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2 転職します。

檀野絆23歳。独身。


彼氏いない歴=年齢な私だけど、モテるかモテないかで言えば、多分モテる方だと思う。


いや、別に強がりで言っているわけじゃはないよ?


これはあくまで歴とした事実だ。


じゃあ、何故今まで彼氏がいた事がないのかって?



その理由は簡単。


私の『モテる』には全く嬉しくない但し書きが付くからだ。


『但し、ヤバそうな人に限る』というとんでもない但し書きが……。


周りの友人達は言う。


「絆って、ヤバい男ホイホイだよね」


「絆からはヤバい男を引き寄せる特別なフェロモンが出てると思う」と。



私がその片鱗をみせ始めたのは、母の話によると保育園の年少さんだったらしい。


同じ保育園に通うAくんは、私が他の友達と遊ぼうとすると相手の子を排除しようとした。


始めは幼い子供によくあるヤキモチとか独占欲のようなものだと、先生達も微笑ましそうに見ていたようだ。


しかし、その行動が次第にエスカレートしていき、Aくんは私が先生と話す事すらも許さなくなった。


完璧な囲い込み。


さすがに先生も不味いと思ったのか、その時は『大人』という立場と力を使ってなんとか私とAくんを離してくれて、そうこうしている内にAくんが転園して事なきを得た。


小学校に入ってから友達になったBくんは私の悪口を周囲に言いふらして孤立させて、自分だけを頼らせようとした。


同じく小学校の時に知り合ったCくんは……私のストーキングをしていた。


ちなみに、この頃から私の私物がなくなったり、登下校で誰かの視線を感じたりする事が増えた。


この犯人は多分Cくんだけではなかったと思う。


……行き帰りで異様なほど遭遇率が高いお兄さんや、私のロッカーを覗いている上級生を何度か見かけた事があるから。


中学校になってからも似たような事が何度か起こり、ある時には担任の先生が放課後に置き忘れていた私の運動着を抱き締めている事すらあった。


そんな事が日常茶飯事の生活を送っていた私は、次第にヤバそうな男性を嗅ぎ分ける力とそう言った人達の度が過ぎて傍迷惑な愛情を回避する方法を身に付けていった。


……そうしないと、本当に体がいくつあっても足りない位の危険な状態だったのだ。


そんな男関係にはとことん運がない私だけど、家族や友人にはとても恵まれた。


家族は意図せずトラブルメーカー状況になっている私に対して文句1つ言わずに守ってくれたり、心配してくれた。


私がヤバい男を寄せ付ける体質だと知っている友人達は、私をなるべく1人にしないようにしてくれたし、私を孤立させる為にばら撒かれた悪い噂も全く信じず、むしろその噂を沈下する為に奔走してくれた。


基本的に男運のない私だったけれど、それは恋愛面に対してのみで、男の人でも恋愛の絡まない友人だったり、友達の彼氏とかであれば、とても親切にしてくれ、ストーカーから守ってくれたりもした。


そんな友人達がいたからこそ、私はどんなに最悪な男に絡まれたり、怖い目や気持ち悪い目に遭う事があっても、人間不信や男性恐怖症にならずに済んだ。


私の世界には敵と味方がいて、悪いのは『敵』であって、『味方』は安全で私に優しくしてくれたり私を守ってくれる大切な存在なんだとちゃんと知る事が出来たから。


……まぁ、小さい頃からそういうヤバい状況が日常茶飯事過ぎて多少感覚が麻痺していたり、私自身が元々神経が図太かったからという理由も否定はしないけれど。



そんなこんなで上手く危険を回避しつつ、モテるけど恋愛が出来ないという意味のわからない人生を送ってきた私だけど、後少しでまともな恋愛が花が開くかもしれないというところで、遂に運が尽きてしまったようだ。


ストーキングされたり不快な体験をする事は度々あっても、友人達が守ってくれたり、持前の危険察知能力で上手く受け流したり逃げたり出来ていたおかげで、本当の意味での身の危険を感じるような事にならずにここまで来れたのに、ちょっとの気の緩みがそれを招いてしまったようだ。



