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20/22

20.新規事業を始めました。


「ナズナちゃ~ん!これ3番テーブルに運んで!!」


「はぁい!今行きます!!」


美味しそうな匂いと共にお酒の匂いが漂う店内。


料理を両手に支給された制服に身を包み、忙しくテーブルとテーブルの間を駆け回る。


「お、姉ちゃん可愛いね。俺のお嫁さんに……」

「お待たせしましたぁ。3番テーブルのお客様、牛肉のニンニク炒めです!!」


私に向かって伸ばしてきたお客さんの手に強引に料理の盛られたお皿を渡し、営業スマイルで3歩下がってお辞儀をする。料理を手にしたまま、まだ何か言いたそうなお客さんを無視して少し離れた席で注文をしようと合図してきた別のお客さんのところへと向かう。


店内は今日も強面の男性や気の強そうな女性を中心に賑わっている。




これが私の今の日常。


そう。現在の私は、本業神様、副業飲食店の店員兼冒険をしない冒険者をしている。




***


ジャビがいなくなってから、早5年。


あっという間だった。



この創造の神という職業についてから、時間の感覚は明らかにおかしくなっているけれど、その点を差し引いても早く感じた。


ジャビが体を置いて私の許を去ってしまった後、本当はすぐにでもジャビを探しに行きたかったけれど、私の『神様』という職業がそうはさせてくれなかった。


私にとって、ジャビがいなくなった事はとても重大な事だった。でも、この世界においてはそれ以上に邪神が生まれた事の方が重大だった。


邪神は生まれて暫くの期間は、力を蓄える為に活動を開始する事はないらしい。


けれど、力を蓄えた後は……暴れまわって何をしでかすかわからない。


下手すると世界が破壊されてしまう可能性すらある。


そんな存在を何の準備もしないまま放置しておく事はどう考えても出来ない。


向こうが力を蓄えてから動き出すのと一緒で、こちらも守れる状態にするまでには時間が掛かる。どう考えても暴れ始めてから準備をし始めるのでは遅すぎるのだ。


結果、私はその準備……具体的には、邪神に対抗できる存在――勇者御一行を生み出したり、神殿に危機や勇者誕生について教えたり、邪神に対抗できる武器を作り出したりという事を全て終えてからでないと、ジャビを探しに出る事が出来なかった。


本心で言えば、ジャビの事が凄く心配だったし、すぐにでも探しに出たかった。


けれど、そんな個人的な思いのまま、直接邪神と戦う事が出来ない私の代わりに戦ってくれる勇者達に適当に力を与えた結果、勇者一行全滅。地上に甚大な被害が出ました……何て事になっては申し訳なさ過ぎて泣くに泣けない。


結局、ジャビの事を心配しつつも、探しに出るのは我慢してやるべき事を先にやるしかなかった。


とても、もどかしかった。



そうして、何とか一通りの準備が整った頃には、地上では既に3年程の歳月が過ぎていた。


やる事が多すぎて、あっという間だったけれど、人を探す上での3年の遅れというのはとても大きい。


ただでさえ、少ない手掛かりで広大な土地からたった1人を見つけないといけないという、かなり難易度の高い状態だったというのに、3年も経ってしまえば、更に手掛かりも減って難易度が増す。


探し始めた頃には、おおよその年齢と邪神に関する何の為に地上に行っただろうという推測と……頼りになるかどうか怪しい私の直感位しか手掛かりはなくなっていた。


最早無謀と言ってもいいと領域。


仕方のない事だったとはいえ、いつの間にか過ぎていた時間の長さとそれにより生じた弊害に愕然とするしかなかった。


でも、だからといってジッとジャビが帰ってくるのを待っていようという気持ちにはなれなかった。


無駄だとわかっていても、少しでも可能性があるのならばと思い、私は地上に降り立った。



そこから暫くは、地上を管理している妖精達にも業務に差し障りのない範囲で協力してもらいつつも、ただ闇雲に捜し歩いていたんだけど……途中からその効率の悪さに気付いた。


特別な魔法--例えばジャビの魂が魔法を行使した範囲内にあるかどうかわかるようなものがあれば、地道に調べていくのも有りだとは思うけれど、私の特技はあくまで『創造』。


新しい魔法を『創造』するまでは出来ても、それを上手く使いこなせるかどうかはまた別問題。


もし、使うとすれば魔法を使える『人』も用意してお願いして探してもらう事になるんだろうけど、そんな魔法を地上の人に与えて大丈夫なのか考えると、正直不安。


だって、魂を探せる魔法なんて人間に与えて、もし広まってしまったりしたら、ストーカーし放題、場合によっては暗殺に使われるとかいう恐ろしい事になる可能性だってある。


ついでに言うと、新しい魔法を生み出すだけでも結構な神力が必要になるため、邪神対策の為に使える神力を蓄えとかないといけない現状では、使えるかどうかもわからない魔法に大量の神力を使い込むわけにもいかない。


