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15 接待は程々でお願いします。

創造の神になってから何度も使い、今では操作もお手のものになった操作画面を表示し、移動先を指定する。


地上に降りるのは久しぶりだけれど、作業自体はそう難しいものではない。


自分で作った世界の地図を表示して、いくつか表示されている旗のマークの中から、地図の丁度中央に位置する聖域である湖と神木がある場所を選択して、表示された「移動しますか?」の問いに「YES」答えればいい。


ちなみに、地図上に表示されている旗のマークは自分で場所移動する際の目印として設定したもので、地図上の場所であれば何処へでも自由に移動できる。


以前はそれこそ、地上には何もなかったから適当にタップして移動していたけれど、今となってはタップした先がどんな状況になっているかわからないから、目印がないと怖くてろくに移動もできない。


「よし、これでOK」


思いきって「YES」のボタンを押すとパァァァと私達を純白の光が包み込んで、次の瞬間には……




「「「「おぉぉぉぉ!!我らが神、キズナ様のご降臨だぁぁぁ!!」」」」


「っ!?」


目の前で大勢の聖職者らしき人達が私を見上げて跪き、歓声を上げていた。


着いてすぐにそんな状況になるなんて思ってなかった私は、驚いて思わず体をビクッとさせてしまう。


凄く高そうで重そうな白の衣裳を身に付けている人や、如何にもシスターといった感じの出で立ちの人までいろんな人がいたけれど、彼等の目は一様に私を見つめ、キラキラと輝き物凄い熱量を発している。


中にはキラキラを超えてネットリとした重く粘つくような雰囲気を醸し出している人までいて……正直、一瞬でお家に帰りたくなった。



「ようこそ、おいで下さいました。我らが創造主。創造の神キズナ様。そして神の使者フォビナ様」


根が小心者の一般人な私は、彼等の尊敬と期待に溢れた視線を受けて鼻高々に「やぁやぁやぁ、我こそが神である」等と言う事も出来ずに固まっていると、1人の見目の良い青年が前へと進み出てくる。


よく見ると、私と似たりよったりな年齢に見えるけど、服装が他の人達よりも少し立派な感じで、彼がこの集団の中のリーダーである事は何となく察する事が出来た。


……ちなみに、彼はネットリ視線の筆頭でもあったりする。


うん、久々全力で私の中のヤバい男センサーが全力で反応しているよ。


彼の重い思いを孕んだ視線に押されるように、思わず半歩後ずさる。


何とか頬が引き攣りそうになりながらも笑顔をキープ出来たのは、長年の(強制的)訓練の結果だと思う。


「我々一同、こうしてお会い出来る事を願い、日々祈りを捧げ続けて参りました。それが今日この日、遂に叶うとは……感激の極みでございます」


やや大げさな口調で彼がそう告げると、あちらこちらで賛同する声と共に啜り泣きが聞こえてくる。


え?何?どうしたの?私、何か悪い事した?


「キズナ様が我々の信仰心をお認めになられ、こうしてお姿を御見せ下さった事は我々にとって最高の誉れと言えましょう」


……ごめんなさい。信仰心も何もフォビナがたまに視察で下りた時、「今日は~が美味しかったです。後はいつも通りでした」と報告してくる程度で、具体的に何をやってるかはほとんど知りません。


あ、そういう意味では悪い事してましたね。


本当にごめんなさい。


謝るから、そんな純粋なキラキラした目で涙を流しながら拝むの止めて下さい。


陶酔したようなネットリ視線で拝むのはもっと止めて下さい!


小心者な元OLは、ビビっちゃってどう対処すれば良いのかわからないからぁぁぁ!!



「出迎え御苦労。教皇、主様はお忙しい御方です。早くご案内を……」


私が一言も発していない事などお構いなしに、如何に私に感謝しているかを切々と語り続ける青年――教皇の言葉を、フォビナが止めて早く視察に移るように促す。


多分、フォビナが早くするように促しているのは、私が忙しいからではなくて、単純に早く仕事を終わらせて遊びに行きたいからなんだと思う。


でも、私も早くこの状況から逃げ出したいから敢えて何も言わない。


「おぉ、これは失礼致しました。では、キズナ様、こちらへどうぞ」


フォビナの言葉を聞いて、教皇が私の前に手を差し出す。


どうやらエスコートをしてくれるつもりらしい。


「……有難う御座います」


期待の籠った目で差し出された手に自分の手を乗せるかどうか悩みつつも、この場で断るのも悪いかと思って恐る恐る彼の手に自分の手を重ねる。


「あぁ、なんたる光栄!私のこの手は女神の祝福を受けたのですね!!」


……えっ?そんな事した覚えはないんですけど?


