7 過去の職場と決別しました。
ただのOLとしての私が死に、創造の神様になって早3年が過ぎた。
あっという間だった。
違和感を感じる程にあっという間だったから、フォビナに聞いたら「神とはそういうものですよ」と言われた。
フォビナ曰く、神というものは、気が遠くなるような時間を生き続けるものだから、時間に関する感覚が鈍くなるように設定されているらしい。
そんなこんなで、3年経ってもまだ新人神気分のままの私は自室のソファーに座り何もない空間を見詰めてボーッとしていた。
「……人恋しい」
ポツリッと呟いた言葉と共に小さな溜息が洩れる。
「ご主人様……胸……貸す?」
私の声に反応して、私の膝にくっ付いていた黒い塊が顔を上げ、コテンッと首を傾げる。
月の妖精――ムーだ。
仕草は可愛いけれど、彼は私のヤバい男センサーにヒットしまくる妖精で、相方となる太陽の妖精――サンがいつも適度なところで引き離しに来たり、怒ってくれたりしているからこそ何とか普通に……普通に?接する事が出来ている。
ちなみに、私がよく会う主な妖精達には私が名前を付けた。
「ムー、悪いけど貴方の胸じゃ、ちょっと小さ過ぎるかな?」
思わず苦笑いをしながら答えると、ムーは凄く残念そうに俯いて「早く大きくなる方法……」と呟きながら何処かに飛んで行ってしまった。
彼が部屋を出てすぐ位に「ムー!!そろそろ仕事の準備して!!」とサンの声がしたから多分問題ないだろう。
本当に、サンにはいつも助けられている。
「ご主人様、何か嫌な事があったのか?俺の世界にくれば気持ちが楽になれるぞ?」
私の肩から私の正面へと飛んできた闇の妖精――アンが嬉しそうな笑顔を浮かべて私に尋ねてくる。
一見、私を凄く気遣ってくれた上での言葉のように聞こえるし、彼自身も悪気はないんだと思うんだけど……彼は闇の妖精だ。彼の世界といえば、当然闇の世界。
……嫌な予感しかしない。
「気持ちだけもらっておくよ、アン」
夜寝る時の適度な闇はとても心地がいいから好きだ。
でも、彼もまた私のヤバい男センサーにヒットする妖精だから……闇の世界に閉じ込められて出れなくなるなんて事が普通に起きそうで怖い。
多分、その状況になったとしても、彼のお目付け役である光の妖精――コウが助けてくれるとは思うけど、自ら危険に身を晒す事はしたくない。
ヤバい男に付き纏われる事○年の私の教訓。
ヤバい男からの善意は有料な上に莫大な利子が付く可能性が大きいから、受け取る事なかれ……だ。
「え~、遠慮はいらないよ?闇の世界は気持ちいいぜ?」
「私、真っ暗だと寝れない派なの。程よい光があった方が落ち着くから」
「光……かぁ……」
アンの眉が僅かに寄る。
アンは光の妖精であるコウにいつも注意されたり、怒られたりしてるからやや苦手意識があるらしい。
まぁ、その一方で面倒も見てもらってるから嫌いにもなれないみたいだけど。
「アン~、何処にいるのぉ?ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど~!」
まるでタイミングを計ったかのように廊下の方から響いてきたコウの声にアンがビクッとする。
「ほら、呼ばれているよ、アン」
私が声をかげるとげんなりした様子で肩を落とし、アンが私の方を見る。
「ご主人様とずっと一緒にいたいんだけど……行かないと駄目?」
「コウが困ってるよ?」
「うぅ……」
小さな唸り声を上げて、アンが私とコウの声がする方向を何度か交互に見て、渋々といった様子でコウの方に飛んで行った。
多分、自分の欲求と後でコウに怒られる苦痛を天秤に掛けて、最終的にコウの所に行く事を選んだんだろう。
コウは本当によくアンの事を躾けてくれていると思う。
助かるわ~。
「……そして誰もいなくなった」
アンを見送って、静かになった室内でポツリッと呟く。
アンやムーに居座られても困るけれど、こうやって改めて1人になるとやっぱり寂しさが募る。
「……人恋しいなぁ」
妖精達も可愛いけれど、やっぱり元人間な私は人という存在が恋しい。
「……それなら、いつもみたいにご家族の様子を見たらどうですか?」
「え!?」
誰もいないと思っていたのに、返事が返ってきた事に驚く。
声の主を探してキョロキョロと視線を彷徨わせると、アンが出ていく時に開けっ放しにした扉からフォビナが姿を現した。今日は女性モードらしい。
フォビナはお盆の上にマグカップ2つとシュークリームを持って私の方へと歩いてくる。