「……これってやっぱり死んじゃったって事だよね?」


知らない男の人に刺されて意識を失った私は、真っ暗な世界で1人佇み、自分の人生を振り返った。


「本当に男運とか恋愛運ってのが皆無な人生だったなぁ」


いや、だって正直そうとしか言いようのない人生だった。


走馬灯……とはちょっと違うのかもしれないけれど、あれやこれやといろんな思い出を脳裏に浮かべてみたけれど、そのほとんどのシーンにヤバいと思った男の人の姿がチラつくのだから否定のしようがない。


まぁ、家族や友達と過ごした楽しい時間もたくさんあるから、総合的には悪い人生ではなかったと思う。


ポジティブに考えれば他の人があまり体験できなかったスリリングな経験をたくさん味わう事が……いや、やっぱり、それよりも普通に恋愛して友人達のような甘酸っぱい経験がしたかった。


友達には「それだけ男関係で大変な目に遭ってるのによく恋愛したいなんて思えるね」ってよく言われたけど、周りの人達が恋愛して幸せになっているのを見ていると「本物の恋愛はやっぱり楽しいんだろうな」と憧れる気持ちを止められなかった。


まともな恋愛が出来た試しがないからこその憧れなのだ。


「最近、やっと付きまとわれる前に上手くヤバそうな人を嗅ぎ分けて逃げられるようになったから、これでやっとまともな恋愛が出来るかもしれないと思ってたのに、その矢先でこれかぁ……」


誰もいない空間で呟いた声は空気に溶けるように消えていく。


そこはいくら大声を出しても、目の前に広がる闇は私の声を響かせる事なく吸収していく。そんな不思議な感覚がする空間だった。


真っ暗で周囲には何も見えない。


普通だったら恐怖を感じてしまいそうな場所なのに、不思議と「怖い」という感情は湧いて来なかった。


「……ところで、私はいつまでここでこうしてればいいのかな?」


時間という概念すら曖昧になりそうなその場所で、私は何をどうすればこの状況に変化が訪れるのかわからず、ただ茫然と立ち尽くしていた。



……ピロリロリン。


不意に私の手の中から軽快な音が鳴る。


ほぼ同時に、真っ暗だった世界に右手を中心とした微かな光が生じた。


それによってやっと、私は自分がずっとスマホを握り締めたままだった事に気付く。



「……メール?」


普段使っているのとは違う、聞き覚えのない着信音に首を傾げながら光を放って存在を主張するスマホに視線を落とす。


「え~なになに……『おめでとうございます!!特殊条件、【ヤンデレ100人でkillかな♪】を達成しました。これにより、貴方は好きな職業に転職する事ができる権利を手に入れました』……って、は!?何これ!?」


クラッカーの絵文字や動く文字等、やたらと賑やかな装飾がなされた画面に書かれていた文章を読んで、思わずスマホを地面に叩き付けそうになった。


……スマホは自分の物だから、叩き付けても自分が損するだけだし、実際にはやらないけどね。


「何この【ヤンデレ100人でkillかな♪】って!?音符とか付けちゃってるけど、言ってる事はそんなノリで言うような内容じゃないよね!?」


思わずスマホの画面に対してツッコミを入れる。


すると、まるで私の言葉に反応したかのように表示された画面が切り替わった。


『特殊条件、【ヤンデレ100人でkillかな♪】はヤンデレ100人に好意を抱かれ、100人目の人に殺される事で解放となるイベントです。次のページに書かれている職業の内、お好きなものに転職する事が出来ます。ネーミングのセンスについては……この条件を設定した神に文句を言って下さい。くれぐれも言っておきますが、私が命名したわけではありません』