私の指先が触れた瞬間に嬉しそうな顔……いやむしろ嬉しい越えて泣き出しそうな顔をした教皇は、私の手が乗った自分の手を掲げ、自分の額に私の手ごと押し当てる。


「キズナ様のエスコートが出来るこの喜び、私シン・アイストゥール、生涯忘れはしません。この幸運なる手も、二度と洗いません」


「いや、洗って下さい!不衛生は病気の元です。食事の前や、外出後の手洗いは大切!!」


周囲の人から見たら、神の祝福を受けたとても神聖な場面なのかもしれないけど、思わず突っ込んでしまった。


「あぁ、何と慈悲深い。矮小なるこの身を心配して下さるなんて……。キズナ様の有難い御告げはこの国はもとより、各国にも神の教えとして広く伝えていきたいと思います」


「あの……いえ……その……」


感動で目を潤ませて、決意を込めた視線を向けてくるアイストゥール教皇にもう何と言っていいのかわからなくなり、助けを求めるようにフォビナを見る。


……あ、表情にはあんまり出てないけど、フォビナも早く遊びに行きたいからイラついてる。


「主様、どうぞこちらにお乗り下さい」


フォビナがそういうと、パァッ目の前が一瞬輝き、次の瞬間には……空飛ぶ絨毯が現れた。


何でここで敢えて空飛ぶ絨毯なのかとは思うけれど、今はとにかくここから早く移動したい。


ついでに、空気を読んだせいで乗せてしまった手を一刻も早く回収したい。


アイストゥール教皇の思いが重過ぎて、ちょっと変な汗をかいちゃってるし、鳥肌も立っている。


もしかしたら、神に出会った時の反応としては彼の反応は間違ってないのかもしれないけれど、元々ただの人間のOLでしかなかった私としてはそんな反応をされると怖くなってしまう。



「有難う、フォビナ!」


すぐ目の前に浮かぶ絨毯にそそくさと乗り込み、エスコート終了とばかりにさっさとアイストゥール教皇から自分の手を回収する。


アイストゥール教皇はすぐに離された私の手を、名残り惜しそうに見つめた後、私が手を乗せていた部分に口付けをしていた。


……うん、私は何も見ていない。この腕に浮かんだ鳥肌はちょっと寒さを感じたからだ。


私は創造の力でストールを作り出すと、自分の身を守るようにギュッと羽織った。


その間に、フォビナも私の後ろへと乗り込んでくる。


「それでは、どうぞこちらへ」


アイストゥール教皇が先導し、その後ろを私、フォビナ、その他大勢の順番で進み始める。


神殿は、とても大きく如何にも歴史ある建造物といった雰囲気を醸し出していた。


石づくりで、あちらこちらに彫刻が施されて、建物と言うよりもそれ自体がまるで1つのアートのようだ。



「その柱には、キズナ様がこの世界を御創りになった際の事を記されております。あちらの壁にはキズナ様が我々を御創りになる為に自らを犠牲にして下さった際の事を、キズナ様に感謝を捧げつつ描かせて頂きました」


前を進むアイストゥール教皇は私の方をチラチラと見つつ、建物の話を誇らしげに話してくれていたんだけど……何をどうしたら、私の残念な転職談やフォビナに騙された話があんなに綺麗なストーリーとしてまとめられるんだろう?