「フォビナ、どうしたの?」
「仕事をするのが面倒くさくなりましたので、お茶をしに来ました」
私の隣に座ったフォビナが、テーブルの上に私と自分の分のコーヒーとシュークリームを並べ始める。
「……もう少し本音を隠そう?せめて、『疲れたから休憩を』位の言い方にしよう?」
「では、それで」
フォビナは3年経っても、相変わらずだ。
私の使者としての仕事は一応してはくれているものの、あくまで自分のやりたい事優先でマイペース。
時々とんでもない事をしでかす事もあるし、サボる事もある。
でも、そんなフォビナにもう慣れてしまった私は、フォビナはフォビナという生き物でそういうもんなんだと思っている為、あまり気にすることはなくなった。
……何だかんだで助けられている部分もあるから、もうそれで良いかと思っているところもある。
「で、ご家族の様子はもう見ないのですか?……先日、エンにテレビを燃やさせたと聞きましたが」
お茶の用意が済んで、コーヒーを一口飲んだ所で、フォビナが再び話を戻す。
ちなみに、エンというのは火の精霊。物を創造する事は出来ても消すことは出来ない私は、捨てたい物があると彼に燃やしてもらう事にしている。
日本に住んでいた時では考えられない廃棄方法だけど、エンの炎は特別で塵も有害物質も一切残さず綺麗に燃やしきってくれるので、この方法を取っている。
「……うん、もう見ないよ。やっと気持ちに踏ん切りが着いたから」
まだ未練が全くないとは言えないけれど、私は苦笑しながらもしっかりと頷いた。
あれから、3年経った。
神になっちゃった私と、人間のままの家族や友達、そして後任者の『檀野絆』にとっての3年間では重さが違う。
この3年間で、私が住んでいた元の世界は目まぐるしく変わった。
私が刺された事を、泣いて、怒ってくれていた家族や友人達の気持ちも徐々に平穏を取り戻し、初めはおろおろとしてばかりだった私の後任者も、周りの人たちの気遣いや優しさで徐々に馴染んでいき、やっと自然に安心しきった顔で笑えるようになった。
それに比例するように、周りの人々にも笑顔が戻っていった。
そうやって、私が刺されたというショッキングな出来事の傷跡が徐々に薄くなっていくのを私は見守り続けた。
そんな中で、私の気持ちにも徐々に変化が起こってきた。
初めは自分だった存在を他の存在が動かしているという事実に不快感を感じる事もあったけれど、後任者の人がいい人だったから……その人の御蔭で私という存在が死なずに済み、周りにも笑顔が戻ったから……少しずつその存在を自分の中で受け入れられるようになった。
一生懸命に『檀野絆』として生きてくれる彼女を見て、素直に感謝したり応援したいと思えるようになった。
もちろん、自分という存在が彼女という存在に塗り替えられて薄れていくのを見るのは、辛かったし寂しかったけれども、それでも私の大切な人達が私のせいで辛い思いをし続ける事に比べればよっぽど良い。
そんな風に複雑な思いを感じながらも、檀野絆とその仲間たちを見続ける事、3年。
先日、遂に檀野絆が結婚する事になった。
そこまで来るのには、山も谷もいっぱいあった。
前の仕事(人生)の記憶も持っている彼女が、私としての人生を得た事で色々と苦悩していたのもずっと見てきた。
そんな彼女が自分の中で気持ちに区切りを付け、勇気を出して一歩前進する姿は私にはとても眩しかった。
そして、私は思った。
……私も、このままではいけないって。
認めたくなかろうがなんだろうが、私はこの世界の創造の神になってしまった。
いくら戻りたかったとしても、もう元の私に戻る事は出来ない。
ずっとわかっていたけれど、何処かで認めたくなかった事実。
でも、もういい加減それを認めないといけないと思った。
神と人との時間は違う。
私はずっとこのままだけど、テレビ画面の向こうの檀野絆や周りの人たちはどんどんと年老いていく。
その差は縮まる事はなく、離れていく一方だ。
それに、私が『檀野絆』として生きてきた時間と彼女が『檀野絆』として生きてきた時間の比率だって、徐々に入れ替わっていく。
今は『檀野絆』の人生のほとんどが『私』で構成されているけれど、やがて彼女が『檀野絆』でいる時間の方が長くなっていく。
そうなれば、もう『檀野絆』という存在を『私』とは呼べなくなる。
ならば、いつまで私は『檀野絆』という存在にしがみ付いているのか?
