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第十四話 傭兵の値段

 村に帰ると、五名のダーク・エルフが村に客人として来ていた。

 ダーク・エルフたちは、ちょうど帰る場面だった。


 客人の中には、以前に決闘をしたラウラがいた。ガリュウの姿を見ると、きっと強く睨みつける。

 ガリュウは決闘の結果を引き摺ってはもらいたくなかった。


(これより印象が悪くなる展開もないだろう。挨拶くらいはしておくか。関係も改善できるかもしれない)


 ラウラに近寄ってゆき、ガリュウから挨拶をする。

「前回は行き違いにより、決闘をする展開になりました。ですが、私はダーク・エルフの方々と仲良くやりたいと思っています。決闘の経緯を忘れてくれるわけにはいかないでしょうか」


 ラウラが目を吊り上げて怒った。

「忘れろ、ですって? 敗北は恥辱。忘れられるわけがないわ。この次は必ずガリュウの首を取るわ」


(挨拶をしたのに首を取るって、ダーク・エルフって何て物騒な種族だろう。プライドが高いってのも、考えものだな)


「大した首ではございませんが、差し上げるわけにはいきませんね」

 ラウラが馬鹿にされたと誤解したのか怒りの表情をする。


 一緒にいたダーク・エルフの青年が、ラウラを宥める。

「ラウラ様、その辺にしておきなさい。今、ダーク・エルフとマインド・コントローラーは友好的な状態にあります。我々からこの関係を崩すのは得策ではありません」


 同じダーク・エルフに諫められると、ラウラは態度を軟化させた。

「それも、そうね。オルランドの言う通りね」


(友好的、とは「敵対していない」程度の意味なんだろうな。だが、父上の努力の賜物だ。これを壊すわけには、僕だっていかない)


 ラウラが余裕のある視線を向けて、自慢する口調で話す。

「ところで、マインド・コントローラーは、ガリュウが中心になってケルト村の攻略をするんですってね?」


(何だ、情報が出回っているのか? 耳が早いな)

「そうですね。これから攻略に懸かります」


 ラウラは勝ったと思ったのか、優越感を滲ませて発言する。

「随分と悠長ね。私たちはフェニックス侯より命じられたポットル村の攻略を、もう終えたわよ。そうだ、よかったら、手を貸してあげましょうか?」


「本当ですか? でしたら、ありがたい」

 ラウラの表情が露骨に歪む。


 渡りに船だと思ったが、社交辞令だと、すぐに悟った。

(これは、こっちが悔しがって断ると予想して、適当な申し出をしたな。それで、本気にしたと勘違いして、困った顔だ)


 ラウラの代わりに、オルランドが代わりに口を開く。

 オルランドは微笑んでいた。だが、心の底から歓迎していない態度は明白だった。


「今回のような、小さな村を落とすケースを考えます。だとすると、我々は他種族に手を貸す時は一人に付き金貨十枚を要求しています。村一つ落とすなら、五十人もいれば充分でしょうか」


(オークで金貨一枚なのに、金貨十枚は高すぎる。やりたくないが、これだけ貰えるならやってもいい金額か。それにしても援軍を頼むと、どこに頼んでも高く付くな)


 価格交渉をしても無意味だと思ったので、さも残念がった振りをして断念する。

「勇猛果敢なダーク・エルフの方が力を貸してくれると心強いです。ですが、残念ながら我々には、お金がない。まずは自分たちの力で、どうにかします」


「それがいいでしょう」とオルランドは微笑を湛えて賛同する。

(微笑みの裏に、安堵を感じる。やはり、他人の戦争に手なんか、貸したくないんだな)


「さあ、帰りましょう。ラウラ様」とオルランドはラウラを急かす。

 ラウラは気取った態度で、背を向けて言い放つ。


「またね、ガリュウ。精々、人間に討たれないように気を付けるのね」

(そうだね。死んだら、終わりだからね)


 ガバスに面会を求めた。

 見たものを教え、ケルト村の攻略が簡単には行かないと、ガバスに伝える。


 ガバスは渋面でガリュウの報告を聞いてから、尋ねる。

「それで、お前はどうしたいのだ?」


 ガリュウは正直にお願いした。

「金貨百枚があれば、オークの傭兵が百名。金貨五百枚があればダーク・エルフが五十名雇えます。村を落とすのであれば、あと、金貨百枚は頂きたい」


 ガバスは不機嫌にガリュウを見据えて訊く。

「言いかたが悪かったな。お前はどうするのだ?」


(どうも、こうもない、金貨が欲しいのだけど、頼み方が悪かったのかな。でも、うちの村が小さくても金貨百枚くらいの貯えはある)


 ガリュウは、ガバスの考えが読めなかった。

「どう、と言われましても。追加の資金が欲しいのですが」


 ガバスはきっとガリュウを見つめて辛辣(しんらつ)に言い放つ。

「お前の案だと、将たるお前は戦わないように聞こえるがな」


(父は僕が臆病者だと怒っているのか、でも、無理な戦は無理だ)

 ガリュウは言い繕う。


「とんでもない。もちろん、戦いますとも」

 ガバスはガリュウを叱った。


「だが、お前は一戦も交えずして逃げ帰ってきただろうが」

 ガリュウは弁明した。


「それは、勝てぬからです。勝てぬ戦いで命を落とすのは、馬鹿のする真似です」

 ガバスはガリュウを強く睨みつけて、説教を続ける。


「お前の欠点は、慎重すぎる性格だ。慎重なのが悪いとは言わん。だが、度が過ぎると、見す見す勝ちを逃すぞ」

「しかし、――」


 父はガリュウを怒鳴りつけた。

「よいか、お前はすでに私の命に背いて、戦わずして軍を引いたのだぞ。二度目はないと知れ。お前に意地があるのなら、何としてでもケルト村を落とすのだ」


(無茶苦茶だよ。勝ってこないよ)

 内心は不可能だと憤った。だが、村長であり、族長である父が戦えと命じるなら、絶対である。


「わかりました。攻めてみます」

 ガリュウはガバスの家を後にした。

(さて、父はわからずやだし、敵は多いし、どうしたものか)

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