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第十七話 成果の報告

 自分の奴隷だった冒険者を連れて、コースト村に帰還した。

 ガバスの家に一人で行き、成果を報告しに行った。


「父上、人間の村を制圧しました。また、十八人の冒険者に精神を支配する魔道具を装着させ、奴隷化の準備も整えました」


 ガバスは少しばかり感心した顔をする。

「やればできるのだな。それで、どんな手を使ったのだ」


 褒めて貰えると予想したので、得意になって話した。

「魔法の伝染病に感染させた鳥を使い、村の人間を無力化しました。そのうえで、下僕の奴隷冒険者を使い、村の門を中から開けさせて侵入。あとは爺と協力して冒険者の精神を支配しました」


 ガリュウは誇らしげな気分で成果を報告した。

 だが、ガバスの表情は芳しくなかった。


「それで、(せがれ)よ。その病気が蔓延した村を手に入れて、どうするのだ?」

(何だ? 父は病気を使った手段を、好ましく思っていないのか?)


「病気は魔法で癒やせます。村から治癒術師の派遣と食料の支援をお願いします」

 ガバスはむすっとした顔で冷たい言い方をする。


「支援するだけの価値がある村なのか?」

 明らかにガバスは、満足していなかった。


「では、冒険者だけ奴隷に取り、村は焼き払いますか?」

 ガバスは膝を軽く叩くと、しょうもない奴だとばかりに説教した。


「奴隷を無計画に増やすなと説教したい。だが、今回は目を瞑ろう。奴隷の件はいいとして、村を焼いて、お前は何を得る」


 ガリュウはここに来て、占領後の計画を何も持っていない事態に気付かされた。

 ガバスは期待していた。期待は村を落とすところまでではなかった。落とした後の展望も視野に入れた行動を望んでいたと悟った。


(甘かった。僕は父の命令だけを聞いていればよいと思ったが、違ったんだ)

 思い知ったが、時すでに遅かった。苦しい言い訳が口から出る。


「村を焼けば、デルニエ侯の命令を達成できます」

 ガバスは怒った。


「デルニエ侯の命を果たすのは当たり前だ。その上で我が村のため、マインド・コントローラーのために成果を上げるのがお前の務めであろう」


 ガバスの怒りは続く。

「勝利して得るものがない戦をする将は愚か者だ。これでは、私は、みすみす金貨十枚を損しただけ。支援もするともなれば、金貨十枚以上の出費だ」


 ガリュウはむきになって口答えする。

「では、父上は、どうしろと命じるのですか?」


 ガバスは悔し気な顔でガリュウをなじった。

「そこまで命じねばわからぬか、我が倅よ。村を維持せよ。我らが版図に加えるのだ」


 父の決定だが、村は長くは維持できないと予想できた。

「お待ちください、父上。村は維持できません。たとえ、村人たちを武力や精神支配で従えても、無駄です。いずれ、他の人間が村を取り返しに来ます。村を守るにはもっと兵が必要です」


 ガバスは立ち上がって激怒した。

「また、それか。いつもの、やる前から、できぬとほざく口癖。まず、その癖を直せ」


 ガリュウも無茶ばかり申し付けるガバスに腹が立った。

 立ち上がって大声を出す。


「わかりました。できうる限りのお役目は、やらせていただきます。ですが、あまり期待しないでください。所詮、私はその程度の存在ですから」


 ガリュウが立ち去ろうとすると、ガバスが声を掛ける。

「待て、倅よ。村を維持するに当たって治癒術師を付けてやる。それと食料も、わずかだが持たせる。遠慮なく持っていけ」


 ガリュウは怒っていた。父の援助を断ろうかとも思った。だが、爺の顔を思い出す。

 ガバスと喧嘩する展開は我慢できる。だが、爺を巻き込んではいけないと考える理性はあった。


 翌日、治癒術師を連れ、奴隷に食料を持たせてコースト村を出る。

 四日の行程を掛けて、ケルト村に着いた。村は静かであり、きちんと治まっていた。


 ガリュウが戻ってくると、爺はほっとした顔をする。

 爺は家の一軒を接収して拠点としていた。


「お帰りなさいませ、坊。今後の方針について、父上は何と仰っておりましたか」

「支援はしてやる。村は維持して版図に加えろ、との命令だよ」


 爺の表情が曇った。

「支援はありがたいですが、版図に加える方針は難しいでしょう。人間が村を取り返しにきます」


(やはり爺も同じ考え方か)

「人間が取り返しに来る未来を危惧して、村の焼き払いを進言した。だが、ならぬと拒否された」


 爺は真剣な顔で了承した。

「ならば、できるだけ長く村を維持するしか、ありませんな」


 気になったので尋ねる。

「して、村の状態は、どうなんだ?」


 爺は厳しい表情で打ち明ける。

「よくありません。村の七割以上の人間が病気です。治癒術師が入りましたが、全員を癒すには三十日以上、下手すれば四十日は掛かるでしょう」


「何? そんなに掛かるのか……」

「病人は働けないゆえ、生産活動はストップしています。村の食料庫を見ました。備蓄はほとんどありません。今日、坊が食料を持ってこなかったら、餓死者が出たでしょう」


 いい気になってやり過ぎたと痛感させられた。

(村を占領するなら、病気を振り撒く策は悪い手だった。これは父も怒るはずだ)


「食料をもっと援助してもらう必要が出たな」

 ガバスにはこれ以上の援助を頼みたくなかった。


 だが、村を版図に収めた以上、村人はマインド・コントローラーの財産である。自らの我儘(わがまま)で種族の財産を目減りさせるわけにはいかなかった。

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