親しい人達や『檀野絆』が全員、人生を終えるまでか?
そう考えた時、私は今がその時なんじゃないかと思った。
私が出来なかった結婚というものを彼女はして、新しい人生を歩み出す。
『檀野絆』という人物が新しい名字を得て、『檀野』絆ではなくなる。
笑顔の皆に見送られ、新しい人生を踏み出すこの時こそが訣別の時なんじゃないかって。
私はそう思った。
だから、私は檀野絆の結婚式を見届けた後、3年間ずっと見続けてきたテレビをエンに燃やしてもらった。
私が創造の神である『キズナ』として生きると決めた決意表明のようなものだ。
だから後悔はしていない。
していないんだけど……。
「でも、やっぱり人恋しいよう……」
自分でも情けないなと思いつつもしょぼんと項垂れる。
自分が人間であるという意識が強過ぎるせいで、『人』という存在との接点が全くなくなってしまった事が寂しくて仕方ない。
もちろん、だからと言ってまたテレビを出して元の世界鑑賞に耽るなんて事をする気はないんだけど。
それをやったら、何だかんだで皆が最期を迎えるまで見続けて、その様子だけが頭に残って辛い思いをするのはわかってるし。
神になってしまった私にとっては、それがあっという間の出来事である事もわかってる。
だから、もう過去に縋るのは止めにしたんだけど……やっぱり、人という存在がいないのは寂しい。
『誰が』じゃなくていいから、『誰か』の存在を感じたい。
「……それなら、そろそろ人間を……といいますか、生命を創造したら如何ですか?」
ウジウジと悩みながらフォビナが持ってきてくれたコーヒーをマグカップの中でクルクルと回していると、フォビナが口元にシュークリームのカスタードをくっ付けながら呆れた顔で言った。
「……やっぱりそうなるよね」
コーヒーを回すのを止めて、自然にクルクル動くようになった渦を眺めながらポツリッ呟く。
フォビナに言われるまでもなく、私もその事を考えていた。
この3年間、私の世界は妖精達によって管理、調整され、安定している。
急に昼と夜が入れ替わったり、季節や天気が滅茶苦茶になるという事もない。
ただ、私が生物を創る事に対して不安を感じていた為、まだ人はおろか動物や虫すらもいないのだ。
要するに、箱だけ作って中身が空っぽの状態。
いつかは人間を含め多くの生命を創造してこの世界を満たし、文明を芽生えさせていきたいなぁとは思っているものの、あと一歩の勇気が持てずダラダラとここまで来てしまった。
「ねぇ、フォビナ。生命を創造するって大変?」
命を生み出すのだから大変だろうなぁとは思いつつも、ついフォビナに聞いてしまう。
「作業的にはそう大変なものではありませんが、魂を創るには神力は使います。その魂の質にもよりますが、そこまで能力の高くない普通の魂であれば神力1で1つ作れます。それを魂の泉に放り込んでおけば、その世界で必要な魂がそこから自動的に必要な場所へと送られます。反対に地上での役目を終えた魂も、壊れていない限り魂の泉に戻り、再びリサイクルされる事になっています」
シュークリーム片手にいつもの無表情で教えてくれたフォビナが、空いている方の手を空中に翳すと私の目の前に画面が現れた。
そこには、『生命創造』と大きめの文字で書かれ、その下に『魂の泉設置』『魂創造』『創造する生命選択』の3つが縦に並んで表示されている。
それぞれの画面を選んで見てみると、『魂の泉設置』は形やサイズの設定のみで出来るようだし、『魂創造』は神力をいくつ込めるかを選ぶだけで出来るようだ。
『創造する生命選択』は……生き物の名前が大量に羅列されていて、ちょっと驚いた。
でも、良く考えれば地球上にだって数えきれない種類の生命が存在するんだから当然の事だろう。