「……何その無茶苦茶な条件は」


思わず呟くと、また画面が切り替わる。


『それをクリアした自分自身を褒めたら良いと思います』


「いや、嬉しくないし!!ってか、褒めれるような内容じゃないよね!?さり気にやっぱり殺されてるし!!」


スマホの画面に表示された文章のあんまりな言葉に思わず声を荒げる。


すると、またすぐに画面が切り替わった。


どうやらこのスマホは私の言っている事を理解した上で、普通に返答してくれる仕様に切り替わったらしい。


『いえ、まだギリギリ生きています。ただ、転職を拒否すると強制的に元の体に戻るので死にます』


「それ、もう死んでるのと一緒だよね!?」


『貴方の前の職業、【死に掛けのOL】の後任者が優秀な生命力の持ち主の場合、低確率で生き返る可能性があります』


「それ、最早私じゃなくなってるよね!?私の体は生き残れても、私は生き残れてないよね!?しかも、良い条件が揃っている後任者でも低確率なんかい!!」


『別の方が後任になられた場合、仕事の引き継ぎ期間が設けられないので、代わりに強制的に引き継ぎ(記憶的な意味で)が行われますので……貴方の記憶自体は引き継がれますよ?貴方自身が生き残れる状況では、【ヤンデレ100人でkillかな♪】の条件が満たされていない事になるので、貴方自身として生き残れないのは当然です』


要するに今までの私の記憶……ある意味私の性格とかそういったものを作り上げているものの一部は後任者とかいう人に引き継がれるって事?


あれかな?ネット小説とかでよくある、ある日突然前世の記憶を思い出したけど、それまでの記憶も残ってるよ状態。


それならある意味私と言えなくもない……か?


いやでも、私は私でここにいるわけだから……あぁもう!ややこしい!!


『ちなみに、ご主人様も前任者がいる仕事に転職する場合も、もれなく前任者の記憶が付いてきます』


「それなら生活や知識に困る事はない……かも?あぁ、でもなんだか自分の中に他人の記憶が入ってくるって複雑だわぁ」


『前任者のいない、新部門の仕事をされれば引き継ぎは行われません。1から全て作り上げていって下さい。……ところで、そろそろ新ジョブを選んでもらってもいいですか?選択に使える時間のカウントダウンが始まっています。それに、いろいろ説明するのが面倒になってきました』


「カ、カウントダウンが始まってる!?ってか、最後の一言酷くない」


『残り17分45秒……』


突然画面いっぱいに時間が表示される。


それは、私が見ている間にもどんどん減っていって……


『時間切れになるとランダムにジョブが振り分けられるので、場合によると「死に掛けの蟻」とか「命を狙われる黒い悪魔(魔族ではなく、人間に嫌われる虫的な意味のアレ)」になる事があります』


「そ、それは嫌ぁぁぁぁ!!」


スマホが告げた衝撃の事実に叫んだ私は、大慌てで次のページを表示し、自分が死んだ(?)という辛い現実に向き合う間もなく、次の仕事を選ぶ事に集中するはめになった。


……夢なら覚めて欲しい。


でも、もし夢じゃなかった場合、次の職……というか、来世的なものが「命を狙われる黒い悪魔」になるのは何が何でも避けたい。


「……何、この選択できる仕事の多さ。ってか、凄い勢いで検索件数が変動してるんだけど?」


『新し出来たジョブや埋まったジョブ、亡くなったジョブ等色々あるので、変動が激しいのです』


……なくなったジョブが『亡くなった』なところがちょっと怖いんだけど。


「この中から選べって事なんだよね?え?全部見る時間ないよね?」


『頑張って選んで下さい。……運も大切です』


要するに、短時間で良いジョブに行き着けるかどうかは運次第という事ですね!!


