私、アイドルになりたい!(私も、なりたい…!)
私もアイドルになりたい。
私こと星原ヒカリはそう思ったのはアイドルオタクの友達に連れられて見に行った1人のアイドルのライブが理由だった。
綺麗な衣装、キレのあるダンス、綺麗な伸びのある歌声。それら全てをかけてファンに届ける存在。
私も同じようになりたい。そう思えたのだった。
ライブが始まってから私は感覚が無かった。友達と何を話したのかもどうやって帰ったのかもよく覚えてない。ただ、胸に熱いものを感じたのは覚えている。
翌日、ようやく少し落ち着いた私はこの熱い想いを友達に伝えたかった。
だから、伝えた。
「ねえ、マヨ!私、アイドルになりたい!」
朝のHR前、私は後ろの席の、私をライブに連れて行ってくれた友人に嬉々として、簡潔に、要点だけまとめて伝えた。
「何を言い出すかと思えば…。ヒカリ、昨日のライブにアテられたわね。」
彼女は黒井真夜。本名は『まや』と読むが私は昔からマヨと呼んでいる。
流石は親友のマヨ。私の事をよくわかっている。
「へへっ。もう凄すぎて!私昨日眠れなかったもん!」
マヨの理解は早かった。
付き合いが長いだけあって私の熱意を分かってくれたのだろう。マヨは私に「最後まで付き合う」と言ってくれたのだ。
ならばと私は私の望みを口にする。
「マヨも一緒にアイドル、やらない?」
「は、はああああ!?」
マヨは猛反対だった。「私は可愛くないし…」だとか「アイドルの世界は厳しい」だとか。ウジウジしたナメクジのように悩むマヨに私は一喝した。
「マヨはアイドル好きなんでしょ!好きなものになりたいって、思わないの!?
私はなりたい。だから、私とやろうよ!アイドル!マヨは、なんでもできるじゃない!だから、アイドルにだってなれるよ!」
ハッとした顔のマヨはその後深呼吸をすると、私の目をじっと見つめる。
「…。分かった。やるわ。ヒカリ。
でも…アイドルの道は険しい。だからせめて、アイドルの基礎は覚えて。」
その目からは私と同じ熱いものを感じる。
本気になってくれた証拠だ。
放課後、私とマヨは空き教室を使い、特別講義、アイドル基礎学をすることになった。
「はーい。おっはよーございまーす!」
おはようという挨拶には似つかわしくない日の傾き。私は思わず突っ込んでしまう。
「マヨ、おはようじゃなくて、せめてこんにちはじゃない?」
「ヒカリダウト〜!芸能界は朝昼夜関係なく挨拶は全部おはようで統一されるの!終わりはお疲れ様です!先に帰るときはお先に失礼します!この3点セット、覚えておくように!」
なるほど。芸能界は専用の用語というのがあるのか。確かに何も知らずにアイドルになった時、無知な私では恥をかくだろう。この講義、確かに有意義かもしれない。
「まあ、芸能界での礼儀や作法はこれから私が教えていくわ。此処からが問題なのよヒカリ。笑顔、体力…それ以外でアイドルにとって大事なものってなんだと思う?」
神妙な顔のマヨにぶつけられた質問。
体力と笑顔…それ以外に、大事なもの…。
「お客さんに喜んでもらいたいって気持ち…?」
「それも大切ね。でも残念!正解は異能です!」
ビシッとよくAVとかで教師の持つ馬を躾ける鞭みたいな棒を私に差し向ける。どこから出したのだろうか。
異能。それは人ならざる力。
火を操る力、氷を操る力。獣に変身する力や何人にも分身する力。人それぞれその能力は違う。
「アイドルにとって異能はパフォーマンスの一環になるから重宝されるものなの。まあ、あと…あんまり良いことじゃないけど他のアイドルの妨害も出来るしね…」
異能がパフォーマンスの一環。確かに私達が観たアイドルも異能がパフォーマンスの中に組み込まれていた。しかし…
「私、異能持ってないよ。」
当然ながら、私は異能を発現していない。異能とは世界でも10万人に1人持っているかどうかの選ばれた力である。
しかしマヨは違う。マヨは異能を持っている。マヨの話を聞いてやはりマヨにはアイドルとしての素質がバッチリあると改めて思わされる。
「実はね、私、中学の頃にアイドルオーディションを受けてるの。でも落とされたわ。異能を持ってる私でさえ厳しい世界なの。それでも頑張れるの?ヒカリは。」
マヨは青く綺麗なガラスのような目を細めて私に問いかける。なんて事はない。最初から答えなんて出ていた。
「当たり前でしょ!私、異能は無いけど、ガッツはあるから!
マヨには、異能がある!私がそばにいる!
それ以外に必要なものは?」
「…ないわね。」
マヨは笑ってくれた。マヨの笑顔を見ているとなれる気がする。一緒に。アイドルに。
ちなみにだがアイドル基礎学はこれで終わりではなくこの後3時間続いた。