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第二十二話 思わぬ来客(後編)

 村に帰ると村のマインド・コントローラーは驚いた。慌てて爺が寄ってくる。

「坊、その冒険者は、いったいどうしたんです?」


「父上に話があるそうだ。利益にならない話なら、殺していいそうだ」

 そのままガバスの家に行くと、ガバスは書き物をしていた。


「父上、人間が族長に面会を求めてきました。殺しますか?」

「いや、会おう。連れてこい」


 ウゴールとイリーナを連れて行った。ウゴールは覚悟を決めていたのか、堂々としていた。対してイリーナは、やたらときょろきょろとしていた。


 最初は不安で挙動不審になっているのかとも思った。

 だが、ガバスの家に入ると、イリーナは視線を頻繁に動かすのを止めた。


(何だ? イリーナの奴、何かを探していたのか?)

 ガバスの傍には奴隷冒険者が四人立つ。爺とガリュウも同席を許された。


 これでガバスの暗殺は不可能に思えた。

 ウゴールが真面目な顔をして、頭を下げる。


「俺はウゴール・アントロポフ。今は一介の騎士だ。だが、ケルト村の次期領主だ」


「儂はガバス・モン。マインド・コントローラーの村の村長にして、族長だ。して、用件は何かな? 面白い話だといいんだがな。つまらぬ話だと、首を二つ()ねねばならない」


 ウゴールは真剣な眼差しでガバスを見つめた。

「単刀直入に物申す。人間側に付いて戦う気は、ないか?」


(こいつ、頭がおかしいぞ。マインド・コントローラーが、人間に味方をするわけない)

 父が二人の首を刎ねろと命じると思った。けれども、父の言葉は違った。


「その前に、二つ質問する。正直に答えられよ」

 ウゴールが緊張した面持ちで応じる。


「何だ? 何でも聞いてくれ」

「最初の問いだ。魔の森のダーク・エルフ、湿原のリザードマン。彼らたちにも、加勢を願い出る使者を送ったのか?」


「交渉の使者は送った。だが、ダーク・エルフに送った使者は、首だけになって帰ってきた。リザードマンに送った使者は、帰ってこなかった」


(当然だろうな、そんな無茶な要求。ダーク・エルフやリザードマンなら、怒る)

 ガバスは澄ました顔で訊く。


「使者がどうなったか知っていて、我らマインド・コントローラーに使者を出すとはな。お主は我らには何もできないと、馬鹿にしておられるのかな?」


 ウゴールは即座に否定して、持論を語る。

「違う。ダーク・エルフに落とされたポットル村は、焼き払われ住人は奴隷として連れていかれた。リザードマンに落とされたパーン村は破壊され、村人が皆殺しにされた」


 ガバスは、さらりと内情を明かしてのける。

「そうであったか。これも、戦乱の世の常だ」


 ウゴールは冷静な顔で語る。

「だが、マインド・コントローラーに襲われたケルト村は違った。病人がいると知るや治癒術師が派遣され、食料が足りないとわかれば、援助された」


(村の人間の側から見れば、僕たちは凶悪なモンスターではなく、情けのある種族に見えたのか。まさか、父上は、この誤解をも利用するつもりだったのか?)


 村を焼かなった理由。村人も売らなかった目的が垣間見えた。

 ガバスは飄々とした態度で語る。


「戦闘員は奴隷として連れて行ったがな」

 ガバスの指摘に、ウゴールは神妙な顔で見解を述べる


「戦争で戦闘員を捕虜に取る行為は人間でもやる。あまりに非道な行いだとは、思えない」

(ウゴールは楽観主義者かもしれないが、馬鹿ではない。村人に非道な行いをしなかったから、自分たちの頭で理解できる存在として、マインド・コントローラーを考えたんだな)


 ガバスは穏やかな表情で話を続ける。

「なるほど、非道ではない。だから、交渉できると踏んで、危険な任務に立候補したか。では二つ目の質問。仮に我らが人間の味方をした時の見返りは、何だ?」


 ガリュウは父の言葉に耳を疑った。

(馬鹿な。ここで人間と組めば、我らは四方を敵に囲まれて、討ち死にだぞ)


