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第1話⑧

「お兄さま。どうしたんですか、それ」


 朝の食事を用意しながら、レナシがクラフトの頭にできた真っ赤なたんこぶを不思議そうに眺める。

 男性陣は無言で目をそらした。


「この家ってベッド1つしかなかったんだな。すまん、邪魔して。俺やっぱ今日でここを出ようと思う」


 とライガ。


「別に大丈夫ですよ?」


 と首をかしげるレナシ。

 俺が大丈夫じゃない、とは思っていても口に出さないライガ。


「いや、いつまでもここで居候するわけにもいかないし」


 こちらの世界で生きていくにしても、まずは自立できなければただの邪魔者なのだ。アルバイトすらしたことはないが、なんとか自分で働き口と寝床を見つけなければ。


「そのことなんだけどね」


 頭をさすりながらクラフトが言う。


「実は僕らも、明日にはここを出ていくんだ」


「ん?なぜ」


 首を傾げるライガ。


「実は僕の魔法学校入学が決まってね。寮に移ることになった」


「へえ。レナシもつれて行くのか?クラフトは確か16歳だったよな。小学校とか中学校……はないのか?しかも今は……」


 ライガは壁に掛けられたカレンダーをちらりと見た。


「6月か。中途半端な時期……でもないのか、こっちの世界では」


そういえばまだこちらの世界のことをほとんど知らない。しかしこの家にある時計やカレンダーを見る限りでは元いた世界と同じで1年は12か月、1日は24時間のようだ。しかし学校が4月から始まるかどうかや、小中高という学校のシステムなのかどうかは分からない。


「君がいた世界で学校がどういう場所か分からないが、こっちでは学校は誰でも行ける場所じゃないんだ。年齢は関係なく、試験を受けに行き、合格すればいつでも入れる。逆に一生学校に行かない人間も多い。僕らみたいな孤児はなおさらだ。ただ、今回は特別でね」


「お兄さまは筆記試験が特に優秀だったので、奨学金をもらえることになったんです」


 レナシが食卓に料理を運びながら言う。

 

「そりゃすごい」


「ラッキーだったよ」


 言いながら3人は手を合わせて、食事が始まる。

 こういうところも日本の文化に近い。


「それでレナシも学校の寮に置いてくれることになってね。それでライガにも相談なんだが、僕らと一緒に魔法学校に行って、入学のテストを受けてみないかい?」


 クラフトの申し出に、ライガは目を丸くする。


「俺が?でも俺は魔法も使えないし、昨日の魔法力学とやらも全然知らないぞ」


 もちろん奨学金をもらったうえで魔法を学べるなら願ったりかなったりではあるが、自分にはその実力がない。


「それが、昨日測った君の魔力固有値なんだけどね」


「ああ」


 そういえばクラフトは、ライガの魔法の才能を表す数値である魔力固有値なるものを、昨夜ライガが寝ている間に測定してくれていた。


「計測不能だった」


「へ?」


 首をかしげるライガの目の前に、クラフトがなにかの機械を置いた。

 アナログな目盛りのついた計量器から電極が2本出ているような見たことのない機械。


「この魔力測定器は内部の金属の魔力による微弱振動を計測して魔力固有値を算出するんだが、12,000まで測れるはずの測定器が振り切った。君の魔力固有値はそれ以上、つまり、かつて人類が計測したことのない莫大なものである可能性がある」


「ちょっと待てよ。魔力固有値ってのは魔法の才能なんだよな?俺は昨日、鉄球を浮かすことすら出来なかったんだぞ」


「しかし事実だ。それに言っただろう?魔法は魔力固有値と努力係数の掛け算なんだ。片方がどれだけ高くても、努力係数が低ければ魔法は発動しない。そして君の場合、努力係数が異様に低いんだ。これは君が異世界からやってきたことが原因だと思う」


「つまり俺は……すごい才能を秘めているってことでいいのか?」


「そうかもしれない。もちろん計器の故障や、睡眠が浅かった可能性もあるけど、少なくとも類まれな魔力固有値を持っていることはほぼ間違いない。問題は努力係数だ。それさえ上げれば君は史上最高の魔法師になる可能性もある」


 生まれてこのかた突出した才能とは無縁だったライガだが、ここにきて魔法の才能に恵まれたらしい。たしかにこの世界に来る前に、力が欲しいと願ったのも事実。


「しかしなあ、努力っつったって何すればいいのか……」


 とにかく魔法を使う感覚というのがまるで分からない。

 反復練習をしようにもその一歩目が分からないのだ。


「だからこそ、魔法学校だ。僕は研究目的の入学だけど、魔法師養成のクラスもある。試験に受かるかは分からないけど、君が魔法を学びたいのなら行ってみる価値はあると思う」


「なるほどな……」


 分からないことは多いが、少なくとも自分のやるべきことは見えてきた、とライガは思った。


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