そこから私は必死でスマホをスクロールし続けた。


『残り3分です』


カウントダウンとは別の表示で、私のスマホさん?が終了時間が近付いてきている事を警告してくれる。


「ちょっと待って!!こんなの多過ぎて見つけられないよ!!あ行すらまだ見終えてないし」


あいうえお順に並べられている為、自分が興味のある分野と関係のないもの……どころか絶対に選ばないようなものが大量過ぎて、なかなか先へ進めない。


しかも、見ていくと絶対になりたくないと思う項目が結構あるから、焦りの気持ちだけが増していく。


『……さっきから思ってたのですが、何故検索機能を使わないのですか?』


画面の上の方に小さな吹き出しが出て、そこにスマホからのコメントが表示される。


「……検索……機能……?」


『右上のボタンを押すと表示されますよ?フリー検索からジャンル別検索、人気ランキング表示等とてもお役立ちな機能満載です』


スマホに表示された言葉を見て、私の思考が一瞬止まった。


「そんな機能があるなら始めに言ってよ!!」


次の瞬間キレた私は悪くないと思う。


『残り2分です』


そんな私の涙混じりの怒りを無視してスマホさんが残酷にも残り時間が迫っている事を告げる。


色々と言いたいことはあるけれど、今はとにかく良さそうなジョブを見付ける事を優先しないといけない。


言い争っていてタイムアップなんてごめんだからね。


「検索、あ、出た!ホントだ。これならかなり選びやすい」


言われた通りスマホを操作していくと、いくつもの検索方法が表示される。


ひとまず、1番当たりを引けそうなランキングを開いた。


上位からどんどんと見ていく。


「勇者とか聖女とかはやっぱり人気あるんだ。でも、何かと戦ったりするのは嫌だしな。あ、ハーレム王とか賢者とか最強の魔法使いとかもある。え?神なんてのもあるの?」


気になってスクロールの手を止めた瞬間、誤って表示されていた『神』のボタンを押してしまったのか、画面が切り替わって検索条件『神』にヒットするジョブが大量に表示される。


「え?え?神なんて無理だよ!!戻る!!」


『残り1分』


「残り1分!?うわっと!!」


慌てて、元のランキングページに戻ろうとした瞬間表示されたスマホさんの非情な声……文字?に焦った私は、うっかり携帯を落としてしまいそうになり、慌てて握り直した。


「……危ない。今は1秒でも惜しいのに何やってるんだろう」


何とか落下を免れた事にホッとしつつも、慌てて続きをしようと画面に視線を落とす。


『貴方の選んだジョブは「神(創造)」で良いですね?はい、決定♪』


「え?は?」


大量のジョブが並べられていたはずのそこには、もうスマホさんの言葉しか表示されておらず、『戻る』すら存在していない。


「え?何?どういう事?」


『「神(創造)」が選択されました』


「待って、待って、待って!!選んでない、選んでない!!」


『選択ボタンが押されたのでもう決定しました』


「今のは誤操作だから!!押したんじゃなくて、指があたっちゃっただけだから」


『1度選択されたジョブは変更できません』


「確認とかないの!?『~でよろしいですか、はい、いいえ』的なの!!」


『先ほど、「貴方の選んだジョブは「神(創造)」ですね?」と確認したじゃありませんか」


「私が答える前に決定って言ってたよね!?あれ、確認って言えないよね!?」


『いえ、確認です。まぁ、もう決まった事なんで諦めて下さい」


「そ、そんなぁぁ!!」


慌ててわめきたてた後は呆然とした。


え、何?私、神になるの?


『神(創造)』って何をするの?


どんな職業(?)なの?


もう、わけがわからない。どうすればいいのかもわからない。


『では、これから新しい職場へと行って頂きます。「神(創造)」は前任者がいないジョブなので、引き継ぎ用の記憶が存在せず、私がサポート役として同行する事になるので……ちゃきちゃき働いて下さい』


困惑している私を置いてきぼりにして、スマホにどんどん言葉が表示されていく。


ひとまず、サポート役がついてくれたのは良かった。


かなり適当な性格っぽいスマホさんであっても、1人で業務内容もわからないまま放り出されるよりはましだ。


……多分。


『それでは、ちゃちゃっと転職しましょう。「ジョブチェンジ→神(創造)」』


文字が表示されると同時に画面が白く点滅し始め、次の瞬間、真っ暗だったそこが真っ白に染まった。


「ま、眩しい!!」


あまりの眩しさに思わず目を瞑った瞬間、浮遊感と耳がキーンとなるような感覚に襲われる。


次の瞬間、まるで貧血にでもなったかのように、私の意識はスゥゥっと遠退いていった。

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