その結果、その案については泣く泣く諦めた。


創造の神って意外と不便だなと思った瞬間だった。



最終的に私が目を付けたのは、ジャビが邪神に関する何かをする為、或いは……考えたくないけど、邪神の味方になる為に地上に行ったのだろうという点だった。


邪神関係ならきっと邪神に関わる所に現れるはず。


地上に降りたばかり……生まれたばかりの状態だったら、邪神と接触する事は難しいかもしれないけれど、年齢が上がれば上がる程、何か動きを見せる可能性が高くなる。


その事に気付いた私は、各地を転々とする中で、拠点を冒険者ギルドに定めた。


冒険者ギルドは大勢の冒険者が登録しており、様々な情報が集まる場所だ。


しかも、邪神が誕生したという情報が広まってからは、邪神に関係している可能性のありそうな事件や変化についての調査も請け負っている。


この辺は、神殿やそれぞれの国でも行っているようだが、一番最初に情報が集まり調査をするのは冒険者ギルドの人間だ。


その調査に基づき、神殿や国など上の者が動くようになる為、より多くのそして新しい情報が欲しければ冒険者ギルドに行くのがベストだと考えた。


ただ、冒険者ギルドで情報を集める為に冒険者になったとしても、正直私に戦闘が行えるとは思えない。


特に、邪神の誕生に合わせて魔物達が活性化している現状では自分の身を守れるのかすらわからない。


だって私は今は神でも元はただのOL。


戦う事には全く慣れていない。


咄嗟の場面で反応できるかも怪しいし、仮に反応出来たとしても力の使い方を間違えて大惨事なんて事も考えられる。


そんな事になったら目も当てられない。


要するに創造の神の力という最高の武器は持っていても、それを使い熟す技量がまだないのだ。


これぞまさに、猫に小判。豚に真珠という奴だろう。


だからと言って、ギルド職員……受付のお姉さんとかをやったら、基本的に勤務地は固定になるから、活動拠点の移動が好きに出来ない為、探せる範囲が限られてしまう。


結果、私は冒険をしない冒険者をする事にした。


具体的に言えば、冒険者としてギルドを転々としつつ、お金を稼ぐための副業としてギルド内の食堂でバイトをする事にしたのだ。


ギルド内の食堂は、冒険者が集まる上にお酒が入る事で口が軽くなる情報の宝庫。


その上、金欠の低級冒険者が日銭を稼ぐ為にとバイトをしている事も多く、入る事も辞める事も比較的簡単に出来る。


今の私にとっては、かなり好都合な職場だった。


後は、全く依頼を受けないとギルド資格が剥奪されてしまう恐れがあるから、ちょこちょこと創造の力を使って、採取依頼の仕事をこなしていけばいい。


全ての採取物を創造で生み出して、ギルドに渡すという事をやっていると、時々「これってちょっと詐欺っぽいなぁ」と思ってしまう事もあるけれど、そこはまぁ、この世界全てが私の力で創造された物だと考えれば、依頼の為に作ったものか、世界を繁栄させえる為に作ったものかという違いだけで、どっちも大きな変わりはない。……と自分に言い聞かせて、罪悪感を緩和している。


そんなこんなで、私は現在神様業の合間を縫っては、地上に降りては、あちらこちらのギルドを転々としているのだ。




「ナズナちゃん、今日はもう上がりで良いよ」


夕食時の混雑が落ち着いてきた頃、厨房から声が掛かった。


厨房へと視線を向ければ、そこにはフライパン片手にこちらを見ている熊のような男性いる。私が今お世話になっているセスカの冒険者ギルドの食堂のマスター、チャイハンさんだ。


余談ではあるが、私が初めて彼の名前を聞いた時、不意に食べたくなってレシピを教えたチャーハンは今ではセスカの冒険者ギルトの食堂の人気メニューになっている。


賄としてもたまに出してもらえるんだけど、基本的なレシピにチャイハンさんのアレンジが更に加わったそれは絶品だ。


フォビナもたまに私の様子を見に来た……という口実で、ここに来た時には必ず食べて帰っている。



「え?もう良いんですか?」


壁に掛けてある時計を見て、私は首を傾げた。


フォビナが地上にもたらした知識により、この世界にもきちんと時間という概念が存在してはいるけれど、日本に比べるとここの人々の時間に関する感覚は緩い。


だから、始業時間に関してはギルドの営業時間に合わせて食堂もオープンする為、ある程度「この時間までには来てね」という決まりがあるけど、終業時間に関してはおおよその時間は決まっていてもお客さんの入り具合によって多少早くなったり遅くなったりする事はよくある。


しかし、それを加味して考えたとしても、今日の終業時間は早過ぎる。


「いいよ、いいよ。……ほら、昨日帰るのが遅くなって、変なのに後を付けられたって言ってただろう?今日は西の方で大きな討伐依頼が入ったせいで客も少ないし、危ないから人通りが多いうちに帰りな」


厨房の方に近づいて行った私に対して、チャイハンさんが声を潜めて心配そうな表情でそう言う。



……言われてみれば、そんな事もあったっけ?


