「魔物の弱点は銀」はどこからきたのか
古くから『魔物の弱点は銀』と言われ、多くの神話や伝説でも魔物が銀の武器によって撃退される様子が描かれているが、これは古代の人々が魔法に精通していたことを我々に教えてくれる。
近年の理論魔法学の進歩によって、銀は金属の中で最も低い魔力固有値を持っていることが分かってきた(下表参照)。そして理論魔法学者は、これこそが『魔物の弱点は銀』といわれる根拠であると指摘する。自然界の残留魔力の集合体である魔物の体は強い魔力を帯びており、魔力固有値の高い物質は魔物に近づくほど運動を制限される。そこで古代の人々は魔力の影響を受けにくい物質で武器を作ることによって魔物の魔力に影響を受けずに戦っていたのだというわけである。
しかし魔力の影響を受けない銀の武器を扱うということは、自身の魔力による戦闘の補助も行えないということであり、純粋な腕力が必要となる。魔物と戦う勇者に屈強な男性ばかりが描かれるのはこのためかもしれない。
対して人と人の戦争における勇者は、男女が平等に登場する。人と人との戦闘において多く用いられたのは鋼などの鉄を原材料とした合金である。鉄の魔力固有値は銀の5000倍。魔力がものをいう戦闘においては男女の体格差は問題にならなかったと考えることができるだろう。
人と魔物の戦いが主だった旧マスカルスカ時代の遺跡からは青銅などの銅を原材料とした武具が多く出土し、人と人との戦争の時代だったルステポ時代には鉄製の武器が多く用いられたことも、材質の魔力固有値の違いを考えると覚えやすい。
さらに旧石器時代であるアルトラマス時代に武器として使用されていた生物の骨は非常に高い魔力固有値を持っていた。これは骨製の武器が主に草食動物の狩りに用いられていたことを示している。この時代から魔法は戦闘の補助として用いられていたのである。対して魔力固有値の低い石器は魔物に対しては骨よりも使用しやすかったであろう。
超希少金属であるミスリル、オリハルコン、アダマンタイトについても、それぞれの性質が大きく異なっているのがわかるだろう。聖銀であるミスリルは魔物との戦闘において硬度の高さと固有魔力値の低さを両立した物質であり、逆にアダマンタイトは人間との戦闘において自身の魔力を最大限に武器に伝えることができる。そしてオリハルコンはその中間の性質を持ち、バランスよくどちらにも対応できるのである。ちなみにモース硬度に関しては、実際に武器として精錬された場合、記載よりさらに大きな値になる。
────「魔文館標準世界史B」p.214 コラム より抜粋