転職の時と違い、時間の猶予もあるし、検索機能の使い方もわかっているから創造する時には慎重に選びたいと思う。
「作業的には簡単そうだけど、世界を満たすだけの生命を生み出すには大量の神力が必要そうだね」
現在私の世界にある生命は植物のみだ。
これは創造神基本セットに含まれていたものだから、私の神力は一切使われていない。
ちなみに、植物は創造時には神力は使うみたいだけど、その後は木の妖精の管理の下、環境さえ整っていれば勝手に増えていくので、現在地上は生き物のいない森化している。
「そうですね。体の方は創造するのに神力は必要ありませんし、ある程度の個体数を作れば勝手に繁殖して増えてもいくと思うので、後は管理さえしっかりとしていけば良いですが、魂が足りないと生き物としては成り立たなくりますから」
今、私が保有している神力は5000程だ。
この世界を維持するのにも時々神力が必要になるし、妖精達に神力が必要になる事もある為、ちょこちょこと使う事になるからなかなか貯まらないのだ。
まぁ、それ以前に私の創造の神レベルが2しかないのも問題なんだけど。
レベルさえ上がれば神力の増加量も増えるから溜まりやすくなると思うんだけど、私は最初にこの世界の外枠を作った後、ほとんど手を加えていないから、ほとんどレベルが上がっていない。
「今ある神力でも村くらいは作れそうだけど……」
そこで生きていく人の食料となる動植物も必要になるし、その動植物の食糧となるものも必要だ。
要するに上手く食物連鎖が機能するようにしないと、生態系が維持できなくて絶滅してしまう恐れがあるという事。
そうならないだけの生命を生み出すとなると……今ある神力だけじゃとてもじゃないけど足りない気がする。
「今の状況じゃあ、無闇に人を創造しても辛い思いをさせるだけになっちゃいそうだね」
「はぁぁぁ」と深い溜息を吐く。
人恋しいのは確かだけれど、私の我儘だけでそんな事はしたくないから、今はやはり我慢するしかないようだ。
悲しい結論に達して再び項垂れる私に、フォビナはコテンッと首を傾げた。
「何事にも裏道というものは存在しますよ?」
「……は?」
まるで当然のように告げられた言葉に、私は思わず顔を上げる。
意味がわからず眉間に皺を寄せる私の事なんてお構いなしに、フォビナは優雅にコーヒーを飲む。
……そろそろ頬にクリームが付いている事を教えた方がいいだろうか?
「まぁ、裏道とは言いましても、基本的なやり方からは外れるというだけの事ですが」
コーヒーとシュークリームを綺麗に平らげたフォビナがスッと立ち上がる。
「それでは行きましょう」
「え?何処へ?」
「泉の設置場所です。既に場所は決めておきましたので」
「は!?」
茫然としている私を置いて、フォビナが歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
私は慌てて手に持っていたコーヒーを一気に飲み干して後を追った。
***
「ここです」
フォビナの目的地は私の居室からすぐの所にあった。
神殿の中央に位置する巨大な広間。
扉の正面奥には数段あがって玉座のような物が設置されている。
まさに国王の謁見の間という雰囲気。
この部屋の存在自体は私も知っていたけれど、ここにはお客さんなんて来ないし、何の為にある部屋なのかとずっと不思議に思っていた。
「ここはこの神殿の中央で、地上との繋がりが一番強い場所です。ちなみに、地上へのお告げもここでするのが一番楽です」
事務的な口調でテキパキと説明をしながら、手を翳して天蓋付きのお洒落なベッドを出す。
一体、何を始める気だろう?