変な人に後をつけられれば怖いという感情は当然私にもあるんだけれど、昔からそういう事が頻繁にあり過ぎて、その場を逃げ切れれば、後は基本あまり気にしない。


いちいち気にして引きずっていたら、きっと私は1歩も外に出れなくなってしまう。


まぁ、もちろん、自衛は常にしているけどね。



「有難うございます!」


仕事としてここにいるのに、気を遣わせるのは申し訳ないと思って、一瞬断ろうかなぁとも考えたんだけど、ここは厚意に甘える事にした。


私にとってはよくある事で対応の仕方もわかってる上に、神としての力を使えば多少の事なら大丈夫という安心感もあるんだけど、それを知らないチャイハンさんから見たら心配な出来事だったに違いない。


私が逆の立場だったとしてもきっと同じ事を言うだろうし、「大丈夫」と言われてもすぐには納得出来ないと思う。


だったら、意地を張って断るよりも、その厚意に感謝しつつ明日からの仕事を一層頑張った方がお互いにとって良いだろう。


「ナズナちゃん、冒険者に聞く事かもしれないけど、1人で帰れる?大丈夫?何だったらその辺の野郎共に声を掛けて、護衛をさせようか?」


私とチャイハンさんのやり取りを近くで聞いていたチャイハンさんの奥さん――ケイチャさんが、わざわざ厨房から出て来て私に声を掛けてくれた。


恰幅がよく『お母さん』というイメージのケイチャさんは、今の姿からでは予想が付かないけれど、若い頃はチャイハンさんと一緒に剣を振り回して冒険をしていた元冒険者だ。


私もいくつも冒険者ギルドを巡ってきて知ったんだけど、冒険者になるような人は一般の人達に比べて、それなりに戦闘には自信がある人達が多い。


どんなにか弱そうに見える女性でも、「夜道が怖いから~」等の理由で男性に送ってもらう事は滅多にない。


もちろん、「冒険者同士で揉めてて」「複数人に狙われてて」等の特別な事情があれば別だけど、心配のし過ぎは失礼になる事もある。


一般女性と冒険者女性の常識の違いというやつだ。


それを元冒険者であるケイチャさんはよくわかっているから、気にしつつも押し付けるような言い方はしないでくれている。



「大丈夫ですよ。多分、この前の人もただの変質者さんなんで!」


2人を安心させるように、笑顔で首を振る。


……正直、食堂に来ている冒険者中にチラホラと必要以上に関わると危ないかもなぁと感じている人達がいるのだ。


ケイチャさんもその辺はわかってくれてはいると思うけれど、もし万が一隠れヤンデレ属性とか持っている相手を護衛にでも選ばれた日には……ただの変質者さんに遭遇するよりも危険度が高くなってしまう。


本当は、私だってまだ何もしてきたわけでもないお客さん達に対して、そんな風に疑うような目は向けたくないのだけど、こればかりは今までの経験からくるものだから許して欲しい。


「『ただの変質者』だから大丈夫っいうのもどうかと思うけどねぇ。まぁ、ナズナちゃんも冒険者としてそれなりの獲物を狩れる位の力はあるようだし、心配し過ぎも良くないか。でも、困ったらちゃんと助けを求めるんだよ?」


苦笑いを浮かべながら、ケイチャさんがその肉厚の手で私の頭をクシャッと撫でる。


もう、私もいい年……どころか500歳越えしてるんだけど、何だかケイチャさんの手って、子供の頃にお母さんに頭を撫でてもらった時の事を思い出してホッとするんだよね。


「わかってますよ。ここで働かせてもらっているお陰で、セスカの冒険者さんや町の人達とも大分知り合いになれましたからね。困ったら近くの知り合いの所に逃げ込んだり、知っている冒険者さんを見つけて助けを求めます」


ケイチャさんを安心させるようにしっかりと頷くと、「そうかい」と納得したように頷き返された。


「気を付けてお帰りよ」


「明日も頼むな」


「はい。それではお先に失礼します」


チャイハンさんとケイチャさんにペコリッと頭を下げて、私は職員用の更衣室へと向かった。




2人の厚意も早く帰れるのも嬉しい。



でも……


「今日もめぼしい収穫はなしか……」


ついつい溜息が出る。


邪神の話や勇者達の話はそれなりに冒険者達の間でも話題に上がっているけれど、目新しい情報はなかった。


そう簡単に物事が運ばない事は既にわかっているけれど、1日の終わりにはどうしても落胆してしまう。



「……早くジャビに会いたいな」


一緒にいられた時間は少ないけれど、私の中での彼は既に家族ポジションだ。


今日みたいにちょっと寒くて、家族の温もりを思い出してしまった日には、妙に彼に会いたくなってしまう。


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