に苦い顔をしていた。


(わかるよ。アランさん、その気持ち。断られるならまだしも、援軍が一人って状況は、ないよね。ないと同然だよね。でも、頼んだ相手にこれで千人力ですって豪語されたら、要らないとは断れないよね)


 アランが帰って行ったあとで、ガリュウはガバスに喰って懸かる。

「父上、先ほどのやりとり、あれは、どういうおつもりですか」


 ガバスはガリュウの抗議なぞ、どこ吹く風だった。

「どうもこうも、お前ならスケルトン千体分くらいの働きができると踏んだから、正直に申したまで。アラン殿も味方にするなら、頼もしく紹介されたほうが気分がいいだろう」


「気分がいいわけ、ないでしょう。アラン殿の顔を見ましたか。苦虫を噛み潰したような非常に苦い顔をしていましたよ。あれは文句の一つを言いたかった顔ですよ」


 ガバスは意外そうな顔をして嘆いた。

「何だ、倅よ。千人分の働きは無理なのか?」


「当たり前でしょう。そんな、千人分の働きなど、できるわけがない」

 ガバスは呆れた顔で、しょうがないとばかりに発言する。


「また、口癖の、できない、か。本来なら、どうにかせよと突き放したいところ。だが、今回は連合軍。死の王やアラン殿の手前、放り出す振る舞いもできない」


(何だ? 父には秘策があるのか? あるとしたら、どんな策だ?)

「何か、策があるのですか? あるなら、是非とも授けてください」


 ガバスは怒った。

「策など、自分で考えろ」


 ガバスは一度そこで思わせぶりに言葉を切り、むすっとした顔で乱暴に言う。

「ただ、今回は加勢して成功すれば謝礼を出すとの話だ。だから、軍資金は多めにやる」


 ガバスが袋を渡す。

「そこに金貨二百枚が入っている。それで、オークを雇うなり、スケルトンを買うなり、好きにしろ」


 前回の二十倍の資金だった。これで傭兵を雇うなら、百人から二百人は雇える。

(金貨十枚よりは数段いい。だけど、これでも、約束した兵力の十分の一から五分の一だぞ。果たして、死の王の軍勢の指揮官が納得するかな?)


 今回、爺は従いてきてくれない。なので、何でも一人でやらねばならない。

 アルベリアンにバジリスクを走らせる。アルベリアンに傭兵の斡旋所があった。傭兵斡旋所は新市街にある新しい灰色の建物だった。


 傭兵斡旋所のドアを叩く。牡羊の顔をした悪魔が応対に出てくれた。

「傭兵を雇いたいのですが、お願いできますか。任務は人口三百人のホウロン村の焼き討ちです」


 悪魔の表情は渋かった。

「ホウロン村ですか? 傭兵斡旋所にも情報が入ってきています。ホウロン村は兵が集結中。金貨二百枚で雇える傭兵だけで落とす作戦は難しいでしょう」


「本隊は別にいます。僕は加勢に行くのです」

 悪魔の顔が和らぐ。


「でしたら、ご紹介できます。傭兵団や種族のご指定は、ありますか」

「ありません。ただ、村攻めになるので、経験者が欲しいところです」


「少々お待ちください。該当する傭兵団があるか、調べてまいります」

 ガリュウは少しだけ待たされた。


 悪魔が戻ってきた。

「オークの傭兵団の勇猛団はいかがでしょう? 金貨二百枚あれば、一個中隊、百名が二十日間、雇えます」


(百名か。思ったより少ないな)

「金貨二百枚で百名ですか?」


 悪魔が申し訳なさそうな顔で説明する。

「戦争が多発しており、傭兵の雇用料が値上がりしています。また、この金貨二百枚には兵糧の代金も入っているので、それほどお高くないですよ」


「スケルトンの購入なら、もっと数を増やせますか」

 悪魔が表情を曇らせる。


「数は増やせます。だが、スケルトンは機転が利きません。用兵に慣れた方が使うならいいですが、使い慣れていない方には勧めはしません」


「わかりました。では、勇猛団と契約します。コースト村で待っています」

 ガリュウは契約を済ませると、コースト村で勇猛団の到着を待った。

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