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第二話 ホワイト・エントランス

 マインド・イーターは早熟であり、三歳にして人間の成人並みの知能を有する。なので、五歳には独立する。


 独立する際には人間の奴隷を二人、与えられる。後は身の回りの世話や生産行為は奴隷がやってくれるので、生活には困らない。


 ガリュウの父のガバスの家は平屋の家と、二階建ての研究施設のある棟が連なった作りになっている。


 家屋は両方併せて床面積は六百㎡あった。材質は魔の森から伐り出した木材と村でとれる泥を焼いた赤レンガで作っている。


 ガバスは村で一番の古株のマインド・コントローラーであり、年齢は不明である。マインド・コントローラー自体の寿命は長い。数百歳と言われるが、そこまで生きる個体は極稀である。


 ガバスの身長はガリュウと同じくらいだが、額の触手は十二本ある。髪は白いが顔に皺が多くあり、手足は木の棒のように細い。


 ガバスはいつも灰色のローブと布の靴を好んで履く。歩くことはめったになく、常に地面から数㎝浮かんでいた。


 ガバスはリビングでガリュウの報告を黙って聞いてから、おもむろに口を開く。

「話を聞く限り、お前の予想通りだな。面倒な事態になった」


 ガリュウは父がさほど怒っていないように見えたのが少し不気味だった。

 爺が不安な気な顔で訊く。


「それで、ガバス様いかがいたしましょう」

 ガバスは落ち着いた様子で告げる。


「たとえ奴隷といえど、我らが支配領域を荒らす行為は捨てては置けない。ダーク・エルフに人間たちを引き渡すように要求する」


 爺が強張った顔で、唾を飲んで訊く。

「おそれながら、ダーク・エルフが素直に応じるでしょうか?」


 あの傲慢な一族が応じるわけないと思った。

 マインド・コントローラーの数は百名しかいない。だが、ダーク・エルフは、二千名はいる。奴隷もいれれば六千名の兵力を保持している。


 さらに、ダーク・エルフには金がある。オークなどを雇い入れれば一万まで膨れ上がる可能性があった。


 対してマインド・コントローラーはどんなに頑張っても千名も揃えばいいほうだ。

(戦は数でやるものではないって言葉があるけど。相手が悪い)


 もし、万一、戦いになれば、勝ち目はない。

 ガバスが静かに、だが力強く答えた。


「こちらの要求には応じてもらわなければ困る。ここで引き下がれば、ダーク・エルフは我が領内に我がもの顔で侵犯してくる」


 爺は現実を見ているのか、ダーク・エルフとの交渉には否定的だった。

「いや、しかし、我らは少数。今回は警告程度に留めたおいたほうがよいかと」


 ガバスは頑として譲らなかった。

「ダメだ。使者を出して、引き渡しを要求する。して、ガリュウよ」


 急に名を呼ばれたのでビクッとした。

「なんでしょう、父上」


「お前は勝手に村の外、しかも、ダーク・エルフの奴隷の手の届く位置に畑を作った。罰を与える。お前がダーク・エルフの村へ使者として出向き、決着を付けてこい」


「この交渉は纏まるとは思いません。それに下手すれば戦争です」

 ガバスは眼光鋭くガリュウを見据える。


「それほどお前のやった罪は重いと知れ」

(うわー、ちょっと人間の真似をして農作業をしたかっただけなのに、えらい展開になったぞ。でも、黙っていたら、もっと(ひど)い事態になったしな)


 暗い気持ちで父親の家を出ると、爺が寄ってくる。

 爺は木陰にガリュウを連れていく。


「爺もダーク・エルフへの要求は通らないと思います。ダーク・エルフとの交渉が失敗した時には、悪魔貴族のデルニエ侯を頼りなさいませ」


 悪魔王の元には悪魔貴族と呼ばれる二十六名の重臣たちがいた。悪魔貴族は悪魔族以外の種族の後ろ盾になり、各種族を支え、管理している。デルニエ侯はマインド・コントローラーの庇護者である。