「まずは、ここに魂の泉を設置して下さい。泉がなくては話が始まりません」
「え?ちょっと、その前に説明を……」
「説明はやりながらします。その方が効率的なので。早く設置して下さい」
さっさとしろと促してくるフォビナに戸惑いつつも、先ほど見ていた画面を出して魂の泉の設置を行う。
魂の泉のデザインはシンプルだけど綺麗な噴水タイプのものにしてみた。
……最早、泉とは呼べない気もするけれど、建物の中への設置だからそこは許して欲しい。
「それではまず、魂を作ってみて下さい」
説明するのが面倒くさいのか、長い髪を指にクルクルと絡めて、全身から早くしろオーラを出してくるフォビナに、私も諦めモードになる。
フォビナはフォビナ。こういう人……スマホなんだから仕方ない。
再び画面に向き合い、今度は『魂創造』のボタンを押す。
込める神力を尋ねられたので、「最初の魂だしなぁ」と思って、大盤振る舞いで100に設定してみた。
フォビナが隣に来て「ほほぅ」と言っていたけれど、何か文句をいうわけでもなかったからスルーした。
「よし、決定」
『魂を創造しますか?』の問い掛けにOKを押すとパァと画面が光って、目の前に透明なビー玉のような物が現れる。
「えっと、これが魂?」
宙に浮かんでいたそれを手に取り、いろんな角度から見てみる。
普通のビー玉よりキラキラしていて綺麗に見えるけれど、ただの丸い石だ。
あ、でもちょっと発光してるかも?
ただ、これが魂と言われてもどうもピンと来ない。
「そうですよ。それを魂の泉に入れて下さい」
首を傾げながら、フォビナに言われた通り魂の泉にそれを入れてからハッとした。
「フォ、フォビナ、これ入れちゃって大丈夫なの!?世界に1人だけの人間なんて生きていけなくない!?」
「大丈夫です。地上に体の空きがあれば勝手に送り込まれますが、体自体が1つもないので」
見ろというように視線で泉を指されて覗きこめば、確かに私が入れた魂がそこに沈んでいた。
「これで魂創造の流れはおしまいです。後は魂の器となる体を創造して地上に設置すれば、自然と魂が宿る形になります」
つまり、『創造する生命選択』で作る生命を指定して地上に設置するか、最初に山とか川とか作った時のように地道にイメージを膨らませて器となる体を作って、地上に送れば魂が宿って生命になるという事か。
「それなら、ひとまずはここに魂だけを貯めていけばいいんだね。……まぁ、必要な分を確保するまでには時間掛かりそうだけど」
ひとまず、魂や生命の創り方はわかった。
わかったけれど、圧倒的な神力不足という問題は解決はしない。
これはもう、コツコツやるしかないのかな?
いや、でもフォビナは裏技があるって言っていたし……。
「そして、これから話すのが主様の神力不足を補う裏技です」
私が困ったような顔をしていたからだろうか?
フォビナが続いて例の裏技とかいうのについて説明をし始める。
フォビナは私が見ている前で、先ほど出した天蓋付きのベッドの天幕の一部。ベッドには掛からず枕元に束ねられ垂れ下がっていたそれを手に取って泉の水に浸した。
すると、その布は水を吸い上げていき、やがてベッドを覆う天幕全体に広がった。
「水のカーテン?」
泉の水を吸い上げたそれは、ただの濡れた布というより水で出来たカーテンのように独自の光沢感を醸し出していて、とても幻想的だ。
「後はここに主様が寝て下されば、通常の何倍ものスピードで魂が創造出来ます」
「どういう事?」
私が首を傾げると、フォビナが首をコテンッと傾げる。
その不満げな視線から考えてその仕草にはきっと「え~、説明しないといけないんですか?面倒くさい」という意味が込められているのだろう。
だが、さすがにこれは説明して欲しい。
ただ寝ろと言われても不安過ぎる。
「……数値としては表示されていないのでわかりにくいですが、基本的に神は起きて活動しているだけで神力を消費しています。要するに元々与えられる神力から活動に必要な神力を差し引いて、自由に使える分だけを表示したのが現在表示されている神力なのです」