脚色され過ぎていて、もう原型を留めていない。


チラッとフォビナを見たら、すました顔をしてこちらを見ない。



……やっぱり、犯人はお前か。


本当は文句を言いたいけれど、前から後ろから大勢の人に注目されているこの状態で、そんな会話をできるわけがない。


私だって、それ位の空気は読める。



「さぁ、ここが民が祈りを捧げる場所、大聖堂になります」


もんもんとした気持ちを抱えつつも、神殿内を見て回り、最後に神殿内で唯一、一般の人が祈りを捧げられるように開放されている場所だという大聖堂へと案内された。


本来であれば、外に通じる扉からの入場になるらしいんだけど、私は神だから、神が民に姿を見せる為にのみ使用する事が許される、特別な扉へと連れて行かれた。


……本心でいえば、一般用の扉からこそっと入って中を見学して、そのままこそっと帰りかったんだけど、やっぱりそれは許されなかった。


自覚はなくても、私は神様だからしょうがない。


扉の向こうにも大勢の人がいて、注目されるんだろうなぁと思うと気が重いけれど仕方ないのだ。


だって、私は神でこうやって崇められるのがお仕事だから。


それで神レベルが上がって神力という給料までもらえるのだから、もう腹を括るしかない。



小さく溜息をつき、扉を開けるタイミングを見計らっているアイストゥール教皇に視線を向ける。


アイストゥール教皇は私の視線を受け、何故が頬を赤らめつつも扉に触れる手に力を込めようとした。


と、その時……


「教皇、暫し待ちなさい。こちらにも準備があります」


相変わらず空気を読まないフォビナが絶妙なタイミングでストップを掛ける。


振り返ると、操作画面を呼び出し、何か操作をしている。


「フォビナ?」


「さぁ、これで完璧です。教皇、さっさと開けて下さい」


ものの数秒で作業を終えたフォビナが、今度は教皇を急かす。


アイストゥール教皇は一瞬困惑するような表情を浮かべたけれど、ふと何かに納得したような表情を浮かべ頷き、満面の笑みを浮かべて扉を開いた。


私はそのやり取りの意味がわからず首を傾げていたけれど、開け放たれた扉に空飛ぶ絨毯が進んで行った瞬間、強制的に理解させられた。


何故なら、大聖堂に訪れていた人達の視線が私に向けられると同時に……自分やその周囲が光り輝き始めたから。


「眩しいっ!」


思わず目を庇うように腕をかざしてみたけれど、私の体自体が発光しているから、何の意味もなさない。


むしろ、腕という名の発光物が目の近くにきたことで眩しさが増長されたかのようだ。


しかし、パァァァッと輝く目も開けていられないような強い光はほんの一瞬で、少し落ち着いてくるとほんのりと柔らかい光へと変わった。


「「「「おぉぉぉぉぉ!!神よ!!」」」」


瞼の向こうの光が和らいだのを感じ目を開けようとしたのとほぼ同時に、私を包む光の向こうから、私が初めに地上に降りた時以上の大きさの、歓声が聞こえた。


光りに目が慣れて、見えるようなった視界の先には人、人、人。


大聖堂を埋め尽くすように集まった人々が、祈るようにギュッと両手を握り合わせてこちらを見ている。


……怖っ!


正直、人前に出る事があまり得意ではない私には、ビビる事しか出来なかった。


ギギギギッと油が切れた人形のように首を回し、フォビナの方に視線を向けると、フォビナは「自分グッジョブ!」とでも言うかのような満足気な表情で、親指を立てていた。


「さぁ、主様。場は温めておきました。ここで一発信仰心が上がるような演説や奇跡の1つでも2つでも起こして、さっさと仕事を終わらせましょう」


「……演説?……奇跡?」


何そのハードルの高い要求。


ってか、なるべく目立たず見て、さっさと退散する予定だったのに、何が「場を温めておきました」よ!!


余計過ぎるお世話だ。


心の底から言わせて欲しい。


本当に、そんな余計な演出はいらないから!!


真っ白になりかけた頭に、フォビナへの不満の声だけが響く。


その間も、歓声は鳴りやまない。


まぁ、目の前に光り輝く神様が降臨しているのだ。


わざわざ聖地とも言える神殿の大聖堂まで来て、祈りを捧げる程信仰心の厚い人達が、落ち付いていられるわけがない。


余計な演出のお陰で盛り上がり過ぎているその場を何とか治めないといけないと焦る頭で、助けを求めるように背後のアイストゥール教皇達に視線を向けると……膝をついて拝まれていた。


どうやら、光輝くという効果が彼等の信仰心を更に高めてしまったらしい。


こうなってしまっていたら、もちろん頼れない。


……もうやるしかないのか、演説。


いや、むしろ奇跡の方が実はハードルが低いのかもしれない。


だって、私には創造の神の力があるんだから。


なら、何をやれば……。


グルグルと考え混んだ結果、私はファンタジー世界的『無難』を選択する事にした。



「皆に祝福を!!」


やけっぱちのように大きな声で叫んだ後、創造の力でまだこの世界に存在していないほんのりと淡く輝く白い花の花弁を降らせた。


「おぉぉぉぉぉ。キズナ様ぁぁぁぁ!!」


「女神キズナ様ぁぁぁぁ!!」


「我らが創造の神、キズナ様ぁぁぁぁ」


あちらこちらでキズナコールが起こる。


……心底いらない。お家に帰りたい。


「主様、お疲れ様でした」


何とか神っぽい雰囲気で締めくくる事が出来た所で、フォビナが空飛ぶ絨毯ごと私を退出させてくれる。


私達が外に出たタイミングで大聖堂へと続く扉がパタンッと静かに閉められた。


視界を埋め尽くすような人々の姿が見えなくなった事で、私はホッとし肩の力を抜く。


目的は大聖堂見学だったはずなのに、最早見学なんてしている余裕なんてなくて、人が山ほど集まっていたなぁという記憶しか残っていない。


「では教皇。これで約束していた本日のキズナ様の降臨は終わりにします」


茫然としている私を余所目にフォビナがさっさとその場を締めくくる。


未だに私達を拝んでいるアイストゥール教皇達に、降臨終了宣言をしたフォビナはそのまま「ご苦労さまでした~」と一方的に告げて、別の場所へと一瞬で転移してしまう。





「……ここ何処?」


状況についていけず、ただボーッとフォビナとアイストゥール教皇達のやり取りを見ていた私は、急激に変わった視界にハッとしてフォビナを見る。


「この世界の教会には、神や神の使者が泊まる為の部屋を必ず1部屋は作るよう指示してあります。……観光……視察の際に休める場所がないと不便なので。ここはその内の1つです」


「フォビナ、今、観光って言ったよね」


「いいえ、言ってません」


……こいつ、自分が地上観光をする時の休憩場所や宿にする為だけに、神殿の人達にお告げをして作らせやがったな。


「とにかく、さっさと着替えて街の観光をしましょう」


観光って宣言しちゃったよ。もう、視察と言う気すらなくなったのか。


でもまぁ……


「あそこにあのままいさせられるよりはいいか」


正直、私のメンタルはガリガリ削られてもう限界だった。


今日だけはフォビナの我儘に救われた気がするから良しとしよう。

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