第1話⑦
翌朝。
目を覚ましたライガの上には、やはり病院でも自分の部屋でもない、木の天井が広がっていた。
(夢……じゃなかったか。やっぱり)
ともすれば異世界に来たなどというのはすべて自分の妄想ではないかと、昨日はそんな考えを捨てきれなかったライガであったが、やはり夢ではないらしい。
それを期待していたのか、いなかったのか。
ライガは再び目を閉じ、考える。
昨日は思いもよらぬ出来事の連続に舞い上がり、クラフトとレナシの言うままにここに留まった。挙句の果てには魔法の指南まで頼み、当然のように食事をもらい、シャワーを浴び、こうしてベッドまで借りている。
このままでいいのだろうか。
いや、いいわけがない。
こんな家に住んでいるのだ。クラフトとレナシも生活に余裕があるはずはない。そもそも彼らは未成年だ。この家で二人以外の人間をみていないが、両親はいないのだろうか。
いずれにしても自分がいつまでもここに留まっては彼らの迷惑になる。
早めに立ち去るべきだ。
と、覚悟を決めたとき。
ふと、ライガは自分の右頬に当たる風を感じた。
薄目で横をみる。
「!!!!!!!!」
ライガの隣、唇が触れ合うほどの距離にレナシの寝顔があった。
ライガはなんとか声を上げるのを堪え、ギンギンになった眼で天井を凝視する。
(なななななんで!?)
昨夜は魔力の測定のために自分だけかなり早い時間に就寝させてもらった。
その後なにがどうなったらレナシが自分のベッドに入ってくることになるのか。自分はこのあどけない少女を傍らに、一晩眠りこけていたというのか!なにもせず!
いや!なにもするはずはないが!
(いや、そもそもここは俺のベッドじゃない)
自分が来る前にこの家に空きベッドがあったと考える方が不自然。当然このベッドは誰かのものだったのだ。誰か。レナシに決まっている。自分はこの世界にきてからレナシのベッドを占領していたのだ、とライガは瞬時に悟る。
やはり出ていかなくては。
と思いつつ、顔を赤くしたライガがもう一度レナシのほうを見る。
細く、柔らかく、つやのある赤毛が枕に流れる。きめ細かい肌、瑞々(みずみず)しい唇、赤いまつ毛の長さ。自分の元いた世界の小学生は、こんなに美しかっただろうか。あの頃は同級生の女の子など、何とも思っていなかった。
(だ、ダメだダメだ。5年も6年も年下の女の子を異性として見ては)
と、ライガはレナシに背を向けるように寝返りをうった。
その目の前に。
「あ、起きたかい?」
クラフトの顔があった。
ライガは声にならない声を上げて、全力でその顔を殴った。