説明を始めるまでの僅かな間に不満の意をギッシリと詰め込みつつも、フォビナが渋々説明を始める。
「反対に言えば、神が活動を停止――神力を極力使わないよう深い眠りにつけば、活動に必要だった神力も貯める事が出来るのです」
要するに、私が起きて動いているのに使っているエネルギーを節約して魂創造に使えば良いという事か。
あれ?でも、それなら……
「じゃあ、何で夜寝てる間に与えられる神力の量は増えないの?」
普通に考えれば、夜寝てる時だって活動を停止してるわけだから、神力が与えられる量が増えてもいいはずだ。
けれど、そういった現象は起きていない。
「あれは普通の睡眠であり今回して頂く神の眠りとは異なるものだからです。神の眠りは完璧に活動を停止する眠りなので食事も何も必要なく、夢を見る事もありません」
それって、永眠というんじゃ……。
眉間に皺を寄せる私に、フォビナは「違います」と言う。……私、口に出しては何も言ってないのに。
「神の眠りは時間停止に近いです。しっかりと目覚める事は出来ますし、起きた後に体の不調が生じる事もありません。死後硬直とかもしません。眠りについたその時の状態を起きるまでずっとキープ出来ます。ただ、寝た感じは全くしないらしいので、寝る前の疲れが癒される事もありません」
つまり、疲れを癒したいなら普通に寝ないといけないし、節電モードで神力貯めたければ神の眠りをしなくちゃいけないわけか。
「じゃあ、私がその神の眠りとやらで眠っていれば、その間にたくさん神力が貯まって魂が大量生産出来て、早めに地上に必要なだけの生命を創造する事が出来るというわけだね」
「そういう事です。このベッドは貯まった神力で自動的に魂創造を行い、泉に送り込んでくれるものなので、ここで主様が眠れば自然と魂が泉に貯まります。後は調整を取りつつ生命を創造していけば良いだけです。それでは主様、さっさと寝て下さい。そして早く生命を誕生させて、信仰を深めさせましょう。そうしたら、神力ガッポガッポで買い物し放題です」
「……フォビナの目的はそこか」
何故こんなにゴリ押しで話を進めるのかと思ったら、私のレベルを上げさせて収入を増加させたかっただけか。
まぁ、必要な事から神力は使うようにしているから、今の私じゃフォビナが好きに買い物出来る程神力を貯める事は出来ない。
もちろん、フォビナの買い物の為にこの神の眠りとやらをするつもりもない。
「う~ん、買い物し放題はともかくとして、いつまでもこのままの状況を続けるのも嫌だから……頑張ろうかな?」
頑張るといっても、どうやらただ眠るだけらしいけど。
少し悩んだ後、私は頷いてフォビナが持ち上げてくれた天幕の中へと入る。
「私が寝てる間の事はお願いね?もし神力が必要になる事があったら、使ってくれても良いけど、くれぐれも私用には使わないようにね?お買物は禁止だから」
フォビナは私の使者だから、私と力を共有している部分が多々結構ある。
神力は私の使用許可がないと使えないけど、それ以外の事は大概出来る。
これは、神の使者が必要に応じて神の代理を務める事があるかららしい。
だからこそ、この自由奔放なスマホにはしっかりと釘は刺しておかないといけない。
「少しだけなら……」
「ダメ」
「チッ」
キッパリと言い切った私に、フォビナは舌打ちをして、手に持っていた天幕を下ろす。
それを確認してから、私はベッドに横になった。
フワフワのとても寝心地の良いベッドだからか、或いはそういう特殊な効果が付いていたのか、急激な眠気が襲ってくる。
意識が遠退いて行く中で、私は1つ確認し忘れている事に気付いた。
「そういえば……私ってどれ位寝てれば……」
意識が朦朧とする中で、必死に目を開けようとしながら尋ねる。
「人間達が国という集団を作り文明を発展させて、信仰を浸透させられるレベルで尚且つ、魂の循環が安定するまでと考えれば、ざっと数百年というところでしょうか?」
「……っ……」
……数百年。
あまりの年数に思わず飛び起きたくなったけれど、私の意識は私の意思などお構いなしに闇に吸いこまれていった。