 異議を差し挟みたい。だが、ガバスの意図が読めないので押し黙った。

 ウゴールが唾を飲み込み、条件を告げる。


「まずは、この村一帯をマインド・コントローラー所領と認め、安堵する。次に、人間に味方した勢力として、人間と対等に扱う」


 ガバスの表情が不快に歪む。

「それだけか? だとしたら、魅力がない提案だ。おい、倅よ。首を刎ねる準備だ」


 ガバスの言葉に、どきりとした。即座にウゴールは申し添える。

「待ってくれ。本当に味方してくれるなら、条件をもっと積み増しする」


 ガバスが手で奴隷冒険者を制する

「なるほど、斬首は待とう。それで、何をくれる?」


「逆に、尋ねたい。何を差し出せば、人間の味方になる?」

 ガバスが腕組みして、天井を仰ぎ見る。


「急に何でもやると言われても、困るな。今日は申し出があった事実だけを覚えておく。(せがれ)や、二人を送って行ってやれ」


(人間を無事に帰すだって、馬鹿げている)

 非難したい。だが、族長の決定であり、交渉の最中である。従う以外の選択肢はない。


「わかしました、父上。見送って参ります」

 ガバスが立つと、イリーナが強張った顔で声を上げる。


「待ってくれ。ケルト村から連れ去られた十七人の捕虜の中に、リージャと名乗る魔術師がいたはずだ。リージャを返してくれ」


 ガバスは素っ気ない態度で突き放す。

「駄目だ。我らは、奴隷や捕虜にした人間を、タダで返したりはしない」


 イリーナはなおも頼んだ。

「身代金なら払う。リージャを返してくれ」


 ガバスの態度は冷たかった。

「我らは、奴隷を売買する。だが、見ず知らずの種族とは取り引きはしない」


 イリーナは辛そうな表情で懇願する。

「そこを何とか、頼む」


 ウゴールが動く。ウゴールイリーナの態度に慌てていた。

「待て、イリーナ。早まるな」


(ここで父上を怒らせれば、全ては水の泡だからな)

 ガバスは冷たい顔をして、取り引きを拒絶した。


「イリーナさん、でしたか、我らは奴隷を虐待はしない。財産ですからな。もっと親しくなったら、買いに来なさい。そうしたら売ってあげますよ」


 イリーナは項垂(うなだ)れて従ったので、二人を仲間の元まで連れて行く。

 二人の縄が解かれたので、別れの挨拶をする。


「では、ウゴールさん、ここで別れましょう。あまりこの辺をうろうろしないでください。できることなら、父の気が変わらないうちに帰る行動をお勧めしますよ」


 ウゴールと別れて、ガバスの家に行く。

「父上、今日は言いたい話があって来ました。先ほどの人間に味方する話です。本気ですか?」


 ガバスは笑顔で語る。

「さあ、どうしたものかのう?」


 ガリュウはガバスの態度にイラっと来た。

「誤魔化さないでください。今日の会談がダーク・エルフやリザードマンに知られたら、要らぬ疑いを懸けられます」


 ガバスはまるで気にしていなかった。

「疑いたい奴には疑わせておけ」


「父上」

 ガバスはニコニコ顔で問いかける。


「のう、ガリュウよ。人間とは本当に面白い生き物だと思わぬか?」

 ガバスの問いが何を意味するか、わからなかった。


「何を仰っているのですか?」

「人間の敵は悪魔王陛下でもなければ、マインド・コントローラーでもない。人間の敵は、どこまで行っても人間よ。であるなら、人間を倒すには人間を使うに限る」


 ガバスの考えはわかった。だが、あまりにも危険すぎる作戦に思えた。

(父上は、なぜに、こんな危険な橋を渡ろうとするのだ?)


「父上は人間たちを仲たがいさせて、同士討ちにさせるおつもりですか?」

 ガバスは余裕のある態度で、満足気に語る。


「違う。人間たちを同士討ちさせるのではない。人間たちが勝手に同士討ちするのだ。我らは人間同士の争いを、最良のタイミングで舞台に乗せてやるだけだ」


(父上は戦争を楽しんでいる)

「父上の考えは危ないです。計画があるにしても、慎重に進めるべきです」


 ガバスは暗い企みに思い巡らし、笑った。見ていて背筋の寒くなる笑みだった。

「慎重になり過ぎては一番の楽しい時を見逃す。それではもったいない」


(我が父のことながら、時に父の考えがまるでわからなくなる場面がある)

 ガリュウは、ガバスに抱いた恐れを心の隅に押し込む。


「わかりました。父上には父上のお考えがあるようですので、お任せします」

 ガリュウが退出しようとする。ガバスが機嫌もよく勧める。


「倅よ。今日は気分がいい。奴隷を一人、加増してつかわす。リージャと名乗る魔術師だ。お前も人間で遊んでみるといい。少しは人と遊ぶ楽しさがわかるであろう」

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