 ちなみに、ダーク・エルフ族の庇護者はフェニックス侯である。だが、ダーク・エルフ一族は、この大陸に古くからいて、悪魔族との親交がある。なので、他の悪魔貴族たちとも親睦を深めていた。


(マインド・コントローラーは、デルニエ侯しか知らないんだよな。外交戦になっても、マインド・コントローラーは不利なんだよな)


「わかった、これも自分が蒔いた種だ。自分で刈り取るよ」

(畑を荒らされて、災いの種を刈り取るって、シャレにならんけど)


 翌朝にダーク・エルフの棲む魔の森へと一人で出かける

 魔の森はマインド・コント―ローラーの支配する平原の北に位置する大きな森だった。


 魔の森は目立つように外周にヤマナラシやシラカバなどの白い樹を植えている。魔の森の入口は白いので、ホワイト・エントランスと呼ばれている。


 ダーク・エルフは悪魔族を除き、ホワイト・エントランスより先に進まれるのを嫌っていた。

 ホワイト・エントランスに到達した。


 ダーク・エルフの姿は、見えない。数百m進むと、暗い森が見えてきた。

(ホワイト・エントランスが終わったぞ。これ、先に進んでいいんだろうか?)


 迷っていると、足元に矢が飛んできた。

 見上げれば、大きな木の上に十人からなるダーク・エルフがいた。


 エルフは尖った耳を持ち、白い肌に金色の髪を持つ。

 ダーク・エルフは尖った耳は同じだが、黒褐色の肌を持ち、髪は白か黒である。


 髪の色で部族の違いがあるらしい。だが、ガリュウは詳しくないので、わからなかった。

 ダーク・エルフの先頭には身長百六十㎝の細身で若い女性がいた。女性は小顔で、短い髪を後ろで縛っている。唇は白く塗っていた。


 女性は魔力の籠もった弓を持ち、紋章が入った革鎧を身に着けていた。

 女性がきっとガリュウを見据える。


「我はラウラ・アンジェリーナ。何者だ。我らの言葉がわかるのなら答えろ」

「僕の名はガリュウ。マインド・コントローラーの族長ガバスの息子だ。ダーク・エルフの奴隷が我が領内の畑を荒らした。畑を荒らした奴隷に罰を与えたい。奴隷を引き渡してもらいたい」


「奴隷たちが荒らした作物は何で、どれくらいの量だ」

 畑を思い出して、なくなった作物の量を概算する。

 南瓜かぼちゃもなくっていたが、数が少ないので申告から省いた。


「キュウリが二百本、トマトが二百個。茄子が百本だ」

「ふん」とラウラは鼻で笑う。


 ラウラは財布を取り出して、金貨三枚をガリュウの足元に放り投げた。

「そら、持ってけ。野菜の代金にしては過分だが、釣りは要らんぞ」


(野菜の代金としては多い。だが、奴隷の代金としては安いな。これは、完全に馬鹿にされたな)

 ガリュウは心の中で、苦く思った。


(やはり奴隷の引き渡しは、なしか。ここで引き下がったら、父は怒るだろうな。でも、これ以上の失態は恥の上塗りだ)


ダメ元でもう一回しつこく訊く。

「どうしても、奴隷を渡す気はないのか?」


「くどい」とラウラは強い口調で拒絶した。

(任務に準じて死ぬって、がらじゃないし、ここは引き下がるか)


 ガリュウは金貨を拾わずに背を向けて立ち去った。

 ホワイト・エントランスを出たので、後ろを振り返る。


 ダーク・エルフはガリュウを取るに足らない小物と判断したのか、追ってきてはいなかった。

(あとはデルニエ侯の仲裁かあ。でも、ダーク・エルフが金貨での解決を言い出したのなら、よくて金銭だな。奴隷を引き出すのは難しいか。避けるべきお隣さんとの紛争だよな。頭痛いなー)

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