6話
意味がわからない。
全く反応しないと思っていたら突然変な服を制服の上から纏い始めた。
小豆の行動は、京が思っていたものと違った。
小豆は京の方にくるりと振り返り腕を組んで、
「お前がこの世界に混沌をもたらそうとする悪の王、氷の魔王だったとはな!」
「なになになになに!?なんのこと!?」
本当に意味がわからない。
さっきまでなにも話さなかった小豆は途端に声を張り上げ話し始めた。
その状況についていけない京。
「私は見たのだ!昨日教室で最上級魔法である永遠の氷柱を唱えているところを!」
「や、やっぱり見られてた。…え、エターナル?え?」
「全くもって恐ろしいやつだ、永遠の氷柱はその名の通り魔法にかかったものを永久的に凍らせてしまう魔法。感情なんて持たない冷徹な者しかできない魔法だ。許せん!しかし、この天才魔法使いの私が貴様を成敗してやる、くらえ!」
小豆は構えを変えた。
マントのポケットに手を忍び込ませ何かを掴んで勢いよく京へと向ける。
「え、なに!?」
対して京は反射的に腕を顔の前に出した。
小豆の手に握られていたのは、太陽の光を反射させ銀色に輝くそれはナイフ…ではなくアルミ製の定規だった。
「……」
一瞬沈黙が訪れる。
「ち、血の契約により我に従え聖なる使者よ」
間があったものの小豆は気を取り直して何か呪文を唱え始めた。
「封印されし力を今解放せよ !」
京は思った。
もしかして、昨日の自分のように彼女も似た何が使えるのかもしれない。
小豆の真剣な表情から京はそう感じられた。
「喰らえ!聖なる七つの剣!!」
その全力っぷりに京は何か起きると思ったのか先ほど同様腕で顔を覆った、がまたしてもなにも起こらない。
「……え?」
何度目の沈黙だろうか。
やがて、
「むうううう……!」
小豆の顔はみるみる赤くなっていき火照った頭から煙が出ているようにも見える。
「な、七瀬さん?」
「うううううう、うりゃあーー!」
覇気のある呪文を唱えた割にはなにも起こらなかったことがよっぽど恥ずかしかったのか、手に持つ定規で物理的に攻撃してきた。
「痛い!痛い痛い!七瀬さん!」
「なんで木崎くんにできて、天才魔法使いの私にできないの!?」
「昨日のこと!?」
「そうよ!!魔王が、最大の敵が現れたにもかかわらず、私の覚醒はまだなの!?」
「いたいいたい!魔王じゃないから!昨日のは自分でも何が起きたのかわからないんだって!」
「うそうそうそ!私たちの教室を氷漬けにしてたじゃない!」
小豆は京を叩く手をやめない。
「嘘じゃないって!帰ろうとしたら勝手にあんな事になったんだよ!だから俺だって何が起きたかわかんないだって!」
「…ほんとなの?私の勘違い??」
「そうだよ、魔王とかそんなんじゃないから!」
「…設定を間違えた?魔王じゃなくて自分に知らぬ間に封印されていた力が目覚めたの…?それでコントロールできずに力が暴走してしまった…とか」
ボソボソ小豆は何か言っているが、京には丸聞こえだった。設定とか言ってるし。
京は思った。
小豆は自分と同じように超能力に目覚めたのではなく、彼女はただの"中二病"なのだと。